さとまたwiki

🎁 日本人の喜び — ボーナスは何に化けるのか

50万、100万、200万、300万。まとまった金が入った瞬間、人は実際に何をするのか。男女・年代・子どもの有無で、その金は誰の財布になるのか。アンケートの「貯蓄します」という建前ではなく、家計調査の実支出で追った。結論から言うと、日本人がボーナスで買っているものの多くは、モノではなく「先送りしていた何か」の解放だった。

💴 結論 — 金額帯別 ボーナスの使い道マップ

このセクションの4点

① 「金額帯別に何に使うか」を直接調べた一次調査は日本に存在しない。この章の4枚のカードは複数の統計を組み合わせた本記事の合成である

② 依頼された4条件(金額別・男女別・年代別・子の有無)のうち3つには答えがあった。ただし男女別・年代別の集計は2016〜2018年の調査にしか載っておらず、2019年以降は公表が止まっている

③ 支給額の分布で見ると、200万円以上をもらっている人はPonta調査でわずか3.9%にとどまる

④ 「300万円のボーナス」は統計上の区分として存在しない。公的・民間の調査で測られているのは200万円までである

先に断っておく。「50万円もらった人は何に使うか」「200万円もらった人は何に使うか」を、支給金額で分けたうえで直接たずねた一次調査は、日本には存在しない。日本生命もPontaリサーチも、支給金額別の使い道クロス集計を公表していない。

そのため以下の4枚のカードは、①その金額帯を実際にもらっているのはどんな勤務先の人か(資本金・事業所規模の平均賞与から)と、②属性別に見えている使い道の全体傾向、の2つを重ね合わせた本記事による合成である。金額帯そのものを対象にした直接の集計結果ではない。割合に幅がある理由と、推定にとどまる範囲は、カードの下にまとめて書いた。

75万円

賞与の平均支給額(国税庁 令和6年分・全給与所得者、賞与ゼロ含む)

3.9%

支給額「200万円以上」と回答した人の割合(Ponta 2026年6月調査)

18.4%

令和3年に賞与を支給しなかった企業の割合(厚労省 就労条件総合調査・制度なし+制度ありだが不支給)

+1.1%

実質賞与の10年伸び率 2015→2024(本記事の試算・国税庁データをCPIでデフレート)

夏のボーナスはいくら支給されたか(世帯あたり・回答者の分布)
20万円未満
19.7%
20〜40万円未満
19.9%
40〜60万円未満
19.9%
60〜80万円未満
13.4%
80〜100万円未満
10.3%
100〜120万円未満
6.3%
120〜140万円未満
2.8%
140〜160万円未満
1.5%
160〜180万円未満
1.2%
180〜200万円未満
1%
200万円以上
3.9%

この区分から上は測られていない

株式会社ロイヤリティマーケティング「第64回 Ponta消費意識調査」(2026年6月26日発表、2026年5月調査、支給額の回答 n=1,018)。母集団はPontaリサーチ会員であり、無作為抽出ではない。最上位の区分が「200万円以上」で打ち止めのため、そこから上がどう分布しているかは、この調査では測られていない。

🪙

〜50万円

該当 約40〜60% / 解放するもの=不安の軽減

典型的な勤務先:個人事業(平均26.3万円)/資本金2,000万円未満(36.3万円)/事業所規模1〜29人(20.7万〜46.6万円)

使い道の中心:生活費の補てん・貯蓄。全体の1位は日本生命調査で「生活費の補てん」19.8%、Ponta調査で「貯金・預金」47.9%である

💴

50〜100万円

該当 約24〜44% / 解放するもの=不安の軽減+関係の維持

典型的な勤務先:資本金2,000万〜10億円未満(60.9万〜83.4万円)/事業所規模30〜999人(61.2万〜84.6万円)。全体平均74.6万円もこの帯に収まる

使い道の中心:全体順位がそのまま当てはまりやすい帯。生活費の補てん19.8%・国内旅行16.0%・買い物14.1%

💰

100〜200万円

該当 12.8% / 解放するもの=時間の回復+自己像の更新

典型的な勤務先:資本金10億円以上(平均156.9万円)/事業所規模1,000人以上(106.8万〜110.6万円)

使い道の中心:大企業・大規模事業所が中心の帯。貯蓄・資産形成の絶対額は大きくなりやすいが、使い道そのものの直接データはない

🏔️

200万円以上

該当 3.9% / 解放するもの=自己像の更新

典型的な勤務先:該当する「平均」の区分が存在しない。資本金10億円以上の企業平均(156.9万円)ですら届かず、業績連動賞与や特別加算など個人差の大きい支給とみられる

使い道の中心:趣味・投資・挑戦に回る余地が相対的に大きいと考えられるが、実測データはない

依頼された4条件への回答一覧 — 何が分かっていて、何が分かっていないか

この記事は「金額別・男女別・年代別・子どもの有無別に、何に使っているか」を調べたものである。条件ごとに、いま公表されている一次情報でどこまで言えるかを1つの表にまとめた。「公表なし」と書いた欄は、探して見つからなかったのではなく、その集計自体が公表されていないことを確認した欄である。

