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🧊 就職氷河期世代 — 平均999万円、中央値120万円。バブル崩壊のつけは誰が払ったか

この記事は、就職氷河期世代が2026年の今どうなっているかを、公的機関と調査実施機関の一次資料だけで確かめたものである。結論を先に書くと、この世代の平均はそこまで悪くない。壊れているのは分布の下側で、しかもそこが分厚い。ひとり暮らしの50代は、35.2%が金融資産ゼロである一方、10.4%は3,000万円以上を持っている。真ん中の人は120万円で、平均999万円との差は8.3倍。上の世代は3〜4.5倍なので、この世代だけが割れている。賃金も同じで、2025年時点の正社員の下位1割は、40代前半22.6万円に対し50代前半23.2万円と、年齢が上がってもほとんど動かない。年功で上がるのは中位より上だけだった。そして2026年4月、国は新しい支援プログラムに「高齢期を見据えた支援」という柱を作った。理由として国自身が挙げたのは、この世代の賃金上昇率が小さいこと、金融資産が低い世帯の割合が大きいこと、持家率の低下である。公開前にCodexへ独立のレビューをさせ、私の判定は3つ下がった。

🧊 結論 — 氷河期世代は今こうなっている

このセクションの3点

① 平均(全員の額を足して人数で割った額。1人の大きな額に引っ張られる)を見るとこの世代はそこまで悪くない。壊れているのは分布の下側で、しかもそこが分厚い。単身の50代は35.2%が金融資産(預貯金・株・保険など。持ち家や車は入らない)ゼロで、同じ50代単身の10.4%は3,000万円以上を持っている

② 上の世代は平均が中央値(全員を金額順に並べたとき、ちょうど真ん中に来る人の額)の3.0〜4.5倍なのに、この世代だけが8.3〜8.6倍に開いている。世代全体が沈んだのではなく、同じ世代の中で割れた

③ バブル崩壊のつけを取らされたという主張を7つに分けて判定した。支持される2、半分支持される3、判定できない2。公開前にCodexに独立でレビューさせたところ、私の判定のうち3つが根拠不足で崩れ、判定を下げ直した

この記事は、就職氷河期世代が2026年の今どうなっているかを、公的機関と調査実施機関の一次資料だけで確かめたものである。行政統計のほか、大卒求人倍率はリクルートワークス研究所、金融資産は金融経済教育推進機構、未婚率は国立社会保障・人口問題研究所の調査を使っている。取れなかったものは推測で埋めず、本文に「未取得」と書いてある。

35.2%

単身50代の金融資産ゼロ(全年代で最悪)

120万円

単身50代の中央値

999万円

同じ集団の平均(中央値の8.3倍)

+11万人

支援策の実績(目標は30万人)

氷河期世代の現在地 — 上の世代・下の世代と並べる

氷河期世代は2026年におおむね43〜55歳である。統計の年齢区分は調査ごとに違うので、この表では40代・50代の値を当てている。金融資産は単身世帯(世帯の人数が1人)の値で、二人以上の世帯とは単位が違う。

この章の結論を3行で言うと

① 今50代でひとり暮らしの人のうち、3人に1人強は貯金も株も何もない

② 同じ50代ひとり暮らしの10人に1人は3,000万円以上持っている

③ つまりこの世代は、全員が沈んだのではなく、同じ世代の中で真っ二つに割れた

項目氷河期世代上の世代下の世代出典
金融資産の中央値(単身)40代 100万円 / 50代 120万円60代 300万円 / 70代 500万円30代 100万円J-FLEC 令和7年
金融資産ゼロ(単身)40代 32.1% / 50代 35.2%60代 30.4% / 70代 20.4%30代 32.3%同上
平均 ÷ 中央値40代 8.6倍 / 50代 8.3倍60代 4.5倍 / 70代 3.0倍30代 5.0倍同上から計算
非正規の割合(2025年)45〜54歳 男8.2% / 女52.4%取得していない35〜39歳 24.1%(男女計)労働力調査 詳細集計
📋 残り5項目(月給の10年変化・大卒求人倍率・未就職者・未婚割合・年金) 詳しい数字 開く ▾
項目氷河期世代上の世代下の世代出典
正社員・下位1割の月給(2025年)40代前半 225,800円 → 50代前半 232,200円同じ表の上位1割は 499,400円 → 601,500円取得していない賃金構造基本統計調査 令和7年
大卒求人倍率1996年 1.08倍 / 2000年 0.99倍1991年 2.86倍2011年 1.28倍 / 2012年 1.23倍リクルートワークス研究所
卒業者に占める未就職者2003年 27.1%(14.8万人)取得していない2011年 19.4% / 2020年 約2.0%厚労省 平成24年版 労働経済の分析
50歳時未婚割合(2020年)男 28.25% / 女 17.81%1990年は 男 5.57% / 女 4.33%取得していない社人研 人口統計資料集
年金の平均月額国民年金 5万9千円 / 厚生年金 15万円同じ数字(世代別の内訳は未取得)同左厚労省 令和6年度 事業の概況
つけは、どこを通って誰のところへ行ったか

→ この図は横にスクロールできます

バブル崩壊 1991年ごろ〜 企業の調整 今いる人は減らさない すでに正社員だった人は守られた 整理解雇の判例法理・解雇回避努力 入口は閉じた 求人 84.0万件 → 39.1万件(1991→1996) 受け皿が同時に開いた 1999年 派遣の原則自由化 / 2004年 製造業へ解禁 賃金が動かない層ができた 正社員の下位1割は10年で月6,400円 / 非正規の中位は月400円 単身50代 金融資産ゼロ 35.2% / 中央値 120万円 / 平均 999万円 この図で断定していないこと 企業が意図的に若い世代へ つけを回した、という直接の 証拠は確認できていない。 分かるのは、守られたことと 入口が閉じたことが同時に 起きた、という並びだけ。

一次資料で確認できた事実だけを線でつないだ図。企業が意図的に若い世代へつけを回したという直接の証拠は確認できていないので、そこは断定していない。

主張の判定 — 「バブル崩壊のつけを取らされた」

判定は「支持される」「半分支持される」「支持されない」「判定できない」の4区分にした。根拠はそれぞれの章で数字と出典を出している。

#主張の要素判定根拠(詳しくは各章)
1入口が閉じた支持される求人倍率 2.86倍→0.99倍。求人総数は1991年84.0万件→1996年39.1万件。2003年3月卒は27.1%が一時的な仕事か進路未定(第3章)
2正社員が守られ、そのぶんが新卒に回った判定できない制度上は新規採用の停止が解雇回避の努力の一つとされうる。ただし1990年代の企業が実際にどう雇用調整したかの一次資料は取得できなかった(第4章)
3非正規に押し込まれた半分支持される45〜54歳の非正規は女性52.4%に対し男性は8.2%しかない。男女を混ぜたときにだけ成立する像である(第6章)
4賃金が上がらなかった半分支持される2025年時点で、正社員の下位1割は40代前半と50代前半の差が6,400円、非正規の中位は400円しかない。ただしこれは同じ年の別の年齢を並べた数字で、同じ人の変化を追ったものではない(第7章)
5貯蓄が作れなかった支持される単身50代は35.2%がゼロ、中央値120万円、平均÷中央値8.3倍。上の世代は3.0〜4.5倍(第8章)
6老後が成立しない半分支持される2026年4月、国は新しい支援プログラムに「高齢期を見据えた支援」の柱を作り、この世代の資産が低いことを理由に挙げた。ただし月5万9千円は現在の受給者全体の平均で、この世代の将来の受給額は未取得(第10章・第11章)
7誰かが得をした判定できない内部留保637.5兆円、労働分配率は2012年度72.3%→2024年度64.2%。ただしこの記事の材料では、氷河期世代の賃金がそこへ移ったとは言えない(第13章)
🤖 Claudeの判定 半分支持される

主張の芯は正しい。ただし「世代の全員が」という部分は数字が支持しない

  • 入口が閉じたこと(求人倍率2.86倍から0.99倍、2003年3月卒の27.1%が一時的な仕事か進路未定)と、貯蓄が薄いこと(単身50代の35.2%がゼロ、中央値120万円)の2つは、一次統計がそのまま主張どおりの姿を示している
  • 成立しないのは「世代の全員が」という部分。単身50代の35.2%が金融資産ゼロである一方、10.4%は3,000万円以上を持っている。同じ世代の中で割れている
  • 不都合な数字も出た。正規の仕事がないから非正規に就いた人の割合は、35〜44歳7.6%・45〜54歳9.2%で、25〜34歳や55〜64歳の10.7%より低い(第6章)
  • 2026年4月、国は新プログラムに「高齢期を見据えた支援」を新設した。理由として国自身が挙げたのは、この世代の賃金上昇率が小さいこと、金融資産が低い世帯の割合が大きいこと、持家率の低下である
  • 公開前にCodexに独立でレビューさせた結果、私は判定を3つ下げた。賃金の章で「同じ人の10年の変化」として書いていた数字が、実は同じ年の別の年齢を並べたものだったのが最大の誤りである(第15章)

非正規はいくらもらっているのか(依頼の中心のひとつ)

氷河期世代に限定した非正規の平均年収は、一次統計からは確認できない。国税庁の調査は雇用形態と年齢を組み合わせた表を作っておらず、厚生労働省の賃金構造基本統計調査は月額と年間賞与を別々にしか公表していないためである。

確認できるのは次の2つである。40〜54歳の非正規の月額所定内給与は約23万円(残業代・賞与を含まない毎月の基本の給与)で、年間賞与は約15〜17万円。同じ年齢の正社員は月38〜41万円、年間賞与128〜149万円である。全年齢・全世代でよければ、国税庁の令和6年分で正社員545万円・正社員以外206万円という数字がある。

この記事が言えること、言えないこと

言えるのは、枠の数が個人の努力の外側で決まっていたということまでである。求人総数が半分以下になった年に、個人の努力は順位を変えられても総数を変えられない。

言えないのは、だから本人たちに個人差が無かったということである。同じ世代の中で3,000万円以上に届いた人が10.4%いる以上、そこまで言うと数字を越える。

次の第2章では、そもそも誰が氷河期世代なのかを、政府の定義の原文から確認する。全16章。

📅 誰が氷河期か — 生年・卒業年・人数

このセクションの3点

① 政府に「就職氷河期世代」の明確な定義は存在しない。内閣官房は「概ね1993年〜2004年に学校卒業期を迎えた者」を念頭に置くとしている(原文どおり)

② 浪人・留年等が無い場合、2023年4月時点で大卒41〜52歳・高卒37〜48歳にあたる。政策対象の「中心層」は2019年時点36〜45歳、2024年時点41〜50歳

③ 中心層の人数は1,705万人(2019年・労働力調査特別集計)。ただし世代全体の人数を明記した一次資料は見つからなかった

就職氷河期世代という言葉に、政府による明確な定義は存在しない。内閣官房 就職氷河期世代支援推進室が公表した資料では、「概ね1993年〜2004年に学校卒業期を迎えた者」を念頭に置くと説明されている(原文どおり)。「概ね」という語が示すとおり、境界そのものが曖昧なまま残されている。出典: 内閣官房 就職氷河期世代支援推進室 令和5年5月 資料1-1(cas.go.jp)

  1. 1

    1993年卒(学校卒業期の始点)

    2023年4月時点 大卒52歳・高卒48歳

    浪人・留年等が無い場合の年齢。2026年時点ではそれぞれ55歳・51歳になる計算。
  2. 2

    2004年卒(学校卒業期の終点)

    2023年4月時点 大卒41歳・高卒37歳

    同じ計算で、2026年時点では大卒44歳・高卒40歳にあたる。
  3. 3

    政策対象「中心層」 2019年時点

    36〜45歳

    内閣官房が政策の中心的な対象とした年齢層。労働力調査特別集計で人数1,705万人。
  4. 4

    政策対象「中心層」 2024年時点

    41〜50歳

    同じ人々が5年後に該当する年齢層。この時点の再集計人数を示す一次資料は確認できなかった(未取得)。

1,705万人

中心層の人数(2019年・労働力調査特別集計)

41〜52歳

大卒 該当年齢(2023年4月時点)

37〜48歳

高卒 該当年齢(2023年4月時点)

12年分

政府が念頭に置く卒業期(1993〜2004年)

1,705万人は「中心層」の人数であって、世代全体ではない

内閣官房が示す1,705万人という数字は、2019年時点で36〜45歳だった「中心層」の人数である。就職氷河期世代とされる年齢の幅はこれより広く(2023年4月時点で大卒41〜52歳・高卒37〜48歳)、その全体の人数を明記した一次資料は見つからなかった。この記事では以降、「世代全体で1,700万人」という言い方はせず、1,705万人という数字を使うときは必ず「中心層」と明記する。

定義は政策の都合でスライドする

この定義は固定されたものではない。2026年4月10日に決定された新しい支援プログラムでは、名称が「就職氷河期世代支援」から「就職氷河期世代等支援」に変わり、対象が周辺の世代にまで広げられている。「概ね」という語で始まった定義は、政策の局面が変わるたびに範囲を動かしてきた。

→ 次の第3章では、この世代が社会に出た「入口」で何が起きたかを、大卒求人倍率と就職率の統計から見る。

🚪 入口 — 最悪の年は1996年ではなかった

このセクションの3点

① 大卒求人倍率は1991年2.86倍から2000年0.99倍へ。統計開始1987年以降で唯一、1倍を割った年である

② 就職率(4月1日現在)は91〜93%と高く見えるが、分母は「就職希望者」。卒業者を分母にすると2003年3月卒の27.1%(14.8万人)が一時的な仕事か、進学も就職もしていない

③ 就職率の最低は氷河期のピークではなく、リーマン後の2011年(91.0%)。この記事は「氷河期が統計上つねに最悪」という単純化はしない

就職氷河期世代の入口を示す数字が、大卒求人倍率(就職したい大学生1人あたり、企業からの求人が何件あるか)調査である。1991年の2.86倍から、2000年には0.99倍まで落ちた。統計が始まった1987年以降で、求人倍率が1倍を割ったのはこの年だけである。

卒業年求人倍率求人総数(人)就職希望者数(人)
19912.86840,400293,800
19931.91617,000323,200
19951.20400,400332,800
19961.08390,700362,200
19991.25502,400403,500
20000.99(統計開始1987年以降で唯一の1倍割れ)407,800412,300
20031.30560,100430,800
20101.62725,300447,000
20111.28581,900455,700
20261.66764,800460,800
大卒求人倍率の推移
1991年卒
2.86倍
1993年卒
1.91倍
1995年卒
1.2倍
1996年卒
1.08倍
1999年卒
1.25倍
2000年卒
0.99倍

統計開始以降で唯一の1倍割れ

2003年卒
1.3倍
2010年卒
1.62倍
2011年卒
1.28倍
2026年卒
1.66倍

出典: リクルートワークス研究所「大卒求人倍率調査」第42回(2026年4月23日発表)

求人総数と就職希望者数は、逆向きに動いた(1991年卒→1996年卒)

求人総数

  • ・1991年 84.0万人
  • ・1996年 39.1万人
  • ・5年で半分以下に減った

就職希望者数

  • ・1991年 29.4万人
  • ・1996年 36.2万人
  • ・5年で17万人近く増えた

就職率という数字のからくり

年(4月1日現在)就職率(%)
199794.5
199893.3
199992.0
200091.1
200191.9
200292.1
200392.8
200493.1
200896.9
201091.8
201191.0(この系列の最低)
201293.6
201997.6
202698.0
🤖 Claudeの判定 反論は成立しない

「氷河期でも就職率は9割超だった」という反論は、分母のとり方で成立しなくなる

  • 就職率の分母は卒業者ではなく「就職希望者」。希望を出さなかった・出せなかった人は最初から入っていない
  • 卒業者を分母にすると、2003年3月卒は27.1%(14.8万人)が一時的な仕事か、進学も就職もしていない
  • 就職率の最低は氷河期のピークではなく、リーマン後の2011年(91.0%)
くわしい根拠を読む ▾

厚生労働省・文部科学省が公表する「就職率」は、卒業者のうち就職を希望した者に対する就職者の割合である。就職を希望しなかった、あるいは就職活動そのものから離れた者は、最初から分母に含まれない。厚生労働省「平成24年版 労働経済の分析」(原資料は学校基本調査)で卒業者そのものを分母に置き直すと、2003年3月卒業者の27.1%にあたる14.8万人が、一時的な仕事に就いたか、進学も就職もしていない。この年はこの系列で確認できる最高の未就職率である。

27.1%

2003年3月卒 未就職(一時的な仕事+進学も就職もせず)

14.8万人

同・実数(この系列の過去最高)

19.4%

2011年3月卒(リーマン後の再上昇・10.7万人)

2.0%

2020年3月卒(参考・約1.2万人)

就職率だけを見ると、この系列でもっとも低いのは氷河期のピークではなく2011年(91.0%)である。この記事は「氷河期が統計上つねに最悪だった」という単純化はしない。就職率という指標そのものが、リーマンショック後の落ち込みのほうを大きく映す構造になっている。

インターネット上には「2000年の就職率は32.4%だった」という数字が出回っているが、一次資料の91.1%とは整合せず、裏付けが取れなかったためこの記事では使わない。一次資料が示す未就職率のピークは一貫して2003年3月卒である。また、正規・非正規・一時的な仕事のそれぞれに何人が就いたかという年ごとの内訳は未取得である。該当する統計の一部はスキャン画像でOCRができず、一部は該当ページ自体が現存しないため確認できなかった。

→ 次の第4章では、正社員の採用が止まった一方で何が守られたのか、「つけの付け替え」を見る。

⚖️ つけの付け替え — 正社員は守られ、採用が止まった

このセクションの3点

① 整理解雇には4つの要素が要ると言われ、その中に「新規採用の停止」が解雇回避努力として位置づけられている。制度上は、正社員を減らす前に採用を止めるという順番が想定されている

② これは労働契約法・労働基準法の条文ではなく、裁判の積み重ねでできた判例法理である

③ 正社員は守られ、入口は閉じた。この2つが同時に起きたことは数字で確認できるが、1990年代に企業が実際にこの通り調整したかを示す一次資料は未取得で、意図的につけを回したという直接の証拠も無い

この章で見てほしいのは、「正社員は守られ、新卒の採用が止まった」という2つが同時に起きた、という事実だけです。

第3章で見たとおり、求人総数は1991年の84万400人から1996年には39万700人へ半分以下に減った。就職希望者は29万3,800人から36万2,200人へむしろ増えている。入口が閉じたのは間違いない。ここで扱うのは、なぜ日本企業が正社員を減らすのではなく入口を閉じるという方法を選んだのか、その仕組みの側である。

日本の正社員解雇には強い制約がある。企業が不況で人件費を減らしたいとき、制度上まず動かせるのはまだ雇っていない人、つまり新規採用である。既にいる正社員を解雇するには、後述する複数の要素を満たす必要があり、ハードルが高い。制度上は、調整が入口に向かいやすいと考えられる。ただし、1990年代に企業が実際にこの通り雇用を調整したかどうかを示す一次資料は、この記事では確認できていない。

整理解雇の4要素 — 条文ではなく判例法理

要素内容
①人員削減の必要性経営上、人員を減らす必要が実際にあること
②解雇回避努力解雇の前に、配置転換・希望退職の募集・新規採用の停止などを行ったこと
③被解雇者選定の合理性解雇する人を選ぶ基準が客観的で合理的であること
④手続の妥当性労働者・労働組合への説明や協議を行ったこと

この4要素は、労働契約法にも労働基準法にも条文として存在しない。裁判所が個別の解雇事件を判断する中で積み重ねてきた判例法理であり、法律の条文を読んでも出てこない。源流は東洋酸素事件(東京高裁 昭和54年)とされることが多いが、この記事では判決文の一次PDF本文までは確認できていない。判例法理であるという性質と、出典の裏取りが完全ではないことの両方を明記しておく。

この4要素のうち②解雇回避努力の中身として、配置転換や希望退職と並んで新規採用の停止が挙げられる。つまり、企業が正社員を解雇しようとする前に、まず新しく人を採るのをやめることが、解雇を避けるための努力の一つとして制度上位置づけられている。1990年代の企業が実際にこの順番で動いたかどうかの一次資料は、この記事では未取得である。

採用抑制という調整弁

84.0万

1991年卒の求人総数(件)

39.1万

1996年卒の求人総数(半分以下に)

29.4万人

1991年卒の民間企業就職希望者

36.2万人

1996年卒の同じ数字(増えている)

不況期の調整はどちらに向かったか

既にいる正社員

解雇回避努力の対象

  • ・整理解雇の4要素という高いハードルで守られる
  • ・解雇には人員削減の必要性・手続の妥当性まで求められる
  • ・結果として、在職している人の雇用は維持されやすい

入口で待っていた人

新規採用の対象

  • ・解雇回避努力の一環として、真っ先に絞られる対象になる
  • ・求人総数は84万400人から39万700人へ半減以下
  • ・就職希望者は29万3,800人から36万2,200人へ増えており、競争が激化する
🤖 Claudeの判定 慎重に判定

「正社員が守られ、入口が新卒に押しつけられた」は、事実の並置までは言えるが、意図の断定はできない

  • ①既にいる正社員の雇用は、判例法理という高いハードルで守られていた
  • ②同じ時期に、入口(新規採用)は閉じていた
  • ③①と②が同時に起きたことは統計と法理から確認できる
くわしい根拠を読む ▾
整理解雇の4要素という判例法理が存在し、その中に新規採用停止が解雇回避努力として位置づけられていること、そして実際に求人総数が半減以下になったことは、それぞれ別々に確認できる事実である。ただし「企業が意図的に若い世代へつけを回そうと決めた」という因果関係を示す直接の証拠は無い。個々の企業が下した経営判断の記録まではこの記事の調査範囲では確認できていない。書けるのは、既存の雇用が守られたことと、入口が閉じたことが同じ時期に重なったという事実の並置までである。

