電子工学教科書
電気の基礎から電子工作まで ── ラズパイ電子工作のための独学教科書
このページについて
このページは、ラズベリーパイ(Raspberry Pi)の電子工作をきっかけに電子工学に興味を持った人のために書かれた入門教科書です。高校物理は履修していなくてもOK。プログラミングの経験さえあれば読み進められるように設計しています。
「LEDを光らせたはいいけど、なぜ抵抗が必要なの?」「回路図が読めない」「電圧と電流の違いって何?」――こういった疑問を持ったことがあるなら、このページはあなたのためにあります。
プログラミングとの対比:電子回路はハードウェアのプログラム
プログラムでは「変数・関数・制御フロー」を組み合わせてソフトウェアの動作を定義します。電子回路では「電圧・電流・素子(抵抗・コンデンサ・トランジスタ)」を組み合わせてハードウェアの動作を定義します。 論理は同じです。インプットがあり、処理があり、アウトプットがある。電子回路とは、シリコンと銅線で書かれた「物理世界のプログラム」です。
参考にしたカリキュラム
このページの構成は、以下の資料・カリキュラムを参考に構成しています。権威ある教育機関のシラバスを元にしているので、学習の流れは正統派の電子工学入門と同じです。
- 日本の高校物理(電気分野)〜大学1〜2年次の電気回路講義
- MIT OpenCourseWare(OCW)― 6.002 Circuits and Electronics
- All About Circuits(allaboutcircuits.com)― Lessons In Electric Circuits
- SparkFun Electronics の公式チュートリアルシリーズ
このページの構成と学習の流れ
以下の順序で読み進めることを推奨します。各セクションは前のセクションの知識を前提としているため、順番通りに進めると理解がスムーズです。
- セクション2:電気の基礎 ― 原子・電子・電流・電圧・抵抗の概念を固める
- セクション3:オームの法則 ― 電気回路計算の出発点。これだけで多くの実用計算ができる
- セクション4:回路理論 ― キルヒホッフの法則からテブナンの定理まで。複雑な回路を解析する道具立て
学習のヒント
数式は「暗記」するより「意味を理解」することを優先してください。たとえば V = I × R は「電圧 = 電流 × 抵抗」という関係式ですが、「水圧は水流量と管の細さで決まる」と覚えると直感的に使えます。 焦らず、一つのセクションを読んだら手を動かしてラズパイで試してみましょう。体験と理論が結びついたとき、理解は急速に深まります。
電気の基礎 ── 原子・電子・電流・電圧・抵抗
電気という現象は、目に見えないところで起きています。しかし「なぜ電気が流れるのか」「なぜ電圧が必要なのか」を理解するには、物質を構成する最も小さな単位――原子のレベルから考える必要があります。
2-1. 原子と電子
すべての物質は原子(atom)からできています。原子は非常に小さく、1メートルの1億分の1(10⁻¹⁰メートル)程度のサイズです。原子の構造は次のように理解できます:
- 原子核(nucleus):原子の中心にある非常に小さく重い部分。陽子(proton)と中性子(neutron)から成る。
- 陽子(proton):プラス(+)の電荷を持つ。原子番号はこの陽子の数で決まる。
- 中性子(neutron):電荷を持たない(電気的に中性)。陽子と一緒に原子核を構成する。
- 電子(electron):マイナス(-)の電荷を持ち、原子核の周囲の「軌道」上を運動している。
通常の原子は陽子の数と電子の数が等しく、全体として電気的に中性です。たとえば銅(Cu)の原子は陽子29個、電子29個を持っています。
電子は原子核の周りのいくつかの「殻(電子殻)」に分かれて存在しています。最も外側の殻にある電子を価電子(valence electron)と呼びます。この価電子こそが、電気現象の主役です。
金属(銅・アルミニウム・金など)の原子では、価電子が原子核との結合が非常に弱く、原子から離れて自由に動き回ることができます。この電子を自由電子(free electron)と呼びます。自由電子が存在することで、金属は電気を通しやすい「導体」になります。
| 材料の分類 | 自由電子の数 | 例 | 電気の通りやすさ |
|---|---|---|---|
| 導体(conductor) | 非常に多い | 銅、銀、金、アルミ | 電気を通しやすい |
| 半導体(semiconductor) | 条件次第で変化 | シリコン、ゲルマニウム | 条件で制御できる(トランジスタの原理) |
| 絶縁体(insulator) | ほぼゼロ | ゴム、ガラス、プラスチック | 電気をほぼ通さない |
電子1個が持つ電荷の量を電気素量(elementary charge)と呼び、e = 1.6 × 10⁻¹⁹ クーロン(C)です。非常に小さい値ですが、金属の中には膨大な数の自由電子が存在するため、実際の電流では巨大な数の電子が移動しています。
2-2. 電荷と電流
電荷(charge)とは、電気的な性質の量を表す物理量です。単位はクーロン(C)です。陽子はプラスの電荷、電子はマイナスの電荷を持ちます。同じ符号の電荷は反発し合い(斥力)、異なる符号の電荷は引き合います(引力)。これがすべての電気現象の根本です。
電流(electric current)とは、「電荷の流れ」です。より正確には、「導線の断面を1秒間に通過する電荷の量」が電流です。
重要:電流の定義式
I = Q / t (電流 = 電荷量 ÷ 時間)
電流の単位はアンペア(A)。1アンペア = 1秒間に1クーロンの電荷が流れること。
つまり 1A = 1C/s
ここで重要な「約束」があります。電流の向きは「正電荷が流れる方向」と定義されています。しかし実際に金属中を動いているのはマイナス電荷を持つ電子です。電子は電源のマイナス極から出てプラス極へ流れますが、電流の向きはその逆(プラス極から出てマイナス極へ)です。
なぜ電流の向きが電子の流れと逆なのか?
18世紀にベンジャミン・フランクリンが電気の向きを定義したとき、電子の存在はまだ知られていませんでした。フランクリンは恣意的に「電気はプラス側からマイナス側へ流れる」と決めてしまい、この慣習が世界中に広まりました。後に電子が発見されたとき、向きが逆だと判明しましたが、すでに定義が確立していたため、今日も「電流の向き ≠ 電子の流れる向き」という状況が続いています。回路図を読む際は「電流はプラスからマイナス」と覚えておけばOKです。
実際の電子工作では、アンペアより小さな単位をよく使います:
- ミリアンペア(mA):1mA = 0.001A = 10⁻³A。LEDの電流は通常10〜20mA。
- マイクロアンペア(μA):1μA = 0.000001A = 10⁻⁶A。センサーの待機電流などに使う。
2-3. 電圧(電位差)
電流(電子の流れ)が起きるためには、電子を「押す力」が必要です。この力の源が電圧(voltage)です。電圧は「電位差(potential difference)」とも呼ばれ、単位はボルト(V)です。
電圧を理解する最もわかりやすいアナロジーは水の高低差です。水は高い場所から低い場所へ自然に流れます。電気でも同様で、電位が高い場所から低い場所へ向かって電流が流れます。電圧とは、この「電気的な高低差」です。
電位(electric potential)は「ある点が電気的にどのくらいの高さにあるか」を表す絶対的な量です。一方、電圧(voltage)は2点間の電位の差(相対的な量)です。回路では必ず「どこかの点を基準の0V」と定める必要があります。この基準点をグラウンド(GND:Ground)と呼びます。
ラズパイとの関係:電圧の基準(GND)
ラズパイのピンには「GND(0V)」と「3.3V」と「5V」があります。これらの数値はすべて「GNDピンを0Vとしたときの電位」です。GPIOピンの出力「3.3V」とは、GNDに対して3.3ボルト高い電位があるという意味です。2つの機器を接続するときに「GND同士をつなぐ」のは、電位の基準を共有するためです。GNDをつながないと、電圧の基準がずれて正しく動作しません。
| 電源・機器 | 電圧 | 用途・メモ |
|---|---|---|
| 乾電池(単3) | 1.5V | 懐中電灯など日用品に広く使用 |
| USB(Type-A) | 5V | ラズパイの電源もUSB-Cで5V供給 |
| ラズパイ GPIO 出力 | 3.3V | GPIO HIGH = 3.3V(5Vではない点に注意) |
| 家庭用コンセント(日本) | 100V(AC) | 交流(AC)なので直流(DC)とは別物 |
2-4. 抵抗
抵抗(resistance)とは、電流の流れを妨げる性質です。すべての物質は多かれ少なかれ電流の流れに抵抗します。抵抗の単位はオーム(Ω)です。
- オーム(Ω):基本単位。抵抗器の多くは100Ω〜10kΩ程度。
- キロオーム(kΩ):1kΩ = 1,000Ω。プルアップ抵抗は10kΩが一般的。
- メガオーム(MΩ):1MΩ = 1,000,000Ω。絶縁抵抗の計測などに使う。
材料によって抵抗率(電気の通しにくさ)が大きく異なります。銅の抵抗率は約1.7×10⁻⁸Ω·mと非常に小さく、電流をよく流します。一方、ゴムの抵抗率は10¹³Ω·m以上と、銅の10²¹倍以上の抵抗を持ちます。この違いは自由電子の数と移動のしやすさで決まります。
また、金属の抵抗は温度が上がると増加します。これは、温度が上昇すると原子の熱振動が激しくなり、自由電子が移動する際に原子とぶつかりやすくなるためです。白熱電球のフィラメントが光るのも、この原理(温度上昇による抵抗増加→発熱→発光)を利用しています。
注意:ラズパイのGPIOに直接LEDをつなぐと壊れる
LEDは自分自身の抵抗が小さいため、何も制限しないと過大な電流が流れてLED(またはGPIOピン)が破損します。必ず「電流制限抵抗」を直列に入れてください。適切な抵抗値の計算方法はセクション3で学びます。
2-5. 電力と電気エネルギー
電力(electric power)とは、単位時間あたりに消費(または供給)される電気エネルギーの量です。単位はワット(W)です。
重要:電力の計算式
P = V × I (電力 = 電圧 × 電流)
単位:ワット(W)= ボルト(V)× アンペア(A)
電気エネルギー(electrical energy)は、電力を時間にわたって積分したものです:
E = P × t (エネルギー = 電力 × 時間)
単位はジュール(J)が基本ですが、家電の文脈では「ワット時(Wh)」や「キロワット時(kWh)」を使います。電力会社の電気代は kWh 単位で請求されます。
ラズパイとの関係:消費電力
Raspberry Pi 4 の消費電力は負荷によって異なりますが、アイドル時で約3W、高負荷時で5〜7W程度です。5V電源を使い、0.7A流れれば P = 5V × 0.7A = 3.5W。USB電源アダプターが「5V 3A」対応なら最大15Wまで供給でき、十分な余裕があります。電源の容量(最大電流値)を超えると電源が落ちたり、電圧が低下してシステムが不安定になります。
2-6. 水道管アナロジー(直感的理解)
電気の概念は抽象的で目に見えないため、最初は水道管のアナロジーで理解するのが非常に効果的です。以下の対応関係を頭に入れておきましょう:
| 電気の概念 | 単位 | 水道管のアナロジー |
|---|---|---|
| 電流(current) | アンペア(A) | 水流量(リットル/秒) |
| 電圧(voltage) | ボルト(V) | 水圧・水位差(タンクの高さの差) |
| 抵抗(resistance) | オーム(Ω) | 管の細さ・詰まり・バルブの絞り |
| 電力(power) | ワット(W) | 水力発電のタービン出力(水量 × 落差) |
| 電荷(charge) | クーロン(C) | 水の量(リットル) |
| 電源(バッテリー) | ― | ポンプ(水を高所に押し上げる) |
| GND(グラウンド) | 0V | 排水口・地面の高さ(基準面) |
このアナロジーは完璧ではありませんが(交流・インダクタンス・容量などは別途考える必要がある)、直流回路の基本的な理解には非常に役立ちます。「電圧が高い → 水圧が強い → 電流が多く流れる」「抵抗が大きい → 管が細い → 電流が少ない」という直感を身につけてください。