依頼された条件使い道について分かっていること金額について分かっていること直接調べた調査があるか
金額帯別
(50・100・200・300万円)
使い道そのものは公表なし。ただし「貯蓄の手段」だけは金額帯別に判明。支給額が上がると預貯金が81.3%→67.8%に下がり、株式が3.7%→11.5%に上がる(日本生命2016年)分布は判明(20万円未満19.7%〜200万円以上3.9%)。300万円は区分そのものが存在しない部分的にあり(貯蓄手段のみ)
男性・女性判明した。ローンの返済は男性10.3%・女性5.7%、海外旅行は女性12.1%・男性6.3%、買い物(贅沢品)は女性14.9%・男性9.5%(日本生命2018年・n=1,217)。ただし2019年以降この集計は公表されていない男性96万円/女性47万円(国税庁 令和6年分)。10年の実質伸びは男性▲0.2%/女性+11.0%(本記事の試算)あり(2016・2017・2018年版のみ)
年代別
(20〜50代)
貯蓄に回す割合と「貯金しない理由」は年代別に判明。30代は投資が29.7%で最多、60代以上は買い物・旅行が27.2%で最多年代×男女の支給額が判明(50代男性76.1万/50代女性48.2万など・日本生命2024年)あり(ただし使い道の細目までは分かれていない)
子どもあり・なしこの条件だけ直接判明。子育て世帯は1位 生活費23.4%/2位 国内旅行14.1%/3位 教育費12.9%。全体は1位 生活費19.8%/2位 国内旅行16.0%/3位 買い物14.1%扶養する子の有無による支給額の差は公表なしあり(日本生命2024年・扶養対象の子ありで集計)
(条件によらず全員)賞与月に実際に増えた費目は判明。家具・家事用品1.25倍/被服1.23倍/パック旅行1.22倍/交際費1.18倍。固定費は動かない平均75万円(国税庁・賞与ゼロの人も含む)。約18.4%の企業は賞与を支給していないあり(総務省 家計調査から本記事が計算)

📎 この表の読み方 — 答えは「古い調査の中」に埋まっていた

依頼された4条件のうち、使い道を直接調べた調査があるのは男女別・年代別・子どもの有無の3つである。金額帯別だけは、使い道そのものの集計が存在しない(貯蓄の手段に限れば判明する)。

ただし注意が要る。男女別と年代別の集計は、2016年から2018年の調査にしか載っていない。日本生命は2019年以降この内訳の公表をやめており、直近の姿は分からない。つまり「日本人が賞与を何に使うか」は、かつては属性別に測られていたのに、いまは測られていない

そこで本記事は2つの道を併走させる。1つは属性別の調査が生きていた年のデータを掘り出すこと。もう1つは、条件によらず全員に共通して観測できる「賞与月に実際に何が増えたか」を家計調査で実測することである。後者が次の第2章になる。

割合に幅がある理由。Ponta調査の区分は「40〜60万円未満」で1つにまとまっており、50万円で切ることができない。そのため〜50万円は「20万円未満19.7%+20〜40万円未満19.9%」を下限、これに40〜60万円未満19.9%を全て足したものを上限とした。50〜100万円も同じ理由で幅を持つ。100〜200万円だけは区分の境界と一致するため、単純合算のみで幅が生じない。

「使い道の中心」は推定である。金額帯別の使い道を直接集計した調査は存在しないため、属性別に見えている全体傾向を当てはめた。帯ごとの実測ではない。

「300万円のボーナス」は、統計上の区分として存在しない。Ponta消費意識調査の支給額の選択肢は「200万円以上」が最上位で打ち止めになっており、そこから上がいくらなのかは調べられていない。国税庁・厚生労働省・経団連の各統計にも、200万円を超える個人の分布を示すものはない。300万円という金額が語られるとしたら、それは統計ではなく個別の体験談である。

→ 次の第2章では、賞与月に実際に売れたもの・支出が伸びたものを、アンケートではなく販売と家計の記録から並べる。

🛍️ 実際に買われている喜びの実物リスト

このセクションの3点

① 家計調査の品目分類(小分類まで・全57品目)で賞与月と平常月を比べると、冷暖房用器具が2.209倍でもっとも伸びる。ただしこの品目は季節要因がもっとも強く、賞与の効果とは言い切れない

② 男性用下着類1.587倍・男性用シャツ・セーター類1.538倍は、大分類「被服及び履物」1.234倍より明確に強く伸びている。賞与月には男性の衣類が買い替えられている

③ 家事サービスは1.220倍。家事代行など、他人に家事を任せる支出そのものが賞与月に増えている

アンケートの「ボーナスで旅行に行きたい」という回答には、建前や願望が混ざる。ここで見るのは、実際に金が動いた記録だけである。総務省統計局「家計調査」は、支出を品目分類の小分類(最大185品目)まで公表している。この章では、その小分類まで降りて、賞与月(6月・7月・12月)に実際に伸びていた具体物を見る。

方法は単純だ。賞与月平均(6・7・12月の平均)を平常月平均(2・9・10月の平均)で割り、倍率を出す。対象は2018・2019・2022・2023・2024年の5年分(コロナ期の2020・2021年は除く)。全57品目のうち、金額が小さく倍率が不安定なものを除いて意味のある品目を選び、倍率が高い順に並べた。

品目別 賞与月の伸び率(家計調査・小分類)
冷暖房用器具
2.209倍

1,035円 → 2,288円

男性用下着類
1.587倍

241円 → 382円

男性用シャツ・セーター類
1.538倍

515円 → 792円

家庭用耐久財(計)
1.372倍

3,638円 → 4,991円

寝具類
1.276倍

730円 → 931円

贈与金
1.241倍

5,398円 → 6,701円

教養娯楽用品
1.235倍

6,258円 → 7,728円

パック旅行費
1.221倍

2,517円 → 3,073円

家事サービス
1.22倍

814円 → 993円

家事雑貨
1.195倍

2,081円 → 2,487円

履物類
1.166倍

1,278円 → 1,491円

家事用消耗品
1.155倍

3,184円 → 3,677円

総務省統計局「家計調査(家計収支編)二人以上の世帯 長期時系列表1-1 品目分類(小分類まで):支出金額(月)」(統計表ID 000040270646)から、本記事が独自に算出した倍率。賞与月平均=6・7・12月の平均、平常月平均=2・9・10月の平均。対象年は2018・2019・2022・2023・2024年の5年分(コロナ期の2020・2021年は除外)。12月のお歳暮・クリスマス・年末年始、7月の夏休みなど季節要因が混ざっており、賞与の効果だけを取り出せていない点に注意。