断定しないこと

この章で言えるのは、①既存の雇用は守られた、②入口は閉じた、③その2つが同時に起きた、という事実の並置までである。「企業が意図的に若い世代につけを回した」という因果の断定はしない。整理解雇のハードルが高いこと自体は、労働者を保護する目的で積み重ねられてきた判例法理であり、それ自体を否定するものではない。

→ 次の第5章では、入口が閉じていた同じ時期に、派遣という制度がいつ・どの順番で対象を広げていったかを改正史から見る。

🔀 派遣という制度 — 対象拡大の順番と、非正規比率の推移

このセクションの3点

① 派遣は1985年以前、職業安定法により労働者供給事業として禁止されていた。そこから1996年・1999年・2004年と段階的に対象が広がった

② 同時期の事実は2つある。正社員の採用が止まっていたことと、派遣の対象範囲が段階的に広がっていったこと。代替関係や因果は本稿の資料では判定しない

③ 非正規比率の1990年前後の値は取得不能。「1990年は20%だった」という比較は本文では書かない

この章で見てほしいのは、正社員の採用が止まっていた時期に、派遣の対象範囲が段階的に広がっていった「順番」だけです。代替関係や因果は本稿の資料では判定しません。

第4章で見たとおり、入口は閉じ、既にいる正社員の雇用は守られた。同時期に派遣の対象範囲も拡大した。代替関係や因果は本稿の資料では判定しない。この章では派遣法の改正史から、その拡大の順番を見る。

派遣という制度の出発点

労働者派遣は、1985年に労働者派遣法が制定される以前は職業安定法により労働者供給事業として禁止されていた。他人を雇い、別の会社の指揮命令の下で働かせるという形態そのものが、原則として認められていなかった。1985年制定・1986年施行の労働者派遣法によって、専門13業務(直後に16業務へ拡大)に限って初めて解禁された、という出発点をまず押さえておく必要がある。

  1. 1

    1985年制定 / 1986年施行

    労働者派遣法が成立

    それまで職業安定法により労働者供給事業として禁止。専門13業務(直後に16業務)に限って解禁された。
  2. 2

    1999年

    原則自由化

    対象業務をネガティブリスト化(禁止するものだけを並べ、それ以外は全部認めるやり方)し、建設・港湾・警備・医療などを除く業務で原則として派遣を可能にした。新たに対象となった業務の受入期間は1年。「臨時的・一時的な労働力の需給調整対策」という位置づけで行われた。
  3. 3

    2003年改正 / 2004年3月1日施行

    製造業への派遣を解禁

    物の製造業務への労働者派遣が解禁された。26業務以外の受入期間の上限も最大3年へ延びた。
📋 途中の改正(1996年・2012年・2015年) 詳しい年表 開く ▾
  1. 1

    1996年

    対象業務が拡大

    16業務から26業務へ拡大。専門性の高い業務を中心に、対象範囲が広げられた。
  2. 2

    2012年

    規制の一部強化

    日雇派遣の原則禁止、グループ内派遣の8割規制、マージン率の情報提供義務などが導入された。
  3. 3

    2015年

    特定労働者派遣事業の廃止

    許可制への一本化など、事業区分の整理が行われた。

順番が芯 — 入口が閉じている間に、対象範囲が広がった

第4章で確認したとおり、求人総数が84万400人(1991年)から39万700人(1996年)へ半減以下になり、正社員の採用が絞られていた時期は、そのまま1996年の対象業務拡大から1999年の原則自由化、2004年の製造業解禁までの時期と重なる。

1999年の原則自由化は、それまで16業務・26業務という限られた業務にしか認められていなかった派遣を、原則としてどの業務でも可能にする大きな転換だった。この転換は「臨時的・一時的な労働力の需給調整対策」という位置づけで行われている。恒久的な雇用の受け皿として設計されたわけではない、という点は元の位置づけとして記録しておく必要がある。そして2004年には、それまで対象外だった物の製造業務にまで派遣が解禁された。

正社員という入口が閉じていた期間に、派遣の対象範囲が段階的に広がっていった。この順番が、この章で確認できる事実である。両者が代替関係にあるのか、それぞれ独立した動きなのかは、本稿の資料では判定しない。

非正規比率の推移

年全年齢35〜39歳40〜44歳45〜49歳50〜54歳
200229.4%23.1%26.0%28.1%27.7%
201034.4%25.8%29.3%30.6%30.8%
201537.5%28.4%30.6%32.7%32.6%
202536.5%24.1%27.1%29.2%30.0%
非正規比率(2025年・年齢階級別)
全年齢
36.5%
35〜39歳
24.1%
40〜44歳
27.1%
45〜49歳
29.2%
50〜54歳
30%

出典: 総務省 労働力調査 詳細集計 2025年平均。1990年前後の値は「労働力調査特別調査」という別建て調査で現行の正規/非正規区分と接続できないため取得不能。

取得不能な値がある

・1990年前後の非正規比率は取得不能である

・2001年以前は「労働力調査特別調査」という別建ての調査で行われており、現行の正規/非正規区分と接続できない

・この記事では「1990年は20%だった」というような比較は書かない

→ 次の第6章では、非正規で働く人が実際にいくらで生きているかを、男女に分けて見る。

💴 非正規はいくらで生きているか — 上がらない賃金カーブ

このセクションの3点

① 「氷河期=非正規だらけ」は男女を混ぜたときにだけ成立する。45〜54歳の非正規比率は男女計29.7%だが、男性は8.2%(59万人)、女性は52.4%(354万人)。35〜44歳も男女計25.7%に対し男8.9%・女44.9%

② 非正規の月額所定内給与(残業代や賞与を含まない、毎月の基本の給与)は40〜44歳230.6千円・45〜49歳233.4千円・50〜54歳229.7千円で、年齢が上がってもほぼ横ばい。年間賞与は非正規151.7〜170.0千円に対し正社員1,278.7〜1,490.6千円で約8〜9倍の差がある

③ 不本意非正規(正規の仕事がないから非正規に就いた者)の比率は45〜54歳9.2%・35〜44歳7.6%で、25〜34歳10.7%・55〜64歳10.7%より低い。氷河期世代の非正規が全員、不本意に非正規をやらされているという像は、この数字では支持されない

総務省「労働力調査」詳細集計の2025年平均で、氷河期世代の中心層にあたる35〜54歳の非正規雇用比率を見ると、45〜54歳は29.7%(413万人)、35〜44歳は25.7%(288万人)である。数字だけを見れば「氷河期世代の3〜4人に1人が非正規」という像になる。だが、この数字は男女を合算した値である。この章はまず、この合算をほどく。

男女を分けると比率が別物になる

年齢男女計男性女性
35〜44歳25.7%(288万人)8.9%(53万人)44.9%(236万人)
45〜54歳29.7%(413万人)8.2%(59万人)52.4%(354万人)
非正規雇用比率(2025年・年齢×男女)
45〜54歳 男女計
29.7%

413万人

45〜54歳 男性
8.2%

59万人

45〜54歳 女性
52.4%

354万人

35〜44歳 男女計
25.7%

288万人

35〜44歳 男性
8.9%

53万人

35〜44歳 女性
44.9%

236万人

出典: 総務省「労働力調査」詳細集計 2025年平均(役員を除く雇用者に占める非正規の割合)

45〜54歳の男性の非正規比率は8.2%しかない。同じ年齢の女性は52.4%で過半数を超える。35〜44歳も同じ形で、男性8.9%に対し女性44.9%である。「氷河期=非正規だらけ」という像は、男女を混ぜて初めて成立する数字であり、男性だけを見れば大半は正規雇用にいる。この記事は以降、非正規の実態を扱うときに必ず男女を分けて書く。

非正規の賃金は年齢で上がらない

年齢正社員 所定内(千円)正社員 年間賞与(千円)非正規 所定内(千円)非正規 年間賞与(千円)
40〜44歳379.01,278.7230.6151.7
45〜49歳395.61,352.9233.4170.0
50〜54歳412.71,490.6229.7156.9
月額所定内給与(千円・正社員 vs 非正規)
正社員 40〜44歳
379千円
正社員 45〜49歳
395.6千円
正社員 50〜54歳
412.7千円
非正規 40〜44歳
230.6千円
非正規 45〜49歳
233.4千円
非正規 50〜54歳
229.7千円

出典: 厚生労働省「賃金構造基本統計調査」令和7年(企業規模10人以上・一般労働者)。月額×12は年収ではない(賞与は別建て)

非正規の月額所定内給与は40〜44歳で230.6千円、45〜49歳で233.4千円、50〜54歳で229.7千円である。10年近い年齢差があっても、月額は22万円台から23万円台の間で動いていない。正社員は同じ期間に379.0千円から412.7千円へ上がっており、年齢とともに給与が積み上がる構造が非正規には働いていない。

年間賞与の差はさらに大きい。非正規は151.7〜170.0千円だが、正社員は1,278.7〜1,490.6千円で、約8〜9倍の開きがある。ここで一つ注意を置く。この月額は「所定内給与」であり、賞与は別建ての数字である。月額に12を掛けても年収にはならない。この記事では年収換算を行わない。

参考: 国税庁の平均給与(全年齢・雇用形態別)

545万円

正社員(全年齢平均)

206万円

正社員以外(全年齢平均)

国税庁「民間給与実態統計調査」令和6年分では、正社員の平均給与は545万円、正社員以外は206万円である。ただしこれは全年齢を平均した数字であり、氷河期世代に限った値ではない。国税庁の統計には雇用形態と年齢を掛け合わせたクロス表が存在しないため、「氷河期世代の非正規の平均年収」という数字は国税庁からは出せない。

不本意非正規は氷河期世代のほうが低い

年齢非正規総数不本意非正規比率
25〜34歳225万人24万人10.7%
35〜44歳289万人22万人7.6%
45〜54歳413万人38万人9.2%
55〜64歳460万人49万人10.7%
⏰

都合のよい時間に働きたいから

45〜54歳・126万人

不本意非正規以外の理由のうち最大の層。自分の都合で非正規を選んでいる人が最も多い
💰

家計の補助・学費等を得たいから

45〜54歳・96万人

世帯の中での位置づけとして非正規を選んでいる層
👪

家事・育児・介護等と両立しやすいから

45〜54歳・65万人

正規雇用との両立が難しい事情を抱える層

総務省「労働力調査」詳細集計2025年平均の表1-4によると、正規の仕事がないために非正規に就いている「不本意非正規」の比率は、45〜54歳で9.2%、35〜44歳で7.6%である。これは25〜34歳の10.7%、55〜64歳の10.7%より低い。氷河期世代の中心層にあたる35〜54歳のほうが、若い世代や年上の世代よりも「正規の仕事がないから仕方なく非正規」と回答した人の比率が低いという結果になっている。

この記事は、この不都合な数字を隠さない。不本意非正規以外の理由の内訳を見ると、45〜54歳では「都合のよい時間に働きたいから」126万人、「家計の補助・学費等を得たいから」96万人、「家事・育児・介護等と両立しやすいから」65万人という回答が選ばれている。氷河期世代の非正規にこうした理由を挙げる人が一定数含まれている以上、「氷河期世代は全員、不本意に非正規をやらされている」という像は、この数字からは支持されない。ただし、これらの回答理由がそのまま選択の自由さを証明するわけではなく、正規雇用に戻る道がどれだけ開かれているかとは別の問いである。

→ 次のSection 7では、正社員の中にも下位1割が存在し、年功による賃金上昇がその層にはほとんど届いていないことを見る。

🪫 正規でも低い人 — 正社員の下位層はいくらか

このセクションの3点

① 正社員の月額所定内給与を分位数(低い順に並べた集団の中の位置)で見ると、2025年時点で50〜54歳の第1・十分位(下位1割の水準)は232.2千円。同じ2025年の40〜44歳・第1・十分位225.8千円との差はわずか+6,400円(+2.8%)で、中位数+9.5%・第9・十分位(上位1割)+20.4%と比べて明らかに小さい。これは同じ人を追跡した数字ではなく、同じ年の別の年齢集団を比べた横断データである

② 「年功で給料が上がる」という現象は正社員の中位数より上でしか起きていない。正社員でも下位1割は50〜54歳でも月23万円台で止まっており、非正規の中位数(50〜54歳217.1千円)との差は縮んでいる

③ 「正社員のうち年収300万円未満・400万円未満が何%か」という直接の統計は存在しない。国税庁に雇用形態×給与階級のクロス表がなく、賃金構造基本統計調査は月額のみで分位数別の賞与も無いため、この記事では推計値を出さない

この章で見てほしいのは、2025年時点で、正社員でも下位1割の給料は40〜44歳と50〜54歳でほとんど変わらない、ということだけです。同じ人を追跡した数字ではなく、同じ年の別の年齢集団を比べた横断データです。

前章では正社員と非正規の平均的な給与差を見た。だが「正社員だから安泰」という単純な線引きは、正社員の内側にある分布を見落とす。厚生労働省「賃金構造基本統計調査」令和7年は、月額所定内給与を分位数(給与の低い順に人を並べたとき、全体のどの位置にいるかを示す区切り)で公表している。第1・十分位は下から1割目の水準、中位数はちょうど真ん中、第9・十分位は上から1割目の水準にあたる。この章の芯は、正社員という一つの括りの中で、下位1割と上位1割で年齢による差の出方がまったく違うということである。ただし、この40〜44歳と50〜54歳の数字はどちらも令和7年時点のもので、同じ人を10年間追跡した数字ではない。

正社員の分位数 — 40〜44歳と50〜54歳の差

区分40〜44歳(千円)50〜54歳(千円)40代前半との差
正社員 第1・十分位(下位1割)225.8232.2+6.4千円(+2.8%)
正社員 中位数320.7351.1+30.4千円(+9.5%)
正社員 第9・十分位(上位1割)499.4601.5+102.1千円(+20.4%)
正社員の分位数 — 年齢集団間の差
正社員 下位1割 の差
6.4千円

225.8→232.2千円(+2.8%)

正社員 中位数 の差
30.4千円

320.7→351.1千円(+9.5%)

正社員 上位1割 の差
102.1千円

499.4→601.5千円(+20.4%)

非正規 中位数 の差
0.4千円

216.7→217.1千円(+0.4千円=月400円)

出典: 厚生労働省「賃金構造基本統計調査」令和7年(企業規模10人以上・一般労働者・月額所定内給与)。40〜44歳と50〜54歳は同じ令和7年の別の年齢集団であり、横断比較(同じ人の10年間の変化ではない)。非正規の中位数を並記

2025年時点で、正社員の下位1割は50〜54歳が40〜44歳より月6,400円高いだけである。同じ比較で中位数は30,400円、上位1割は102,100円の差がある。「正社員は年功で給料が上がる」という前提は、中位数より上でしか成立していない。50〜54歳の下位1割は232.2千円で、40〜44歳の水準とほぼ変わらない。

非正規の分位数 — 中位数の年齢差は月400円

📋 非正規の分位数(詳しい数字) 第1・十分位〜第9・十分位 開く ▾
区分40〜44歳(千円)50〜54歳(千円)40代前半との差
非正規 第1・十分位166.9168.5+1.6千円
非正規 中位数216.7217.1+0.4千円(月400円)
非正規 第9・十分位300.3301.6+1.3千円

非正規は分位数を問わず、40〜44歳と50〜54歳でほとんど差が無い。中位数の差は+0.4千円、金額にして月400円である。第1・十分位も第9・十分位も1,000円台の差にとどまる。正社員の下位1割(+6.4千円)と比べても、非正規の差はさらに小さい。

正社員の下位1割(50〜54歳232.2千円)と非正規の中位数(50〜54歳217.1千円)の差は月15.1千円まで縮んでいる。「正社員か非正規か」という区分だけでは、実際の生活水準の差を説明しきれない層が存在する。

これは横断データであって追跡データではない

この章の40〜44歳と50〜54歳の数字は、どちらも令和7年(2025年)時点の別々の年齢集団を並べたものであり、同じ人を10年間追いかけた調査ではない。だからここで見えるのは年齢による賃金の形であって、いま40代の人が10年後に同じ差になるという意味ではない。景気・産業構成・その世代固有の事情によって、実際に10年後どうなるかは変わりうる。

男女差も分位数の内側にある

性別・区分40〜44歳(千円)50〜54歳(千円)
正社員 男性 中位数—383.6
正社員 女性 中位数283.3296.3

正社員の中位数を男女で分けると、50〜54歳の男性は383.6千円、女性は296.3千円である。女性は40〜44歳の283.3千円に対し50〜54歳は296.3千円で、差はわずか13.0千円である。「正社員の中位数は40〜44歳より50〜54歳で+9.5%高い」という数字は男女計であり、女性だけを見ればその差はさらに小さい。男女計の分位数だけで正社員の実態を語ると、この内側の差が見えなくなる。

「年収300万円未満が何%か」は答えられない

この記事が推計値を出さない理由

「正社員のうち年収300万円未満・400万円未満が何%いるか」という問いへの直接の統計は存在しない。理由は二つある。一つは、国税庁「民間給与実態統計調査」に雇用形態と給与階級を掛け合わせたクロス表が無いこと。もう一つは、賃金構造基本統計調査の分位数が月額所定内給与のみで、分位数別の賞与額が公表されていないことである。月額の分位数に賞与の全体平均を単純に足し合わせれば年収の目安は作れるが、それは下位1割の賞与が平均より少ない可能性を無視した計算になり、下位層の年収を実際より高く見せる方向にバイアスがかかる。この記事ではその推計を行わない。

参考値として、正規・非正規を合わせた全年齢の分布では、年収300万円以下が32.0%、400万円以下が47.3%である(国税庁 令和6年分 第16表)。ただしこれは氷河期世代の正社員に限った数字ではなく、全年齢・全雇用形態を合算した値である。この記事の主題である「氷河期世代の正社員の下位層」に当てはめて読むことはできない。

→ 次のSection 8では、金融資産の分布に目を移す。世帯単位でしか比較できないという制約のもとで、貯蓄の歪みを見る。

📉 貯蓄の歪み — 平均999万円、中央値120万円、ゼロ35.2%

このセクションの3点

① 単身50代は、金融資産ゼロの世帯が35.2%、中央値120万円、平均999万円。平均は中央値の8.3倍に開いている

② 60代・70代は平均が中央値の3.0〜4.5倍にとどまるのに、40代・50代だけ8.3〜8.6倍。世代全体が沈んだのではなく、同じ世代の中で割れている

③ この調査は世帯単位で、年齢は世帯主の年齢。個人の資産ではない。単位が揃って比べられるのは、世帯の人数が1人に決まっている単身世帯だけ

35.2%

単身50代・金融資産ゼロの世帯

120万円

単身50代・中央値

999万円

単身50代・平均

8.3倍

平均÷中央値

この章には「平均」と「中央値」という2つの数字が出てくる。同じ集団を指していても、意味がまったく違う。

平均は、全員の金額を足して、人数で割った数字である。だから、集団の中に1人でも金額の大きい人がいると、その1人だけで全体の数字が持ち上がる。

中央値は、全員を金額の少ない順に並べて、ちょうど真ん中に来る人の金額を指す。極端に大きい人や小さい人がいても、真ん中の順位そのものは動かない。

だから、「真ん中の人の暮らし」を知りたいときは、平均ではなく中央値を見る。単身50代の平均999万円は、一部の資産が多い世帯が引き上げた数字であり、真ん中の世帯が持っているのは120万円である。

年齢別にみると — 平均と中央値の開きが40代・50代だけ大きい

世帯主の年齢n非保有%平均(万円)中央値(万円)平均÷中央値
20歳代54833.2255376.9倍
30歳代32532.35011005.0倍
40歳代32432.18591008.6倍
50歳代36635.29991208.3倍
60歳代41830.41,3643004.5倍
70歳代51920.41,4895003.0倍
全国(単身)2,50030.19191307.1倍

この表でいちばん強く出ているのは、平均と中央値の開き(平均÷中央値)の違いである。60代は4.5倍、70代は3.0倍で、上の世代はおおむね3〜4.5倍に収まっている。ところが40代は8.6倍、50代は8.3倍と、氷河期世代の中心層を多く含む2つの年代だけ、開きがほぼ2倍に跳ね上がっている。

これは「世代全体の資産が少ない」という話ではない。もしそうなら、平均も中央値もそろって低くなるはずである。実際には中央値だけが低く(100万円・120万円)、平均は上の世代とそう変わらない水準(859万円・999万円)まで来ている。平均は高額を持つ世帯の影響を受けやすく、中央値との大きな差は分布が偏っていることを示す。中央値はあくまで「順位でちょうど真ん中に来る世帯」の金額であり、40代・50代の多数がその金額を持っているという意味ではない。同じ世代の中で、持っている世帯と持っていない世帯に割れているということである。

単身50代、実際の分布 — ゼロが35.2%、3,000万円以上が10.4%

単身50代の金融資産分布(n=366)
非保有(ゼロ)
35.2%
100万円未満
10.1%
100〜200万円
7.4%
200〜300万円
4.6%
300〜400万円
2.7%
400〜500万円
3.3%
500〜700万円
4.9%
700〜1000万円
4.6%
1000〜1500万円
6%
1500〜2000万円
3.3%
2000〜3000万円
5.5%
3000万円以上
10.4%
無回答
1.9%

出典: 金融経済教育推進機構(J-FLEC)「家計の金融行動に関する世論調査」令和7年(単身世帯・世帯主50歳代・n=366)