オームの法則 ── 電気回路計算の出発点
電子工学を学ぶ上で最初に覚えるべき式がオームの法則(Ohm's Law)です。1827年にドイツの物理学者ゲオルク・オームが発見したこの法則は、電圧・電流・抵抗の3つの量の関係を表します。これさえ理解すれば、多くの電子工作の計算ができるようになります。
3-1. オームの法則の式
オームの法則
V = I × R
電圧(V)= 電流(A)× 抵抗(Ω)
変形すると:
I = V / R (電流 = 電圧 ÷ 抵抗)
R = V / I (抵抗 = 電圧 ÷ 電流)
「三角形の覚え方」として有名な方法があります。三角形の中に上から V、下に I と R を並べて書き、求めたいものを隠すと式が導けます:
- V を隠す → 残り「I × R」 → V = I × R
- I を隠す → 残り「V ÷ R」 → I = V / R
- R を隠す → 残り「V ÷ I」 → R = V / I
オームの法則が成り立つ素子(抵抗器など)を線形素子(linear element)と呼びます。LEDやダイオードは非線形(電圧と電流の関係が比例しない)なので、オームの法則はそのまま適用できませんが、「電流制限抵抗」の計算には使えます。
3-2. 具体的な計算例
例1:9V電池に1kΩ抵抗を接続したときの電流
電源電圧 V = 9V、抵抗 R = 1kΩ = 1000Ω のとき:
I = V / R = 9V / 1000Ω = 0.009A = 9mA
答え:9mAの電流が流れます。これはLEDを光らせるのに十分な電流です。
例2:LEDに20mA流すための電流制限抵抗の計算(5V電源)
条件:電源電圧 5V、LEDの順電圧(Vf)= 1.8V、目標電流 20mA(= 0.02A)
LEDにかかる電圧が1.8Vなので、抵抗にかかる電圧は 5V − 1.8V = 3.2V です。
R = V / I = 3.2V / 0.02A = 160Ω
160Ωは標準の抵抗値(E24系列)には存在しないため、次に大きい値を選びます。標準値として 180Ω または 220Ω を使います。抵抗値を大きくすると電流が減り、LEDは少し暗くなりますが、安全性が上がります。電子工作では安全側(大きい抵抗)を選ぶ習慣が重要です。
例3:ラズパイGPIOからLEDを光らせる抵抗計算
条件:GPIO出力電圧 3.3V、LEDの順電圧 2.0V、目標電流 10mA(= 0.01A)
抵抗にかかる電圧:3.3V − 2.0V = 1.3V
R = V / I = 1.3V / 0.01A = 130Ω
最も近い標準値は 150Ω です。ラズパイのGPIOピンは最大8mA(推奨値は2〜4mA)しか流せないため、実際には 330Ω や 470Ω を使って電流を抑えるのが安全です。
注意:ラズパイのGPIOは電流制限がある
Raspberry Pi の GPIO ピンは各ピン最大16mA、全ピン合計で50mAまでという制限があります。LEDを多数同時に光らせる場合や、モーターなどの大電流デバイスを動かす場合は、GPIO直結ではなくトランジスタや専用ドライバICを使う必要があります。
3-3. 電力計算
オームの法則と P = V × I を組み合わせると、電力を3通りの式で計算できます:
- P = V × I (電圧と電流から)
- P = I² × R (電流と抵抗から。V = IR を代入したもの)
- P = V² / R (電圧と抵抗から。I = V/R を代入したもの)
抵抗器(抵抗の部品)には定格電力(power rating)があります。これを超えた電力を消費させると過熱・焼損・発火の危険があります。一般的な抵抗器の定格電力:
- 1/4W(0.25W):最も一般的。電子工作でよく使う小型抵抗。
- 1/2W(0.5W):少し大きい。大きな電流が流れる場面で使用。
- 1W:電源回路など大電力が必要な場所。かなり大きなサイズ。
たとえば 100Ω の抵抗に 50mA(0.05A)を流す場合の電力は:P = I² × R = (0.05)² × 100 = 0.25W。これは1/4W抵抗の定格ちょうどです。安全マージンのため、実際の消費電力が定格の50%以下になるように抵抗を選ぶのが設計の慣習です。この場合は1/2W抵抗を使うべきです。
3-4. SI単位と接頭辞
電子工学では非常に大きい値・小さい値を扱うため、SI単位の接頭辞を使って数値を簡潔に表現します。プログラミングでいう「KB・MB・GB」と同じ発想です。
| 接頭辞 | 記号 | 倍数 | 電気での使用例 |
|---|---|---|---|
| ギガ | G | 10⁹(10億) | GHz(Wi-Fiの2.4GHz・5GHz) |
| メガ | M | 10⁶(100万) | MΩ(絶縁抵抗の測定値) |
| キロ | k | 10³(1000) | kΩ(プルアップ抵抗:10kΩ) |
| ミリ | m | 10⁻³(1/1000) | mA(LEDの電流:20mA) |
| マイクロ | μ | 10⁻⁶(1/100万) | μF(電解コンデンサの容量:100μF) |
| ナノ | n | 10⁻⁹(1/10億) | nF(フィルムコンデンサ:100nF) |
| ピコ | p | 10⁻¹²(1/1兆) | pF(高周波コンデンサ:22pF) |
単位変換の例:10kΩ = 10,000Ω。100μF = 0.0001F。20mA = 0.020A。これらの変換を自在にできるようになると、データシート(部品の仕様書)の数値をすぐに計算に使えるようになります。
回路理論 ── キルヒホッフの法則からテブナンの定理まで
オームの法則だけでは、複数の抵抗や複数の電源が絡む複雑な回路を解けません。このセクションでは、より複雑な回路を系統的に分析するための「道具」を学びます。これらの定理は、プロのエンジニアが日常的に使う回路解析の基礎です。
4-1. 回路図の記号と読み方
回路図(schematic diagram)は、電子回路を標準的な記号で表した設計図です。実際の部品の形は関係なく、電気的な接続関係を表すことに特化しています。プログラムでいう「フローチャート」や「UML図」のようなものです。
主な回路図記号:
| 素子名 | 記号の特徴 | 役割 |
|---|---|---|
| 直流電源(電池) | 長線(+)と短線(−)の繰り返し | 電圧を供給する |
| 抵抗 | ジグザグ線(米国式)または長方形(日本・欧州式) | 電流を制限する |
| コンデンサ | 2本の平行線(板) | 電荷を蓄える。交流は通す、直流は通さない |
| インダクタ(コイル) | 巻き線のループ | 磁気エネルギーを蓄える。電流変化を妨げる |
| スイッチ | 開閉できる線 | 回路の接続をON/OFFする |
| GND(グラウンド) | 下向き三角または複数の水平線 | 電位の基準(0V)。全回路で共通 |
| LED | ダイオード記号+矢印(光を表す) | 一方向にしか電流を流さない発光素子 |
回路図を読む際に重要な概念として、節点(ノード:node)と枝(ブランチ:branch)があります。節点とは2つ以上の素子が接続される点(交差点)のことです。枝とは2つの節点を結ぶ素子(または導線)のことです。また、閉ループ(closed loop)とは、出発点に戻るような経路のことです。キルヒホッフの法則はこれらの概念を使って定義されます。
4-2. 直列回路
直列接続(series connection)とは、複数の素子を一本の線でつないだ接続方法です。水道管でいえば「管を縦につないだ」状態です。
直列回路の特徴:
- 電流は全素子で共通:どの素子にも同じ大きさの電流が流れる。(水道管でも1本の管を流れる水量はどこを測っても同じ。)
- 電圧は各素子に分配される:各素子にかかる電圧の合計 = 電源電圧。
- 合成抵抗は各抵抗の和:R合成 = R₁ + R₂ + R₃ + ...
重要:電圧分割則(分圧器)
R₁とR₂を直列に接続し、全体に電圧Vを加えたとき、R₁にかかる電圧は:
V₁ = V × R₁ / (R₁ + R₂)
この「分圧回路(voltage divider)」は、高い電圧を低い電圧に変換するために非常によく使われます。ラズパイで5V信号を3.3Vに落とすレベルシフト回路にも応用できます。
実用例:LEDと電流制限抵抗の直列接続
LED(順電圧2V、順電流20mA)と抵抗(150Ω)を5V電源に直列接続した場合:
合成抵抗は「LEDの抵抗 + 150Ω」ではなく、LEDは非線形なので直接計算できません。代わりに「電源からLEDの順電圧を引いた残りの電圧が抵抗にかかる」と考えます。抵抗にかかる電圧 = 5V − 2V = 3V。電流 = 3V ÷ 150Ω = 20mA。これがLEDにも流れます。
4-3. 並列回路
並列接続(parallel connection)とは、複数の素子の両端を同じ2点に接続した方法です。水道管でいえば「管を分岐させて複数の経路を作った」状態です。
並列回路の特徴:
- 電圧は全素子で共通:すべての素子に同じ電圧がかかる。(家庭のコンセントはすべて100V並列)
- 電流は各素子に分岐する:電源から出る電流 = 各枝を流れる電流の合計。
- 合成抵抗は各抵抗より小さくなる:1/R合成 = 1/R₁ + 1/R₂ + ...
2個の並列抵抗の簡易計算式
R合成 = (R₁ × R₂) / (R₁ + R₂) (「積÷和」の公式)
例:100Ωと100Ωを並列 → R = (100×100)/(100+100) = 10000/200 = 50Ω
同じ値の抵抗を並列にすると抵抗は半分になります。
電流分割則:並列回路で電源からI₀が流れ込むとき、各枝に流れる電流は:I₁ = I₀ × R₂ / (R₁ + R₂)(抵抗が小さい枝に多くの電流が流れる点に注意)
実用例:複数デバイスの並列接続
ラズパイに複数のLEDや外部デバイスを接続するとき、通常は電源に対して並列に接続します。これにより各デバイスは独立して動作でき、1つを取り外しても他のデバイスに影響しません(直列接続だと1つ切れると全部消える)。家庭の電気配線が並列なのと同じ理由です。
4-4. 直並列混合回路
実際の回路は直列と並列が混在しています。これを直並列混合回路と呼びます。解き方は「段階的に単純化する」ことです。
解き方の手順:
- ステップ1:明確に並列になっている部分を見つけ、合成抵抗に置き換える。
- ステップ2:明確に直列になっている部分を見つけ、合成抵抗に置き換える。
- ステップ3:回路が1つの抵抗になるまで繰り返す。
- ステップ4:全体の電流をオームの法則で計算し、各部分に戻って電圧・電流を求める。
計算例:電源12V、R₁=6Ω(直列)、R₂=4Ω と R₃=12Ω(並列)の回路。
まず並列部分の合成抵抗:R₂₃ = (4 × 12) / (4 + 12) = 48/16 = 3Ω
次に全体の合成抵抗:R合計 = R₁ + R₂₃ = 6 + 3 = 9Ω
全体の電流:I = 12V / 9Ω ≈ 1.33A
R₁にかかる電圧:V₁ = 1.33A × 6Ω = 8V
並列部分にかかる電圧:V₂₃ = 12V − 8V = 4V
R₂の電流:I₂ = 4V / 4Ω = 1A、R₃の電流:I₃ = 4V / 12Ω ≈ 0.33A
4-5. キルヒホッフの法則
キルヒホッフの法則(Kirchhoff's Laws)は、1845年にグスタフ・キルヒホッフが発見した回路解析の基本法則です。2つの法則から成ります。
KCL:キルヒホッフの電流則(Kirchhoff's Current Law)
KCLの定義
「任意の節点に流れ込む電流の総和 = 流れ出る電流の総和」
言い換えると:節点で電荷が溜まったり消えたりしない(電荷保存則)。
数式:Σ(流れ込む電流)= Σ(流れ出る電流)
プログラマーへのアナロジー:KCLは「関数に入ってくるデータ量 = 出ていくデータ量」という保存則と同じ発想です。ノードを「データの交差点」と考えると、流れ込んだ電流はどこかに出ていかなければならない、という直感が働きます。電荷はノードに「積み立てられる」ことがないのです(コンデンサは別)。
KCLの具体例:あるノードに I₁ = 5A と I₂ = 3A が流れ込んでいるとします。このノードから出る電流 I₃ は何A?