冷暖房用器具が全品目トップの2.21倍 — ただし最も季節要因が強い

57品目のうち、賞与月にもっとも伸びていたのは冷暖房用器具だった。平常月平均1,035円に対し、賞与月平均は2,288円。倍率は2.209倍で、他のどの品目よりも高い。

ただし、この品目は6月・7月が猛暑対策の本番、12月が暖房本番という、季節要因がもっとも強く乗る品目でもある。エアコンや暖房器具は「賞与が入ったから」ではなく「暑さ・寒さが本番だから」買われている可能性が高く、この章の中でもっとも慎重に扱うべき数字である。

男性用下着類・シャツ・セーター類が、大分類の「被服」より強く伸びている

男性用下着類は241円→382円で1.587倍、男性用シャツ・セーター類は515円→792円で1.538倍。これは大分類「被服及び履物(計)」の1.234倍より明確に高い。賞与月には、男性の衣類が大分類全体の平均を上回るペースで買い替えられている。

家事サービスが1.22倍 — 他人に家事を任せる支出

家事サービスは814円→993円で1.220倍。家事代行など、自分でやる家事を他人に任せる支出が、賞与月に増えている。後の第8章で置く4分類でいえば、これは「時間の回復」に直接あたる支出である。

品目倍率対応する4分類
冷暖房用器具2.209倍時間の回復(季節要因が強く判定は慎重に)
男性用下着類1.587倍自己像の更新
男性用シャツ・セーター類1.538倍自己像の更新
家庭用耐久財(計)1.372倍時間の回復
寝具類1.276倍時間の回復
贈与金1.241倍関係の維持
教養娯楽用品1.235倍自己像の更新
パック旅行費1.221倍関係の維持/時間の回復
家事サービス1.220倍時間の回復
家事雑貨1.195倍時間の回復
履物類1.166倍自己像の更新
家事用消耗品1.155倍時間の回復

🚫 この章の限界

・12月はクリスマス・お歳暮・年末年始、7月は夏休みという季節要因が混ざり、賞与の効果だけを取り出せていない

・家計調査は「二人以上の世帯」の平均であり、賞与を受け取らない世帯(年金生活者等)も含まれる

・個別の家電(食器洗い機・電気洗濯機など)は、この統計表には品目として存在しない。降りられるのは「家庭用耐久財」までである

・自販連の新車販売のピークは3月(年度末)であり、賞与月ではない。家計調査でも自動車等関係費は1.00倍で動かない。賞与で車は買われていない

→ 次の第3章では、この品目の動きを家計調査の実額で確かめる。増えた額と、まったく動かなかった費目を見る。

📊 建前と行動はどこでズレるか — 賞与月の家計を実測する

このセクションの3点

① 家計調査の長期時系列から、賞与月(6・7・12月)と平常月(2・9・10月)の支出を2018・2019・2022・2023・2024年の5年分(コロナ期は除外)で比較した。本記事の試算である

② 消費支出全体の増加はわずか+14,777円(1.05倍)。夏季賞与の平均支給額42.6万円のうち、その月の消費支出として姿を現す分はごく一部にとどまる

③ アンケートの使い道1位は貯蓄であり、実測でも消費はほとんど増えていない。建前と行動は矛盾していなかった

ここまでの章は、アンケートで賞与の使い道をたずねた結果を見てきた。ここでは角度を変え、実際に家計から出ていったお金の記録を見る。総務省統計局「家計調査」(家計収支編・二人以上の世帯)の長期時系列表から、賞与が支給されやすい月(6月・7月・12月)と、賞与のない月(2月・9月・10月)の支出額を、2018・2019・2022・2023・2024年の5年分(新型コロナの影響が大きい2020・2021年は除外)取り出し、各3か月×5年=15サンプルの単純平均として比較した。

これは総務省が公表した集計値そのものではなく、本記事がe-Statの品目別支出データから独自に計算した試算である。以降の数値には、この前提がすべてかかっている。

費目別の実測 — 何が増え、何が動かないか

賞与月に、平常月と比べて何が増えたか(費目別の増減率)
家具・家事用品
+25%

11,034円 → 13,821円

被服及び履物
+23%

8,868円 → 10,946円

パック旅行費
+22%

2,517円 → 3,073円

交際費
+18%

8,475円 → 9,991円

こづかい(使途不明)
+15%

6,998円 → 8,024円

教養娯楽
+11%

27,463円 → 30,373円

外食
+10%

13,167円 → 14,515円

消費支出(総数)
+5%

283,100円 → 297,877円(+14,777円)

宿泊料
+4%

1,980円 → 2,054円

自動車等関係費
0%

24,193円 → 24,163円(ほぼ変化なし)

交通・通信
-1%

42,202円 → 41,790円(わずかに減少)

倍率(賞与月平均÷平常月平均)を増減率に言い換えたもの。数値の元は下の表と同じ。家計調査 長期時系列表から本記事が計算した試算で、2018・2019・2022・2023・2024年の各6・7・12月と各2・9・10月を比較している。12月にはクリスマス・年末年始、7月には夏休みという季節要因が混ざっており、賞与の効果だけを取り出したものではない。

費目平常月平均(2・9・10月)賞与月平均(6・7・12月)差額倍率
消費支出(総数)283,100円297,877円+14,777円1.05倍
家具・家事用品11,034円13,821円+2,787円1.25倍
被服及び履物8,868円10,946円+2,078円1.23倍
パック旅行費2,517円3,073円+556円1.22倍
交際費8,475円9,991円+1,516円1.18倍
こづかい(使途不明)6,998円8,024円+1,026円1.15倍
教養娯楽27,463円30,373円+2,909円1.11倍
外食13,167円14,515円+1,349円1.10倍
宿泊料1,980円2,054円+74円1.04倍
自動車等関係費24,193円24,163円-31円1.00倍
交通・通信42,202円41,790円-413円0.99倍

+14,777円

消費支出の増加額(賞与月 − 平常月)