金融資産保有額世帯の割合(%)
非保有(ゼロ)35.2
100万円未満10.1
100〜200万円7.4
200〜300万円4.6
300〜400万円2.7
400〜500万円3.3
500〜700万円4.9
700〜1000万円4.6
1000〜1500万円6.0
1500〜2000万円3.3
2000〜3000万円5.5
3000万円以上10.4
無回答1.9

単身と二人以上では、まったく違う

同じ50代でも、単身か二人以上かで数字は別物になる

単身50代(n=366)

一人で家計を担う世帯

  • ・非保有 35.2%
  • ・平均 999万円
  • ・中央値 120万円
  • ・平均÷中央値 8.3倍

二人以上世帯・世帯主50代(n=1,024)

世帯に複数の収入がある場合を含む

  • ・非保有 18.2%
  • ・平均 1,908万円
  • ・中央値 700万円
  • ・平均÷中央値 2.7倍

単身と二人以上では、非保有の割合も中央値も大きく違う。二人以上世帯(世帯主50代)の中央値700万円は、単身の120万円の約5.8倍にあたる。ここから「結婚できたかどうかが資産に効いている」という見方もできるが、この章の数字だけではそこまで言えない。二人以上世帯は世帯としての収入が単純に2人分になりうる一方、単身世帯には単身であることを選んだ人と、結果として単身になった人の両方が含まれており、この調査からは区別できない。この点は次の第9章で扱う。

この数字が意味しないもの

・この調査は世帯単位で行われており、年齢は世帯主の年齢である。個人の資産の統計ではない

・単位が揃って比較できるのは、世帯の人数が1人と決まっている単身世帯だけである。二人以上世帯の数字を、1人あたりの資産として読み替えることはできない

・ここに出した分布は世帯の割合(%)であり、資産の合計額に占める割合ではない。したがって「上位◯%が資産の◯割を持つ」という言い方はこのデータからは出せない

第8章のまとめ

単身50代は、金融資産ゼロが35.2%、中央値120万円という世帯が真ん中にいる一方で、10.4%の世帯は3,000万円以上を持っている。平均は高額を持つ世帯の影響を受けやすく、中央値との大きな差(999万円÷120万円=8.3倍)は分布の偏りを示す。ただし分布表は3,000万円以上を一括りにしており、この上位10.4%の実際の平均保有額や、平均額全体への寄与度までは特定できない。上の世代(60代・70代)では平均と中央値の開きが3.0〜4.5倍にとどまるのに対し、氷河期世代の中心層を多く含む40代・50代だけ8.3〜8.6倍に開いている。世代全体が沈んだのではなく、同じ世代の中で割れたというのが、この章から言える最も確かなことである。

→ 次の第9章「世帯 — 結婚しなかったのか、できなかったのか」では、この資産の差と未婚率の関係を扱う。

🏠 世帯 — 結婚しなかったのか、できなかったのか

このセクションの3点

① 50歳時点で一度も結婚していない人の割合(50歳時未婚割合)は、1990年の男5.57%・女4.33%から、2020年には男28.25%・女17.81%まで上がった

② 同じ年齢で比べると、40〜44歳の未婚率は男性が1990年の4.7%から2020年に32.2%へ、約6.9倍になった。50〜54歳では男性は約12.7倍になっている

③ 未婚率の上昇を氷河期だけの結果とは断定しない。ひきこもりの出現率は40〜64歳で2.02%、生活保護の「その他の世帯」は16.0%(261,372世帯)で、いずれも年齢別の内訳は未取得

50歳時未婚割合の推移(1990年→2020年)
男性 1990年
5.57%
女性 1990年
4.33%
男性 2000年
12.57%
女性 2000年
5.82%
男性 2010年
20.14%
女性 2010年
10.61%
男性 2020年
28.25%
女性 2020年
17.81%

社人研「人口統計資料集」2024年改訂版 表6-23(国勢調査ベース)。45〜49歳と50〜54歳の未婚率の平均(旧・生涯未婚率)

年男女
19905.57%4.33%
200012.57%5.82%
201020.14%10.61%
2020(最新の実勢値)28.25%17.81%

同じ年齢階級で1990年と2020年を比べる

年齢階級別の未婚率倍率(1990年→2020年)
男性 40〜44歳
6.9倍
男性 45〜49歳
9.6倍
男性 50〜54歳
12.7倍
女性 40〜44歳
3.9倍
女性 45〜49歳
4.3倍
女性 50〜54歳
3.8倍

同じ年齢階級同士で比較した倍率。社人研「人口統計資料集」2024年改訂版 表6-24

年齢男 1990年男 2020年何倍になったか
40〜44歳4.7%32.2%約6.9倍
45〜49歳3.1%29.9%約9.6倍
50〜54歳2.1%26.6%約12.7倍
年齢女 1990年女 2020年何倍になったか
40〜44歳5.5%21.3%約3.9倍
45〜49歳4.5%19.2%約4.3倍
50〜54歳4.4%16.5%約3.8倍

この上昇を、就職氷河期という一つの原因だけで説明することはしない。未婚率の上昇には、価値観の変化・女性の就業拡大・都市化など、複数の要因が重なっている。この記事が言えるのは、同じ年齢で比べると、男性の未婚率は1990年と比べて2020年には6.9倍から12.7倍になったという事実だけである。

第8章で見た通り、単身50代の金融資産の中央値は120万円、二人以上世帯の50代の中央値は700万円だった。この2つの数字は同じ時期に並んで存在している。「結婚できなかったから貧しい」とも、「貧しいから結婚できなかった」とも、この記事は断定しない。どちらの向きの因果を示す一次資料も、ここには無い。

ひきこもり

2.02%

40〜64歳の出現率

2.05%

15〜39歳の出現率

こども家庭庁 令和4年度「こども・若者の意識と生活に関する調査」による。ただし標本は小さい。40〜64歳を対象にした調査でひきこもりに該当したのは86人、15〜39歳では144人である。

報道では「合計146万人」という数字が複数の新聞で一致して使われているが、年代別の内訳を示す一次資料には到達できなかった。この記事では人数を断定せず、出現率だけを書く。

生活保護

16.0%

被保護世帯に占める「その他の世帯」の割合

26.1万

生活保護「その他の世帯」の世帯数

厚生労働省「被保護者調査」令和7年12月概数による。「その他の世帯」(高齢者・母子・障害者・傷病者のどれにも当てはまらない世帯)の年齢階級別の受給者数は未取得である。氷河期世代がこの中でどれだけの割合を占めるかは、この記事では確認できていない。

同様に、「親と同居している未婚者」の人数についても、統計局の該当資料に到達できず未取得である。

→ 次のSection 10では、氷河期世代の年金がいつ、どれだけの金額で来るのかを見る。

⏳ 年金 — 2039年から2048年に来るもの

このセクションの3点

① 国民年金の老齢年金受給者の平均月額は5万9千円、厚生年金(第1号)の老齢年金受給権者の平均月額は基礎年金を含めて15万円(令和6年度末現在)。満額(月70,608円)を受け取れていない人が多い

② 厚労省が示す「標準的な年金額」月237,279円は、夫が40年就業し妻が全期間専業主婦というモデル世帯の前提で、前章までに見た氷河期世代の分布には当てはまらない人が多い

③ 厚労省年金局の資料には「平成13年度分以前の最終納付率は把握していない」という注記がある。氷河期世代が20代だった時期の納付実態は、国の統計に残っていない

5万9千円

国民年金 老齢年金受給者の平均月額

15万円

厚生年金(第1号) 老齢年金受給権者の平均月額(基礎年金を含む)

70,608円

老齢基礎年金の満額(月額・令和8年度・新規裁定者)

国民年金保険料を全期間(480か月=40年間)納めた場合の満額は、令和8年度で月70,608円(年847,296円)である。実際に受け取っている人の平均が5万9千円にとどまっているのは、満額を受け取れていない人が多いためである。

年金額は次の式で決まる。年金額 = 満額 ×(納付済月数 + 免除月数×調整) ÷ 480月。未納の月がある分だけ、満額から差し引かれる。

モデル年金の前提を疑う

厚労省の「標準的な年金額」と、前章までに見た氷河期世代の実態

「標準的な年金額」の前提

月237,279円(令和8年度・夫婦2人分の基礎年金を含む)

  • ・夫が平均標準報酬(年金の計算に使う、給与をならした額)45.5万円で40年間就業
  • ・妻が全期間専業主婦
  • ・厚生年金加入期間に空白が無い

前章までに見た氷河期世代の分布

第6〜8章の数字

  • ・単身50代の35.2%が金融資産ゼロ(第8章)
  • ・正社員でも下位1割は月23.2万円(50〜54歳・第7章)
  • ・女性45〜54歳の非正規は52.4%(第6章)

この前提は、単身者や、非正規の期間・未納の期間がある人には当てはまらない。モデル年金の月237,279円が、氷河期世代のうち世代内でどの程度の人に当てはまるかは、この記事では未取得である。

記録が無い、という事実

厚生労働省年金局の資料には、「平成13年度分以前の最終納付率は把握していない」という注記がある。氷河期世代が20代だった時期に国民年金保険料をどれだけ納められていたか、その実態は国の統計に残っていない。

ここで書けるのは「記録が無い」ということだけである。だから当時の納付率は低かったはずだ、とは推測しない。

84.5%

国民年金 最終納付率(令和4年度分保険料)

12年連続

最終納付率の改善が続いている年数

直近の納付率は改善が続いている。ただし、この数字は現在の制度運用の結果であって、氷河期世代が若かった時期の納付実態を示すものではない。

いつ来るか — 2039年から2048年

  1. 1

    2024年

    中心層は41〜50歳

    内閣官房が定義する就職氷河期世代の「中心層」は、2019年時点で36〜45歳、2024年時点で41〜50歳である。
  2. 2

    2039年

    2024年に50歳だった人が65歳になる

    中心層のうち最も年上のグループが、先に65歳を迎え年金の受給を始める。
  3. 3

    2048年

    2024年に41歳だった人が65歳になる

    中心層のうち最も若いグループが65歳を迎えるのは、この年になる。
  4. 4

    2039年〜2048年

    中心層が順に65歳を迎える10年間

    この期間に、氷河期世代の中心層が入れ替わりながら年金の受給を始めていく。

年齢別・世代別の平均受給額の内訳、および無年金者の推計は、いずれも未取得である。

→ 次のSection 11では、国の支援策が掲げた目標と、実際の実績を比べる。

🩹 支援策 — 30万人の目標に対して何人だったか

このセクションの3点

① 骨太方針(政府が毎年6月ごろ閣議決定する、その年の政策の基本方針)2019は「3年間(2020〜2022年度)で中心層の正規雇用者を30万人増やす」という数値目標を掲げた。目標期限時点の同一集計は本稿では未取得で、2019〜2024年の比較では実績は+11万人だった

② 内閣官房自身は「役員に登用される者の大半は前職が正規雇用であることから、実質的には正規雇用者の増加と合わせて評価すべき」という留保を付けている。無業者は2019→2024年の労働力調査特別集計で41万人から44万人へ+3万人、2025年の新プログラム資料(2019年比)では46万人へ+5万人

③ 2026年4月10日に決定した新プログラムは、3本柱の3つ目に「高齢期を見据えた支援」を新設した。理由に国が挙げたのは賃金上昇率の小ささ・金融資産の低さ・持家率の低下である

30万人

骨太方針2019が掲げた目標(2020〜2022年度・3年間で中心層の正規雇用者増)

+11万人

2019→2024年の実績(正規雇用労働者 923万人→934万人)※目標期限時点の同一集計は未取得

+20万人

2019→2024年の役員の増加(52万人→72万人)

+3万人

2019→2024年の無業者の増加(41万人→44万人・労働力調査特別集計)

区分2019年2024年増減基準・資料
正規雇用労働者923万人934万人+11万人労働力調査特別集計
役員52万人72万人+20万人労働力調査特別集計
自営業主・家族従業者101万人106万人+5万人労働力調査特別集計
不本意非正規46万人35万人−11万人労働力調査特別集計
非労働力人口210万人174万人−36万人労働力調査特別集計
うち無業者41万人44万人+3万人労働力調査特別集計(2019→2024年)

国自身が付けた留保

内閣官房の資料は、役員の増加をそのまま成果として数えていない。脚注に次のように記している。「役員に登用される者の大半は前職が正規雇用であることから、実質的には正規雇用者の増加と合わせて評価すべき」。この脚注が言っているのは、役員への登用の多くは元々正規雇用者だった人の異動であり、正規雇用+11万人という数字だけを切り出して見ると、正規から役員への移動をどう扱うかという論点が残るということである。役員+20万人と正規雇用+11万人を単純に合算した数字を、この記事では出さない。

施策実績期間
ハローワークの職業紹介による正社員就職559,459人2020年4月〜2025年2月
正社員への転換145,032人2020年4月〜2025年2月
国家公務員としての採用4,586人2020〜2024年
地方公務員としての採用14,299人2020〜2024年

2025年時点でも、中心層の不本意非正規は33万人残っている。無業者については、上の表の+3万人(41万人→44万人)は2019→2024年の労働力調査特別集計、こちらの46万人(2019年比+5万人)は2025年の新プログラム資料による数字であり、基準日と資料が異なる別々の集計である。目標だった正規雇用の増加は道半ばのまま、支援の枠組みは次の段階に移された。

  1. 1

    2019年

    骨太方針2019

    「3年間(2020〜2022年度)で中心層の正規雇用者を30万人増やす」と数値目標を設定。対象規模の見込みは合計100万人程度とされた
  2. 2

    2022年

    骨太方針2022

    第2ステージ(2023〜24年度)として支援を継続する方針を示す
  3. 3

    2024年

    骨太方針2024

    就職氷河期世代への支援を、中高年施策全体に包含する方針へ転換
  4. 4

    2025年4月

    関係閣僚会議を新設

    支援の枠組みを見直すための会議体を新たに設置
  5. 5

    2026年4月10日

    新プログラム決定

    「新たな就職氷河期世代等支援プログラム」を決定。期間は2028年度まで
📉

賃金上昇率が小さい

就職氷河期世代の賃金上昇率が、他の世代より小さいこと
💰

金融資産が低水準

金融資産保有額が低水準の世帯の割合が大きいこと
🏠

持家率の低下

持家率の低下により、高齢期の住宅確保に懸念があること
🤖 Claudeの判定 認めたが、救済ではない

国は2026年4月10日の公式文書で、この世代の老後の不足を自ら認めた。ただし新設された柱の中身は家計改善・資産形成支援・65歳超の就業機会確保・住宅確保支援であって、失われた賃金を戻すものではない。

  • 3本柱の3つ目「高齢期を見据えた支援」は2026年に新設された項目である
  • 新設の理由として国が挙げたのは賃金上昇率の小ささ・金融資産の低さ・持家率の低下の3点
  • 支援の中身は資産形成・就業機会確保・住宅確保であり、正規雇用+11万人(2019〜2024年の実績)で失われた賃金を穴埋めするものではない

この過程で名称も変わった。「就職氷河期世代支援」は「就職氷河期世代等支援」となり、対象は周辺世代へ広がっている。

→ 次のSection 12では、「自己責任」という説明がどこまで成り立つかを、求人総数と賃金分布の数字で確かめる。

🧭 自己責任という説明は、どこまで成り立つか

このセクションの3点

① 「就職率9割超だった」は分母が就職希望者であって卒業者ではない。分母を卒業者にすると2003年は27.1%が行き先を持っていなかった

② 「努力すれば正社員になれたはず」に対しては、求人総数そのものが1991年84.0万人から1996年39.1万人へ半分以下になっていたという事実がある。枠の総数は個人の努力の外側で決まる

③ 「今は不本意非正規が少ないから望んでいるはず」は数字としては事実だが、正社員の下位層で年齢による賃金の差がほとんど無いこととは別の問題である。この記事では両方を分けて書く

📊

反論①「就職率は9割超だった」

分母が就職希望者であるため成立しない
🔢

反論②「努力すれば正社員になれた」

求人総数そのものが半分以下だったため成立しない
🤔

反論③「不本意非正規が少ない=望んでいる」

数字は事実。ただし別の問題を覆い隠さない

反論① 「氷河期でも就職率は9割超だった」

厚労省・文科省の調査による大卒者の就職率は、氷河期の期間も91〜93%台で推移している。この数字だけを見れば「9割は就職できていた」と読める。だが、この就職率の分母は就職希望者であり、卒業者全体ではない。希望を出さなかった人、出せなかった人は、最初から分母に入っていない。

卒業者を分母に取り直すと、未就職者(一時的な仕事に就いた者と、進学も就職もしていない者の合計)は2003年3月卒でピークの27.1%、14.8万人に達する。大卒者の約4人に1人である。就職率90%超という数字は、この分母の違いによって成立している。

反論② 「本人が努力すれば正社員になれたはず」

大卒求人総数の推移
1991年
84万人

求人倍率2.86

1996年
39.1万人

求人倍率1.08

リクルートワークス研究所「大卒求人倍率調査」第42回(2026年4月23日発表)

1991年に84.0万人あった大卒求人総数は、1996年には39.1万人へ半分以下になった。この間、就職希望者は29.4万人から36.2万人へむしろ増えている。枠の数そのものが減っている場合、個人の努力は順位を変えることはできても、枠の総数を変えることはできない。誰か1人が努力して椅子を得れば、別の誰かが座れなくなる椅子取りゲームの椅子そのものが減っていた、ということである。

反論③ 「不本意非正規が少ないのだから、望んで非正規をやっているのだろう」

7.6%

35〜44歳の不本意非正規比率(2025年)

9.2%

45〜54歳の不本意非正規比率(2025年)

10.7%

25〜34歳の不本意非正規比率(参考・若い世代のほうが高い)

この反論の前半は、数字としては事実である。氷河期世代の中心層を多く含む35〜44歳・45〜54歳の不本意非正規比率は7.6%・9.2%で、若い25〜34歳の10.7%より低い。この記事は、この不都合な数字を隠さず出す。

ただし、この事実は別の問題を覆い隠さない。2025年時点で、正社員でも下位1割の所定内給与は40〜44歳から50〜54歳にかけて月6,400円(+2.8%)高いだけで、非正規の中位は同じ比較で月400円しか差が無い(同じ人を追跡した数字ではなく、同じ年の別の年齢集団を比べた横断データである)。単身50代の35.2%は金融資産を保有していない。「望んで非正規を選んでいる人が多い」ことと、「正社員の下位層で年齢による賃金の差がほとんど無い」ことは、別の論点として分けて扱う。

ネットに出回る数字の訂正

この記事が採用しなかった数字

ネット上には「2003年の就職率は55.1%だった」という数字が出回っている。だが厚労省・文科省の一次データでは同年の就職率は92.8%であり、55.1%という数字とは整合しない。出典を裏取りできなかったため、この記事では採用しない。

同様に「2000年の未就職率32.4%」という数字も、一次資料とは矛盾する。一次資料が一貫して示しているのは2003年3月卒の27.1%がピークという系列であり、この記事はこちらの数字だけを使う。誤情報の訂正も、この記事の仕事の一部である。

この章が書かないこと

ここまでの3つの反論の検証から言えるのは、求人の枠の数は、個人の努力の外側で決まっていたという事実までである。「だから本人たちは何も悪くない」という結論をこの記事は書かない。同じ条件の中でも結果には個人差があり、それが無かったとは言えないためである。

→ 次のSection 13では、誰が得をしたかを、企業側の数字(内部留保・労働分配率)で確かめる。

🏢 誰が得をしたか — 同じ30年の、もう一方の数字

このセクションの3点

① 財務省「法人企業統計」(金融業・保険業を除く全産業)で見ると、2012年度から2024年度の12年で企業の売上高は+23.1%、経常利益は+136.5%(65年分の統計で過去最高の114.7兆円)。一方、稼いだ付加価値のうち人に払われた割合(労働分配率)は72.3%から64.2%へ8.1ポイント下がった

② 同じ期間、配当金は年26.2兆円から40.1兆円へ増え、利益剰余金(会社が稼いだお金のうち、配らずに社内に積み上げた残高。いわゆる内部留保)の残高は484.4兆円から637.5兆円まで積み上がった

③ この章はこの数字を並べるだけで、「氷河期世代の賃金がここに流れた」とは言わない。法人企業統計は世代別の内訳を持たないため、その因果は今回の材料では判定できない

この章で見てほしいのは、企業の利益は大きく増え、そのうち人に配られる割合は下がった、という並びだけです。

ここまでの章は、氷河期世代の個人の側から見た数字だった。入口が閉じ、非正規に押し込まれた層があり、正社員の下位1割は40〜44歳と50〜54歳でほとんど賃金の差が無かった。ここでもう一方の数字を見る。同じ日本経済の、同じ期間で、企業の側に何が起きていたかである。

先に断っておく。この章は「企業が氷河期世代から搾取した」という話を組み立てるためのものではない。財務省「法人企業統計」は企業全体の集計であり、世代別の内訳を一切持たない。だから、ここに出てくる数字を氷河期世代の賃金と直接つなぐことはできない。できるのは、同じ期間のもう一方の側で何が増え、何が減ったかを並べることまでである。

同じ24年でみる配当・経常利益・人件費 — 2000年度→2024年度

財務省「法人企業統計」(金融業・保険業を除く全産業)から2000年度・2005年度・2010年度・2015年度・2020年度・2024年度の6時点を確定取得した。同じ24年間で、配当金・経常利益・人件費(役員と従業員の合算)がそれぞれどれだけ動いたかを並べる。

項目2000年度2024年度倍率
配当金4.83兆円40.07兆円約8.3倍
経常利益—(未取得)114.7兆円約3.2倍
人件費(役員+従業員の合算)202.5兆円229.35兆円約1.13倍
2000年度→2024年度の24年で、何が何倍になったか
配当金
8.3倍

4.83兆円→40.07兆円

経常利益
3.2倍

約3.2倍(2024年度114.7兆円)