KCLより:5 + 3 = I₃ → I₃ = 8A
KVL:キルヒホッフの電圧則(Kirchhoff's Voltage Law)
KVLの定義
「任意の閉ループを一周すると、電圧の代数和はゼロ」
数式:Σ(電圧降下)= Σ(電圧上昇)
水のアナロジーで説明すると:「山(高電位)から谷(低電位)へ降りていき、ポンプ(電源)で再び山頂まで戻る。一周すると元の高さ(電位)に戻る」。これが KVL の直感です。電位は出発点と同じ値に戻らなければなりません。
KVLの使い方:ループを一方向(例:時計回り)に進みながら、電圧源では「+から−に進めば −V」「−から+に進めば +V」、抵抗では「電流の向きと同じ方向に進めば −IR(電圧降下)」とします。これらをすべて足すとゼロになります。
KVLの具体例:12V電源、R₁=4Ω、R₂=8Ωの直列回路で、電流Iを求める。
ループ方程式:+12 − I×4 − I×8 = 0
→ 12 = 12I → I = 1A
KCLとKVLを連立させると、どんなに複雑な多ループ回路でも方程式を立てて解くことができます。これが回路解析の基本戦略です。
4-6. 重ね合わせの定理
重ね合わせの定理(Superposition Theorem)は、複数の電源を持つ線形回路を解析するための強力な手法です。
重ね合わせの定理
「複数の電源を持つ線形回路において、任意の素子に流れる電流(またはかかる電圧)は、各電源が単独で存在したときの寄与を足し合わせたものに等しい」
使い方の手順:
- ステップ1:1つの電源だけを残し、他の電圧源を「短絡(ショート)」に置き換え(電圧源の内部抵抗がゼロだから)、電流源は「開放」に置き換える。
- ステップ2:残した電源のみで回路を解き、各素子の電流・電圧を求める。
- ステップ3:別の電源について同じ操作をする。
- ステップ4:各電源による結果を代数的に足し合わせる(向きの符号に注意)。
この定理は「線形」回路にしか使えません(ダイオードやトランジスタの非線形素子を含む回路には直接適用不可)。しかし線形の仮定が成り立つ範囲では非常に強力で、複雑な多電源回路の分析を単純な問題の積み重ねに帰着できます。
4-7. テブナンの定理
テブナンの定理(Thévenin's Theorem)は、回路解析の中で最も実用的な定理の一つです。1883年にフランスの電信技師レオン・テブナンが発見しました。
テブナンの定理
「どんなに複雑な線形回路でも、2つの端子(A・B)から外部を見ると、1つの電圧源(テブナン電圧 Vth)と1つの直列抵抗(テブナン抵抗 Rth)の等価回路に置き換えることができる」
テブナン等価回路の求め方:
- テブナン電圧 Vth:端子A・Bを開放(何も接続しない)状態での端子間電圧。KVLや分圧則で計算できる。
- テブナン抵抗 Rth:すべての独立電源を「死亡」させた(電圧源→短絡、電流源→開放)状態で、端子A・B間から見た合成抵抗。
プログラマーへのアナロジー:ブラックボックス化
テブナンの定理は、複雑な関数を「戻り値(Vth)と内部状態(Rth)」だけで表現するブラックボックス化と同じ発想です。 外部から見た動作(端子電圧と電流の関係)さえ同じなら、内部の実装がどれだけ複雑でも構わない。 これは「APIの抽象化」や「モジュール化」と本質的に同じ設計原則です。 複雑な電源回路を「Vth=5V、Rth=10Ω」と表現すれば、外部回路への影響を簡単に計算できます。
テブナン変換の具体例:電源12V、R₁=6Ω と R₂=3Ω からなる回路の端子A・BのテブナンをR₂の両端で求める。
Vth(A・B開放時の電圧)= 分圧則より Vth = 12V × 3/(6+3) = 4V
Rth(12V電源を短絡した状態での A・B 間抵抗)= R₁とR₂の並列 = Rth = (6×3)/(6+3) = 2Ω
等価回路:4Vの電圧源と2Ωの直列抵抗。この等価回路に負荷抵抗を接続すれば、元の複雑な回路を計算せずに電流・電圧を求められます。
テブナンの定理が実用的な理由:電源ユニットや増幅回路などの「信号源」を設計するとき、内部回路の複雑さを意識せずに「出力電圧(Vth)と出力インピーダンス(Rth)」の2つのパラメータだけで外部との接続を設計できます。これが回路設計の「モジュール化」を可能にしている原理です。
4-8. ノートンの定理(補足)
ノートンの定理(Norton's Theorem)はテブナンの定理の「双対(dual)」で、1926年にアメリカのエンジニア、エドワード・ノートンが発見しました。
ノートンの定理
「どんなに複雑な線形回路でも、2つの端子から見ると、1つの電流源(ノートン電流 IN)と1つの並列抵抗(ノートン抵抗 RN)の等価回路に置き換えられる」
ノートン電流 IN:端子A・Bを短絡したときに流れる電流。
ノートン抵抗 RN:テブナン抵抗と同じ(Rth = RN)。
テブナン ↔ ノートン 変換の方法:
- テブナン → ノートン:IN = Vth / Rth、RN = Rth
- ノートン → テブナン:Vth = IN × RN、Rth = RN
テブナンは「電圧源 + 直列抵抗」、ノートンは「電流源 + 並列抵抗」です。どちらの表現を使うかは、接続する負荷の性質(電圧駆動か電流駆動か)によって選びます。どちらも外部回路への影響は完全に同じです。
4-9. 最大電力転送定理
最大電力転送定理(Maximum Power Transfer Theorem)は、電源から負荷への電力転送を最大化する条件を示した定理です。
最大電力転送定理
「テブナン等価回路において、負荷抵抗 RL がテブナン抵抗 Rth と等しいとき(RL = Rth)、負荷に伝達される電力が最大となる」
このときの最大電力:Pmax = Vth² / (4 × Rth)
直感的な説明:負荷抵抗が小さすぎると、多くの電流が流れますが電源の内部抵抗(Rth)でも多くの電力が消費されます。負荷抵抗が大きすぎると、電圧はかかりますが電流が少なすぎます。RL = Rth のバランス点で最大電力が得られます。
ただし、最大電力転送のとき電源効率は50%(電源エネルギーの半分は内部抵抗で消費)です。電力の節約を優先する場合は RL ≫ Rth にします。最大電力転送定理は「効率より電力量を最大化したい」場面で使います。
実用例:スピーカーのインピーダンスマッチング
オーディオアンプ(出力インピーダンス8Ω)に8Ωのスピーカーを接続すると、最大電力をスピーカーに転送できます。アンプ仕様書に記載されている「対応スピーカーインピーダンス」がこの最大電力転送定理に基づいた推奨値です。4Ωや16Ωのスピーカーでは電力転送効率が下がり、音量が下がったり、場合によってはアンプに過大電流が流れて故障する原因になります。
ラズパイとの関係:インピーダンスマッチング
ラズパイの 3.5mm オーディオジャックの出力インピーダンスは数十Ω程度です。直接スピーカー(8Ω)に接続すると、インピーダンスが不整合のため音が小さかったり歪んだりします。適切な出力インピーダンスを持つアンプモジュール(PAM8403など)を間に入れることで、インピーダンスを整合させて最大電力をスピーカーに供給できます。I²S接続のDACモジュールを使う方法もあります。
電子部品図鑑(前編) ── 抵抗・コンデンサ・コイル・ダイオード
5-1. 抵抗器(Resistor)
抵抗器は電流を制限する最も基本的な受動部品です。回路に流れる電流量を調整したり、電圧を分圧したりするために使います。単位はオーム(Ω)で、大きな値にはキロオーム(kΩ=1,000Ω)やメガオーム(MΩ=1,000,000Ω)を使います。
カラーコードの読み方(4本帯)
通孔型(スルーホール)抵抗の本体には色の帯が印刷されており、これを読むことで抵抗値を確認できます。4本帯の場合、左から順に読みます。
- 第1帯:十の位の数字
- 第2帯:一の位の数字
- 第3帯:乗数(×10ⁿ)
- 第4帯:許容差(金=±5%、銀=±10%)
| 色 | 数値 | 色 | 数値 |
|---|---|---|---|
| 黒 | 0 | 緑 | 5 |
| 茶 | 1 | 青 | 6 |
| 赤 | 2 | 紫 | 7 |
| 橙 | 3 | 灰 | 8 |
| 黄 | 4 | 白 | 9 |
読み方の例
- 茶・黒・赤・金 → 1, 0, ×100, ±5% → 1,000Ω = 1kΩ ±5%
- 赤・赤・橙・金 → 2, 2, ×1,000, ±5% → 22,000Ω = 22kΩ ±5%
E系列(標準抵抗値)
抵抗値は無限に存在するわけではなく、国際規格で定められた「E系列」という標準値のラインナップから選びます。
- E6系列(±20%):1.0, 1.5, 2.2, 3.3, 4.7, 6.8 の6種類/桁。粗い間隔
- E12系列(±10%):12種類/桁
- E24系列(±5%):24種類/桁。最も一般的で入手しやすい
定格電力の選び方
抵抗器には「定格電力」があり、これを超えると発熱・焼損します。P = I²R または P = V²/R で計算した値の2倍以上の定格を選ぶのが安全設計の鉄則です。
- 1/4W(0.25W):最も一般的なサイズ。信号回路・低電流用
- 1/2W(0.5W):やや余裕が欲しい場面で
- 1W以上:電力回路、比較的大電流を扱う用途
チップ抵抗(SMD)
基板実装用の表面実装型抵抗です。サイズは数字4桁のコードで表されます。例えば0805は横2.0mm×縦1.25mm、0603は横1.6mm×縦0.8mmです。手はんだ付けには0805が扱いやすい最小サイズの目安です。
プルアップ・プルダウン抵抗
ラズパイで必須の知識
GPIOピンをボタンやセンサーに接続する場合、ピンが何にも接続されていない「フローティング(浮遊)」状態だと電圧が不安定になり、High/Lowの判定が不定になります。これを防ぐのがプルアップ・プルダウン抵抗です。
- プルアップ:VCC(3.3V)から10kΩでGPIOに接続 → 未入力時はHighに固定
- プルダウン:GPIOから10kΩでGNDに接続 → 未入力時はLowに固定
- 10kΩが標準的な理由:小さすぎると常時電流が多く流れ消費電力が増加。大きすぎると外部ノイズを拾いやすくなる。10kΩはこのバランスが良い値
5-2. コンデンサ(Capacitor)
コンデンサは電荷を蓄える受動部品です。充電中は電流が流れますが、満充電後は電流が流れなくなります。静電容量の単位はファラッド(F)ですが、実際の部品ではμF(マイクロファラッド=10⁻⁶F)、nF(ナノファラッド=10⁻⁹F)、pF(ピコファラッド=10⁻¹²F)が使われます。
構造は2枚の導体板(極板)の間に誘電体を挟んだシンプルなものです。静電容量 C は C = ε × S/d(ε: 誘電率、S: 極板面積、d: 極板間距離)で決まります。
直流遮断・交流通過の特性(超重要)
コンデンサの最重要特性
- 直流(DC)は遮断:満充電後に電流が流れなくなる = 直流を通さない
- 交流(AC)は通す:電圧が変化し続けるため常に充放電が繰り返される = 交流を通す
- 周波数が高いほど通りやすい:高周波ほどコンデンサのインピーダンスが下がる(Z = 1/2πfC)
この特性はフィルタ回路・デカップリング・信号カップリングなど電子回路設計の根幹をなします。
種類と特徴
| 種類 | 容量範囲 | 極性 | 特徴 | 主な用途 |
|---|---|---|---|---|
| 電解コンデンサ | 1μF〜10,000μF | あり(要注意) | 大容量、安価 | 電源デカップリング、平滑 |
| セラミックコンデンサ | 1pF〜100μF | なし | 高周波特性良、小型 | バイパス、高周波フィルタ |
| フィルムコンデンサ | 1nF〜10μF | なし | 高精度、安定 | オーディオ、タイマー |
| タンタルコンデンサ | 0.1μF〜1,000μF | あり | 小型、安定 | ポータブル機器 |
デカップリングコンデンサ
ラズパイ電子工作で必須の知識
- ICの電源ピンのすぐ近く(数mm以内)に0.1μFセラミックコンデンサを配置する
- なぜ必要か:ICが動作するとき瞬間的に大電流が流れ電源電圧が揺れる。コンデンサが電荷を素早く供給することで電圧を安定させる
- 電源ラインには100μF電解コンデンサも追加して低周波のリプル(脈動)を除去する
- 「近くに置く」が重要。配線が長いと寄生インダクタンスで効果が薄れる
合成容量の計算
- 直列接続:抵抗の並列と同じ計算式 → 1/C = 1/C₁ + 1/C₂ → 容量は減る
- 並列接続:単純に加算 → C = C₁ + C₂ → 容量は増える
極性に注意
電解コンデンサとタンタルコンデンサには極性があります。逆接続すると内部でガスが発生し、最悪の場合破裂します。電解コンデンサはマイナス側に白い帯と「-」マークがあり、リード線が短い方がマイナスです。必ず正しい向きで接続してください。
5-3. コイル・インダクタ(Inductor)
インダクタは電流変化を妨げ、磁気エネルギーを蓄える受動部品です。インダクタンスの単位はヘンリー(H)ですが、実際の部品ではmH(ミリヘンリー)やμH(マイクロヘンリー)が使われます。