1.05倍

賞与月の消費支出 ÷ 平常月の消費支出

42.6万円

夏季賞与の平均支給額(毎勤統計・支給事業所平均)

0.99倍

交通・通信の倍率(賞与月でも増えない)

伸び率が高いのは家具・家事用品(1.25倍)、被服及び履物(1.23倍)、パック旅行費(1.22倍)、交際費(1.18倍)。日用品の入れ替え、服、旅行、贈答や会食といった、日々の予算からは後回しにしがちな支出が、賞与月にまとめて動いている。

一方で、消費支出の総数を見ると、平常月283,100円に対して賞与月は297,877円。差はわずか+14,777円、1.05倍にとどまる。夏季賞与の平均支給額は42.6万円(毎勤統計・支給事業所平均)であり、これと比べると、その月の消費支出として姿を現す分はごく一部にすぎない。もらった額の大部分は、賞与月の消費には出てこない

動かない費目 — 賞与では固定費に手を付けない

倍率が1倍に近い、つまり賞与月でもほとんど動かない費目もある。交通・通信は0.99倍、自動車等関係費は1.00倍で、平常月とほぼ同じ水準にとどまる。通勤定期やスマートフォンの料金、車のローンや保険といった毎月一定額がかかる費目は、まとまった収入が入っても増減しない。賞与は、生活を支える固定費の置き換えには向かわないと読める。

🚫 この実測の限界(読み飛ばさないこと)

・12月の増加はクリスマスや年末年始、7月の一部は夏休みという季節要因が混ざっており、賞与そのものの効果と分離できていない

・家計調査の対象は二人以上の世帯全体であり、年金生活者など賞与を受け取らない世帯も含まれる。賞与を受け取る世帯だけに絞った場合、増加はこれより大きい可能性がある

・賞与は受け取った月に使われるとは限らない。受給前にカードで先に使う、受給後に数か月寝かせる、年払いの支払いに充てるといった時間差があり、支出月と受給月が一致しない場合がある

・貯蓄純増(黒字)の月次データは今回取得できなかった。したがって、消費に回らなかった残りが貯蓄に回ったとまでは断定できない

建前と行動はどこでズレるか

ボーナスの使い道アンケートでは、貯蓄が長年にわたって上位に来る。今回の実測でも、消費支出全体の増加はわずか1.05倍にとどまり、大部分は消費として姿を現さない。アンケートで語られる建前と、家計調査に残る行動の記録は矛盾していなかったということになる。「本当は使いたいのに我慢していると答えている」のではなく、多くの世帯で、実際に消費に回る分はもともと限られている。

ただし、これは全体の平均から見えた姿にすぎない。誰が家具や服を買い、誰が貯蓄に回しているのかは、この章の数字だけでは分からない。次章以降で、性別・年代・家族構成という軸に分けて見ていく。

→ 次の第4章では、依頼された4条件のうち唯一直接データがある「子どもあり・なし」を見る。

👶 子どもあり/なし — 喜びの単位が個人から家族に移る

このセクションの3点

① 子育て世帯は「生活費の補てん」が23.4%(全体19.8%)で、家計を支える使い道の比重がもとから重い

② 最大の差は「買い物(自分の欲しいもの)」で、全体14.1%から子育て世帯8.2%へ落ちる。この章で扱う数値の中で最も大きい差である

③ 厚生労働省の生活意識調査でも、児童のいる世帯は「苦しい」の合計が2024年で64.3%と、全世帯・高齢者世帯より高い

日本生命の「夏のボーナス」アンケート(2024年)は、貯蓄・資産形成に回さなかった分の使い道を、全体(回答者数3,749名)と子育て世帯(扶養対象の子どもありと回答した人)に分けて集計している。両者を並べると、順位そのものより、どの項目が伸び、どの項目が縮んだかに違いが表れる。

全体と子育て世帯の使い道を比べる

使い道全体(n=3,749)子育て世帯差(ポイント)
生活費の補てん1位・19.8%1位・23.4%+3.6pt
国内旅行(宿泊あり)2位・16.0%2位・14.1%-1.9pt
買い物(自分の欲しいもの)3位・14.1%4位・8.2%(ローンの返済と同率)-5.9pt
教育費の補てん上位5位圏外3位・12.9%子育て世帯のみ登場
ローンの返済4位・7.5%4位・8.2%(買い物と同率)+0.7pt

個人の消費がほぼ半分に減る

最も大きく動くのは「買い物(自分の欲しいもの)」である。全体では14.1%で3位に入るが、子育て世帯では8.2%まで下がり、順位も4位(ローンの返済と同率)に落ちる。差は5.9ポイントで、日本生命の2つの集計を比べたときに最も大きい変化である。子どもがいる世帯では、賞与の使い道として自分のための買い物を選ぶ人が、全体に比べておよそ4割少ない計算になる。

入れ替わりに入ってくるのが「教育費の補てん」で、子育て世帯では12.9%で3位に入る。全体の集計にはこの項目自体が上位5位に現れない。教育費は子育て世帯だけに生まれる、新しい支出先だと分かる。

14.1% → 8.2%

「買い物(自分の欲しいもの)」全体→子育て世帯

-5.9pt

この章で最も大きい差

12.9%

「教育費の補てん」子育て世帯のみ3位に登場

23.4%

子育て世帯の「生活費の補てん」(全体は19.8%)

この使い道の集計は日本生命の契約者向けアンケート(「ずっともっとサービス」利用者、2024年発表)が母集団であり、日本の子育て世帯全体の無作為抽出ではない。同アンケートは2024年版が最後で、2025年・2026年は実施が確認できていない(本記事の第9章を参照)。

生活意識でみる子育て世帯の重さ

厚生労働省「国民生活基礎調査」は、世帯の生活意識を「大変苦しい」から「大変ゆとりがある」までの5段階で毎年たずねている。児童のいる世帯・全世帯・高齢者世帯の3類型を2024年(令和6年)で比べると、児童のいる世帯だけが「苦しい」(大変苦しい+やや苦しい)の合計で6割を超える。