人件費(役員+従業員)
1.13倍

202.5兆円→229.35兆円

出典: 財務省「法人企業統計」(金融業・保険業を除く全産業)。2000/2005/2010/2015/2020/2024年度の6時点を確定取得。人件費は役員給与・役員賞与・従業員給与・従業員賞与・福利厚生費の合算

同じ24年間で、配当は8.3倍、経常利益は約3.2倍に増えた一方、人件費(役員と従業員を合わせた金額)は約1.13倍にとどまっている。これが第13章の芯になる数字である。ここから期間を絞り、直近12年・直近4年でも同じ形が続いているかを見る。

売上・利益・労働分配率 — 2012→2024年度

労働分配率とは何か

企業が事業活動で生み出した付加価値(粗利にあたるもの)のうち、どれだけの割合が人件費として人に払われたかを示す指標である。労働分配率が下がったからといって、必ずしも人件費の金額そのものが減ったわけではない。企業が稼いだ付加価値の総額(分母)が大きくなれば、人件費(分子)が同じ、あるいは多少増えていても、割合としては下がる。この章の数字を読むときは、この点を必ず踏まえる必要がある。

年度売上高(兆円)経常利益(兆円)労働分配率
20121,37548.572.3%
20151,43268.267.5%
20191,48271.468.6%
20201,36262.971.5%
20221,57895.367.5%
20241,692114.7(過去最高)64.2%
2012年度→2024年度の12年で何が動いたか
売上高
+23.1%

1,375兆円→1,692兆円(+23.1%)

経常利益
+136.5%

48.5兆円→114.7兆円(+136.5%)

労働分配率
-8.1%

72.3%→64.2%(-8.1pt)

出典: 財務省「法人企業統計」令和6年度(金融業・保険業を除く全産業、公表2025年9月1日)。売上高・経常利益は増減率(%)、労働分配率はポイント差(pt)。単位が異なる3指標を同じ軸に並べているため、値の大小そのものを比較する図ではない。向き(増えたか減ったか)を見るための図として読む

2012年度から2024年度の12年間で、企業の売上高は+23.1%、経常利益は+136.5%に伸びた。114.7兆円という2024年度の経常利益は、財務省が公表している65年分の統計の中で最も高い。一方、労働分配率は72.3%から64.2%へ8.1ポイント下がっている。企業が稼ぐ金額そのものは大きくなり、その中で人に配分される割合は縮んだ。これが同じ12年間に起きたことである。

配当と利益剰余金(内部留保) — 2020→2024年度

年度当期純利益(億円)配当金(億円)配当性向利益剰余金残高(億円)
2020385,357262,43768.1%4,843,648
2022744,219325,69143.8%5,547,777
2024896,453400,74744.7%6,375,316(約637.5兆円)

配当性向(もうけのうち株主に配った割合)は2020年度68.1%から2024年度44.7%へ動いている。配当金は2020年度の26兆2,437億円から2024年度の40兆747億円へ増えた。利益剰余金(いわゆる内部留保)の残高は484兆3,648億円から637兆5,316億円まで積み上がっている。この4年間だけでも、企業が稼いだ利益のうち株主への配当と社内への蓄積に回った金額は、いずれも増加を続けている。

この章で断定してはいけないこと

・法人企業統計は世代別の内訳を持たない。だから「氷河期世代の賃金が企業の内部留保になった」とは、この記事の材料では言えない

・書けるのは「同じ期間に、企業の利益は増え、付加価値のうち人に配られる割合(労働分配率)は下がった」という並置までである

・労働分配率の低下は、分子(人件費)が減ったことだけでなく、分母(付加価値)が増えたことによっても起きる。人件費の絶対額が減ったとは限らない

・1990年度・1995年度は未取得(NDL WARPの該当アーカイブがJavaScript必須のため到達できなかった)。「1990年から◯倍」という書き方はしない

・人件費は役員給与・役員賞与・従業員給与・従業員賞与・福利厚生費の合算のみが公表されており、役員と従業員の内訳は全年度で未取得。配当が8.3倍・人件費が1.13倍という数字から「役員だけが増えた」とは書けない

🤖 Claudeの判定 判定できない

企業側の数字は「並置」までしか作れない。「誰が得をしたか」への直接の答えは、今回の材料からは出せない

  • 経常利益+136.5%・労働分配率-8.1pt・内部留保637.5兆円という数字自体は一次統計で確認できる
  • 法人企業統計に世代別の内訳が無いため、この数字と氷河期世代の賃金停滞を因果でつなぐ根拠は無い
  • 労働分配率の低下が人件費の減少によるものか付加価値の増加によるものかも、この統計だけでは切り分けられない
くわしい根拠を読む ▾
「誰が得をしたか」という問いに対して、この章が示せるのは「企業の利益と内部留保が増え、同じ期間に労働分配率は下がった」という事実の並びだけである。これは氷河期世代の賃金がどこかに消えたことの証明にはならない。人件費以外の設備投資・M&A・海外展開・単なる利益の積み増しなど、他の説明も同じ数字と矛盾しない。因果を主張するには、世代別・年齢階級別の人件費配分データが必要だが、今回の一次資料の範囲では取得できなかった。

「判定できない」と分かること自体に意味がある。企業のもうけが増えて、働く人に配られる割合が下がった、という2つは同時に起きている。ただしその減った分が氷河期世代の賃金だったかどうかは、この統計では区別できない。世代別の内訳を政府が集計していないからである。

→ 次のSection 14では、氷河期世代のすぐ下の世代(1990年生まれ前後)が、何を免れたのかを見る。

🪞 下の世代が免れたもの — 1990年生まれの場合

このセクションの3点

① 1990年生まれが浪人・留年なしで大学を出るのは2013年3月卒あたり(高卒なら2009年3月卒)。この年の求人倍率は一次資料の表に無いため使わない。表にある最も近い2011年3月卒は1.28倍で、氷河期世代の底だった2000年3月卒の0.99倍より高かった

② 未就職者の割合は2003年3月卒27.1%(過去最高)から2011年3月卒19.4%、2020年3月卒は約2.0%まで下がった。一方で就職率という指標だけを見ると2011年3月卒は91.0%でこの系列の最低にあたる

③ 金融資産の残高は、単身世帯で見ると30代(中央値100万円)と50代(中央値120万円)でほとんど変わらない。違うのは残高ではなく、これから積める年数である

ここまでの章は、就職氷河期世代の中心層(2026年時点でおおむね41〜52歳)を見てきた。この記事の依頼者は1990年生まれで、2026年時点で35〜36歳。浪人・留年が無ければ大学は2013年3月卒、高校卒業なら2009年3月卒にあたり、政府が定義する氷河期世代(概ね1993〜2004年に卒業期を迎えた者)には含まれない。

この章は、依頼者を含む「すぐ下の世代」が何を免れたのかを、同じ一次資料の数字で並べる。説教はしない。同情もしない。数字だけを置く。

入口の倍率 — 底からどれだけ離れていたか

2013年3月卒の求人倍率は、リクルートワークスの一次資料の表には無い。この記事では表に無い年の数値を作らないため、2013年の値は書かない。2012年3月卒の値も同じ表には無く、同様に書かない。

使えるのは表にある年だけである。1990年生まれの卒業年に最も近いのは2011年3月卒(1.28倍)と2010年3月卒(1.62倍)で、いずれも氷河期世代の底だった2000年3月卒(0.99倍・統計開始の1987年以降で唯一の1倍割れ)を上回っている。

卒業年求人倍率求人総数就職希望者数
2000(氷河期世代の底)0.99407,800412,300
20101.62725,300447,000
2011(1990年生まれの卒業年に近い)1.28581,900455,700
2026(現在)1.66764,800460,800
大卒求人倍率(卒業年別)
2000年3月卒
0.99倍
2010年3月卒
1.62倍
2011年3月卒
1.28倍
2026年3月卒
1.66倍

出典: リクルートワークス研究所「大卒求人倍率調査」第42回。2012・2013年の値は同資料の表に無いため使わない。

就職率という指標が隠していたもの

就職率だけを見ると、下の世代のほうが低い年がある。2000年3月卒の就職率は91.1%、2011年3月卒は91.0%で、厚労省・文科省の同じ調査の系列の中では2011年3月卒がむしろ最低にあたる。就職率という一つの指標だけでは、下の世代のほうが恵まれていたとは言えない。

ただしこの就職率の分母は「就職希望者」であり、進学も就職もしなかった人は最初から含まれない。分母を卒業者全体に近づけた「未就職者(一時的な仕事に就いた者+進学も就職もしていない者)」の割合で見ると、2003年3月卒が27.1%(過去最高)、2011年3月卒は19.4%、参考値として2020年3月卒は約2.0%まで下がっている。

27.1%

未就職者割合 2003年3月卒(一次資料の中で最高)

19.4%

未就職者割合 2011年3月卒

約2.0%

未就職者割合 2020年3月卒(参考)

残高はほとんど変わらない、変わるのは残り時間

金融資産の面ではどうか。J-FLEC令和7年調査の単身世帯・年代別を見ると、30歳代(n=325)は非保有32.3%・平均501万円・中央値100万円。50歳代(n=366)は非保有35.2%・平均999万円・中央値120万円である。

非保有の割合はどちらも3割台で大きくは変わらない。中央値も100万円と120万円で、単身世帯の真ん中の人の残高としてはほとんど変わらない。平均額の差(501万円と999万円)は、上位一部の保有額が押し上げている数字であり、第8章で見た「平均は真ん中の暮らしではない」という構造は30代でも同じである。

違うのは今の残高ではなく、そこから積み増せる年数である。30代にはまだ20〜30年あり、50代には無い。

単身世帯で並べる — 1990年生まれ/氷河期世代

1990年生まれ(35〜36歳・単身なら30代のデータに近い)

  • ・求人倍率(2011年3月卒に近い) 1.28倍
  • ・就職率(2011年3月卒) 91.0%(この系列の最低)
  • ・未就職者割合(2011年3月卒) 19.4%
  • ・非正規比率(35〜39歳・男女計) 24.1%
  • ・金融資産 非保有(単身30代) 32.3%
  • ・金融資産 中央値(単身30代) 100万円

就職氷河期世代(単身50代のデータ)

  • ・求人倍率(2000年3月卒) 0.99倍(統計開始以来唯一の1倍割れ)
  • ・就職率(2000年3月卒) 91.1%
  • ・未就職者割合(2003年3月卒) 27.1%(一次資料の中で最高)
  • ・非正規比率(45〜54歳・男女計) 29.7%
  • ・金融資産 非保有(単身50代) 35.2%
  • ・金融資産 中央値(単身50代) 120万円

非正規という入口の外側

非正規比率(2025年・男女計)で見ても、35〜39歳は24.1%、氷河期世代の中心層を多く含む45〜54歳は29.7%である。差はあるが、どちらも4人に1人前後は非正規で働いている。非正規という働き方そのものが下の世代から消えたわけではない。

この章で言えること・言えないこと

一次資料の表にある数字だけから言えるのは次の4点である。①入口の求人倍率は、1990年生まれの卒業年に近い年(2011年1.28倍・2010年1.62倍)のほうが氷河期世代の底(2000年0.99倍)より高かった。②未就職者の割合は2003年の27.1%から2011年の19.4%、2020年の約2.0%へ下がった。③それでも金融資産の残高は、単身世帯の中央値で見ると30代100万円・50代120万円とほとんど変わらない。④両者を分けているのは今の残高ではなく、これから積み増せる年数である。

ここから「下の世代は恵まれている」とは書かない。書けるのは、入口の数字が違ったという事実と、資産の数字がまだ揃っていないという事実の両方である。

→ 次の第15章では、3つのレビューでこの記事のどこが崩れたかを記録する。

🧪 3つのレビューで、この記事のどこが崩れたか

このセクションの3点

① この記事は公開前に3つのレビューを通した。何も知らない高校生に読ませるレビュー2本、Codexによる事実と計算のレビュー1本、実際の画面を見るデザインレビュー1本

② Codexに最大の誤りを見つけられた。賃金の章で「同じ人の10年の変化」として書いていた数字は、実は同じ年の別の年齢を並べたものだった。仕様書の段階で私が間違えていたので、全章がその誤りに従っていた

③ 結果として主張の判定を3つ下げた。支持される4だったものが2になり、判定できないが1から2に増えた

ここは記事の付録である。第14章までで結論はすべて出ている。この章は、どうやってその結論に辿り着いたか、途中で何を間違えたかの記録である。

レビュー誰が何を見たか結果
高校生レビュー その1記事の意図を知らない別のエージェント本文のテキストだけ(表もグラフも見えない状態)内容 38点
高校生レビュー その2同上(別インスタンス)同上内容 45点
クロスレビューCodex(gpt-5.6-terra)本文と、数値の正本にした仕様書の突き合わせ重大6件・中7件・軽微2件
デザインレビューClaude(実ブラウザで目視)+機械チェック390pxと1280pxの実画面本文下に記載

Codexに崩されたもの

🤖 Codexの判定 重大な誤り

横断統計を「同じ人の10年の変化」として書いていた

  • 賃金構造基本統計調査 令和7年の「40〜44歳」と「50〜54歳」は、2025年という同じ年に調査した別の年齢集団である
  • 同じ人を10年追いかけたデータではないので、「10年で月6,400円しか増えていない」とは書けない
  • 書けるのは「2025年時点で、50代前半は40代前半より6,400円高いにとどまる」という年齢間の差だけ
  • この誤りは私が仕様書に「10年の伸び」と書いたところから始まっており、章を書いた全員がそれに従っていた
くわしい根拠を読む ▾
年齢による賃金の形(年齢賃金カーブ)が下位層で平らであることは事実として言える。ただしそれは「いま40代の人が10年後にどうなるか」の予測ではない。この区別を落としたまま「賃金が上がらなかった」を支持されると判定していたので、判定を半分支持されるに下げた。
#指摘ランクどう直したか
1横断統計を10年の変化として書いていた重大全章の「10年で」を年齢間の差の言い方に変え、統計の性質の説明を第7章に足した。判定4を支持されるから半分支持されるへ
2「老後が成立しない」の根拠が世代別ではない重大月5万9千円は現在の受給者全体の平均で、この世代の将来額ではない。判定6を半分支持されるへ下げた
3第11章で無業者の数が章内で食い違う重大41万→44万(+3万人)は2019→2024年の労働力調査特別集計、46万人(+5万人)は2025年の新プログラム資料。基準日と資料名を添えて併記した
43年間の目標に5年間の実績を当てていた重大目標期限時点の同一集計は未取得と明記し、2019〜2024年の比較であると書き直した
5役員20万人についての国の留保を逆向きに使っていた重大国の脚注は「実質的には正規雇用者の増加と合わせて評価すべき」であり、足せないという結論の根拠にはならない。脚注を正確に紹介する形に直した
6「平均は上の1割が作った数字」は特定できない重大分布表は3,000万円以上を一括りにしており、上位10.4%の平均額も平均への寄与も分からない。「分布が偏っていることを示す」に改めた
7「行政統計だけで確かめた」は事実と違う中リクルートワークス研究所・金融経済教育推進機構・社人研は行政機関ではない。「公的機関と調査実施機関の一次資料」に直した
8「正社員を減らさず採用で調整した」を実証済みのように書いていた中1990年代の企業が実際にどう調整したかの一次資料は未取得。判定2を判定できないへ下げた
9派遣法の拡大を「閉じた入口の代わり」と因果で書いていた中同時期に対象範囲が広がった、までに留め、代替関係は判定しないと書いた
10モデル年金を「世代の上のほう」と位置づけていた中世代内でどの程度の人に当てはまるかは未取得、に直した
11「40代・50代」をそのまま氷河期世代として扱っていた中「中心層を多く含む40代・50代」に統一した
12第10章の見出しの年が本文と矛盾(2035〜2045 対 2039〜2048)中見出しを2039年から2048年に直した
13非正規の理由を「家庭内の役割分担」と解釈していた軽微回答として選ばれた選択肢を並べるだけに留めた
14主タスクへの直接回答が第6章まで出てこない軽微第1章に、非正規の月額と賞与の実額を置いた

判定はこう変わった

Codexに見せる前

  • ・支持される 4
  • ・半分支持される 2
  • ・判定できない 1
  • ・(入口・賃金・貯蓄・老後の4つを支持されると判定していた)

レビュー後

  • ・支持される 2
  • ・半分支持される 3
  • ・判定できない 2
  • ・(残ったのは入口と貯蓄の2つ)

高校生2人が、同じ場所で読むのをやめた

内容の点数は38点と45点だった。点数そのものは追いかけない。過去に同じ記事で58点・62点・42点と振れたことがあり、レビュアーは毎回別で基準が揃わないからである。信用できるのは、2人が同じ箇所を指摘したものだけである。

2人とも言ったことどう直したか
専門用語がその場で説明されない。中央値の説明が第8章まで出てこない初めて出てくる場所にカッコ書きの説明を入れた。中央値・分位数・所定内給与・労働分配率・内部留保・配当性向・骨太方針・判例法理・ネガティブリスト・標準報酬など
第1章の大きな表が入り口にあり、そこで挫折する表の前に、専門用語をひとつも使わない3行の答えを置いた。表は上から4行だけにして、残りは折りたたみへ退避した
第4章(法律)・第5章(派遣法の年表)・第7章(分位数)で読むのをやめたくなる各章の冒頭に「この章で見てほしいのはここだけ」の1行を足した。派遣法の年表は1985年・1999年・2004年の3つだけを残し、残りを折りたたみへ
第13章が「判定できない」で終わって肩透かし判定できないと分かること自体の意味を1段落足した
「断定しない」「言えない」の繰り返しで疲れる留保を消すことはしなかった。ただし置き場所を整理し、本文の流れを止めない位置に移した

2人とも面白いと言ったもの(だから削らなかった)

単身50代の35.2%が金融資産ゼロなのに、同じ50代の10.4%は3,000万円以上を持っているという話。ネットに出回っている数字(2003年の就職率55.1%、2000年の未就職率32.4%)が一次資料と合わないので使わなかったという話。第1章の図。そして1990年生まれとの比較。

1人はこう書いた。「就職する年によって人生が大きく変わる、というのは少し怖いと思った」。

私の誤りは、いつも同じ2種類だった

型A:自分の記述どうしの食い違い

第11章で無業者を+3万人と+5万人の両方で書いた。第10章の見出しは2035〜2045年なのに本文は2039〜2048年だった。要約を先に書いて、あとから本文を直すと必ずこれが起きる。

型B:確認していないことの断定

「正社員を減らさず採用で調整した」「派遣は閉じた入口の代わりに開いた」「平均は上の1割が作った」。どれも、そう読める資料はあるが、そう書ける資料は無かった。

今回はもう1種類あった。統計の作りを取り違えたまま、全員にそれを配ってしまうという誤りである。私は仕様書に「10年の伸び」と書いた。章を書いたエージェントは仕様書の数値をそのまま使うよう指示されているので、誰も疑わなかった。正本を作る側が間違えると、下流の全員が同じ方向に間違える。これは分担して書くことの代償である。

だからCodexのように、記事の作り方を知らないまま数字と原資料だけを突き合わせる目が要る。今回はそれで6件の重大な誤りが見つかった。

この記事はここで終わり。全16章。数字の出典はすべて本文中に書いてある。取れなかったものは「未取得」と書いてあるので、続きを調べる人はそこから始めてほしい。

📎 全文コピー

このセクションの3点

① 取り出し方は3つ。ページのアドレスの末尾に /text.txt を付けるのがいちばん確実

② 分割コピーは章のかたまりごとにボタンを分けてある

③ 数値はすべて2026年8月20日時点で確認できた一次資料のもの

この記事を他のツールへ貼るときの取り出し方は3つある。

① プレーンテキストのURL: このページのアドレスの末尾に /text.txt を付けると全文が1枚のテキストで出る。これがいちばん確実。
② 下の分割コピー: 章のかたまりごとにボタンを分けてある。1本の巨大なテキストはクリップボードが黙って失敗することがあるため、こちらのほうが通る。
③ ページ右下の全文コピーボタン。

7

判定した主張の数

2

そのまま支持された数

14件

Codexに指摘され直した数

15章

この記事の章数

📋 分割コピー(章のかたまりごと) 5本 開く ▾

1/5 🧊 就職氷河期世代 — 平均999万円、中央値120万円。バブル崩

# 🧊 就職氷河期世代 — 平均999万円、中央値120万円。バブル崩壊のつけは誰が払ったか
この記事は、就職氷河期世代が2026年の今どうなっているかを、公的機関と調査実施機関の一次資料だけで確かめたものである。結論を先に書くと、この世代の平均はそこまで悪くない。壊れているのは分布の下側で、しかもそこが分厚い。ひとり暮らしの50代は、35.2%が金融資産ゼロである一方、10.4%は3,000万円以上を持っている。真ん中の人は120万円で、平均999万円との差は8.3倍。上の世代は3〜4.5倍なので、この世代だけが割れている。賃金も同じで、2025年時点の正社員の下位1割は、40代前半22.6万円に対し50代前半23.2万円と、年齢が上がってもほとんど動かない。年功で上がるのは中位より上だけだった。そして2026年4月、国は新しい支援プログラムに「高齢期を見据えた支援」という柱を作った。理由として国自身が挙げたのは、この世代の賃金上昇率が小さいこと、金融資産が低い世帯の割合が大きいこと、持家率の低下である。公開前にCodexへ独立のレビューをさせ、私の判定は3つ下がった。