動作原理
- コイルに電流が流れると周囲に磁場ができる
- 電流が変化すると、変化を妨げる向きの電圧(逆起電力)が生じる:ε = −L × dI/dt
- 急な電流変化を嫌う → 電流をなだらかにする「電流の慣性」のような効果
コンデンサと逆の特性として、直流は通す・交流の高周波は遮断するという性質があります。インダクタのインピーダンスは Z = 2πfL で、周波数が高いほど電流を通しにくくなります。
フェライトビーズ
ケーブルやUSBコードでよく見かける小さな円筒形の部品がフェライトビーズです。コイルの一種で、高周波ノイズを熱として吸収・除去します。電子機器の電磁ノイズ対策として広く使われています。
逆起電力と保護
ラズパイのGPIOを破壊する原因
モーターやリレー、電磁石のコイルは電源をOFFにした瞬間に非常に高い逆起電力(サージ電圧)を発生させます。この電圧がラズパイのGPIOピンに流れ込み、ICを破壊することがあります。
対策:コイルと並列に逆向きのダイオード(フライバックダイオード)を接続します。逆起電力をGNDに逃がして電子回路を守ります(詳細は5-4のフライバックダイオードを参照)。
5-4. ダイオード(Diode)
ダイオードは一方向だけ電流を通す半導体素子です。アノード(A/+)からカソード(K/-)の方向にのみ電流が流れます。逆方向には(定格内であれば)電流をほとんど通しません。
順方向電圧降下
ダイオードに電流を流す(順方向に電流を通す)ためには、ある一定以上の電圧が必要です。この電圧を順方向電圧降下(Vf)と呼びます。回路設計時には必ず考慮が必要です。
- シリコンダイオード:約 0.6〜0.7V
- LED(赤):1.8〜2.0V
- LED(緑):2.0〜2.2V
- LED(青):3.0〜3.5V
- ショットキーダイオード:約 0.2〜0.4V(低損失)
また逆耐圧(PIV: Peak Inverse Voltage)は、逆方向に印加できる最大電圧です。これを超えると絶縁破壊が起き、ダイオードが破損します。
種類と用途
| 種類 | 代表品番 | 特徴 | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| 整流ダイオード | 1N4007 | 1A / 1000V | AC→DC変換、逆接続保護 |
| 小信号ダイオード | 1N4148 | 高速・小電流 | 信号処理、クランプ回路 |
| ショットキーダイオード | 1N5819 | 低Vf(約0.3V)、高速 | スイッチング電源、逆流防止 |
| ツェナーダイオード | 1N4733A(5.1V) | 逆方向で定電圧動作 | 電圧リファレンス、保護 |
| LED | 各種 | 電流を流すと発光 | 表示、照明、インジケータ |
| フォトダイオード | BPW34 | 光 → 電流に変換 | 光センサー、光通信 |
| TVSダイオード | SM6T | 高速サージ吸収 | 静電気・雷サージ保護 |
フライバックダイオード(フリーホイールダイオード)
モーター・リレーを使うときは必須
モーター・リレー・電磁石のコイルに並列に、逆向きで接続する保護ダイオードです。コイルの電源をOFFにした瞬間に発生する高い逆起電力を、ダイオードを通じてGNDに流すことで電子回路を守ります。
- 接続方向:アノードをGND側、カソードをVCC側(コイルと逆向き)
- 通常時(電源ON中)は逆バイアスがかかりダイオードには電流が流れない
- 電源OFF時に逆起電力が発生すると順方向となり、GNDへ電流を逃がす
- 一般的な用途には 1N4148(小型・高速)または 1N4007(大電流)が使われる
電子部品図鑑(後編) ── トランジスタ・オペアンプ・IC
前編では抵抗・コンデンサ・コイル・ダイオードといった受動素子と単純な能動素子を扱いました。ここでは電子回路の核心であるトランジスタ・オペアンプ・各種ICを解説します。これらを理解すれば「マイコンのGPIO出力でモーターを動かす」「センサー信号を増幅する」といった実用回路が自分で設計できるようになります。
トランジスタ(BJT: バイポーラトランジスタ)
BJT(Bipolar Junction Transistor)は3端子素子です。3つの端子はそれぞれコレクタ(C)・ベース(B)・エミッタ(E)と呼ばれます。ベースへの微小な電流を操作することで、コレクタ-エミッタ間の大きな電流を制御できます。「小電流で大電流を制御するバルブ」というイメージです。
NPN型とPNP型
- NPN型(最も一般的):ベースにGNDより高い電圧(小電流)を与える → コレクタ-エミッタ間が導通(ON)。電流はC→Eの方向に流れる。
- PNP型:NPN型と電流・電圧の向きがすべて逆。ベースをエミッタより低い電圧にするとONになる。High側スイッチングに使われる。
2つの動作モード
1. スイッチングモード(デジタル制御)
ベースに電流を流す → コレクタ電流が流れてONになる。ベースに電流を流さない → OFFのまま。
用途:デジタル出力(GPIOなど)でモーター・リレー・ソレノイドを駆動する。
2. 増幅モード(アナログ)
コレクタ電流 = hFE × ベース電流(Ic = β × Ib)。hFE(電流増幅率β)は50〜500程度。
用途:マイク・センサーの微弱信号をスピーカーや ADC が読める大きさまで増幅する。
よく使うNPN BJT
| 品番 | Ic(max) | hFE(β) | 備考 |
|---|---|---|---|
| 2SC1815 | 150mA | 70〜700 | 日本の定番。入手性◎ |
| BC547 / BC548 | 100mA | 110〜800 | 欧州標準。ユニバーサルNPN |
| 2N2222 | 600mA | 75〜300 | 米国標準。スイッチング用に強い |
ラズパイでのトランジスタ活用
ラズパイ GPIO の限界とトランジスタの役割
ラズパイのGPIOピンが流せる最大電流は 16mA(推奨8mA以下)。一方、小型DCモーターでも数百mA〜数A必要です。GPIOから直接モーターを繋ぐとラズパイが壊れます。トランジスタをスイッチとして挟み、GPIOの小電流で大電流回路を制御します。
ベース抵抗の計算方法(NPN スイッチング)
目標:コレクタ電流 Ic を流したい(例: 200mA のモーター)
必要ベース電流:Ib = Ic / hFE(例: 200mA / 100 = 2mA)
ベース抵抗:Rb = (Vgpio − Vbe) / Ib = (3.3V − 0.7V) / 2mA = 1.3kΩ
→ 実際は余裕を持って 1kΩ 程度を使う(飽和領域を確保するため)
動作領域のまとめ
| 領域 | 状態 | 用途 |
|---|---|---|
| 遮断領域(Cutoff) | Ib≈0 → Ic≈0。完全OFF | デジタルスイッチのOFF状態 |
| 能動領域(Active) | Ic = hFE × Ib。線形増幅 | アナログ増幅回路 |
| 飽和領域(Saturation) | Vce ≈ 0.2V。完全ON | デジタルスイッチのON状態 |
FET(電界効果トランジスタ)
FET(Field Effect Transistor)も3端子素子ですが、端子名が異なります:ゲート(G)・ドレイン(D)・ソース(S)。BJTが電流で制御するのに対し、FETは電圧で制御します。これにより省電力・高入力インピーダンスという利点があります。
BJT vs FET:プログラミングで例えると
BJT はイベントドリブン(電流が来たら動く)。FET はポーリング(電圧を監視し続ける)。FET はゲートにほぼ電流が流れないため、マイコンの出力で直接駆動しやすく、現代のデジタル回路では FET(特に MOSFET)が主流です。
N-ch MOSFET(最もよく使われる)
ゲート電圧がしきい値電圧(Vth)を超えるとドレイン-ソース間が導通します。ロジックレベルFET(Logic Level FET)はVthが低く(1〜2V)、ゲート電圧3.3〜5VでONできるため、ラズパイやArduinoで直接駆動できます。Vthが4V以上のFETはマイコンでは制御できないので注意。
| 品番 | Vth | Id(max) | 用途 |
|---|---|---|---|
| 2N7000 | 2.1V | 200mA | 小型スイッチング(LED・ブザー) |
| BS170 | 2.0V | 500mA | LEDドライブ・小型モーター |
| IRLZ44N | 1.0V | 47A | 大電流スイッチング。ロジックレベル対応 |
| IRF540 | 4.0V | 28A | 電力制御(5V駆動必須。3.3Vでは不可) |
注意:ラズパイ(3.3V)でFETを使うときの選定基準
必ずVgsth(ゲートしきい値電圧)が2V以下のロジックレベルFETを選ぶこと。IRF540などVth=4V以上の品番は3.3Vゲートでは完全にONにならず、ON抵抗が高くなって発熱・誤動作の原因になります。データシートの「Logic Level」または「Vgs(th) max ≤ 2V」を確認してください。
オペアンプ(Operational Amplifier)
オペアンプは差動増幅器を内部に持つ汎用ICです。「+入力(非反転入力)」と「−入力(反転入力)」の2入力・1出力を持ち、外付け抵抗の組み合わせ次第でさまざまな信号処理回路を構成できます。アナログ回路の万能ツールと呼ばれる所以です。
理想オペアンプの特性
- 入力インピーダンス = ∞:入力端子に電流がほぼ流れない(前段の回路に影響しない)
- 出力インピーダンス = 0:どんな負荷にも理想的な電圧を供給できる
- 開ループゲイン = 10万倍以上:フィードバックなしでは出力が電源電圧に張り付く
- 帯域幅 = ∞(理想):実際のオペアンプにはGBW積という帯域制限がある
最重要概念:仮想短絡(バーチャルショート)
負帰還(出力を −入力に戻す接続)をかけると、オペアンプは「+入力 = −入力」になるよう出力を自動調整します。この性質を仮想短絡(Virtual Short)と呼びます。
プログラミングで例えると:出力 = f(入力) でフィードバックループを構成したとき、システムが安定点(+入力 ≈ −入力)に収束する自動制御と同じ考え方です。この仮想短絡を使うと、下記のすべての応用回路が簡単に導出できます。
代表的な応用回路
| 回路名 | ゲイン | 用途・特徴 |
|---|---|---|
| 反転増幅器 | −R₂/R₁ | センサー信号増幅。出力は入力と逆位相になる |
| 非反転増幅器 | 1 + R₂/R₁ | 位相を保ったまま増幅。入力インピーダンスが非常に高い |
| ボルテージフォロワー | 1(Av=1) | インピーダンス変換。高インピ源を低インピ負荷に接続できる |
| 差動増幅器 | R₂/R₁ × (V₊−V₋) | 2信号の差を増幅。ノイズ除去・ブリッジセンサー読み取り |
| コンパレータ | ∞(High/Low出力) | 電圧比較・閾値検出。開ループで使用する(帰還なし) |
| 積分器 | −1/(RC) × ∫V dt | フィルタ・波形生成。RをCに置き換えた反転増幅器 |
代表品
- LM358:デュアルオペアンプ(2回路入り)。安価で入手しやすい。±電源/単電源両対応。初学者のファーストチョイス
- TL072:低ノイズFET入力オペアンプ。オーディオ回路に適する
- MCP601:3.3V単電源対応。ラズパイ回路に適合。Microchip製
IC(集積回路)── よく使うもの
個別のトランジスタや抵抗を組み合わせた回路をシリコンチップ上に集積したものがICです。ここではラズパイ・Arduinoとの組み合わせで特に頻繁に使われる4つのICを紹介します。
555タイマー
発振・タイマー回路の歴史的定番IC。外付けの抵抗とコンデンサで時定数(τ = RC)を決定し、3つのモードで動作します。
- 単安定モード(ワンショット):トリガー入力 → 一定時間だけHighを出力。タイマーとして使う
- 非安定モード(連続発振):自動でON/OFFを繰り返す。周波数 f ≈ 1.44/((R1+2R2)×C)
- 双安定モード(フリップフロップ):SとRの入力で出力をセット/リセット
74HC595(シフトレジスタ)
SPIプロトコルで8ビットの出力を制御するIC。GPIOを3本使うだけで8本の出力ポートを追加できます。さらに複数個をデイジーチェーン接続すると16・24・32ビットに拡張可能。LEDマトリクス・7セグLEDの制御に定番です。
74HC595 の接続(ラズパイ)
DATA(GPIO任意) → SER(14ピン)
CLOCK(GPIO任意)→ SRCLK(11ピン)
LATCH(GPIO任意)→ RCLK(12ピン)
この3本だけで8出力を制御。Pythonの spidev ライブラリで簡単に操作できます。
MCP3208(ADC)