世帯類型「苦しい」計(2024年)うち「大変苦しい」「ゆとりがある」計
児童のいる世帯64.3%33.9%5.1%
全世帯58.9%28.0%4.6%
高齢者世帯55.8%25.2%4.2%

児童のいる世帯の「苦しい」は2019年(令和元年)の60.4%から、2024年には64.3%まで上がっている。全世帯・高齢者世帯もこの5年で上昇しているが、児童のいる世帯は一貫して最も高い水準にある。ボーナスの使い道で教育費や生活費の比重が高いことと、この生活意識の数値は同じ方向を向いている。

喜びの単位が個人から家族へ移る

ここで見えるのは「子どもがいると喜びを買わなくなる」という単純な話ではない。日本生命の集計でも、子育て世帯の「国内旅行」は14.1%あり、旅行そのものをやめているわけではない。変わっているのは、支出の受益者の範囲である。

教育費の積立は、子ども本人の将来という形をとった支出であり、住宅ローンの返済や生活費の補てんも、家族全員が暮らす基盤を維持する支出である。帰省や家族旅行は、参加する人数がそのまま増える。つまり同じ1万円でも、子のいない世帯では個人の裁量に残りやすい額が、子育て世帯ではあらかじめ家族単位の予定に組み込まれやすい。

加えて、子育て世帯は通院・行事・進学準備といった不意の出費に備える必要が個人より多く、賞与の一部を予備資金として温存する動機も強いと考えられる。「買い物(自分の欲しいもの)」が減るのは、欲求そのものが薄れたからではなく、同じ金額を配分する優先順位の先頭に、家族の予定が並ぶようになるためだと読むほうが、使い道の統計と生活意識の統計の両方に整合する。

→ 次の第5章では、同じ違いを年代で切り分け、20代から60代以上で賞与の向かう先がどう移るかを見る。

🎂 年代別 — 20代・30代・40代・50代で消えていく先

このセクションの3点

① 賞与額そのものは50代でピークを迎えたあと、60代・70代で下がっていく(日本生命2024年)

② 貯蓄に回す割合は「全く回さない」人と「全額回す」人の両方が年代とともに増える二極化が起きている

③ 「貯金しない理由」は30代が投資(29.7%)、60代以上が買い物・旅行(27.2%)で最も多く、向かう先が入れ替わる。ただし年齢そのものが原因ではなく、子の独立や退職までの年数、住宅ローン残高が重なった結果と読む

年代×男女の支給額 — ピークは50代

日本生命のアンケート(2024年・契約者向けの消費者パネル調査)から、年代別の平均支給額を見る。金額は20代から50代にかけて上がり続け、50代でピークを迎えたあと、60代・70代で下がっていく。定年や再雇用による賃金水準の変化が背景にあると考えられる。

年代男性(万円)女性(万円)
〜20代36.228.7
30代51.238.7
40代61.542.5
50代76.148.2
60代54.837.1
70代〜37.220.0

貯蓄に回す割合 — 年代が進むほど二極化する

賞与のうち何割を貯蓄・資産形成に回すかを尋ねた設問(日本生命2024年)では、年代が進むほど「回さない」(=全額を消費に使う)人の割合が増える一方、「全額(10割)を貯蓄に回す」人の割合も年代とともに増えている。同じ年代の中で、使い切る人と貯め切る人の両方が増えるという二極化が起きている。

年代回さない(%)全額(10割)貯蓄(%)
〜20代21.25.9
30代16.911.7
40代20.513.4
50代21.114.0
60代33.515.8
70代〜40.73.7

60代・70代で「回さない」が急に増えるのは、退職金や年金が視野に入り、賞与そのものの位置づけが現役世代とは変わるためと考えられる。一方で70代の「全額貯蓄」が3.7%まで下がっているのは、貯める段階から取り崩す段階に移る人が増えている可能性を示す。ただしこれは日本生命の契約者パネルという母集団での傾向であり、全国民の代表値ではない。

「貯金・預金しない理由」— 30代は投資、60代以上は消費

Ponta消費意識調査(2026年)は、「貯金・預金」を使い道に選ばなかった人に、その理由を尋ねている。ここで年代差がはっきり出る。30代は「株式や投資信託などで資産形成するため」が29.7%で最も多く、全年代の中で突出している。一方、60代以上は「特別な買い物や旅行など、消費に回すため」が27.2%で最も多く、逆に投資を理由に挙げた人は9.9%と全年代で最も低い。

貯金しない理由全体30代60代以上
生活費や日常の支出に充てるため44.2%44.9%50.6%
株式や投資信託などで資産形成するため22.0%29.7%9.9%
特別な買い物や旅行など、消費に回すため16.7%13.6%27.2%
ローンの支払いに充てるため7.2%5.1%3.7%
自己投資に使うため6.3%4.2%4.9%

20代から50代へ — 向かう先はどう移り変わるか

  1. 1

    20代

    生活費と自分への支出が並ぶ時期

    貯金・預金を選ばない理由は「生活費や日常の支出に充てるため」が40.6%で最多。投資(23.2%)や買い物・旅行(18.7%)にも一定の配分があり、賞与の使い先はまだ一つに定まっていない。
  2. 2

    30代

    資産形成への配分が最も高くなる時期

    「株式や投資信託などで資産形成するため」が29.7%で全年代の最高値。キャリアの見通しが立ち始め、老後や住宅取得を見据えた積み立てに賞与を回す人が増えると考えられる。
  3. 3

    40代

    子育て・教育費との綱引きが強まる時期

    第4章で見た日本生命の子育て世帯データでは、教育費の補てんが使い道の3位(12.9%)に入ってくる。個人の資産形成と、世帯としての教育費積立の間で配分が割れやすい年代である。
  4. 4