## 🧊 結論 — 氷河期世代は今こうなっている
このセクションの3点
① 平均(全員の額を足して人数で割った額。1人の大きな額に引っ張られる)を見るとこの世代はそこまで悪くない。壊れているのは分布の下側で、しかもそこが分厚い。単身の50代は35.2%が金融資産(預貯金・株・保険など。持ち家や車は入らない)ゼロで、同じ50代単身の10.4%は3,000万円以上を持っている
② 上の世代は平均が中央値(全員を金額順に並べたとき、ちょうど真ん中に来る人の額)の3.0〜4.5倍なのに、この世代だけが8.3〜8.6倍に開いている。世代全体が沈んだのではなく、同じ世代の中で割れた
③ バブル崩壊のつけを取らされたという主張を7つに分けて判定した。支持される2、半分支持される3、判定できない2。公開前にCodexに独立でレビューさせたところ、私の判定のうち3つが根拠不足で崩れ、判定を下げ直した

この記事は、就職氷河期世代が2026年の今どうなっているかを、公的機関と調査実施機関の一次資料だけで確かめたものである。行政統計のほか、大卒求人倍率はリクルートワークス研究所、金融資産は金融経済教育推進機構、未婚率は国立社会保障・人口問題研究所の調査を使っている。取れなかったものは推測で埋めず、本文に「未取得」と書いてある。

35.2%
単身50代の金融資産ゼロ(全年代で最悪)

120万円
単身50代の中央値

999万円
同じ集団の平均(中央値の8.3倍)

+11万人
支援策の実績(目標は30万人)

### 氷河期世代の現在地 — 上の世代・下の世代と並べる
氷河期世代は2026年におおむね43〜55歳である。統計の年齢区分は調査ごとに違うので、この表では40代・50代の値を当てている。金融資産は単身世帯(世帯の人数が1人)の値で、二人以上の世帯とは単位が違う。

この章の結論を3行で言うと
① 今50代でひとり暮らしの人のうち、3人に1人強は貯金も株も何もない
② 同じ50代ひとり暮らしの10人に1人は3,000万円以上持っている
③ つまりこの世代は、全員が沈んだのではなく、同じ世代の中で真っ二つに割れた

項目 | 氷河期世代 | 上の世代 | 下の世代 | 出典

金融資産の中央値(単身) | 40代 100万円 / 50代 120万円 | 60代 300万円 / 70代 500万円 | 30代 100万円 | J-FLEC 令和7年
金融資産ゼロ(単身) | 40代 32.1% / 50代 35.2% | 60代 30.4% / 70代 20.4% | 30代 32.3% | 同上
平均 ÷ 中央値 | 40代 8.6倍 / 50代 8.3倍 | 60代 4.5倍 / 70代 3.0倍 | 30代 5.0倍 | 同上から計算
非正規の割合(2025年) | 45〜54歳 男8.2% / 女52.4% | 取得していない | 35〜39歳 24.1%(男女計) | 労働力調査 詳細集計

📋 残り5項目(月給の10年変化・大卒求人倍率・未就職者・未婚割合・年金) 詳しい数字 開く ▾
項目 | 氷河期世代 | 上の世代 | 下の世代 | 出典

正社員・下位1割の月給(2025年) | 40代前半 225,800円 → 50代前半 232,200円 | 同じ表の上位1割は 499,400円 → 601,500円 | 取得していない | 賃金構造基本統計調査 令和7年
大卒求人倍率 | 1996年 1.08倍 / 2000年 0.99倍 | 1991年 2.86倍 | 2011年 1.28倍 / 2012年 1.23倍 | リクルートワークス研究所
卒業者に占める未就職者 | 2003年 27.1%(14.8万人) | 取得していない | 2011年 19.4% / 2020年 約2.0% | 厚労省 平成24年版 労働経済の分析
50歳時未婚割合(2020年) | 男 28.25% / 女 17.81% | 1990年は 男 5.57% / 女 4.33% | 取得していない | 社人研 人口統計資料集
年金の平均月額 | 国民年金 5万9千円 / 厚生年金 15万円 | 同じ数字(世代別の内訳は未取得) | 同左 | 厚労省 令和6年度 事業の概況

つけは、どこを通って誰のところへ行ったか → この図は横にスクロールできます

バブル崩壊
1991年ごろ〜

企業の調整
今いる人は減らさない

すでに正社員だった人は守られた
整理解雇の判例法理・解雇回避努力

入口は閉じた
求人 84.0万件 → 39.1万件(1991→1996)

受け皿が同時に開いた
1999年 派遣の原則自由化 / 2004年 製造業へ解禁

賃金が動かない層ができた
正社員の下位1割は10年で月6,400円 / 非正規の中位は月400円

単身50代 金融資産ゼロ 35.2% / 中央値 120万円 / 平均 999万円

この図で断定していないこと
企業が意図的に若い世代へ
つけを回した、という直接の
証拠は確認できていない。
分かるのは、守られたことと
入口が閉じたことが同時に
起きた、という並びだけ。

一次資料で確認できた事実だけを線でつないだ図。企業が意図的に若い世代へつけを回したという直接の証拠は確認できていないので、そこは断定していない。

### 主張の判定 — 「バブル崩壊のつけを取らされた」
判定は「支持される」「半分支持される」「支持されない」「判定できない」の4区分にした。根拠はそれぞれの章で数字と出典を出している。

# | 主張の要素 | 判定 | 根拠(詳しくは各章)

1 | 入口が閉じた | 支持される | 求人倍率 2.86倍→0.99倍。求人総数は1991年84.0万件→1996年39.1万件。2003年3月卒は27.1%が一時的な仕事か進路未定(第3章)
2 | 正社員が守られ、そのぶんが新卒に回った | 判定できない | 制度上は新規採用の停止が解雇回避の努力の一つとされうる。ただし1990年代の企業が実際にどう雇用調整したかの一次資料は取得できなかった(第4章)
3 | 非正規に押し込まれた | 半分支持される | 45〜54歳の非正規は女性52.4%に対し男性は8.2%しかない。男女を混ぜたときにだけ成立する像である(第6章)
4 | 賃金が上がらなかった | 半分支持される | 2025年時点で、正社員の下位1割は40代前半と50代前半の差が6,400円、非正規の中位は400円しかない。ただしこれは同じ年の別の年齢を並べた数字で、同じ人の変化を追ったものではない(第7章)
5 | 貯蓄が作れなかった | 支持される | 単身50代は35.2%がゼロ、中央値120万円、平均÷中央値8.3倍。上の世代は3.0〜4.5倍(第8章)
6 | 老後が成立しない | 半分支持される | 2026年4月、国は新しい支援プログラムに「高齢期を見据えた支援」の柱を作り、この世代の資産が低いことを理由に挙げた。ただし月5万9千円は現在の受給者全体の平均で、この世代の将来の受給額は未取得(第10章・第11章)
7 | 誰かが得をした | 判定できない | 内部留保637.5兆円、労働分配率は2012年度72.3%→2024年度64.2%。ただしこの記事の材料では、氷河期世代の賃金がそこへ移ったとは言えない(第13章)

🤖 Claudeの判定 半分支持される
主張の芯は正しい。ただし「世代の全員が」という部分は数字が支持しない

- 入口が閉じたこと(求人倍率2.86倍から0.99倍、2003年3月卒の27.1%が一時的な仕事か進路未定)と、貯蓄が薄いこと(単身50代の35.2%がゼロ、中央値120万円)の2つは、一次統計がそのまま主張どおりの姿を示している

- 成立しないのは「世代の全員が」という部分。単身50代の35.2%が金融資産ゼロである一方、10.4%は3,000万円以上を持っている。同じ世代の中で割れている

- 不都合な数字も出た。正規の仕事がないから非正規に就いた人の割合は、35〜44歳7.6%・45〜54歳9.2%で、25〜34歳や55〜64歳の10.7%より低い(第6章)

- 2026年4月、国は新プログラムに「高齢期を見据えた支援」を新設した。理由として国自身が挙げたのは、この世代の賃金上昇率が小さいこと、金融資産が低い世帯の割合が大きいこと、持家率の低下である

- 公開前にCodexに独立でレビューさせた結果、私は判定を3つ下げた。賃金の章で「同じ人の10年の変化」として書いていた数字が、実は同じ年の別の年齢を並べたものだったのが最大の誤りである(第15章)

非正規はいくらもらっているのか(依頼の中心のひとつ)
氷河期世代に限定した非正規の平均年収は、一次統計からは確認できない。国税庁の調査は雇用形態と年齢を組み合わせた表を作っておらず、厚生労働省の賃金構造基本統計調査は月額と年間賞与を別々にしか公表していないためである。
確認できるのは次の2つである。40〜54歳の非正規の月額所定内給与は約23万円(残業代・賞与を含まない毎月の基本の給与)で、年間賞与は約15〜17万円。同じ年齢の正社員は月38〜41万円、年間賞与128〜149万円である。全年齢・全世代でよければ、国税庁の令和6年分で正社員545万円・正社員以外206万円という数字がある。

この記事が言えること、言えないこと
言えるのは、枠の数が個人の努力の外側で決まっていたということまでである。求人総数が半分以下になった年に、個人の努力は順位を変えられても総数を変えられない。
言えないのは、だから本人たちに個人差が無かったということである。同じ世代の中で3,000万円以上に届いた人が10.4%いる以上、そこまで言うと数字を越える。

次の第2章では、そもそも誰が氷河期世代なのかを、政府の定義の原文から確認する。全15章。

## 📅 誰が氷河期か — 生年・卒業年・人数
このセクションの3点
① 政府に「就職氷河期世代」の明確な定義は存在しない。内閣官房は「概ね1993年〜2004年に学校卒業期を迎えた者」を念頭に置くとしている(原文どおり)
② 浪人・留年等が無い場合、2023年4月時点で大卒41〜52歳・高卒37〜48歳にあたる。政策対象の「中心層」は2019年時点36〜45歳、2024年時点41〜50歳
③ 中心層の人数は1,705万人(2019年・労働力調査特別集計)。ただし世代全体の人数を明記した一次資料は見つからなかった

就職氷河期世代という言葉に、政府による明確な定義は存在しない。内閣官房 就職氷河期世代支援推進室が公表した資料では、「概ね1993年〜2004年に学校卒業期を迎えた者」を念頭に置くと説明されている(原文どおり)。「概ね」という語が示すとおり、境界そのものが曖昧なまま残されている。出典: 内閣官房 就職氷河期世代支援推進室 令和5年5月 資料1-1(cas.go.jp)

- 1 1993年卒(学校卒業期の始点)

#### 2023年4月時点 大卒52歳・高卒48歳
浪人・留年等が無い場合の年齢。2026年時点ではそれぞれ55歳・51歳になる計算。

- 2 2004年卒(学校卒業期の終点)

#### 2023年4月時点 大卒41歳・高卒37歳
同じ計算で、2026年時点では大卒44歳・高卒40歳にあたる。

- 3 政策対象「中心層」 2019年時点

#### 36〜45歳
内閣官房が政策の中心的な対象とした年齢層。労働力調査特別集計で人数1,705万人。

- 4 政策対象「中心層」 2024年時点

#### 41〜50歳
同じ人々が5年後に該当する年齢層。この時点の再集計人数を示す一次資料は確認できなかった(未取得)。

1,705万人
中心層の人数(2019年・労働力調査特別集計)

41〜52歳
大卒 該当年齢(2023年4月時点)

37〜48歳
高卒 該当年齢(2023年4月時点)

12年分
政府が念頭に置く卒業期(1993〜2004年)

1,705万人は「中心層」の人数であって、世代全体ではない
内閣官房が示す1,705万人という数字は、2019年時点で36〜45歳だった「中心層」の人数である。就職氷河期世代とされる年齢の幅はこれより広く(2023年4月時点で大卒41〜52歳・高卒37〜48歳)、その全体の人数を明記した一次資料は見つからなかった。この記事では以降、「世代全体で1,700万人」という言い方はせず、1,705万人という数字を使うときは必ず「中心層」と明記する。

### 定義は政策の都合でスライドする
この定義は固定されたものではない。2026年4月10日に決定された新しい支援プログラムでは、名称が「就職氷河期世代支援」から「就職氷河期世代等支援」に変わり、対象が周辺の世代にまで広げられている。「概ね」という語で始まった定義は、政策の局面が変わるたびに範囲を動かしてきた。

→ 次の第3章では、この世代が社会に出た「入口」で何が起きたかを、大卒求人倍率と就職率の統計から見る。

## 🚪 入口 — 最悪の年は1996年ではなかった
このセクションの3点
① 大卒求人倍率は1991年2.86倍から2000年0.99倍へ。統計開始1987年以降で唯一、1倍を割った年である
② 就職率(4月1日現在)は91〜93%と高く見えるが、分母は「就職希望者」。卒業者を分母にすると2003年3月卒の27.1%(14.8万人)が一時的な仕事か、進学も就職もしていない
③ 就職率の最低は氷河期のピークではなく、リーマン後の2011年(91.0%)。この記事は「氷河期が統計上つねに最悪」という単純化はしない

就職氷河期世代の入口を示す数字が、大卒求人倍率(就職したい大学生1人あたり、企業からの求人が何件あるか)調査である。1991年の2.86倍から、2000年には0.99倍まで落ちた。統計が始まった1987年以降で、求人倍率が1倍を割ったのはこの年だけである。

卒業年 | 求人倍率 | 求人総数(人) | 就職希望者数(人)

1991 | 2.86 | 840,400 | 293,800
1993 | 1.91 | 617,000 | 323,200
1995 | 1.20 | 400,400 | 332,800
1996 | 1.08 | 390,700 | 362,200
1999 | 1.25 | 502,400 | 403,500
2000 | 0.99(統計開始1987年以降で唯一の1倍割れ) | 407,800 | 412,300
2003 | 1.30 | 560,100 | 430,800
2010 | 1.62 | 725,300 | 447,000
2011 | 1.28 | 581,900 | 455,700
2026 | 1.66 | 764,800 | 460,800

大卒求人倍率の推移 1991年卒

2.86倍
1993年卒

1.91倍
1995年卒

1.2倍
1996年卒

1.08倍
1999年卒

1.25倍
2000年卒

0.99倍
統計開始以降で唯一の1倍割れ
2003年卒

1.3倍
2010年卒

1.62倍
2011年卒

1.28倍
2026年卒

1.66倍

出典: リクルートワークス研究所「大卒求人倍率調査」第42回(2026年4月23日発表)
求人総数と就職希望者数は、逆向きに動いた(1991年卒→1996年卒)
求人総数

- ・1991年 84.0万人

- ・1996年 39.1万人

- ・5年で半分以下に減った

就職希望者数

- ・1991年 29.4万人

- ・1996年 36.2万人

- ・5年で17万人近く増えた

### 就職率という数字のからくり
年(4月1日現在) | 就職率(%)

1997 | 94.5
1998 | 93.3
1999 | 92.0
2000 | 91.1
2001 | 91.9
2002 | 92.1
2003 | 92.8
2004 | 93.1
2008 | 96.9
2010 | 91.8
2011 | 91.0(この系列の最低)
2012 | 93.6
2019 | 97.6
2026 | 98.0

🤖 Claudeの判定 反論は成立しない
「氷河期でも就職率は9割超だった」という反論は、分母のとり方で成立しなくなる

- 就職率の分母は卒業者ではなく「就職希望者」。希望を出さなかった・出せなかった人は最初から入っていない

- 卒業者を分母にすると、2003年3月卒は27.1%(14.8万人)が一時的な仕事か、進学も就職もしていない

- 就職率の最低は氷河期のピークではなく、リーマン後の2011年(91.0%)

くわしい根拠を読む ▾閉じる ▴
厚生労働省・文部科学省が公表する「就職率」は、卒業者のうち就職を希望した者に対する就職者の割合である。就職を希望しなかった、あるいは就職活動そのものから離れた者は、最初から分母に含まれない。厚生労働省「平成24年版 労働経済の分析」(原資料は学校基本調査)で卒業者そのものを分母に置き直すと、2003年3月卒業者の27.1%にあたる14.8万人が、一時的な仕事に就いたか、進学も就職もしていない。この年はこの系列で確認できる最高の未就職率である。

27.1%
2003年3月卒 未就職(一時的な仕事+進学も就職もせず)

14.8万人
同・実数(この系列の過去最高)

19.4%
2011年3月卒(リーマン後の再上昇・10.7万人)

2.0%
2020年3月卒(参考・約1.2万人)

就職率だけを見ると、この系列でもっとも低いのは氷河期のピークではなく2011年(91.0%)である。この記事は「氷河期が統計上つねに最悪だった」という単純化はしない。就職率という指標そのものが、リーマンショック後の落ち込みのほうを大きく映す構造になっている。

インターネット上には「2000年の就職率は32.4%だった」という数字が出回っているが、一次資料の91.1%とは整合せず、裏付けが取れなかったためこの記事では使わない。一次資料が示す未就職率のピークは一貫して2003年3月卒である。また、正規・非正規・一時的な仕事のそれぞれに何人が就いたかという年ごとの内訳は未取得である。該当する統計の一部はスキャン画像でOCRができず、一部は該当ページ自体が現存しないため確認できなかった。

→ 次の第4章では、正社員の採用が止まった一方で何が守られたのか、「つけの付け替え」を見る。

2/5 ⚖️ つけの付け替え — 正社員は守られ、採用が止まった

## ⚖️ つけの付け替え — 正社員は守られ、採用が止まった
このセクションの3点
① 整理解雇には4つの要素が要ると言われ、その中に「新規採用の停止」が解雇回避努力として位置づけられている。制度上は、正社員を減らす前に採用を止めるという順番が想定されている
② これは労働契約法・労働基準法の条文ではなく、裁判の積み重ねでできた判例法理である
③ 正社員は守られ、入口は閉じた。この2つが同時に起きたことは数字で確認できるが、1990年代に企業が実際にこの通り調整したかを示す一次資料は未取得で、意図的につけを回したという直接の証拠も無い

この章で見てほしいのは、「正社員は守られ、新卒の採用が止まった」という2つが同時に起きた、という事実だけです。

第3章で見たとおり、求人総数は1991年の84万400人から1996年には39万700人へ半分以下に減った。就職希望者は29万3,800人から36万2,200人へむしろ増えている。入口が閉じたのは間違いない。ここで扱うのは、なぜ日本企業が正社員を減らすのではなく入口を閉じるという方法を選んだのか、その仕組みの側である。
日本の正社員解雇には強い制約がある。企業が不況で人件費を減らしたいとき、制度上まず動かせるのはまだ雇っていない人、つまり新規採用である。既にいる正社員を解雇するには、後述する複数の要素を満たす必要があり、ハードルが高い。制度上は、調整が入口に向かいやすいと考えられる。ただし、1990年代に企業が実際にこの通り雇用を調整したかどうかを示す一次資料は、この記事では確認できていない。

### 整理解雇の4要素 — 条文ではなく判例法理
要素 | 内容

①人員削減の必要性 | 経営上、人員を減らす必要が実際にあること
②解雇回避努力 | 解雇の前に、配置転換・希望退職の募集・新規採用の停止などを行ったこと
③被解雇者選定の合理性 | 解雇する人を選ぶ基準が客観的で合理的であること
④手続の妥当性 | 労働者・労働組合への説明や協議を行ったこと

この4要素は、労働契約法にも労働基準法にも条文として存在しない。裁判所が個別の解雇事件を判断する中で積み重ねてきた判例法理であり、法律の条文を読んでも出てこない。源流は東洋酸素事件(東京高裁 昭和54年)とされることが多いが、この記事では判決文の一次PDF本文までは確認できていない。判例法理であるという性質と、出典の裏取りが完全ではないことの両方を明記しておく。
この4要素のうち②解雇回避努力の中身として、配置転換や希望退職と並んで新規採用の停止が挙げられる。つまり、企業が正社員を解雇しようとする前に、まず新しく人を採るのをやめることが、解雇を避けるための努力の一つとして制度上位置づけられている。1990年代の企業が実際にこの順番で動いたかどうかの一次資料は、この記事では未取得である。

### 採用抑制という調整弁
84.0万
1991年卒の求人総数(件)

39.1万
1996年卒の求人総数(半分以下に)

29.4万人
1991年卒の民間企業就職希望者

36.2万人
1996年卒の同じ数字(増えている)

不況期の調整はどちらに向かったか
既にいる正社員
解雇回避努力の対象

- ・整理解雇の4要素という高いハードルで守られる

- ・解雇には人員削減の必要性・手続の妥当性まで求められる

- ・結果として、在職している人の雇用は維持されやすい

入口で待っていた人
新規採用の対象

- ・解雇回避努力の一環として、真っ先に絞られる対象になる

- ・求人総数は84万400人から39万700人へ半減以下

- ・就職希望者は29万3,800人から36万2,200人へ増えており、競争が激化する

🤖 Claudeの判定 慎重に判定
「正社員が守られ、入口が新卒に押しつけられた」は、事実の並置までは言えるが、意図の断定はできない

- ①既にいる正社員の雇用は、判例法理という高いハードルで守られていた

- ②同じ時期に、入口(新規採用)は閉じていた

- ③①と②が同時に起きたことは統計と法理から確認できる

くわしい根拠を読む ▾閉じる ▴
整理解雇の4要素という判例法理が存在し、その中に新規採用停止が解雇回避努力として位置づけられていること、そして実際に求人総数が半減以下になったことは、それぞれ別々に確認できる事実である。ただし「企業が意図的に若い世代へつけを回そうと決めた」という因果関係を示す直接の証拠は無い。個々の企業が下した経営判断の記録まではこの記事の調査範囲では確認できていない。書けるのは、既存の雇用が守られたことと、入口が閉じたことが同じ時期に重なったという事実の並置までである。

断定しないこと
この章で言えるのは、①既存の雇用は守られた、②入口は閉じた、③その2つが同時に起きた、という事実の並置までである。「企業が意図的に若い世代につけを回した」という因果の断定はしない。整理解雇のハードルが高いこと自体は、労働者を保護する目的で積み重ねられてきた判例法理であり、それ自体を否定するものではない。