ラズパイにはADC(アナログ-デジタル変換)が内蔵されていません。温度センサー・光センサー・マイクなどアナログ出力のセンサーをラズパイで読むには外付けADCが必須です。MCP3208はSPIで接続する8チャンネル・12bitのADCで、最も広く使われています。
- 12bit分解能:0〜4095の値で電圧を表現(Vref=3.3Vなら約0.8mV/LSB)
- 8チャンネル:最大8種類のアナログセンサーを1つのICで読める
- SPIバス接続:ラズパイの
SPI0に接続しspidevで操作
PCA9685(PWMドライバ)
I2Cで接続する16チャンネル・12bit PWMドライバ。ラズパイのPWM出力は通常2チャンネルしかありませんが、PCA9685を使えばサーボモーター16個を同時に独立制御できます。ロボットアーム・多軸カメラジンバルの制作に必須ICです。
- I2Cアドレス:A0〜A5ピンで変更可能(最大62個を同一バスに接続)
- 動作周波数:24Hz〜1526Hz(サーボは50Hz、LEDは1kHz程度が標準)
- Pythonライブラリ:
adafruit-circuitpython-pca9685で数行で動作
交流回路 ── 正弦波・周波数・位相・インピーダンス・フィルタ
これまで扱ってきたのはすべて直流(DC)でした。しかし現実の電気の世界では交流(AC)が至るところに登場します。家庭のコンセント・音声信号・無線通信・センサーノイズ……これらを理解し制御するために、交流回路の基礎を学びます。
直流と交流の違い
| 種類 | 電流の向き | 代表例 |
|---|---|---|
| 直流(DC) | 常に一定方向に流れる | 電池、USB電源、ACアダプタ出力 |
| 交流(AC) | 周期的に向きが変わる | 家庭コンセント(日本:100V 50/60Hz)、音声信号 |
送電に交流が使われる理由は変圧器(トランス)にあります。変圧器は交流のみ変圧できるため、発電所から家庭まで高電圧(数万V)で送電してロスを最小化し、末端で100Vに降圧できます。直流では変圧が非常に難しく(現代では半導体を使ったDC-DCコンバータで実現)、歴史的にエジソンが負けた「電流戦争」の背景がここにあります。
正弦波(サイン波)の各パラメータ
交流の基本波形は正弦波(sin波)です。数式で書くと:v(t) = V_peak × sin(ωt + φ)
| パラメータ | 記号・単位 | 意味 |
|---|---|---|
| 振幅(ピーク値) | V_peak [V] | 波の最大値(0Vからの高さ) |
| 周期 | T [s] | 1回の繰り返しにかかる時間 |
| 周波数 | f [Hz] = 1/T | 1秒間の繰り返し回数 |
| 角周波数 | ω [rad/s] = 2πf | 数式処理を簡潔にするための表現。2πf と覚える |
| 初期位相 | φ [rad] | 基準時刻(t=0)における波の位置 |
| 実効値(RMS) | V_rms = V_peak / √2 ≈ 0.707 × V_peak | 同じ電力を出す直流電圧と等価な値 |
「日本の家庭用電圧100V」は実効値
コンセントの「100V」は実効値(RMS)です。実際のピーク電圧は約141V(= 100 × √2)。電子機器を設計するとき、コンデンサの耐圧などはピーク電圧基準で選定する必要があります。「100V対応」の機器に耐圧100Vのコンデンサを使うと破壊されます。
コンデンサの交流特性(容量性リアクタンス)
直流ではコンデンサは充電後に電流を遮断しますが、交流では周波数に応じて通りやすさが変わります。この「交流に対する抵抗値」を容量性リアクタンス Xcと呼びます。
Xc = 1 / (2πfC) [Ω]
- 周波数↑ → Xc↓(高周波はよく通る)
- 周波数↓ → Xc↑(低周波・直流は通りにくい)
- 容量 C↑ → Xc↓(大きなコンデンサほど通しやすい)
位相の覚え方:"ICE"(アイス)
コンデンサ(C)では、電流(I)が電圧(E)より90°進む。
I → C → E の順で並べると「ICE」。電流が先行するイメージ。
コイルの交流特性(誘導性リアクタンス)
コイル(インダクタ)の交流に対する抵抗値を誘導性リアクタンス XLと呼びます。
XL = 2πfL [Ω]
- 周波数↑ → XL↑(高周波は通りにくい)
- 周波数↓ → XL↓(低周波は通りやすい)
- コイルの性質はコンデンサと逆になる
位相の覚え方:"ELI the ICE man"
コイル(L)では、電圧(E)が電流(I)より90°進む(電流が遅れる):E → L → I で「ELI」。
コンデンサ(C)では電流(I)が電圧(E)より90°進む:I → C → E で「ICE」。
「ELI the ICE man(エリ・ザ・アイスマン)」という人名として覚えると忘れにくい。
インピーダンス
抵抗・コンデンサ・コイルが混在する交流回路での「合成された交流抵抗」をインピーダンス Zと呼びます。オームの法則を交流に拡張したものです。
| 式 | 意味 |
|---|---|
| Z = R + j(XL − Xc) [Ω] | 複素インピーダンス。j は虚数単位(位相情報を持つ) |
| |Z| = √(R² + (XL−Xc)²) | インピーダンスの大きさ(電流の計算に使う) |
| θ = arctan((XL−Xc) / R) | 電流と電圧の位相差 |
| V = Z × I | 交流のオームの法則(直流の V=IR に相当) |
プログラマー向け:インピーダンスは複素数
Z = R + jX は Python の複素数 complex(R, X) そのものです。振幅(大きさ)は abs(Z)、位相は cmath.phase(Z) で取得できます。信号処理ライブラリが内部でこれを大量に計算しています。
LC共振
コイルとコンデンサを組み合わせると、ある特定の周波数で共振が起きます。共振周波数では XL = Xc となり、インピーダンスが最小(直列共振)または最大(並列共振)になります。
共振周波数:f₀ = 1 / (2π√LC)
- 直列共振時:インピーダンス最小 → 電流最大
- Q値(クオリティファクター):共振の鋭さ。Q = f₀ / BW(帯域幅)。Qが高いほど特定周波数のみに鋭く反応
- 応用:ラジオチューナー・無線通信の周波数選択・電力変換
フィルタ回路(周波数選択)
特定の周波数範囲を通過または遮断する回路をフィルタと呼びます。プログラミングで言えば「配列の要素をフィルタリングする関数」と同じ概念です。ただしここでのフィルタリング対象は「周波数成分」です。
| フィルタ種類 | 通過帯域 | RC回路の構成 | fc / 式 | 主な用途 |
|---|---|---|---|---|
| ローパスフィルタ(LPF) | 低周波を通す | 直列R → 並列C(入力→R→出力, C to GND) | fc = 1/(2πRC) | ADC前のアンチエイリアシング・オーディオ高音カット |
| ハイパスフィルタ(HPF) | 高周波を通す | 直列C → 並列R(入力→C→出力, R to GND) | fc = 1/(2πRC) | DCオフセット除去・マイクの低周波ハム除去 |
| バンドパスフィルタ(BPF) | 特定帯域のみ通す | RLC直列回路(共振を利用) | f₀ = 1/(2π√LC) | 特定周波数の信号抽出・ラジオ選局 |
| ノッチフィルタ(BEF) | 特定周波数のみ遮断 | ツイン-T回路など | f_notch = 1/(2πRC) | 電源ハム(50/60Hz)除去・特定妨害波除去 |
カットオフ周波数の意味
カットオフ周波数 fc は「信号の電力が半分になる(電圧が 1/√2 ≈ 0.707 倍になる)周波数」です。-3dBポイントとも呼ばれます。fcより十分低い(LPF)または高い(HPF)周波数は通過し、遠ざかるほど急速に減衰します(一次RC回路では1オクターブあたり-20dB)。
実用例:ラズパイのADC前にLPFを入れる理由
MCP3208などのADCでアナログ信号をサンプリングするとき、サンプリング周波数の1/2(ナイキスト周波数)より高い周波数成分が混入するとエイリアシング(折り返しノイズ)が発生し、正確な値が取れません。ADCのサンプリング周波数の半分以下にfcを設定したLPFをADC前に挿入することで、これを防ぎます。
注意:一次RCフィルタの限界
一次RCフィルタの減衰特性は-20dB/decadeと比較的緩やかです。急峻な遮断特性が必要な場合は、複数段のRCフィルタを縦続接続するか、オペアンプを使ったアクティブフィルタ(バタワース・チェビシェフ等)を使います。オーディオのクロスオーバーネットワークや通信機器では高次フィルタが必須です。
デジタル回路 ── 論理ゲート・フリップフロップ・順序回路
ソフトウェアエンジニアにとって「0と1」は馴染み深い概念です。デジタル回路はまさにその0と1をシリコンと電圧で実装したものです。
CPUの中で if (a && b) が実行されるとき、物理的には電圧で動く論理ゲートが組み合わさっています。このセクションでは、ソフトウェアの概念とハードウェアの実体を結びつけながら解説します。
アナログとデジタルの違い
自然界の信号はアナログです。温度、音、光の強さはすべて連続した値を取ります。 一方、デジタル回路が扱う値は離散的な 0か1の二値のみ です。
電圧でデジタル値を表現するとき、どの電圧が0でどの電圧が1に対応するかは「論理レベル」で決まっています。
| 系統 | Low (0) | High (1) | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| 3.3V系 | 0〜0.8V | 2.0〜3.3V | Raspberry Pi、ESP32、多くのマイコン |
| 5V系 | 0〜0.8V | 2.0〜5V | Arduino UNO(ATmega328P)、74LS系IC |
注意:「不定」電圧は誤動作の元
0.8V〜2.0Vの中間電圧は0でも1でもない「不定」状態です。ノイズやフローティング(未接続ピン)によってこの範囲に入ると、ICが誤動作します。 デジタル信号の入力ピンは必ず明確にLowかHighに固定(プルアップ/プルダウン抵抗で固定)してください。
論理ゲートと真理値表
論理ゲートはデジタル回路の最小構成要素です。プログラムの &&、||、! に対応するハードウェアと考えてください。
各ゲートの動作を「真理値表」で表します。
NOTゲート(インバータ)── !a に相当
入力を反転させるだけのシンプルなゲートです。回路図記号では出力側に小さな丸(バブル ○)が付きます。
| 入力 A | 出力 Y = NOT A |
|---|---|
| 0 | 1 |
| 1 | 0 |
ANDゲート ── a && b に相当
全入力がHighのときのみ出力がHighになります。用途:「条件AかつBが満たされたとき」の判定。
| A | B | Y = A AND B |
|---|---|---|
| 0 | 0 | 0 |
| 0 | 1 | 0 |
| 1 | 0 | 0 |
| 1 | 1 | 1 |
ORゲート ── a || b に相当
1つでもHighなら出力High。用途:「条件AまたはBが満たされたとき」。
| A | B | Y = A OR B |
|---|---|---|
| 0 | 0 | 0 |
| 0 | 1 | 1 |
| 1 | 0 | 1 |
| 1 | 1 | 1 |
NANDゲート ── ANDの否定
ANDの出力を反転させたゲートです。実はCMOSの最も基本的なゲートで、チップ面積が最小で作れます。 NANDだけで他のすべての論理ゲートを実現できるため「機能的完全性」を持ちます(NORも同様)。 多くのICの内部回路はNANDで構成されています。
| A | B | Y = NOT(A AND B) |
|---|---|---|
| 0 | 0 | 1 |
| 0 | 1 | 1 |
| 1 | 0 | 1 |
| 1 | 1 | 0 |
NORゲート ── ORの否定
ORの出力を反転させたゲートです。NANDと同様に機能的完全性を持ちます。
| A | B | Y = NOT(A OR B) |
|---|---|---|
| 0 | 0 | 1 |
| 0 | 1 | 0 |
| 1 | 0 | 0 |
| 1 | 1 | 0 |
XOR(排他的OR)ゲート ── 加算器の核心
入力が異なるときのみ出力がHighになります。同じなら0。 1ビット+1ビットの加算で「桁上がりなし部分(Sum)」を計算するのがXORです。 用途:加算器、パリティチェック、データの変化検出。
| A | B | Y = A XOR B |
|---|---|---|
| 0 | 0 | 0 |
| 0 | 1 | 1 |
| 1 | 0 | 1 |
| 1 | 1 | 0 |
XNORゲート ── 一致検出
XORの否定。入力が一致したときだけ出力が1になります。 用途:2値の一致検出(パスワード比較、エラーチェック)。
| A | B | Y = A XNOR B |
|---|---|---|