    50代

    賞与額はピークだが、貯蓄行動は割れる

    支給額は男女とも年代別で最高(男性76.1万円・女性48.2万円)。同時に「全額貯蓄」が14.0%まで上昇し、退職を見据えた積み増しに動く人が増える一方、「回さない」も21.1%とまだ一定数いる。
  5. 5

    60代以上

    消費に回す理由が投資を上回る時期

    「貯金しない理由」の1位が「特別な買い物や旅行など、消費に回すため」(27.2%)に入れ替わり、投資は9.9%まで下がる。「回さない」割合も33.5%(60代)・40.7%(70代〜)へ上昇する。

📎 年齢で決まるのではない

ここまでの年代差は、あくまで年代別の集計を並べたものであり、「◯歳になったらこう使う」と年齢そのものが原因になっているわけではない。実際に賞与の向かう先を切り替えているのは、年齢という数字ではなく、その年代に重なりやすい条件である。子どもの独立が見えてきたか、退職までの年数がどれくらいか、住宅ローンの残高がどの程度残っているか、親の介護が始まっているか。これらが同じ年代の人の間でもばらばらに重なるからこそ、50代でも「回さない」人と「全額貯蓄」する人の両方が増える二極化が起きる。年代別の表は、個人の事情を年齢で置き換えて読むための地図ではなく、傾向をつかむための出発点として扱う必要がある。

→ 次の第6章では、男女で金額と伸び方がどう違うのかを見る。使い道の男女差は公表されていないため、そこも正直に書く。

👫 男女別 — 誰のボーナスが、誰の財布になるのか

このセクションの4点

① 国税庁の統計では、令和6年の平均賞与は男性96万円・女性47万円で、金額そのものに約2倍の差がある

② 本記事の試算では、2015年から2024年の実質賞与は男性がほぼ横ばい(▲0.2%)である一方、女性は明確に伸びている(+11.0%)

③ 差の理由は「女性の好み」ではなく、賃金・雇用形態・家計管理の役割・個人裁量という構造で説明できる

④ 使い道そのものの男女差も、日本生命が2016〜2018年版で公表していた(2019年以降は非公表)。ローンの返済は男性が高く、海外旅行・買い物(贅沢品)は女性が高い、という傾向が3年連続で確認できる

金額の差 — 国税庁と日本生命が見せるもの

まず金額そのものを見る。国税庁「民間給与実態統計調査」(令和6年分)は、賞与がゼロの人も含めた給与所得者全体を対象にした調査であり、平均賞与は男性96万円・女性47万円だった。前年からの伸び率は男性+3.6%、女性+6.4%で、女性のほうが伸びが大きい。

もう一つ、日本生命が契約者向けに実施したアンケート(2024年・「ずっともっとサービス」利用者が対象の消費者パネル調査)では、年代別に男女の支給額を分けて公表している。国税庁の統計とは母集団がまったく異なる点に注意して読む必要がある。

区分平均賞与(令和6年)前年比
男性96万円+3.6%
女性47万円+6.4%
全体75万円+4.5%
年代男性(万円)女性(万円)
〜20代36.228.7
30代51.238.7
40代61.542.5
50代76.148.2
60代54.837.1
70代〜37.220.0
平均61.540.7

上の表は国税庁「令和6年分民間給与実態統計調査」(個人ベース・賞与ゼロを含む全給与所得者が対象)と、日本生命「夏のボーナスについてのアンケート」2024年版(同社契約者かつ「ずっともっとサービス」利用者が対象)を並べたものである。調査対象がそもそも違うため、金額の水準を単純に一致させて読むことはできない。ここでは「男女の差がどちらの調査でも同じ方向に出ている」ことだけを見る。

実質で見ると、差はさらにはっきりする

名目額だけでなく、物価の変化を差し引いた実質額で見ると、男女の差はさらに際立つ。本記事では、国税庁の平均賞与の時系列(2015年〜2024年)を、総務省統計局の消費者物価指数(CPI・2020年=100)で2015年の物価水準に換算した。この実質換算は本記事の試算であり、行政機関が公式に発表した数値ではない。

96万円

男性 平均賞与(令和6年・国税庁)

47万円

女性 平均賞与(令和6年・国税庁)

▲0.2%

男性 実質賞与の10年変化(2015→2024・本記事の試算)

+11.0%

女性 実質賞与の10年変化(2015→2024・本記事の試算)

名目額では男性が女性の2倍以上だが、10年間の伸びを実質で見ると、男性の賞与はほぼ横ばい(▲0.2%)にとどまり、女性は物価上昇を差し引いても明確に増えている(+11.0%)。差が縮まっているとまでは言えないが、伸びているのは女性側だけである。

なぜ女性側だけが伸びたか — 好みではなく構造で読む

ここで「女性は◯◯にお金を使いたがる」といった説明をするのは早計である。賞与額そのものの差、そして女性側の伸びは、性別の嗜好ではなく、少なくとも次の3つの構造で説明できる。

①賃金・雇用形態の差 — 国税庁の統計で正社員の平均賞与は101万円、正社員以外は12万円と大きな開きがある。賞与額の男女差の背景には、正規・非正規といった雇用形態の違いが重なっている可能性が高い。

②家計管理を担う側かどうか — 賞与を受け取った本人が、そのまま自分の裁量で使うか、世帯の家計として管理する側に回すかによって、支出の見え方は変わる。誰が家計を管理しているかは、賞与の使い道を左右する条件になりうる。

③個人裁量があるかどうか — 同じ金額でも、生活費や教育費といった世帯の固定的な支出にあらかじめ組み込まれている賞与と、本人が自由に配分先を決められる賞与とでは、意味が違う。

この3つは、いずれも「性別だから」ではなく、置かれている雇用や家計上の役割によって決まる。同じ女性でも、正社員で個人裁量が大きい人と、非正規で家計管理を担う人とでは、賞与の意味はまったく異なる。