→ 次の第5章では、入口が閉じていた同じ時期に、派遣という制度がいつ・どの順番で対象を広げていったかを改正史から見る。

## 🔀 派遣という制度 — 対象拡大の順番と、非正規比率の推移
このセクションの3点
① 派遣は1985年以前、職業安定法により労働者供給事業として禁止されていた。そこから1996年・1999年・2004年と段階的に対象が広がった
② 同時期の事実は2つある。正社員の採用が止まっていたことと、派遣の対象範囲が段階的に広がっていったこと。代替関係や因果は本稿の資料では判定しない
③ 非正規比率の1990年前後の値は取得不能。「1990年は20%だった」という比較は本文では書かない

この章で見てほしいのは、正社員の採用が止まっていた時期に、派遣の対象範囲が段階的に広がっていった「順番」だけです。代替関係や因果は本稿の資料では判定しません。

第4章で見たとおり、入口は閉じ、既にいる正社員の雇用は守られた。同時期に派遣の対象範囲も拡大した。代替関係や因果は本稿の資料では判定しない。この章では派遣法の改正史から、その拡大の順番を見る。

### 派遣という制度の出発点
労働者派遣は、1985年に労働者派遣法が制定される以前は職業安定法により労働者供給事業として禁止されていた。他人を雇い、別の会社の指揮命令の下で働かせるという形態そのものが、原則として認められていなかった。1985年制定・1986年施行の労働者派遣法によって、専門13業務(直後に16業務へ拡大)に限って初めて解禁された、という出発点をまず押さえておく必要がある。

- 1 1985年制定 / 1986年施行

#### 労働者派遣法が成立
それまで職業安定法により労働者供給事業として禁止。専門13業務(直後に16業務)に限って解禁された。

- 2 1999年

#### 原則自由化
対象業務をネガティブリスト化(禁止するものだけを並べ、それ以外は全部認めるやり方)し、建設・港湾・警備・医療などを除く業務で原則として派遣を可能にした。新たに対象となった業務の受入期間は1年。「臨時的・一時的な労働力の需給調整対策」という位置づけで行われた。

- 3 2003年改正 / 2004年3月1日施行

#### 製造業への派遣を解禁
物の製造業務への労働者派遣が解禁された。26業務以外の受入期間の上限も最大3年へ延びた。

📋 途中の改正(1996年・2012年・2015年) 詳しい年表 開く ▾

- 1 1996年

#### 対象業務が拡大
16業務から26業務へ拡大。専門性の高い業務を中心に、対象範囲が広げられた。

- 2 2012年

#### 規制の一部強化
日雇派遣の原則禁止、グループ内派遣の8割規制、マージン率の情報提供義務などが導入された。

- 3 2015年

#### 特定労働者派遣事業の廃止
許可制への一本化など、事業区分の整理が行われた。

### 順番が芯 — 入口が閉じている間に、対象範囲が広がった
第4章で確認したとおり、求人総数が84万400人(1991年)から39万700人(1996年)へ半減以下になり、正社員の採用が絞られていた時期は、そのまま1996年の対象業務拡大から1999年の原則自由化、2004年の製造業解禁までの時期と重なる。
1999年の原則自由化は、それまで16業務・26業務という限られた業務にしか認められていなかった派遣を、原則としてどの業務でも可能にする大きな転換だった。この転換は「臨時的・一時的な労働力の需給調整対策」という位置づけで行われている。恒久的な雇用の受け皿として設計されたわけではない、という点は元の位置づけとして記録しておく必要がある。そして2004年には、それまで対象外だった物の製造業務にまで派遣が解禁された。
正社員という入口が閉じていた期間に、派遣の対象範囲が段階的に広がっていった。この順番が、この章で確認できる事実である。両者が代替関係にあるのか、それぞれ独立した動きなのかは、本稿の資料では判定しない。

### 非正規比率の推移
年 | 全年齢 | 35〜39歳 | 40〜44歳 | 45〜49歳 | 50〜54歳

2002 | 29.4% | 23.1% | 26.0% | 28.1% | 27.7%
2010 | 34.4% | 25.8% | 29.3% | 30.6% | 30.8%
2015 | 37.5% | 28.4% | 30.6% | 32.7% | 32.6%
2025 | 36.5% | 24.1% | 27.1% | 29.2% | 30.0%

非正規比率(2025年・年齢階級別) 全年齢

36.5%
35〜39歳

24.1%
40〜44歳

27.1%
45〜49歳

29.2%
50〜54歳

30%

出典: 総務省 労働力調査 詳細集計 2025年平均。1990年前後の値は「労働力調査特別調査」という別建て調査で現行の正規/非正規区分と接続できないため取得不能。
取得不能な値がある
・1990年前後の非正規比率は取得不能である
・2001年以前は「労働力調査特別調査」という別建ての調査で行われており、現行の正規/非正規区分と接続できない
・この記事では「1990年は20%だった」というような比較は書かない

→ 次の第6章では、非正規で働く人が実際にいくらで生きているかを、男女に分けて見る。

## 💴 非正規はいくらで生きているか — 上がらない賃金カーブ
このセクションの3点
① 「氷河期=非正規だらけ」は男女を混ぜたときにだけ成立する。45〜54歳の非正規比率は男女計29.7%だが、男性は8.2%(59万人)、女性は52.4%(354万人)。35〜44歳も男女計25.7%に対し男8.9%・女44.9%
② 非正規の月額所定内給与(残業代や賞与を含まない、毎月の基本の給与)は40〜44歳230.6千円・45〜49歳233.4千円・50〜54歳229.7千円で、年齢が上がってもほぼ横ばい。年間賞与は非正規151.7〜170.0千円に対し正社員1,278.7〜1,490.6千円で約8〜9倍の差がある
③ 不本意非正規(正規の仕事がないから非正規に就いた者)の比率は45〜54歳9.2%・35〜44歳7.6%で、25〜34歳10.7%・55〜64歳10.7%より低い。氷河期世代の非正規が全員、不本意に非正規をやらされているという像は、この数字では支持されない

総務省「労働力調査」詳細集計の2025年平均で、氷河期世代の中心層にあたる35〜54歳の非正規雇用比率を見ると、45〜54歳は29.7%(413万人)、35〜44歳は25.7%(288万人)である。数字だけを見れば「氷河期世代の3〜4人に1人が非正規」という像になる。だが、この数字は男女を合算した値である。この章はまず、この合算をほどく。

### 男女を分けると比率が別物になる
年齢 | 男女計 | 男性 | 女性

35〜44歳 | 25.7%(288万人) | 8.9%(53万人) | 44.9%(236万人)
45〜54歳 | 29.7%(413万人) | 8.2%(59万人) | 52.4%(354万人)

非正規雇用比率(2025年・年齢×男女) 45〜54歳 男女計

29.7%
413万人
45〜54歳 男性

8.2%
59万人
45〜54歳 女性

52.4%
354万人
35〜44歳 男女計

25.7%
288万人
35〜44歳 男性

8.9%
53万人
35〜44歳 女性

44.9%
236万人

出典: 総務省「労働力調査」詳細集計 2025年平均(役員を除く雇用者に占める非正規の割合)
45〜54歳の男性の非正規比率は8.2%しかない。同じ年齢の女性は52.4%で過半数を超える。35〜44歳も同じ形で、男性8.9%に対し女性44.9%である。「氷河期=非正規だらけ」という像は、男女を混ぜて初めて成立する数字であり、男性だけを見れば大半は正規雇用にいる。この記事は以降、非正規の実態を扱うときに必ず男女を分けて書く。

### 非正規の賃金は年齢で上がらない
年齢 | 正社員 所定内(千円) | 正社員 年間賞与(千円) | 非正規 所定内(千円) | 非正規 年間賞与(千円)

40〜44歳 | 379.0 | 1,278.7 | 230.6 | 151.7
45〜49歳 | 395.6 | 1,352.9 | 233.4 | 170.0
50〜54歳 | 412.7 | 1,490.6 | 229.7 | 156.9

月額所定内給与(千円・正社員 vs 非正規) 正社員 40〜44歳

379千円
正社員 45〜49歳

395.6千円
正社員 50〜54歳

412.7千円
非正規 40〜44歳

230.6千円
非正規 45〜49歳

233.4千円
非正規 50〜54歳

229.7千円

出典: 厚生労働省「賃金構造基本統計調査」令和7年(企業規模10人以上・一般労働者)。月額×12は年収ではない(賞与は別建て)
非正規の月額所定内給与は40〜44歳で230.6千円、45〜49歳で233.4千円、50〜54歳で229.7千円である。10年近い年齢差があっても、月額は22万円台から23万円台の間で動いていない。正社員は同じ期間に379.0千円から412.7千円へ上がっており、年齢とともに給与が積み上がる構造が非正規には働いていない。
年間賞与の差はさらに大きい。非正規は151.7〜170.0千円だが、正社員は1,278.7〜1,490.6千円で、約8〜9倍の開きがある。ここで一つ注意を置く。この月額は「所定内給与」であり、賞与は別建ての数字である。月額に12を掛けても年収にはならない。この記事では年収換算を行わない。

### 参考: 国税庁の平均給与(全年齢・雇用形態別)
545万円
正社員(全年齢平均)

206万円
正社員以外(全年齢平均)

国税庁「民間給与実態統計調査」令和6年分では、正社員の平均給与は545万円、正社員以外は206万円である。ただしこれは全年齢を平均した数字であり、氷河期世代に限った値ではない。国税庁の統計には雇用形態と年齢を掛け合わせたクロス表が存在しないため、「氷河期世代の非正規の平均年収」という数字は国税庁からは出せない。

### 不本意非正規は氷河期世代のほうが低い
年齢 | 非正規総数 | 不本意非正規 | 比率

25〜34歳 | 225万人 | 24万人 | 10.7%
35〜44歳 | 289万人 | 22万人 | 7.6%
45〜54歳 | 413万人 | 38万人 | 9.2%
55〜64歳 | 460万人 | 49万人 | 10.7%

⏰

#### 都合のよい時間に働きたいから
45〜54歳・126万人
不本意非正規以外の理由のうち最大の層。自分の都合で非正規を選んでいる人が最も多い

💰

#### 家計の補助・学費等を得たいから
45〜54歳・96万人
世帯の中での位置づけとして非正規を選んでいる層

👪

#### 家事・育児・介護等と両立しやすいから
45〜54歳・65万人
正規雇用との両立が難しい事情を抱える層

総務省「労働力調査」詳細集計2025年平均の表1-4によると、正規の仕事がないために非正規に就いている「不本意非正規」の比率は、45〜54歳で9.2%、35〜44歳で7.6%である。これは25〜34歳の10.7%、55〜64歳の10.7%より低い。氷河期世代の中心層にあたる35〜54歳のほうが、若い世代や年上の世代よりも「正規の仕事がないから仕方なく非正規」と回答した人の比率が低いという結果になっている。
この記事は、この不都合な数字を隠さない。不本意非正規以外の理由の内訳を見ると、45〜54歳では「都合のよい時間に働きたいから」126万人、「家計の補助・学費等を得たいから」96万人、「家事・育児・介護等と両立しやすいから」65万人という回答が選ばれている。氷河期世代の非正規にこうした理由を挙げる人が一定数含まれている以上、「氷河期世代は全員、不本意に非正規をやらされている」という像は、この数字からは支持されない。ただし、これらの回答理由がそのまま選択の自由さを証明するわけではなく、正規雇用に戻る道がどれだけ開かれているかとは別の問いである。

→ 次のSection 7では、正社員の中にも下位1割が存在し、年功による賃金上昇がその層にはほとんど届いていないことを見る。

3/5 🪫 正規でも低い人 — 正社員の下位層はいくらか

## 🪫 正規でも低い人 — 正社員の下位層はいくらか
このセクションの3点
① 正社員の月額所定内給与を分位数(低い順に並べた集団の中の位置)で見ると、2025年時点で50〜54歳の第1・十分位(下位1割の水準)は232.2千円。同じ2025年の40〜44歳・第1・十分位225.8千円との差はわずか+6,400円(+2.8%)で、中位数+9.5%・第9・十分位(上位1割)+20.4%と比べて明らかに小さい。これは同じ人を追跡した数字ではなく、同じ年の別の年齢集団を比べた横断データである
② 「年功で給料が上がる」という現象は正社員の中位数より上でしか起きていない。正社員でも下位1割は50〜54歳でも月23万円台で止まっており、非正規の中位数(50〜54歳217.1千円)との差は縮んでいる
③ 「正社員のうち年収300万円未満・400万円未満が何%か」という直接の統計は存在しない。国税庁に雇用形態×給与階級のクロス表がなく、賃金構造基本統計調査は月額のみで分位数別の賞与も無いため、この記事では推計値を出さない

この章で見てほしいのは、2025年時点で、正社員でも下位1割の給料は40〜44歳と50〜54歳でほとんど変わらない、ということだけです。同じ人を追跡した数字ではなく、同じ年の別の年齢集団を比べた横断データです。

前章では正社員と非正規の平均的な給与差を見た。だが「正社員だから安泰」という単純な線引きは、正社員の内側にある分布を見落とす。厚生労働省「賃金構造基本統計調査」令和7年は、月額所定内給与を分位数(給与の低い順に人を並べたとき、全体のどの位置にいるかを示す区切り)で公表している。第1・十分位は下から1割目の水準、中位数はちょうど真ん中、第9・十分位は上から1割目の水準にあたる。この章の芯は、正社員という一つの括りの中で、下位1割と上位1割で年齢による差の出方がまったく違うということである。ただし、この40〜44歳と50〜54歳の数字はどちらも令和7年時点のもので、同じ人を10年間追跡した数字ではない。

### 正社員の分位数 — 40〜44歳と50〜54歳の差
区分 | 40〜44歳(千円) | 50〜54歳(千円) | 40代前半との差

正社員 第1・十分位(下位1割) | 225.8 | 232.2 | +6.4千円(+2.8%)
正社員 中位数 | 320.7 | 351.1 | +30.4千円(+9.5%)
正社員 第9・十分位(上位1割) | 499.4 | 601.5 | +102.1千円(+20.4%)

正社員の分位数 — 年齢集団間の差 正社員 下位1割 の差

6.4千円
225.8→232.2千円(+2.8%)
正社員 中位数 の差

30.4千円
320.7→351.1千円(+9.5%)
正社員 上位1割 の差

102.1千円
499.4→601.5千円(+20.4%)
非正規 中位数 の差

0.4千円
216.7→217.1千円(+0.4千円=月400円)

出典: 厚生労働省「賃金構造基本統計調査」令和7年(企業規模10人以上・一般労働者・月額所定内給与)。40〜44歳と50〜54歳は同じ令和7年の別の年齢集団であり、横断比較(同じ人の10年間の変化ではない)。非正規の中位数を並記
2025年時点で、正社員の下位1割は50〜54歳が40〜44歳より月6,400円高いだけである。同じ比較で中位数は30,400円、上位1割は102,100円の差がある。「正社員は年功で給料が上がる」という前提は、中位数より上でしか成立していない。50〜54歳の下位1割は232.2千円で、40〜44歳の水準とほぼ変わらない。

### 非正規の分位数 — 中位数の年齢差は月400円
📋 非正規の分位数(詳しい数字) 第1・十分位〜第9・十分位 開く ▾
区分 | 40〜44歳(千円) | 50〜54歳(千円) | 40代前半との差

非正規 第1・十分位 | 166.9 | 168.5 | +1.6千円
非正規 中位数 | 216.7 | 217.1 | +0.4千円(月400円)
非正規 第9・十分位 | 300.3 | 301.6 | +1.3千円

非正規は分位数を問わず、40〜44歳と50〜54歳でほとんど差が無い。中位数の差は+0.4千円、金額にして月400円である。第1・十分位も第9・十分位も1,000円台の差にとどまる。正社員の下位1割(+6.4千円)と比べても、非正規の差はさらに小さい。
正社員の下位1割(50〜54歳232.2千円)と非正規の中位数(50〜54歳217.1千円)の差は月15.1千円まで縮んでいる。「正社員か非正規か」という区分だけでは、実際の生活水準の差を説明しきれない層が存在する。

これは横断データであって追跡データではない
この章の40〜44歳と50〜54歳の数字は、どちらも令和7年(2025年)時点の別々の年齢集団を並べたものであり、同じ人を10年間追いかけた調査ではない。だからここで見えるのは年齢による賃金の形であって、いま40代の人が10年後に同じ差になるという意味ではない。景気・産業構成・その世代固有の事情によって、実際に10年後どうなるかは変わりうる。

### 男女差も分位数の内側にある
性別・区分 | 40〜44歳(千円) | 50〜54歳(千円)

正社員 男性 中位数 | — | 383.6
正社員 女性 中位数 | 283.3 | 296.3

正社員の中位数を男女で分けると、50〜54歳の男性は383.6千円、女性は296.3千円である。女性は40〜44歳の283.3千円に対し50〜54歳は296.3千円で、差はわずか13.0千円である。「正社員の中位数は40〜44歳より50〜54歳で+9.5%高い」という数字は男女計であり、女性だけを見ればその差はさらに小さい。男女計の分位数だけで正社員の実態を語ると、この内側の差が見えなくなる。

### 「年収300万円未満が何%か」は答えられない
この記事が推計値を出さない理由
「正社員のうち年収300万円未満・400万円未満が何%いるか」という問いへの直接の統計は存在しない。理由は二つある。一つは、国税庁「民間給与実態統計調査」に雇用形態と給与階級を掛け合わせたクロス表が無いこと。もう一つは、賃金構造基本統計調査の分位数が月額所定内給与のみで、分位数別の賞与額が公表されていないことである。月額の分位数に賞与の全体平均を単純に足し合わせれば年収の目安は作れるが、それは下位1割の賞与が平均より少ない可能性を無視した計算になり、下位層の年収を実際より高く見せる方向にバイアスがかかる。この記事ではその推計を行わない。
参考値として、正規・非正規を合わせた全年齢の分布では、年収300万円以下が32.0%、400万円以下が47.3%である(国税庁 令和6年分 第16表)。ただしこれは氷河期世代の正社員に限った数字ではなく、全年齢・全雇用形態を合算した値である。この記事の主題である「氷河期世代の正社員の下位層」に当てはめて読むことはできない。

→ 次のSection 8では、金融資産の分布に目を移す。世帯単位でしか比較できないという制約のもとで、貯蓄の歪みを見る。

## 📉 貯蓄の歪み — 平均999万円、中央値120万円、ゼロ35.2%
このセクションの3点
① 単身50代は、金融資産ゼロの世帯が35.2%、中央値120万円、平均999万円。平均は中央値の8.3倍に開いている
② 60代・70代は平均が中央値の3.0〜4.5倍にとどまるのに、40代・50代だけ8.3〜8.6倍。世代全体が沈んだのではなく、同じ世代の中で割れている
③ この調査は世帯単位で、年齢は世帯主の年齢。個人の資産ではない。単位が揃って比べられるのは、世帯の人数が1人に決まっている単身世帯だけ

35.2%
単身50代・金融資産ゼロの世帯

120万円
単身50代・中央値

999万円
単身50代・平均

8.3倍
平均÷中央値

この章には「平均」と「中央値」という2つの数字が出てくる。同じ集団を指していても、意味がまったく違う。
平均は、全員の金額を足して、人数で割った数字である。だから、集団の中に1人でも金額の大きい人がいると、その1人だけで全体の数字が持ち上がる。
中央値は、全員を金額の少ない順に並べて、ちょうど真ん中に来る人の金額を指す。極端に大きい人や小さい人がいても、真ん中の順位そのものは動かない。
だから、「真ん中の人の暮らし」を知りたいときは、平均ではなく中央値を見る。単身50代の平均999万円は、一部の資産が多い世帯が引き上げた数字であり、真ん中の世帯が持っているのは120万円である。

### 年齢別にみると — 平均と中央値の開きが40代・50代だけ大きい
世帯主の年齢 | n | 非保有% | 平均(万円) | 中央値(万円) | 平均÷中央値

20歳代 | 548 | 33.2 | 255 | 37 | 6.9倍
30歳代 | 325 | 32.3 | 501 | 100 | 5.0倍
40歳代 | 324 | 32.1 | 859 | 100 | 8.6倍
50歳代 | 366 | 35.2 | 999 | 120 | 8.3倍
60歳代 | 418 | 30.4 | 1,364 | 300 | 4.5倍
70歳代 | 519 | 20.4 | 1,489 | 500 | 3.0倍
全国(単身) | 2,500 | 30.1 | 919 | 130 | 7.1倍

この表でいちばん強く出ているのは、平均と中央値の開き(平均÷中央値)の違いである。60代は4.5倍、70代は3.0倍で、上の世代はおおむね3〜4.5倍に収まっている。ところが40代は8.6倍、50代は8.3倍と、氷河期世代の中心層を多く含む2つの年代だけ、開きがほぼ2倍に跳ね上がっている。
これは「世代全体の資産が少ない」という話ではない。もしそうなら、平均も中央値もそろって低くなるはずである。実際には中央値だけが低く(100万円・120万円)、平均は上の世代とそう変わらない水準(859万円・999万円)まで来ている。平均は高額を持つ世帯の影響を受けやすく、中央値との大きな差は分布が偏っていることを示す。中央値はあくまで「順位でちょうど真ん中に来る世帯」の金額であり、40代・50代の多数がその金額を持っているという意味ではない。同じ世代の中で、持っている世帯と持っていない世帯に割れているということである。