| 0 | 0 | 1 |
| 0 | 1 | 0 |
| 1 | 0 | 0 |
| 1 | 1 | 1 |
ド・モルガンの定理
ド・モルガンの定理はデジタル回路設計で頻繁に使う変換規則です。プログラマーなら既に知っているかもしれません。
ド・モルガンの定理
第1法則:NOT(A AND B) = NOT(A) OR NOT(B)
!(a && b) === !a || !b
第2法則:NOT(A OR B) = NOT(A) AND NOT(B)
!(a || b) === !a && !b
回路設計での重要性:NANDゲートとNORゲートのみでAND・OR・NOTを全て表現できます。 例えば「ANDゲートが必要だが手元にNANDしかない」というとき、NANDの出力をもう一つのNANDで反転するとANDが作れます。
組み合わせ論理回路
組み合わせ論理回路は「現在の入力の組み合わせだけで出力が決まる」回路です。過去の状態(記憶)は関係ありません。 プログラムで言えば副作用のない純粋関数に相当します。
半加算器(Half Adder)
1ビット+1ビットの加算を行います。結果は「合計ビット(Sum)」と「桁上がり(Carry)」の2ビット出力。
- Sum(合計ビット) = A XOR B
- Carry(桁上がり) = A AND B
例:1+1 = 二進数で 10(Sum=0、Carry=1)。
XORとANDの2ゲートだけで1ビット加算器が作れます。
全加算器(Full Adder)
前の桁からのキャリー入力(Cin)を含む3入力加算器です。半加算器2個とORゲート1個で構成されます。 全加算器を複数つなぐことで多ビット加算器(リップルキャリーアダー)が作れます。これがCPUの演算器の基礎です。
マルチプレクサ(MUX)── ハードウェアのswitch文
n本の入力データから、セレクト信号で1本を選んで出力します。
プログラムの switch 文や三項演算子に相当するハードウェアです。
- 2-to-1 MUX:S=0のとき入力Aを選択、S=1のとき入力Bを選択
- 式:Y = (A・S̄) + (B・S)
- 用途:ALUの入力切り替え、バスの調停、DRAMアドレス多重化
デコーダ
n本のバイナリ入力を 2ⁿ 本の「1-of-N」出力に変換します。入力値に対応する出力線の1本だけがHighになります。
- 3-to-8 デコーダ:3ビットの入力で8本の出力から1本を選択
- 用途:メモリのアドレス線選択、7セグメントLEDの表示駆動、CSピン選択
コンパレータ
2つのn-bit数値を比較し、A>B・A=B・A<Bの3つの出力を出します。 用途:温度センサの閾値判定、ADCの比較、ソートアルゴリズムのハードウェア実装。
順序論理回路(記憶を持つ回路)
順序論理回路は「現在の入力だけでなく、過去の状態(記憶)によっても出力が変わる」回路です。 プログラムで言えばクラスのインスタンス変数を持つメソッド、つまり状態機械(ステートマシン)に相当します。 記憶の基本単位がフリップフロップです。
SRフリップフロップ(SR-FF)── 最も基本的な記憶素子
Set(S)とReset(R)の2入力を持ち、出力Qが1か0かを「保持」します。
| S | R | Q (次の状態) | 動作 |
|---|---|---|---|
| 0 | 0 | Q (変化なし) | 保持(メモリ動作) |
| 1 | 0 | 1 | セット(Q=1に固定) |
| 0 | 1 | 0 | リセット(Q=0に固定) |
| 1 | 1 | 不定 | 禁止状態(使ってはいけない) |
Dフリップフロップ(D-FF)── レジスタの基本単位
クロック(CLK)信号の立ち上がりエッジ(0→1の瞬間)に、入力D の値を出力Qに取り込みます。 それ以外のタイミングでは、Dが変化してもQは変わりません。「クロックに同期してデータをラッチする」のが特徴です。
CPUのレジスタはD-FFの集合体
8ビットレジスタ = 8個のDフリップフロップを並列に並べたもの。 64ビットCPUの汎用レジスタは64個のD-FFで構成されています。 「変数を格納する」という操作は、物理的にはD-FFにクロックパルスを与えてデータをラッチする操作です。
JKフリップフロップ
SR-FFの「S=R=1禁止状態」問題を解決した改良版です。 J=K=1のとき、クロックエッジで出力が反転(トグル)する動作をします。 J=K=0なら保持、J=1,K=0なら1にセット、J=0,K=1なら0にリセット。
Tフリップフロップ ── カウンタの基本単位
T=1のとき、クロックエッジのたびに出力が反転(0→1→0→1→...)します。 T=0なら出力を保持。 Tフリップフロップを直列に複数つなぐことで2進カウンタが作れます。 クロック分周にも使えます(1段ごとにクロックが1/2になる)。
レジスタとカウンタ
- レジスタ:n個のD-FFを並列に配置してn-bitデータを保持する回路。8-bitレジスタなら8個のD-FF。
- シフトレジスタ:D-FFを直列接続し、クロックごとにデータを1ビットずつシフト。シリアル⇄パラレル変換に使用。
- バイナリカウンタ:T-FFを直列接続。クロックをカウントして2進数で出力。4ビットカウンタなら0〜15を繰り返す。
クロックと同期/非同期回路
クロック信号は、デジタル回路全体を同じタイミングで動かすための「鼓動」です。 100MHzのクロックとは「1秒間に1億回、0と1を繰り返す信号」のことです。
| 種類 | 特徴 | 用途 |
|---|---|---|
| 同期回路 | 全F-Fが同じクロックで動作。設計・デバッグが容易 | CPU、FPGA、ほぼ全ての現代デジタル回路 |
| 非同期回路 | クロック不要。設計が難しく、グリッチが発生しやすい | 超低消費電力回路、一部の特殊用途 |
セットアップタイム・ホールドタイム:フリップフロップへのデータ入力には「クロックエッジの前後に安定していなければならない時間」があります。 この制約を守れないと誤動作します。高速回路設計でのタイミング解析(スタティックタイミング解析)の核心はここにあります。
74シリーズICの活用
論理ゲートを個別に試したいとき、手軽なのが74シリーズのICです。 数十円〜百数十円で入手でき、ブレッドボードで簡単に試せます。
| 型番 | 内容 | ラズパイ互換 |
|---|---|---|
| 74HC00 | NANDゲート × 4回路(2入力) | ◎ 3〜5V対応 |
| 74HC04 | NOTゲート(インバータ)× 6回路 | ◎ 3〜5V対応 |
| 74HC08 | ANDゲート × 4回路(2入力) | ◎ 3〜5V対応 |
| 74HC595 | 8ビットシフトレジスタ(シリアル→パラレル) | ◎ SPI接続可 |
| 74HC245 | 8ビット双方向バスバッファ | ◎ レベル変換に利用可 |
| 74LS04 | NOTゲート × 6(TTL、5Vのみ) | × 5V専用、ラズパイに不向き |
ラズパイで74HCシリーズを使うときの注意
「74HC」はCMOS(3〜5V対応)なのでラズパイの3.3V GPIOと直結できます。 「74LS」はTTL(5V専用)のため、3.3V入力では誤動作することがあります。 購入時は必ず「HC」(または「HCT」)を選んでください。
半導体デバイスの物理 ── pn接合からMOSFETまで
「なぜトランジスタはスイッチとして動くのか」「FETのゲートはなぜ絶縁されているのに動作するのか」――これらの疑問に答えるには、半導体材料レベルの物理を理解する必要があります。 難しい数式は抜きに、概念のイメージを掴むことを目標にします。
半導体とは
物質は電気の通しやすさで3種類に分類されます。
| 種類 | 代表例 | バンドギャップ | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 導体 | 銅(Cu)、アルミ(Al) | ≒ 0eV(なし) | 自由電子が多く、電気をよく通す |
| 絶縁体 | ゴム、ガラス、SiO₂ | ≒ 9eV(大きい) | 電子がほぼ動けない |
| 半導体 | シリコン(Si)、Ge、GaAs | Si: 1.1eV(小さい) | 熱や光でわずかに電子が励起され導通 |
バンドギャップ理論(概念のみ)
固体中の電子が取れるエネルギーには「許可帯(バンド)」と「禁止帯(バンドギャップ)」があります。 導体はギャップが0または負(電子が自由に動ける)、絶縁体はギャップが大きく電子が動けません。 半導体はギャップが小さいため、熱エネルギーや光によって電子がギャップを飛び越えて導電性を持ちます。
温度が上がると半導体の抵抗は下がります(逆に金属は上がる)。これも半導体の重要な特性です。
なぜシリコンが主流なのか? 地球上に豊富に存在する(砂の主成分はSiO₂)こと、そして酸化するとSiO₂になりこれが極めて高品質な絶縁体として機能することが最大の理由です。 MOSFETのゲート絶縁膜はまさにこのSiO₂です。
ドーピング(不純物半導体)
純粋なシリコンだけでは使いにくいため、微量の不純物(ドーパント)を意図的に添加して電気的性質を制御します。 これを「ドーピング」といいます。
| 種類 | 添加物質 | 仕組み | 多数キャリア |
|---|---|---|---|
| N型半導体 | リン(P)、ヒ素(As) | Siの4価に対し5価の原子を添加 → 電子が1個余る | 電子(マイナス電荷) |
| P型半導体 | ボロン(B) | 3価の原子を添加 → 電子が1個不足(正孔が生じる) | 正孔(ホール) |
正孔(ホール)とは、電子が抜けた「空席」のことです。隣の電子がその空席に移ってくることで、空席(正孔)が逆方向に移動しているように見えます。 正孔は電子の移動と逆方向に「流れる」ように振る舞い、プラス電荷を持ちます。
pn接合とダイオードの動作
P型とN型を接合したものがpn接合であり、これがダイオードの基本構造です。
空乏層とポテンシャル障壁
P型とN型を接合した瞬間、N側の自由電子がP側に拡散し、P側の正孔と再結合して消えます。 この再結合で双方のキャリアが消えた薄い領域を空乏層といいます。 空乏層には電場(内蔵電位)が生じ、これがキャリアの移動を妨げる「壁」になります。シリコンの場合この内蔵電位は約0.7Vです。
| バイアス | 接続方法 | 空乏層 | 電流 |
|---|---|---|---|
| 順バイアス | アノード(P側)+、カソード(N側)- | 薄くなる(障壁が下がる) | 流れる(0.7V以上で急増) |
| 逆バイアス | カソード(N側)+、アノード(P側)- | 厚くなる(障壁が高まる) | ほぼ流れない(わずかな漏れ電流のみ) |
ツェナー降伏(逆方向降伏)
逆バイアス電圧を上げ続けると、ある電圧(ツェナー電圧)で急激に大電流が流れ始めます。 通常のダイオードではこれは破壊につながりますが、この特性を意図的に利用したのがツェナーダイオードです。 ツェナーダイオードは一定電圧を維持するリファレンス電圧源として使われます(3.3V、5.1Vなど)。
BJT(バイポーラトランジスタ)の動作原理
BJT(Bipolar Junction Transistor)はNPN型とPNP型があります。ここではNPN型を説明します。 構造はN型エミッタ ─ P型ベース(非常に薄い)─ N型コレクタの3層サンドイッチです。
NPN型BJTの動作
ポイントは「ベースが非常に薄い」こと。エミッタから注入された電子のほとんどがベース領域を通り抜けてコレクタに到達します。
- Vbe < 0.7V:ベース-エミッタ接合が逆バイアス → 電流が流れない(遮断領域)
- Vbe ≥ 0.7V:ベース-エミッタ接合が順バイアス → 小さなベース電流 Ib が流れる
- コレクタ電流 Ic = hFE × Ib(hFEは電流増幅率β、一般的に100〜300程度)
- 小さなベース電流で大きなコレクタ電流を制御する → 電流増幅器として動作
| 動作領域 | 条件 | Ic | 用途 |
|---|---|---|---|
| 遮断領域 | Vbe < 0.7V | ≈ 0(OFF) | スイッチのOFF状態 |
| 活性領域 | Vbe ≥ 0.7V かつ Vce 十分大 | hFE × Ib(比例) | アナログ増幅器 |
| 飽和領域 | Vbe ≥ 0.7V かつ Vce 小(≈0.2V) | 最大(ON) | デジタルスイッチのON状態 |
MOSFET の動作原理
現代のデジタル回路では BJT よりも MOSFET が主役です。CPU、RAM、マイコン、FPGAはほぼ全て MOSFET で構成されています。 最大の特徴はゲートが絶縁体(SiO₂)で分離されているため、直流ゲート電流がほぼ0であること。電圧でスイッチを制御できます。
N-ch エンハンスメント型 MOSFET の動作
最も一般的なタイプです。電源回路でよく見るNチャンネルMOSFETがこれです(例:2N7000、IRF540N)。
- ゲート電圧 Vgs < Vth(閾値電圧):ゲート下にチャンネルが形成されない → ドレイン-ソース間がOFF