使い道の男女差 — 2016〜2018年に見つかった実データ

前回の版では「使い道の男女別クロス集計は日本生命もPontaも公表していない」と書いていたが、これは2024年版しか確認していなかったための誤りだった。日本生命は2016年・2017年・2018年版のボーナスアンケートで、使い道の男女別クロス集計を実際に公表していた(2019年以降は同じ切り口の公表が無くなっている)。以下はその実データである。

約1.8倍

ローンの返済 男性10.3% / 女性5.7%(2018年)

約1.9倍

海外旅行 女性12.1% / 男性6.3%(2018年)

約1.6倍

買い物(贅沢品) 女性14.9% / 男性9.5%(2018年)

使い道全体男性女性
生活費の補てん18.9%19.8%17.0%
国内旅行(宿泊あり)17.3%18.2%15.2%
買い物(日用品)14.5%12.8%18.3%
買い物(贅沢品)11.3%9.5%14.9%
ローンの返済8.8%10.3%5.7%
海外旅行8.1%6.3%12.1%
教育費6.5%7.4%4.6%
近場のレジャー(日帰り)6.2%7.0%4.6%
その他8.4%8.8%7.5%
男女差(男性% − 女性%)— 2018年版
海外旅行
-5.8pt

男性6.3% / 女性12.1%

買い物(日用品)
-5.5pt

男性12.8% / 女性18.3%

買い物(贅沢品)
-5.4pt

男性9.5% / 女性14.9%

その他
+1.3pt

男性8.8% / 女性7.5%

近場のレジャー(日帰り)
+2.4pt

男性7.0% / 女性4.6%

生活費の補てん
+2.8pt

男性19.8% / 女性17.0%

教育費
+2.8pt

男性7.4% / 女性4.6%

国内旅行(宿泊あり)
+3pt

男性18.2% / 女性15.2%

ローンの返済
+4.6pt

男性10.3% / 女性5.7%

出典: 日本生命「ボーナスについてのアンケート」2018年版(質問7「貯蓄・資産形成以外で何に使いますか」、回答者1,217名)。値は男性回答率−女性回答率(ポイント差)。

2018年版は年代別のクロスも公表しており、その中で最も突出していたのが60代以上女性の海外旅行27.8%である。全体平均8.1%の3倍以上にあたる。ここから「高齢女性は海外旅行が好き」と単純化するのではなく、退職後で時間の制約が少ないこと、子育て・教育費という固定的な使い道からすでに外れていることなど、年代由来の構造で読むほうが妥当だろう。

ローンの返済が男性に偏っている点は、住宅ローンの名義が男性である場合が多いことと整合する解釈ができる。ただし日本生命のアンケートはローンの種類(住宅・自動車・教育等)を分けて聞いていないため、これはあくまで推測の域を出ない。

2016年・2017年の推移 — 設問は違うが傾向は一貫している

2016年版・2017年版にも使い道の男女別クロス集計があり、2018年版と設問文は異なるものの並べて見ることができる。3年とも、ローンの返済は男性が高く、海外旅行と買い物(贅沢品)は女性が高いという傾向が一貫している。

使い道(2016年版)男性女性
貯蓄・資産形成30.3%28.7%
生活費の補てん22.2%21.3%
ローンの返済13.9%6.6%
国内旅行(宿泊あり)9.0%11.1%
教育費7.8%7.2%
買い物(日用品)5.4%8.7%
海外旅行4.4%7.3%
買い物(贅沢品)3.7%5.8%
近場のレジャー(日帰り)3.4%3.2%
使い道(2017年版)全体男性女性
貯蓄・資産形成33.1%31.8%36.2%
生活費の補てん17.7%18.8%15.0%
ローンの返済11.2%13.0%6.5%
国内旅行(宿泊あり)9.4%9.3%9.6%
教育費6.9%8.0%4.2%
買い物(贅沢品)4.8%4.1%6.6%
海外旅行4.7%3.6%7.6%
買い物(日用品)3.9%3.6%4.8%
近場のレジャー(日帰り)2.6%2.4%3.1%
その他5.7%5.4%6.3%

ローンの返済は2016年13.9%対6.6%、2017年13.0%対6.5%、2018年10.3%対5.7%と、いずれの年も男性がほぼ倍近い。海外旅行は2016年4.4%対7.3%、2017年3.6%対7.6%、2018年6.3%対12.1%と、いずれの年も女性が高い。3年とも同じ方向に差が出ている点は、単年の誤差ではなく構造的な傾向である可能性を示している。ただし2016年・2017年は「貯蓄・資産形成」を選択肢に含む設問、2018年は貯蓄・資産形成を除いた上での設問であり、3年を厳密に同じ土俵で比較することはできない点には注意したい。

⚠️ このデータの限界

・これは2016〜2018年の調査であり、直近のものではない。2019年以降、日本生命は使い道の男女別クロス集計を公表していない

・母集団は日本生命の契約者向けサービス「ずっともっとサービス」の利用者であり、日本全体を代表する無作為抽出のサンプルではない

・2016年・2017年・2018年で設問文(貯蓄・資産形成を選択肢に含むか否か等)が異なるため、3年を厳密に比較することはできない

・賞与の金額帯別×使い道のクロス集計は、2016〜2024年の9年分すべてを確認しても存在しなかった。金額帯別クロスがあるのは「貯蓄・資産形成の手段」という別設問のみ(2016・2017年)

→ 次の第7章では、ここまで見えた費目を「何を解放したのか」で読み替える枠組みを置く。

💰 そもそも日本人はいくら貰っているのか — 分布とゼロの人

このセクションの3点

① 同じ「平均賞与」でも、母集団が違えば数字は2倍以上動く(経団連の大手企業のみ97.4万円〜毎勤統計の全事業所平均36.1万円)