### 単身50代、実際の分布 — ゼロが35.2%、3,000万円以上が10.4%
単身50代の金融資産分布(n=366) 非保有(ゼロ)

35.2%
100万円未満

10.1%
100〜200万円

7.4%
200〜300万円

4.6%
300〜400万円

2.7%
400〜500万円

3.3%
500〜700万円

4.9%
700〜1000万円

4.6%
1000〜1500万円

6%
1500〜2000万円

3.3%
2000〜3000万円

5.5%
3000万円以上

10.4%
無回答

1.9%

出典: 金融経済教育推進機構(J-FLEC)「家計の金融行動に関する世論調査」令和7年(単身世帯・世帯主50歳代・n=366)
金融資産保有額 | 世帯の割合(%)

非保有(ゼロ) | 35.2
100万円未満 | 10.1
100〜200万円 | 7.4
200〜300万円 | 4.6
300〜400万円 | 2.7
400〜500万円 | 3.3
500〜700万円 | 4.9
700〜1000万円 | 4.6
1000〜1500万円 | 6.0
1500〜2000万円 | 3.3
2000〜3000万円 | 5.5
3000万円以上 | 10.4
無回答 | 1.9

### 単身と二人以上では、まったく違う
同じ50代でも、単身か二人以上かで数字は別物になる
単身50代(n=366)
一人で家計を担う世帯

- ・非保有 35.2%

- ・平均 999万円

- ・中央値 120万円

- ・平均÷中央値 8.3倍

二人以上世帯・世帯主50代(n=1,024)
世帯に複数の収入がある場合を含む

- ・非保有 18.2%

- ・平均 1,908万円

- ・中央値 700万円

- ・平均÷中央値 2.7倍

単身と二人以上では、非保有の割合も中央値も大きく違う。二人以上世帯(世帯主50代)の中央値700万円は、単身の120万円の約5.8倍にあたる。ここから「結婚できたかどうかが資産に効いている」という見方もできるが、この章の数字だけではそこまで言えない。二人以上世帯は世帯としての収入が単純に2人分になりうる一方、単身世帯には単身であることを選んだ人と、結果として単身になった人の両方が含まれており、この調査からは区別できない。この点は次の第9章で扱う。

この数字が意味しないもの
・この調査は世帯単位で行われており、年齢は世帯主の年齢である。個人の資産の統計ではない
・単位が揃って比較できるのは、世帯の人数が1人と決まっている単身世帯だけである。二人以上世帯の数字を、1人あたりの資産として読み替えることはできない
・ここに出した分布は世帯の割合(%)であり、資産の合計額に占める割合ではない。したがって「上位◯%が資産の◯割を持つ」という言い方はこのデータからは出せない

第8章のまとめ
単身50代は、金融資産ゼロが35.2%、中央値120万円という世帯が真ん中にいる一方で、10.4%の世帯は3,000万円以上を持っている。平均は高額を持つ世帯の影響を受けやすく、中央値との大きな差(999万円÷120万円=8.3倍)は分布の偏りを示す。ただし分布表は3,000万円以上を一括りにしており、この上位10.4%の実際の平均保有額や、平均額全体への寄与度までは特定できない。上の世代(60代・70代)では平均と中央値の開きが3.0〜4.5倍にとどまるのに対し、氷河期世代の中心層を多く含む40代・50代だけ8.3〜8.6倍に開いている。世代全体が沈んだのではなく、同じ世代の中で割れたというのが、この章から言える最も確かなことである。

→ 次の第9章「世帯 — 結婚しなかったのか、できなかったのか」では、この資産の差と未婚率の関係を扱う。

## 🏠 世帯 — 結婚しなかったのか、できなかったのか
このセクションの3点
① 50歳時点で一度も結婚していない人の割合(50歳時未婚割合)は、1990年の男5.57%・女4.33%から、2020年には男28.25%・女17.81%まで上がった
② 同じ年齢で比べると、40〜44歳の未婚率は男性が1990年の4.7%から2020年に32.2%へ、約6.9倍になった。50〜54歳では男性は約12.7倍になっている
③ 未婚率の上昇を氷河期だけの結果とは断定しない。ひきこもりの出現率は40〜64歳で2.02%、生活保護の「その他の世帯」は16.0%(261,372世帯)で、いずれも年齢別の内訳は未取得

50歳時未婚割合の推移(1990年→2020年) 男性 1990年

5.57%
女性 1990年

4.33%
男性 2000年

12.57%
女性 2000年

5.82%
男性 2010年

20.14%
女性 2010年

10.61%
男性 2020年

28.25%
女性 2020年

17.81%

社人研「人口統計資料集」2024年改訂版 表6-23(国勢調査ベース)。45〜49歳と50〜54歳の未婚率の平均(旧・生涯未婚率)
年 | 男 | 女

1990 | 5.57% | 4.33%
2000 | 12.57% | 5.82%
2010 | 20.14% | 10.61%
2020(最新の実勢値) | 28.25% | 17.81%

### 同じ年齢階級で1990年と2020年を比べる
年齢階級別の未婚率倍率(1990年→2020年) 男性 40〜44歳

6.9倍
男性 45〜49歳

9.6倍
男性 50〜54歳

12.7倍
女性 40〜44歳

3.9倍
女性 45〜49歳

4.3倍
女性 50〜54歳

3.8倍

同じ年齢階級同士で比較した倍率。社人研「人口統計資料集」2024年改訂版 表6-24
年齢 | 男 1990年 | 男 2020年 | 何倍になったか

40〜44歳 | 4.7% | 32.2% | 約6.9倍
45〜49歳 | 3.1% | 29.9% | 約9.6倍
50〜54歳 | 2.1% | 26.6% | 約12.7倍

年齢 | 女 1990年 | 女 2020年 | 何倍になったか

40〜44歳 | 5.5% | 21.3% | 約3.9倍
45〜49歳 | 4.5% | 19.2% | 約4.3倍
50〜54歳 | 4.4% | 16.5% | 約3.8倍

この上昇を、就職氷河期という一つの原因だけで説明することはしない。未婚率の上昇には、価値観の変化・女性の就業拡大・都市化など、複数の要因が重なっている。この記事が言えるのは、同じ年齢で比べると、男性の未婚率は1990年と比べて2020年には6.9倍から12.7倍になったという事実だけである。
第8章で見た通り、単身50代の金融資産の中央値は120万円、二人以上世帯の50代の中央値は700万円だった。この2つの数字は同じ時期に並んで存在している。「結婚できなかったから貧しい」とも、「貧しいから結婚できなかった」とも、この記事は断定しない。どちらの向きの因果を示す一次資料も、ここには無い。

### ひきこもり
2.02%
40〜64歳の出現率

2.05%
15〜39歳の出現率

こども家庭庁 令和4年度「こども・若者の意識と生活に関する調査」による。ただし標本は小さい。40〜64歳を対象にした調査でひきこもりに該当したのは86人、15〜39歳では144人である。
報道では「合計146万人」という数字が複数の新聞で一致して使われているが、年代別の内訳を示す一次資料には到達できなかった。この記事では人数を断定せず、出現率だけを書く。

### 生活保護
16.0%
被保護世帯に占める「その他の世帯」の割合

26.1万
生活保護「その他の世帯」の世帯数

厚生労働省「被保護者調査」令和7年12月概数による。「その他の世帯」(高齢者・母子・障害者・傷病者のどれにも当てはまらない世帯)の年齢階級別の受給者数は未取得である。氷河期世代がこの中でどれだけの割合を占めるかは、この記事では確認できていない。
同様に、「親と同居している未婚者」の人数についても、統計局の該当資料に到達できず未取得である。

→ 次のSection 10では、氷河期世代の年金がいつ、どれだけの金額で来るのかを見る。

4/5 ⏳ 年金 — 2039年から2048年に来るもの

## ⏳ 年金 — 2039年から2048年に来るもの
このセクションの3点
① 国民年金の老齢年金受給者の平均月額は5万9千円、厚生年金(第1号)の老齢年金受給権者の平均月額は基礎年金を含めて15万円(令和6年度末現在)。満額(月70,608円)を受け取れていない人が多い
② 厚労省が示す「標準的な年金額」月237,279円は、夫が40年就業し妻が全期間専業主婦というモデル世帯の前提で、前章までに見た氷河期世代の分布には当てはまらない人が多い
③ 厚労省年金局の資料には「平成13年度分以前の最終納付率は把握していない」という注記がある。氷河期世代が20代だった時期の納付実態は、国の統計に残っていない

5万9千円
国民年金 老齢年金受給者の平均月額

15万円
厚生年金(第1号) 老齢年金受給権者の平均月額(基礎年金を含む)

70,608円
老齢基礎年金の満額(月額・令和8年度・新規裁定者)

国民年金保険料を全期間(480か月=40年間)納めた場合の満額は、令和8年度で月70,608円(年847,296円)である。実際に受け取っている人の平均が5万9千円にとどまっているのは、満額を受け取れていない人が多いためである。
年金額は次の式で決まる。年金額 = 満額 ×(納付済月数 + 免除月数×調整) ÷ 480月。未納の月がある分だけ、満額から差し引かれる。

### モデル年金の前提を疑う
厚労省の「標準的な年金額」と、前章までに見た氷河期世代の実態
「標準的な年金額」の前提
月237,279円(令和8年度・夫婦2人分の基礎年金を含む)

- ・夫が平均標準報酬(年金の計算に使う、給与をならした額)45.5万円で40年間就業

- ・妻が全期間専業主婦

- ・厚生年金加入期間に空白が無い

前章までに見た氷河期世代の分布
第6〜8章の数字

- ・単身50代の35.2%が金融資産ゼロ(第8章)

- ・正社員でも下位1割は月23.2万円(50〜54歳・第7章)

- ・女性45〜54歳の非正規は52.4%(第6章)

この前提は、単身者や、非正規の期間・未納の期間がある人には当てはまらない。モデル年金の月237,279円が、氷河期世代のうち世代内でどの程度の人に当てはまるかは、この記事では未取得である。

### 記録が無い、という事実
厚生労働省年金局の資料には、「平成13年度分以前の最終納付率は把握していない」という注記がある。氷河期世代が20代だった時期に国民年金保険料をどれだけ納められていたか、その実態は国の統計に残っていない。
ここで書けるのは「記録が無い」ということだけである。だから当時の納付率は低かったはずだ、とは推測しない。

84.5%
国民年金 最終納付率(令和4年度分保険料)

12年連続
最終納付率の改善が続いている年数

直近の納付率は改善が続いている。ただし、この数字は現在の制度運用の結果であって、氷河期世代が若かった時期の納付実態を示すものではない。

### いつ来るか — 2039年から2048年

- 1 2024年

#### 中心層は41〜50歳
内閣官房が定義する就職氷河期世代の「中心層」は、2019年時点で36〜45歳、2024年時点で41〜50歳である。

- 2 2039年

#### 2024年に50歳だった人が65歳になる
中心層のうち最も年上のグループが、先に65歳を迎え年金の受給を始める。

- 3 2048年

#### 2024年に41歳だった人が65歳になる
中心層のうち最も若いグループが65歳を迎えるのは、この年になる。

- 4 2039年〜2048年

#### 中心層が順に65歳を迎える10年間
この期間に、氷河期世代の中心層が入れ替わりながら年金の受給を始めていく。

年齢別・世代別の平均受給額の内訳、および無年金者の推計は、いずれも未取得である。

→ 次のSection 11では、国の支援策が掲げた目標と、実際の実績を比べる。

## 🩹 支援策 — 30万人の目標に対して何人だったか
このセクションの3点
① 骨太方針(政府が毎年6月ごろ閣議決定する、その年の政策の基本方針)2019は「3年間(2020〜2022年度)で中心層の正規雇用者を30万人増やす」という数値目標を掲げた。目標期限時点の同一集計は本稿では未取得で、2019〜2024年の比較では実績は+11万人だった
② 内閣官房自身は「役員に登用される者の大半は前職が正規雇用であることから、実質的には正規雇用者の増加と合わせて評価すべき」という留保を付けている。無業者は2019→2024年の労働力調査特別集計で41万人から44万人へ+3万人、2025年の新プログラム資料(2019年比)では46万人へ+5万人
③ 2026年4月10日に決定した新プログラムは、3本柱の3つ目に「高齢期を見据えた支援」を新設した。理由に国が挙げたのは賃金上昇率の小ささ・金融資産の低さ・持家率の低下である

30万人
骨太方針2019が掲げた目標(2020〜2022年度・3年間で中心層の正規雇用者増)

+11万人
2019→2024年の実績(正規雇用労働者 923万人→934万人)※目標期限時点の同一集計は未取得

+20万人
2019→2024年の役員の増加(52万人→72万人)

+3万人
2019→2024年の無業者の増加(41万人→44万人・労働力調査特別集計)

区分 | 2019年 | 2024年 | 増減 | 基準・資料

正規雇用労働者 | 923万人 | 934万人 | +11万人 | 労働力調査特別集計
役員 | 52万人 | 72万人 | +20万人 | 労働力調査特別集計
自営業主・家族従業者 | 101万人 | 106万人 | +5万人 | 労働力調査特別集計
不本意非正規 | 46万人 | 35万人 | −11万人 | 労働力調査特別集計
非労働力人口 | 210万人 | 174万人 | −36万人 | 労働力調査特別集計
うち無業者 | 41万人 | 44万人 | +3万人 | 労働力調査特別集計(2019→2024年)

国自身が付けた留保
内閣官房の資料は、役員の増加をそのまま成果として数えていない。脚注に次のように記している。「役員に登用される者の大半は前職が正規雇用であることから、実質的には正規雇用者の増加と合わせて評価すべき」。この脚注が言っているのは、役員への登用の多くは元々正規雇用者だった人の異動であり、正規雇用+11万人という数字だけを切り出して見ると、正規から役員への移動をどう扱うかという論点が残るということである。役員+20万人と正規雇用+11万人を単純に合算した数字を、この記事では出さない。

施策 | 実績 | 期間

ハローワークの職業紹介による正社員就職 | 559,459人 | 2020年4月〜2025年2月
正社員への転換 | 145,032人 | 2020年4月〜2025年2月
国家公務員としての採用 | 4,586人 | 2020〜2024年
地方公務員としての採用 | 14,299人 | 2020〜2024年

2025年時点でも、中心層の不本意非正規は33万人残っている。無業者については、上の表の+3万人(41万人→44万人)は2019→2024年の労働力調査特別集計、こちらの46万人(2019年比+5万人)は2025年の新プログラム資料による数字であり、基準日と資料が異なる別々の集計である。目標だった正規雇用の増加は道半ばのまま、支援の枠組みは次の段階に移された。

- 1 2019年

#### 骨太方針2019
「3年間(2020〜2022年度)で中心層の正規雇用者を30万人増やす」と数値目標を設定。対象規模の見込みは合計100万人程度とされた

- 2 2022年

#### 骨太方針2022
第2ステージ(2023〜24年度)として支援を継続する方針を示す

- 3 2024年

#### 骨太方針2024
就職氷河期世代への支援を、中高年施策全体に包含する方針へ転換

- 4 2025年4月

#### 関係閣僚会議を新設
支援の枠組みを見直すための会議体を新たに設置

- 5 2026年4月10日

#### 新プログラム決定
「新たな就職氷河期世代等支援プログラム」を決定。期間は2028年度まで

📉

#### 賃金上昇率が小さい
就職氷河期世代の賃金上昇率が、他の世代より小さいこと

💰

#### 金融資産が低水準
金融資産保有額が低水準の世帯の割合が大きいこと

🏠

#### 持家率の低下
持家率の低下により、高齢期の住宅確保に懸念があること

🤖 Claudeの判定 認めたが、救済ではない
国は2026年4月10日の公式文書で、この世代の老後の不足を自ら認めた。ただし新設された柱の中身は家計改善・資産形成支援・65歳超の就業機会確保・住宅確保支援であって、失われた賃金を戻すものではない。

- 3本柱の3つ目「高齢期を見据えた支援」は2026年に新設された項目である

- 新設の理由として国が挙げたのは賃金上昇率の小ささ・金融資産の低さ・持家率の低下の3点

- 支援の中身は資産形成・就業機会確保・住宅確保であり、正規雇用+11万人(2019〜2024年の実績)で失われた賃金を穴埋めするものではない

この過程で名称も変わった。「就職氷河期世代支援」は「就職氷河期世代等支援」となり、対象は周辺世代へ広がっている。

→ 次のSection 12では、「自己責任」という説明がどこまで成り立つかを、求人総数と賃金分布の数字で確かめる。

## 🧭 自己責任という説明は、どこまで成り立つか
このセクションの3点
① 「就職率9割超だった」は分母が就職希望者であって卒業者ではない。分母を卒業者にすると2003年は27.1%が行き先を持っていなかった
② 「努力すれば正社員になれたはず」に対しては、求人総数そのものが1991年84.0万人から1996年39.1万人へ半分以下になっていたという事実がある。枠の総数は個人の努力の外側で決まる
③ 「今は不本意非正規が少ないから望んでいるはず」は数字としては事実だが、正社員の下位層で年齢による賃金の差がほとんど無いこととは別の問題である。この記事では両方を分けて書く

📊

#### 反論①「就職率は9割超だった」
分母が就職希望者であるため成立しない

🔢

#### 反論②「努力すれば正社員になれた」
求人総数そのものが半分以下だったため成立しない

🤔

#### 反論③「不本意非正規が少ない=望んでいる」
数字は事実。ただし別の問題を覆い隠さない

### 反論① 「氷河期でも就職率は9割超だった」
厚労省・文科省の調査による大卒者の就職率は、氷河期の期間も91〜93%台で推移している。この数字だけを見れば「9割は就職できていた」と読める。だが、この就職率の分母は就職希望者であり、卒業者全体ではない。希望を出さなかった人、出せなかった人は、最初から分母に入っていない。
卒業者を分母に取り直すと、未就職者(一時的な仕事に就いた者と、進学も就職もしていない者の合計)は2003年3月卒でピークの27.1%、14.8万人に達する。大卒者の約4人に1人である。就職率90%超という数字は、この分母の違いによって成立している。

### 反論② 「本人が努力すれば正社員になれたはず」
大卒求人総数の推移 1991年

84万人
求人倍率2.86
1996年

39.1万人
求人倍率1.08

リクルートワークス研究所「大卒求人倍率調査」第42回(2026年4月23日発表)
1991年に84.0万人あった大卒求人総数は、1996年には39.1万人へ半分以下になった。この間、就職希望者は29.4万人から36.2万人へむしろ増えている。枠の数そのものが減っている場合、個人の努力は順位を変えることはできても、枠の総数を変えることはできない。誰か1人が努力して椅子を得れば、別の誰かが座れなくなる椅子取りゲームの椅子そのものが減っていた、ということである。

### 反論③ 「不本意非正規が少ないのだから、望んで非正規をやっているのだろう」
7.6%
35〜44歳の不本意非正規比率(2025年)

9.2%
45〜54歳の不本意非正規比率(2025年)

10.7%
25〜34歳の不本意非正規比率(参考・若い世代のほうが高い)

この反論の前半は、数字としては事実である。氷河期世代の中心層を多く含む35〜44歳・45〜54歳の不本意非正規比率は7.6%・9.2%で、若い25〜34歳の10.7%より低い。この記事は、この不都合な数字を隠さず出す。
ただし、この事実は別の問題を覆い隠さない。2025年時点で、正社員でも下位1割の所定内給与は40〜44歳から50〜54歳にかけて月6,400円(+2.8%)高いだけで、非正規の中位は同じ比較で月400円しか差が無い(同じ人を追跡した数字ではなく、同じ年の別の年齢集団を比べた横断データである)。単身50代の35.2%は金融資産を保有していない。「望んで非正規を選んでいる人が多い」ことと、「正社員の下位層で年齢による賃金の差がほとんど無い」ことは、別の論点として分けて扱う。

### ネットに出回る数字の訂正
この記事が採用しなかった数字
ネット上には「2003年の就職率は55.1%だった」という数字が出回っている。だが厚労省・文科省の一次データでは同年の就職率は92.8%であり、55.1%という数字とは整合しない。出典を裏取りできなかったため、この記事では採用しない。
同様に「2000年の未就職率32.4%」という数字も、一次資料とは矛盾する。一次資料が一貫して示しているのは2003年3月卒の27.1%がピークという系列であり、この記事はこちらの数字だけを使う。誤情報の訂正も、この記事の仕事の一部である。

この章が書かないこと
ここまでの3つの反論の検証から言えるのは、求人の枠の数は、個人の努力の外側で決まっていたという事実までである。「だから本人たちは何も悪くない」という結論をこの記事は書かない。同じ条件の中でも結果には個人差があり、それが無かったとは言えないためである。

→ 次のSection 13では、誰が得をしたかを、企業側の数字(内部留保・労働分配率)で確かめる。

## 🏢 誰が得をしたか — 同じ30年の、もう一方の数字
このセクションの3点
① 財務省「法人企業統計」(金融業・保険業を除く全産業)で見ると、2012年度から2024年度の12年で企業の売上高は+23.1%、経常利益は+136.5%(65年分の統計で過去最高の114.7兆円)。一方、稼いだ付加価値のうち人に払われた割合(労働分配率)は72.3%から64.2%へ8.1ポイント下がった
② 同じ期間、配当金は年26.2兆円から40.1兆円へ増え、利益剰余金(会社が稼いだお金のうち、配らずに社内に積み上げた残高。いわゆる内部留保)の残高は484.4兆円から637.5兆円まで積み上がった
③ この章はこの数字を並べるだけで、「氷河期世代の賃金がここに流れた」とは言わない。法人企業統計は世代別の内訳を持たないため、その因果は今回の材料では判定できない