- Vgs ≥ Vth:ゲート下のP型半導体表面にN型チャンネルが誘起される → ドレイン-ソース間がON(導通)
- Vth の値:一般的に1〜4V(ロジックレベルMOSFETは1〜2V、パワーMOSFETは2〜4V)
BJT と MOSFET の違い(プログラマー向けまとめ)
- BJT:電流で制御(ベース電流が必要)。アナログ増幅に向く。スピードはやや遅い。
- MOSFET:電圧で制御(ゲート電流ほぼ0)。デジタルスイッチに最適。高速・低消費電力。
- CPUの中では数十億個のMOSFETが電圧だけで制御されています。
オン抵抗 Rds(on)
MOSFET がONのとき、ドレイン-ソース間には有限の抵抗(オン抵抗 Rds(on))が残ります。 この抵抗が小さいほど発熱が少なく、効率が高くなります。 パワーMOSFET(モータ駆動や電源回路に使用)では Rds(on) が数mΩ〜数十mΩのものが使われます。 Rds(on) はゲート電圧 Vgs が高いほど小さくなるため、パワーMOSFETのゲート駆動には十分なVgsを確保することが重要です。
ラズパイでMOSFETを使うときの注意
ラズパイのGPIOは3.3V出力です。MOSFETのVthが2V以下の「ロジックレベルMOSFET」(例:2N7000、IRLZ44N)を使ってください。 通常のパワーMOSFET(Vth ≈ 4V)はラズパイの3.3VでONになりきらず、大電流時に発熱して破損します。
電磁気学の基礎 ── クーロンの法則から電磁誘導まで
静電気とクーロンの法則
静電気とは、摩擦などによって物体の表面に電荷が偏在する現象です。ドアノブに触れたときの「パチッ」がその典型例ですが、電子工作ではICへのダメージという実害として現れます。
2つの点電荷の間に働く力はクーロンの法則で記述されます。
クーロンの法則
- F = k × q₁q₂ / r²
- k = 9 × 10⁹ N·m²/C²(クーロン定数)= 1/(4πε₀)
- ε₀ = 8.85 × 10⁻¹² F/m(真空の誘電率)
- 同符号の電荷 → 反発力、異符号の電荷 → 引力
- r²に反比例 → 距離が2倍になると力は1/4になる
静電気破壊(ESD)に注意
ICは数十〜数百Vの静電気で破壊されます。人体に帯電した静電気は数千〜数万Vに達することもあります。ICを取り扱う際は静電気対策リストバンド(アース)を装着し、ESD袋に保管してください。基板を触る前に金属に手を触れて放電する習慣も重要です。
電場(電界)
電場とは、電荷の周囲に広がる「力の場」です。電荷を置いたとき、その位置でどれだけの力を受けるかを表します。電場の強さ E = F/q で定義され、単位は V/m(または N/C)です。
- 電気力線:正電荷から出て負電荷に向かう仮想の線。向きは正電荷が受ける力の方向と一致する
- 一様電場(平行板コンデンサ内):E = V/d(V: 極板間電圧、d: 極板間距離)
- ガウスの法則:任意の閉曲面を通る電気力線の本数 = 内部の電荷量 / ε₀
ガウスの法則とコンデンサ容量
ガウスの法則を平行板コンデンサに適用すると、容量の公式が導かれます:C = ε₀εr × S/d(εr: 比誘電率、S: 極板面積、d: 極板間距離)。誘電体を挟むと容量が εr 倍になるのはこの法則から直接得られる結果です。
磁場(磁界)
磁場の強さはテスラ(T)で表します。日常的な機器でどのくらいの磁束密度が発生するか、以下の表で把握しておきましょう。
| 磁場の発生源 | 磁束密度 |
|---|---|
| 地磁気 | 約 0.03〜0.06 mT |
| 冷蔵庫マグネット | 5 mT〜100 mT |
| 強力ネオジム磁石 | 1〜1.5 T |
| MRI装置 | 1.5〜3 T |
電流の周囲に発生する磁場はアンペールの法則で記述されます。
アンペールの法則(直線電流)
- B = μ₀I / (2πr)
- μ₀ = 4π × 10⁻⁷ H/m(真空の透磁率)
- 右ねじの法則:電流の方向に右ねじを進める向きで磁力線が回転する
電流と磁場の相互作用
磁場の中を動く電荷(電流)には力が働きます。これをローレンツ力と呼び、モーターの回転力の源になります。
- ローレンツ力:F = qv × B(ベクトル積)、大きさ |F| = qvBsinθ
- フレミングの左手の法則:中指 = 電流、人差し指 = 磁場、親指 = 力の方向
- モーターの原理:コイルに電流を流す + 磁場 → 回転力(トルク)が発生する
電磁誘導(ファラデーの法則)
コイルを貫く磁束が変化すると、その変化を妨げる向きに起電力(EMF)が誘導されます。これが電磁誘導であり、発電機・変圧器・インダクタすべての基礎となる現象です。
ファラデーの法則とレンツの法則
- ε = −dΦ/dt(ε: 誘導起電力 [V]、Φ = B × A: 磁束 [Wb])
- マイナス符号 = レンツの法則:誘導電流は「磁束の変化を打ち消す向き」に流れる
- 例:コイルにN極を近づける → コイルの近い側がN極になるよう電流が流れ、反発する
| 応用 | 仕組み |
|---|---|
| 発電機 | コイルを磁場中で回転 → 磁束変化 → 交流EMF発生 |
| 変圧器 | 1次コイルに交流 → 磁束変化 → 2次コイルに誘導起電力 |
| インダクタ | 自分自身の電流変化で逆起電力を発生(ε = −L × dI/dt) |
| モーター制動 | 回転するモーターを発電機として動作させ制動力を得る(回生ブレーキ) |
自己インダクタンスと逆起電力
コイルの電流が変化すると、コイル自身に逆起電力が発生します。これを自己インダクタンスの効果と呼び、 ε = −L × dI/dt(L: 自己インダクタンス [H])で表されます。
ラズパイ電子工作での重要ポイント
モーターやリレーのコイルをOFFにすると、電流変化が急激なため非常に高い逆起電力(スパイク電圧)が発生します。これはGPIOやドライバICを破壊します。
- フライバックダイオード(還流ダイオード)をコイルに並列に逆接続して保護する
- 向き:コイルのプラス側にカソード、マイナス側にアノードを接続
- 1N4007などの汎用整流ダイオードで十分。忘れると確実に何かが壊れる
マクスウェル方程式(概要)
電磁気学のすべてを記述する4つの偏微分方程式がマクスウェル方程式です。複雑に見えますが、それぞれ直感的な物理現象に対応しています。
| 名称 | 式(微分形) | 物理的意味 |
|---|---|---|
| 電場のガウス則 | ∇·E = ρ/ε₀ | 電荷が電場の源である |
| 磁場のガウス則 | ∇·B = 0 | 磁気単極子(モノポール)は存在しない |
| ファラデーの法則 | ∇×E = −∂B/∂t | 磁場の変化が電場を作る |
| アンペール・マクスウェル則 | ∇×B = μ₀J + μ₀ε₀∂E/∂t | 電流と電場変化が磁場を作る |
電磁波はこの方程式から生まれる
3番目の式(磁場の変化 → 電場を生成)と4番目の式(電場の変化 → 磁場を生成)を組み合わせると、電場と磁場が互いに誘起しながら光速で空間を伝播する波 ── 電磁波が導かれます。光・電波・X線・マイクロ波はすべて同じ電磁波で、周波数が違うだけです。
計測・測定 ── テスター・オシロスコープ・ブレッドボード・はんだ付け
ブレッドボードの使い方
ブレッドボードははんだ付け不要で回路を試作できる「プロトタイピング用ボード」です。穴の内部配線を理解することが正確な回路組み立ての第一歩です。
- 中央部(横5穴ずつ):縦方向につながっている(行方向接続)。ICの各ピンはここに挿す
- 両端の電源レール(赤・青):縦方向全体がつながっている。赤 = VCC、青 = GND
- 中央の溝:溝をまたいだ左右は接続されていない。ICはこの溝をまたいで挿す
| よくあるミス | 症状 | 対処 |
|---|---|---|
| 電源レールの左右分離を知らない | 片側だけ電源が来ない | ジャンパーで左右を接続する |
| ICを溝をまたがずに挿す | 全ピンが接続されショート | 中央の溝をまたいで挿し直す |
| 部品を挿したまま配線変更 | ショートで部品が破損 | 必ず電源を切ってから変更する |
| 穴の接触不良 | 動作が不安定・断続的 | ブレッドボードの穴を別の位置に差し替える |
試作から本番への移行
- ユニバーサル基板:本番環境向け。はんだ付けが必要だが安価で自由度が高い
- プリント基板(PCB):量産・高信頼性向け。KiCadで設計し製造業者に発注
デジタルマルチメーター(テスター)の使い方
マルチメーターは電圧・電流・抵抗などを一台で測定できる基本測定器です。接続方法を間違えると機器を破損したり感電の危険があります。
| 測定項目 | レンジ設定 | 接続方法 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 直流電圧(DCV) | 予想電圧より大きいレンジ | 並列接続(赤+、黒-) | まずオートレンジから始める |
| 交流電圧(ACV) | ACV設定 | 並列接続 | 100V測定は慎重に。感電注意 |
| 直流電流(DCA) | 予想電流より大きいレンジ | 直列接続(回路を切断して入れる) | 並列接続はショートするので絶対NG |
| 抵抗(Ω) | 電源OFF状態で設定 | 並列接続(回路への電源はOFF) | 電源ON状態では正確な測定不可 |
| 導通テスト | BEEP / ダイオードマーク | 並列接続 | ブザーが鳴れば導通あり |
| ダイオードテスト | ダイオードマーク | アノード+、カソード- | 0.6〜0.7V表示ならシリコンダイオード |
安全上の絶対注意事項
- 電流測定は必ず直列接続。電流測定端子に並列接続するとテスター内部でショートし、ヒューズ切れ・最悪破損する
- 測定前にレンジ設定と端子の接続位置(VΩ端子とA端子)を必ず確認する
- AC100V以上の測定は感電の危険あり。初心者は低電圧のDC回路から始めること
オシロスコープの使い方
オシロスコープは「時間とともに変化する電圧を波形として表示する機器」です。テスターが「今の値」を示すのに対し、オシロスコープは「時間変化」を可視化します。
- 時間軸(TIME/DIV):横1マスの時間。「1ms/DIV」なら10マスで10ms = 1周期が10msなら100Hz
- 電圧軸(VOLT/DIV):縦1マスの電圧。「1V/DIV」なら波形が2マスの高さなら2V
- トリガー:波形を安定表示させる基準点。電圧トリガー(Rising Edge)が基本設定
- カップリング(DC/AC):DC = 全信号表示、AC = DC成分を除いて交流成分のみ表示
| 測定できること | 方法 |
|---|---|
| 信号の周波数 | 1周期の横幅(マス数 × TIME/DIV)を読み、逆数を取る |
| 振幅(ピーク電圧) | 波形の縦幅(マス数 × VOLT/DIV)を読む |
| デューティ比 | 1周期のうちHIGHの時間幅の割合(PWM信号の解析に必須) |
| 2信号間の位相差 | CH1とCH2を同時表示して横ずれを比較 |
| 立ち上がり時間 | LOWからHIGHへ変化する時間(デジタル信号の品質評価) |
ラズパイでのオシロスコープ活用例
- GPIOのデジタル信号が正しく出力されているか確認
- I2C / SPI通信波形の確認とトラブルシューティング
- PWM信号のデューティ比・周波数確認
- おすすめ入門機:Rigol DS1054Z(約3〜5万円)、FNIRSI DSO152(1万円台)
ロジックアナライザ
ロジックアナライザはデジタル信号を多チャンネル同時観測(8〜16ch)する測定器です。I2C・SPI・UARTなどのプロトコルを自動デコードする機能があり、波形が人間の読めるデータとして表示されます。
- 廉価品(Saleae Logic互換機)が2,000〜5,000円で入手可能。ラズパイ電子工作には十分
- ソフトウェア:PulseView(オープンソース、無料)が定番
- オシロスコープではなくロジックアナライザの方がI2C/SPIデバッグは圧倒的に楽
はんだ付けの基礎
はんだ付けは電子部品を基板に恒久固定する技術です。ブレッドボードで動作確認した回路をユニバーサル基板に移す際に必要です。
半田の種類
- 共晶半田(鉛60%スズ40%):融点183°C。扱いやすく、光沢のある仕上がり。初心者に推奨
- 鉛フリー半田(スズ・銀・銅):融点217〜220°C。RoHS対応だがやや難しい。コテ温度を高めに設定
はんだ付けの手順
- コテを300〜350°Cに加熱(鉛フリーは380°C)
- コテ先をスズメッキ(コテ先に半田を少量乗せる)して酸化防止
- 部品リードとランドを同時にコテで1〜2秒加熱する
- 加熱したまま半田を供給。コテ先にではなく、部品とランドの合わせ目に当てる
- コテを素早く引き、その後半田を引く
- 冷える前に部品を動かさない(3〜5秒待つ)
良い半田付けの見分け方
- 光沢がある(くすんでいると熱不足 = イモ半田)