この章で見てほしいのは、企業の利益は大きく増え、そのうち人に配られる割合は下がった、という並びだけです。

ここまでの章は、氷河期世代の個人の側から見た数字だった。入口が閉じ、非正規に押し込まれた層があり、正社員の下位1割は40〜44歳と50〜54歳でほとんど賃金の差が無かった。ここでもう一方の数字を見る。同じ日本経済の、同じ期間で、企業の側に何が起きていたかである。
先に断っておく。この章は「企業が氷河期世代から搾取した」という話を組み立てるためのものではない。財務省「法人企業統計」は企業全体の集計であり、世代別の内訳を一切持たない。だから、ここに出てくる数字を氷河期世代の賃金と直接つなぐことはできない。できるのは、同じ期間のもう一方の側で何が増え、何が減ったかを並べることまでである。

### 同じ24年でみる配当・経常利益・人件費 — 2000年度→2024年度
財務省「法人企業統計」(金融業・保険業を除く全産業)から2000年度・2005年度・2010年度・2015年度・2020年度・2024年度の6時点を確定取得した。同じ24年間で、配当金・経常利益・人件費(役員と従業員の合算)がそれぞれどれだけ動いたかを並べる。

項目 | 2000年度 | 2024年度 | 倍率

配当金 | 4.83兆円 | 40.07兆円 | 約8.3倍
経常利益 | —(未取得) | 114.7兆円 | 約3.2倍
人件費(役員+従業員の合算) | 202.5兆円 | 229.35兆円 | 約1.13倍

2000年度→2024年度の24年で、何が何倍になったか 配当金

8.3倍
4.83兆円→40.07兆円
経常利益

3.2倍
約3.2倍(2024年度114.7兆円)
人件費(役員+従業員)

1.13倍
202.5兆円→229.35兆円

出典: 財務省「法人企業統計」(金融業・保険業を除く全産業)。2000/2005/2010/2015/2020/2024年度の6時点を確定取得。人件費は役員給与・役員賞与・従業員給与・従業員賞与・福利厚生費の合算
同じ24年間で、配当は8.3倍、経常利益は約3.2倍に増えた一方、人件費(役員と従業員を合わせた金額)は約1.13倍にとどまっている。これが第13章の芯になる数字である。ここから期間を絞り、直近12年・直近4年でも同じ形が続いているかを見る。

### 売上・利益・労働分配率 — 2012→2024年度
労働分配率とは何か
企業が事業活動で生み出した付加価値(粗利にあたるもの)のうち、どれだけの割合が人件費として人に払われたかを示す指標である。労働分配率が下がったからといって、必ずしも人件費の金額そのものが減ったわけではない。企業が稼いだ付加価値の総額(分母)が大きくなれば、人件費(分子)が同じ、あるいは多少増えていても、割合としては下がる。この章の数字を読むときは、この点を必ず踏まえる必要がある。

年度 | 売上高(兆円) | 経常利益(兆円) | 労働分配率

2012 | 1,375 | 48.5 | 72.3%
2015 | 1,432 | 68.2 | 67.5%
2019 | 1,482 | 71.4 | 68.6%
2020 | 1,362 | 62.9 | 71.5%
2022 | 1,578 | 95.3 | 67.5%
2024 | 1,692 | 114.7(過去最高) | 64.2%

2012年度→2024年度の12年で何が動いたか 売上高

+23.1%
1,375兆円→1,692兆円(+23.1%)
経常利益

+136.5%
48.5兆円→114.7兆円(+136.5%)
労働分配率

-8.1%
72.3%→64.2%(-8.1pt)

出典: 財務省「法人企業統計」令和6年度(金融業・保険業を除く全産業、公表2025年9月1日)。売上高・経常利益は増減率(%)、労働分配率はポイント差(pt)。単位が異なる3指標を同じ軸に並べているため、値の大小そのものを比較する図ではない。向き(増えたか減ったか)を見るための図として読む
2012年度から2024年度の12年間で、企業の売上高は+23.1%、経常利益は+136.5%に伸びた。114.7兆円という2024年度の経常利益は、財務省が公表している65年分の統計の中で最も高い。一方、労働分配率は72.3%から64.2%へ8.1ポイント下がっている。企業が稼ぐ金額そのものは大きくなり、その中で人に配分される割合は縮んだ。これが同じ12年間に起きたことである。

### 配当と利益剰余金(内部留保) — 2020→2024年度
年度 | 当期純利益(億円) | 配当金(億円) | 配当性向 | 利益剰余金残高(億円)

2020 | 385,357 | 262,437 | 68.1% | 4,843,648
2022 | 744,219 | 325,691 | 43.8% | 5,547,777
2024 | 896,453 | 400,747 | 44.7% | 6,375,316(約637.5兆円)

配当性向(もうけのうち株主に配った割合)は2020年度68.1%から2024年度44.7%へ動いている。配当金は2020年度の26兆2,437億円から2024年度の40兆747億円へ増えた。利益剰余金(いわゆる内部留保)の残高は484兆3,648億円から637兆5,316億円まで積み上がっている。この4年間だけでも、企業が稼いだ利益のうち株主への配当と社内への蓄積に回った金額は、いずれも増加を続けている。

この章で断定してはいけないこと
・法人企業統計は世代別の内訳を持たない。だから「氷河期世代の賃金が企業の内部留保になった」とは、この記事の材料では言えない
・書けるのは「同じ期間に、企業の利益は増え、付加価値のうち人に配られる割合(労働分配率)は下がった」という並置までである
・労働分配率の低下は、分子(人件費)が減ったことだけでなく、分母(付加価値)が増えたことによっても起きる。人件費の絶対額が減ったとは限らない
・1990年度・1995年度は未取得(NDL WARPの該当アーカイブがJavaScript必須のため到達できなかった)。「1990年から◯倍」という書き方はしない
・人件費は役員給与・役員賞与・従業員給与・従業員賞与・福利厚生費の合算のみが公表されており、役員と従業員の内訳は全年度で未取得。配当が8.3倍・人件費が1.13倍という数字から「役員だけが増えた」とは書けない

🤖 Claudeの判定 判定できない
企業側の数字は「並置」までしか作れない。「誰が得をしたか」への直接の答えは、今回の材料からは出せない

- 経常利益+136.5%・労働分配率-8.1pt・内部留保637.5兆円という数字自体は一次統計で確認できる

- 法人企業統計に世代別の内訳が無いため、この数字と氷河期世代の賃金停滞を因果でつなぐ根拠は無い

- 労働分配率の低下が人件費の減少によるものか付加価値の増加によるものかも、この統計だけでは切り分けられない

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「誰が得をしたか」という問いに対して、この章が示せるのは「企業の利益と内部留保が増え、同じ期間に労働分配率は下がった」という事実の並びだけである。これは氷河期世代の賃金がどこかに消えたことの証明にはならない。人件費以外の設備投資・M&A・海外展開・単なる利益の積み増しなど、他の説明も同じ数字と矛盾しない。因果を主張するには、世代別・年齢階級別の人件費配分データが必要だが、今回の一次資料の範囲では取得できなかった。

「判定できない」と分かること自体に意味がある。企業のもうけが増えて、働く人に配られる割合が下がった、という2つは同時に起きている。ただしその減った分が氷河期世代の賃金だったかどうかは、この統計では区別できない。世代別の内訳を政府が集計していないからである。

→ 次のSection 14では、氷河期世代のすぐ下の世代(1990年生まれ前後)が、何を免れたのかを見る。

5/5 🪞 下の世代が免れたもの — 1990年生まれの場合

## 🪞 下の世代が免れたもの — 1990年生まれの場合
このセクションの3点
① 1990年生まれが浪人・留年なしで大学を出るのは2013年3月卒あたり(高卒なら2009年3月卒)。この年の求人倍率は一次資料の表に無いため使わない。表にある最も近い2011年3月卒は1.28倍で、氷河期世代の底だった2000年3月卒の0.99倍より高かった
② 未就職者の割合は2003年3月卒27.1%(過去最高)から2011年3月卒19.4%、2020年3月卒は約2.0%まで下がった。一方で就職率という指標だけを見ると2011年3月卒は91.0%でこの系列の最低にあたる
③ 金融資産の残高は、単身世帯で見ると30代(中央値100万円)と50代(中央値120万円)でほとんど変わらない。違うのは残高ではなく、これから積める年数である

ここまでの章は、就職氷河期世代の中心層(2026年時点でおおむね41〜52歳)を見てきた。この記事の依頼者は1990年生まれで、2026年時点で35〜36歳。浪人・留年が無ければ大学は2013年3月卒、高校卒業なら2009年3月卒にあたり、政府が定義する氷河期世代(概ね1993〜2004年に卒業期を迎えた者)には含まれない。
この章は、依頼者を含む「すぐ下の世代」が何を免れたのかを、同じ一次資料の数字で並べる。説教はしない。同情もしない。数字だけを置く。

### 入口の倍率 — 底からどれだけ離れていたか
2013年3月卒の求人倍率は、リクルートワークスの一次資料の表には無い。この記事では表に無い年の数値を作らないため、2013年の値は書かない。2012年3月卒の値も同じ表には無く、同様に書かない。
使えるのは表にある年だけである。1990年生まれの卒業年に最も近いのは2011年3月卒(1.28倍)と2010年3月卒(1.62倍)で、いずれも氷河期世代の底だった2000年3月卒(0.99倍・統計開始の1987年以降で唯一の1倍割れ)を上回っている。

卒業年 | 求人倍率 | 求人総数 | 就職希望者数

2000(氷河期世代の底) | 0.99 | 407,800 | 412,300
2010 | 1.62 | 725,300 | 447,000
2011(1990年生まれの卒業年に近い) | 1.28 | 581,900 | 455,700
2026(現在) | 1.66 | 764,800 | 460,800

大卒求人倍率(卒業年別) 2000年3月卒

0.99倍
2010年3月卒

1.62倍
2011年3月卒

1.28倍
2026年3月卒

1.66倍

出典: リクルートワークス研究所「大卒求人倍率調査」第42回。2012・2013年の値は同資料の表に無いため使わない。

### 就職率という指標が隠していたもの
就職率だけを見ると、下の世代のほうが低い年がある。2000年3月卒の就職率は91.1%、2011年3月卒は91.0%で、厚労省・文科省の同じ調査の系列の中では2011年3月卒がむしろ最低にあたる。就職率という一つの指標だけでは、下の世代のほうが恵まれていたとは言えない。
ただしこの就職率の分母は「就職希望者」であり、進学も就職もしなかった人は最初から含まれない。分母を卒業者全体に近づけた「未就職者(一時的な仕事に就いた者+進学も就職もしていない者)」の割合で見ると、2003年3月卒が27.1%(過去最高)、2011年3月卒は19.4%、参考値として2020年3月卒は約2.0%まで下がっている。

27.1%
未就職者割合 2003年3月卒(一次資料の中で最高)

19.4%
未就職者割合 2011年3月卒

約2.0%
未就職者割合 2020年3月卒(参考)

### 残高はほとんど変わらない、変わるのは残り時間
金融資産の面ではどうか。J-FLEC令和7年調査の単身世帯・年代別を見ると、30歳代(n=325)は非保有32.3%・平均501万円・中央値100万円。50歳代(n=366)は非保有35.2%・平均999万円・中央値120万円である。
非保有の割合はどちらも3割台で大きくは変わらない。中央値も100万円と120万円で、単身世帯の真ん中の人の残高としてはほとんど変わらない。平均額の差(501万円と999万円)は、上位一部の保有額が押し上げている数字であり、第8章で見た「平均は真ん中の暮らしではない」という構造は30代でも同じである。
違うのは今の残高ではなく、そこから積み増せる年数である。30代にはまだ20〜30年あり、50代には無い。

単身世帯で並べる — 1990年生まれ/氷河期世代
1990年生まれ(35〜36歳・単身なら30代のデータに近い)

- ・求人倍率(2011年3月卒に近い) 1.28倍

- ・就職率(2011年3月卒) 91.0%(この系列の最低)

- ・未就職者割合(2011年3月卒) 19.4%

- ・非正規比率(35〜39歳・男女計) 24.1%

- ・金融資産 非保有(単身30代) 32.3%

- ・金融資産 中央値(単身30代) 100万円

就職氷河期世代(単身50代のデータ)

- ・求人倍率(2000年3月卒) 0.99倍(統計開始以来唯一の1倍割れ)

- ・就職率(2000年3月卒) 91.1%

- ・未就職者割合(2003年3月卒) 27.1%(一次資料の中で最高)

- ・非正規比率(45〜54歳・男女計) 29.7%

- ・金融資産 非保有(単身50代) 35.2%

- ・金融資産 中央値(単身50代) 120万円

### 非正規という入口の外側
非正規比率(2025年・男女計)で見ても、35〜39歳は24.1%、氷河期世代の中心層を多く含む45〜54歳は29.7%である。差はあるが、どちらも4人に1人前後は非正規で働いている。非正規という働き方そのものが下の世代から消えたわけではない。

この章で言えること・言えないこと
一次資料の表にある数字だけから言えるのは次の4点である。①入口の求人倍率は、1990年生まれの卒業年に近い年(2011年1.28倍・2010年1.62倍)のほうが氷河期世代の底(2000年0.99倍)より高かった。②未就職者の割合は2003年の27.1%から2011年の19.4%、2020年の約2.0%へ下がった。③それでも金融資産の残高は、単身世帯の中央値で見ると30代100万円・50代120万円とほとんど変わらない。④両者を分けているのは今の残高ではなく、これから積み増せる年数である。
ここから「下の世代は恵まれている」とは書かない。書けるのは、入口の数字が違ったという事実と、資産の数字がまだ揃っていないという事実の両方である。

→ 次の第15章では、3つのレビューでこの記事のどこが崩れたかを記録する。

## 🧪 3つのレビューで、この記事のどこが崩れたか
このセクションの3点
① この記事は公開前に3つのレビューを通した。何も知らない高校生に読ませるレビュー2本、Codexによる事実と計算のレビュー1本、実際の画面を見るデザインレビュー1本
② Codexに最大の誤りを見つけられた。賃金の章で「同じ人の10年の変化」として書いていた数字は、実は同じ年の別の年齢を並べたものだった。仕様書の段階で私が間違えていたので、全章がその誤りに従っていた
③ 結果として主張の判定を3つ下げた。支持される4だったものが2になり、判定できないが1から2に増えた

ここは記事の付録である。第14章までで結論はすべて出ている。この章は、どうやってその結論に辿り着いたか、途中で何を間違えたかの記録である。

レビュー | 誰が | 何を見たか | 結果

高校生レビュー その1 | 記事の意図を知らない別のエージェント | 本文のテキストだけ(表もグラフも見えない状態) | 内容 38点
高校生レビュー その2 | 同上(別インスタンス) | 同上 | 内容 45点
クロスレビュー | Codex(gpt-5.6-terra) | 本文と、数値の正本にした仕様書の突き合わせ | 重大6件・中7件・軽微2件
デザインレビュー | Claude(実ブラウザで目視)+機械チェック | 390pxと1280pxの実画面 | 本文下に記載

### Codexに崩されたもの
🤖 Codexの判定 重大な誤り
横断統計を「同じ人の10年の変化」として書いていた

- 賃金構造基本統計調査 令和7年の「40〜44歳」と「50〜54歳」は、2025年という同じ年に調査した別の年齢集団である

- 同じ人を10年追いかけたデータではないので、「10年で月6,400円しか増えていない」とは書けない

- 書けるのは「2025年時点で、50代前半は40代前半より6,400円高いにとどまる」という年齢間の差だけ

- この誤りは私が仕様書に「10年の伸び」と書いたところから始まっており、章を書いた全員がそれに従っていた

くわしい根拠を読む ▾閉じる ▴
年齢による賃金の形(年齢賃金カーブ)が下位層で平らであることは事実として言える。ただしそれは「いま40代の人が10年後にどうなるか」の予測ではない。この区別を落としたまま「賃金が上がらなかった」を支持されると判定していたので、判定を半分支持されるに下げた。

# | 指摘 | ランク | どう直したか

1 | 横断統計を10年の変化として書いていた | 重大 | 全章の「10年で」を年齢間の差の言い方に変え、統計の性質の説明を第7章に足した。判定4を支持されるから半分支持されるへ
2 | 「老後が成立しない」の根拠が世代別ではない | 重大 | 月5万9千円は現在の受給者全体の平均で、この世代の将来額ではない。判定6を半分支持されるへ下げた
3 | 第11章で無業者の数が章内で食い違う | 重大 | 41万→44万(+3万人)は2019→2024年の労働力調査特別集計、46万人(+5万人)は2025年の新プログラム資料。基準日と資料名を添えて併記した
4 | 3年間の目標に5年間の実績を当てていた | 重大 | 目標期限時点の同一集計は未取得と明記し、2019〜2024年の比較であると書き直した
5 | 役員20万人についての国の留保を逆向きに使っていた | 重大 | 国の脚注は「実質的には正規雇用者の増加と合わせて評価すべき」であり、足せないという結論の根拠にはならない。脚注を正確に紹介する形に直した
6 | 「平均は上の1割が作った数字」は特定できない | 重大 | 分布表は3,000万円以上を一括りにしており、上位10.4%の平均額も平均への寄与も分からない。「分布が偏っていることを示す」に改めた
7 | 「行政統計だけで確かめた」は事実と違う | 中 | リクルートワークス研究所・金融経済教育推進機構・社人研は行政機関ではない。「公的機関と調査実施機関の一次資料」に直した
8 | 「正社員を減らさず採用で調整した」を実証済みのように書いていた | 中 | 1990年代の企業が実際にどう調整したかの一次資料は未取得。判定2を判定できないへ下げた
9 | 派遣法の拡大を「閉じた入口の代わり」と因果で書いていた | 中 | 同時期に対象範囲が広がった、までに留め、代替関係は判定しないと書いた
10 | モデル年金を「世代の上のほう」と位置づけていた | 中 | 世代内でどの程度の人に当てはまるかは未取得、に直した
11 | 「40代・50代」をそのまま氷河期世代として扱っていた | 中 | 「中心層を多く含む40代・50代」に統一した
12 | 第10章の見出しの年が本文と矛盾(2035〜2045 対 2039〜2048) | 中 | 見出しを2039年から2048年に直した
13 | 非正規の理由を「家庭内の役割分担」と解釈していた | 軽微 | 回答として選ばれた選択肢を並べるだけに留めた
14 | 主タスクへの直接回答が第6章まで出てこない | 軽微 | 第1章に、非正規の月額と賞与の実額を置いた

判定はこう変わった
Codexに見せる前

- ・支持される 4

- ・半分支持される 2

- ・判定できない 1

- ・(入口・賃金・貯蓄・老後の4つを支持されると判定していた)

レビュー後

- ・支持される 2

- ・半分支持される 3

- ・判定できない 2

- ・(残ったのは入口と貯蓄の2つ)

### 高校生2人が、同じ場所で読むのをやめた
内容の点数は38点と45点だった。点数そのものは追いかけない。過去に同じ記事で58点・62点・42点と振れたことがあり、レビュアーは毎回別で基準が揃わないからである。信用できるのは、2人が同じ箇所を指摘したものだけである。

2人とも言ったこと | どう直したか

専門用語がその場で説明されない。中央値の説明が第8章まで出てこない | 初めて出てくる場所にカッコ書きの説明を入れた。中央値・分位数・所定内給与・労働分配率・内部留保・配当性向・骨太方針・判例法理・ネガティブリスト・標準報酬など
第1章の大きな表が入り口にあり、そこで挫折する | 表の前に、専門用語をひとつも使わない3行の答えを置いた。表は上から4行だけにして、残りは折りたたみへ退避した
第4章(法律)・第5章(派遣法の年表)・第7章(分位数)で読むのをやめたくなる | 各章の冒頭に「この章で見てほしいのはここだけ」の1行を足した。派遣法の年表は1985年・1999年・2004年の3つだけを残し、残りを折りたたみへ
第13章が「判定できない」で終わって肩透かし | 判定できないと分かること自体の意味を1段落足した
「断定しない」「言えない」の繰り返しで疲れる | 留保を消すことはしなかった。ただし置き場所を整理し、本文の流れを止めない位置に移した

2人とも面白いと言ったもの(だから削らなかった)
単身50代の35.2%が金融資産ゼロなのに、同じ50代の10.4%は3,000万円以上を持っているという話。ネットに出回っている数字(2003年の就職率55.1%、2000年の未就職率32.4%)が一次資料と合わないので使わなかったという話。第1章の図。そして1990年生まれとの比較。
1人はこう書いた。「就職する年によって人生が大きく変わる、というのは少し怖いと思った」。

### 私の誤りは、いつも同じ2種類だった

#### 型A:自分の記述どうしの食い違い
第11章で無業者を+3万人と+5万人の両方で書いた。第10章の見出しは2035〜2045年なのに本文は2039〜2048年だった。要約を先に書いて、あとから本文を直すと必ずこれが起きる。

#### 型B:確認していないことの断定
「正社員を減らさず採用で調整した」「派遣は閉じた入口の代わりに開いた」「平均は上の1割が作った」。どれも、そう読める資料はあるが、そう書ける資料は無かった。

今回はもう1種類あった。統計の作りを取り違えたまま、全員にそれを配ってしまうという誤りである。私は仕様書に「10年の伸び」と書いた。章を書いたエージェントは仕様書の数値をそのまま使うよう指示されているので、誰も疑わなかった。正本を作る側が間違えると、下流の全員が同じ方向に間違える。これは分担して書くことの代償である。
だからCodexのように、記事の作り方を知らないまま数字と原資料だけを突き合わせる目が要る。今回はそれで6件の重大な誤りが見つかった。

この記事はここで終わり。全15章。数字の出典はすべて本文中に書いてある。取れなかったものは「未取得」と書いてあるので、続きを調べる人はそこから始めてほしい。

以上。出典は各章に書いた。取れなかったものは本文に「未取得」と書いてあるので、続きを調べる人はそこから始めてほしい。