- なだらかな富士山型に盛り上がっている
- 隣のランドや配線と繋がっていない(ブリッジなし)
| 失敗の種類 | 見た目 | 原因 | 対処 |
|---|---|---|---|
| イモ半田 | 丸くてくすんでいる | 熱不足 | 半田吸い取り線で除去し、十分加熱して再度付ける |
| ブリッジ | 隣のランドと繋がっている | 半田過多 | 半田吸い取り線で余分な半田を除去する |
| 未着(半田が乗らない) | 半田が弾かれる・乗らない | 酸化・フラックス不足 | フラックスを塗布してから再加熱する |
ラズベリーパイ電子工作への応用
ラズパイのGPIOヘッダー(40ピン)
ピンの種類
- 電源ピン: 5V(ピン2, 4)、3.3V(ピン1, 17)
- GNDピン: ピン6, 9, 14, 20, 25, 30, 34, 39
- GPIO: BCM番号(ソフトウェアで使う番号)とボード番号(物理的な位置)の対応
- 特殊機能ピン: I2C(GPIO2, 3)、SPI(GPIO7〜11)、UART(GPIO14, 15)
重要な電気的制約
| 制約 | 値 | 違反したときのリスク |
|---|---|---|
| GPIO電圧 | 最大 3.3V | 5V接続でGPIOが即破損 |
| 1ピン最大電流 | 16mA | 超過で発熱・破損 |
| 全GPIO合計電流 | 51mA以内 | 超過でラズパイが不安定 |
| 内蔵ADCの有無 | なし | アナログ信号を直接読めない(ADC ICが必要) |
デジタル出力(LED制御)
GPIOをOutputに設定してHigh/Lowを出力します。LEDを光らせるには必ず電流制限抵抗が必要です。
LED点灯の回路計算(最重要)
必要な電流制限抵抗: R = (Vcc − V_led) / I_led
- 赤LED(V_led = 2.0V)を10mAで光らせる → R = (3.3 − 2.0) / 0.010 = 130Ω → 150Ωを使用
- 青LED(V_led = 3.2V)を10mA → R = (3.3 − 3.2) / 0.010 = 10Ω → 安全のため100Ωを使用(電流が少し減っても光る)
- GPIOの最大電流16mAを超えないよう、必ず抵抗を入れること
デジタル入力(ボタン・スイッチ)
GPIOをInputに設定して押下を検知します。このときに必ず理解すべきがフローティング問題です。
フローティング問題
スイッチが開いているとき、GPIOピンは何も接続されていない「フローティング」状態になります。 この状態ではHighでもLowでもなく不定 → 誤検知の原因になります。
プルアップ抵抗
VCC(3.3V)から10kΩでGPIOへ。
未押下 = High、押下時 = Low
プルダウン抵抗
GPIOから10kΩでGNDへ。
未押下 = Low、押下時 = High
ラズパイには内蔵プルアップ/プルダウン機能あり — ソフトウェアで設定可能: GPIO.setup(pin, GPIO.IN, pull_up_down=GPIO.PUD_UP)
PWM(パルス幅変調)
デジタル出力でアナログ的な制御を実現する技術。High/Lowを高速に繰り返すことで平均電圧を変化させます。
デューティ比(1周期中のHigh時間の割合)
- 0%: 常時Low → LEDが消灯
- 50%: High 50% / Low 50% → LEDが半分の輝度
- 100%: 常時High → LEDが最大輝度
PWM周波数の使い分け
| 用途 | 周波数 | 備考 |
|---|---|---|
| LED輝度制御 | 100Hz以上 | ちらつき防止 |
| DCモーター速度制御 | 数kHz | 可聴域を超えると静音 |
| サーボモーター角度制御 | 50Hz固定 | 1〜2msのパルス幅で角度を指定 |
ハードウェアPWM対応ピン(4本のみ)
GPIO12, GPIO13, GPIO18, GPIO19 — それ以外はソフトウェアPWM(精度低下・CPUリソース消費あり)
I2C通信
I2C の基本仕様
- 2本の信号線: SDA(データ)+ SCL(クロック)
- マスター(ラズパイ)が1台、スレーブ(センサー等)が複数接続可能(最大112台)
- 通信速度: 標準100kHz、高速400kHz
- デバイスアドレス: 7ビット(0x00〜0x7F)でスレーブを識別
- プルアップ抵抗(4.7kΩ)が必要(多くのモジュールには実装済み)
代表的なI2Cデバイス
| デバイス | チップ | 機能 | デフォルトアドレス |
|---|---|---|---|
| 温湿度気圧センサー | BME280 | 温度±1°C、湿度±3%、気圧±1hPa | 0x76 or 0x77 |
| 6軸IMU | MPU-6050 | 加速度(±2〜16g)+ジャイロ(±250〜2000°/s) | 0x68 or 0x69 |
| OLEDディスプレイ | SSD1306 | 128×64ピクセル白黒 | 0x3C or 0x3D |
| 16bit ADC | ADS1115 | 4チャンネル、0.1mV精度 | 0x48〜0x4B |
| 16ch PWMドライバ | PCA9685 | サーボ16個を同時制御 | 0x40〜0x7F |
| RTCモジュール | DS3231 | 高精度リアルタイムクロック | 0x68 |
| カラーセンサー | TCS34725 | RGB+クリア、照度 | 0x29 |
SPI通信
SPI の基本仕様
- 4本の信号線: MOSI(マスター送信)、MISO(マスター受信)、SCLK(クロック)、CS/SS(チップセレクト)
- CSをLowにしてデバイス選択 → データ転送 → CSをHighに戻す
- フルデュプレックス(送受信同時)
- I2Cより高速(数MHz〜数十MHz)
- 複数デバイスはCSを別々のGPIOで管理
代表的なSPIデバイス
| デバイス | チップ | 機能 | 速度 |
|---|---|---|---|
| 8ch 12bit ADC | MCP3208 | アナログ8チャンネル読み取り | 2MHz |
| 熱電対センサー | MAX31855 | −200〜+1350°C | 5MHz |
| SPI NORフラッシュ | W25Q32 | 4MB不揮発メモリ | 104MHz |
| TFT LCDディスプレイ | ST7735 | 128×160カラー | 40MHz |
| タッチコントローラ | XPT2046 | タッチスクリーン入力 | 2.5MHz |
UART通信(シリアル通信)
UART の基本仕様
- 2本の信号線: TX(送信)+ RX(受信)
- 非同期通信(クロック線なし)→ 両端でボーレート(bps)を一致させる
- 一般的なボーレート: 9600, 19200, 38400, 57600, 115200bps
- ラズパイのUART: /dev/ttyS0(GPIO14 = TX, GPIO15 = RX)
代表的なUARTデバイス
| デバイス | 型番 | 機能 | ボーレート |
|---|---|---|---|
| GPSモジュール | NEO-6M / NEO-8M | 位置情報(NMEA形式) | 9600 |
| Bluetoothモジュール | HC-05 / HC-06 | シリアル-Bluetooth変換 | 9600〜115200 |
| Wi-Fiモジュール | ESP8266 / ESP-01 | ATコマンドでWi-Fi | 115200 |
| CO2センサー | MH-Z19 | CO2濃度(0〜5000ppm) | 9600 |
| 指紋センサー | R305 | 指紋認証 | 57600 |
アクチュエーター制御
DCモーター
トランジスタ/MOSFETでON/OFF制御。H-ブリッジIC(L298N、TB6612FNG)で正逆転制御。
サーボモーター(SG90等)
3線式(電源5V、GND、PWM信号)。50Hz PWMで1〜2msのパルス幅で角度を指定。
ステッピングモーター
正確な角度制御。ULN2003ドライバと組み合わせて使用。
リレー
小電流信号で大電力スイッチング(AC100V機器の制御も可)。フライバックダイオード必須。
NeoPixel / WS2812B
フルカラーLEDが多数直列接続。信号線1本で全制御可能。
電源設計とレベル変換
電圧レベル不一致問題
- ラズパイGPIO = 3.3V、ArduinoやI2Cモジュールによっては5V → 直接接続で破損
- 解決策: 双方向レベルシフター(BSS138を使ったモジュール)
電源ラインの安定化
- 大電流デバイス(モーター、リレー)はラズパイから電源を取らない(外部5V電源)
- デカップリングコンデンサ: ICの電源ピン近くに100μF電解+0.1μFセラミックを配置
- 過電流保護: ラズパイを壊さないためのヒューズや電流制限回路の考え方を理解する
学習ロードマップ ── 何をどの順番で学ぶか
フェーズ別学習計画
フェーズ1(〜1ヶ月): 電気の基礎とLチカ
- 電流・電圧・抵抗・オームの法則を理解する
- LEDの電流制限抵抗を自分で計算して実際に光らせる
- テスターで電圧と抵抗を測定して確認
- 直列・並列回路をブレッドボードで組んで計算値と一致するか検証
- キルヒホッフの法則を実際の回路で体験
フェーズ2(1〜2ヶ月): 電子部品とセンサー
- コンデンサの充放電をオシロスコープで観測
- トランジスタをスイッチとして使ってGPIOからモーター駆動
- I2Cセンサー(BME280等)を接続してデータ取得
- GPIOのプルアップ/プルダウンを理解してボタン入力
- PWMでLEDの輝度調整とサーボモーター制御
フェーズ3(2〜3ヶ月): デジタル回路とプロトコル
- 論理ゲートIC(74HC00等)を使って組み合わせ回路を作る
- オシロスコープでI2C/SPI信号を観測
- ロジックアナライザで通信をデコード
- MCP3208(ADC)でアナログセンサーを読む
- シフトレジスタ(74HC595)でGPIOを拡張
フェーズ4(3〜6ヶ月): 応用と深掘り
- LTspiceで回路シミュレーション(フィルタ設計等)
- KiCadでPCB設計入門
- ESP32/Arduinoとの組み合わせプロジェクト
- オペアンプを使った信号処理回路
- 電験三種「理論」の過去問を解いて実力チェック
プログラマーが電子工学を学ぶコツ
- 「なぜ動くか」を数式で理解しようとする姿勢(暗記より原理)
- 実際に手を動かして回路を組む(読むだけでは理解が浅い)
- 壊すことを恐れない(消耗品として安い部品で実験する)
- 抽象化のレイヤーを意識する: 物理現象 → 素子の動作 → 回路の設計 → システム
- プログラムのデバッグと同じ感覚でテスターとオシロスコープを使う
参考教材・学習リソース
無料学習リソース
| リソース | URL | 言語 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| All About Circuits | allaboutcircuits.com | 英語 | 6巻の本格教科書。無料で全文公開 |
| Khan Academy EE | khanacademy.org/science/electrical-engineering | 英語(一部日本語) | 動画で概念理解。初学者に最適 |
| MIT OCW 6.002 | ocw.mit.edu | 英語 | MIT大学の講義動画・資料が無料 |
| SparkFun Learn | learn.sparkfun.com | 英語 | 部品ごとの入門チュートリアル |
| Adafruit Learning | learn.adafruit.com | 英語 | ラズパイ・Arduino実践チュートリアル |
回路シミュレーター(全て無料)
LTspice
Analog Devices提供。本格的なアナログ回路シミュレーター。フィルタ・増幅器設計に最適。
Falstad Circuit Simulator
ブラウザで動作。電流の流れをアニメーションで直感的に理解できる。初学者向け。
Tinkercad Circuits
ブラウザ上でブレッドボード回路をシミュレート。実物の前に仮想で試せる。
日本語リソース
- 電験三種 理論テキスト(オーム社): 電気回路を体系的に学ぶ日本語教科書として最適
- ラズパイマガジン(技術評論社): ラズパイ電子工作の日本語専門誌
- YouTube: 「電子工作の虎」「大石技研」「エレキワーク」等のチャンネル
おすすめ入門キット
| キット | 価格目安 | 特徴 |
|---|---|---|
| 秋月電子 ブレッドボード基本セット | 2,000〜3,000円 | 日本の定番電子部品ショップ |
| SunFounder ラズパイスターターキット | 5,000〜8,000円 | センサー・部品が揃っている |
| Adafruit METRO Starter Kit | 30〜50ドル | 品質高い米国定番ブランド |