② 誰が200万円クラスをもらうかは勤務先でほぼ説明がつく。資本金10億円以上は個人事業の約6倍、従業員5,000人以上の事業所は1〜4人の事業所の約5.3倍

③ 約18.4%の企業は賞与を支給しておらず、宿泊業・飲食サービス業では制度がある企業のうち28.2%が支給していない

「日本人の平均ボーナスは○○万円」という数字は、報道やSNSでいくつも見かける。だが実はこの一言では答えにならない。どの調査が、誰を数えているかによって、同じ「平均賞与」でも金額が2倍以上変わるからだ。ここでは金額そのものより先に、誰を数えた平均なのかを並べる。

出典平均賞与額時期母集団(誰を含み、誰を除くか)
経団連(大手企業妥結結果)97.4万円2025年夏季従業員500人以上の大手企業154社(全産業)のみ。中小企業は含まない
毎勤統計(支給事業所平均)42.6万円2025年夏季賞与を実際に支給した事業所のみの平均(事業所規模5人以上)。支給しなかった事業所は分母に入らない
毎勤統計(全事業所平均)36.1万円2025年夏季賞与を支給しなかった事業所も0円として含めた、事業所規模5人以上の全体平均
国税庁 民間給与実態統計調査75万円令和6年分1年を通じて勤務した給与所得者全員(正社員以外・賞与ゼロの人を含む個人ベース)

経団連の97.4万円は大手企業だけを、毎勤統計の42.6万円は「実際に賞与が出た事業所」だけを、36.1万円はそこに0円の事業所も足した数字を、国税庁の75万円は日本の給与所得者全員を数えている。この記事で「平均◯万円」と書くときは、必ずどの調査かを添える。

支給額の分布 — 実際にいくらもらっているか

平均だけでは、自分の額が多いのか少ないのか分かりにくい。Ponta消費意識調査(インターネット調査・Pontaリサーチ会員の世帯単位、単一回答)の分布を見ると、支給額の実際の散らばりが分かる。母集団はPontaリサーチ会員であり、無作為抽出ではない点に注意する。

金額帯2026年6月調査(n=1,018)2025年6月調査(n=1,026)
20万円未満19.7%18.7%
20万円〜40万円未満19.9%23.2%
40万円〜60万円未満19.9%20.9%
60万円〜80万円未満13.4%12.8%
80万円〜100万円未満10.3%9.1%
100万円〜120万円未満6.3%6.0%
120万円〜140万円未満2.8%1.6%
140万円〜160万円未満1.5%1.9%
160万円〜180万円未満1.2%1.3%
180万円〜200万円未満1.0%0.5%
200万円以上3.9%4.2%

勤務先による差 — 誰が200万円クラスをもらうのか

国税庁「民間給与実態統計調査」(令和6年分)は、勤務先の資本金・事業所の従業員数ごとの平均賞与を公表している。個人の年収階層と賞与額を直接結びつけたクロス集計はこの報告書には存在しないが、勤務先の規模で見ると、賞与額の差は非常にはっきりしている。

約6倍

資本金10億円以上 vs 個人事業(156.9万円 / 26.3万円)

約5.3倍

従業員5,000人以上 vs 1〜4人の事業所(110.6万円 / 20.7万円)

勤務先の資本金で、平均賞与はここまで変わる
個人(法人でない事業所)
26.3万円
資本金2,000万円未満
36.3万円
2,000万〜5,000万円未満
60.9万円
5,000万〜1億円未満
66.7万円
1億〜10億円未満
83.4万円
10億円以上
156.9万円

個人事業所の約6倍

(全体平均)
74.6万円

国税庁「令和6年分 民間給与実態統計調査 調査結果報告」第12表。1年を通じて勤務した給与所得者の平均賞与(男女計)。個人の年収階級別ではなく、勤務先の規模による区分である点に注意(年収階級別の賞与額を集計した表は、同報告書には存在しないことを確認している)。

区分の種類区分平均賞与(男女計)
資本金階級個人(法人でない事業所)26.3万円
資本金階級資本金2,000万円未満の株式会社36.3万円
資本金階級2,000万円以上5,000万円未満60.9万円
資本金階級5,000万円以上1億円未満66.7万円
資本金階級1億円以上10億円未満83.4万円
資本金階級10億円以上156.9万円
資本金階級その他の法人62.5万円
資本金階級合計74.6万円
事業所規模(従業員数)1〜4人20.7万円
事業所規模(従業員数)5〜9人31.0万円
事業所規模(従業員数)10〜29人46.6万円
事業所規模(従業員数)30〜99人61.2万円
事業所規模(従業員数)100〜499人76.0万円
事業所規模(従業員数)500〜999人84.6万円
事業所規模(従業員数)1,000〜4,999人106.8万円
事業所規模(従業員数)5,000人以上110.6万円

200万円という額は、Ponta調査の分布では「200万円以上」でひとまとめにされている(全体の3.9%)。この額を実際に受け取れるのは、資本金10億円以上か、従業員5,000人以上の大企業に勤める一部の人が中心と読める。「勤め先を選べば誰でも届く額」ではないことが、規模別の表から見えてくる。

賞与が出ない人 — 約18.4%の企業

厚生労働省「就労条件総合調査」(令和4年・企業ベース。賞与の実績は令和3年分)によると、賞与制度がない企業は11.8%。さらに、制度がある企業(87.9%)のうち6.5%は「制度はあるが今回は支給しなかった」と回答している。この2つを合わせると、令和3年に実際に賞与を支給しなかった企業は約18.4%にのぼる。この調査以降、賞与制度の有無を扱う回は実施されておらず、2025年時点とは数年のずれがある点に注意する。

産業賞与制度がある企業の割合うち支給しなかった企業の割合
全体(令和4年調査計)87.9%6.5%
宿泊業,飲食サービス業79.3%28.2%
生活関連サービス業,娯楽業87.5%20.3%
運輸業,郵便業73.1%6.7%
卸売業,小売業86.6%7.1%
サービス業(他に分類されないもの)80.3%6.5%

特に宿泊業・飲食サービス業は、制度がある企業の中でも28.2%が支給していない。産業ごとの偏りが大きいことが分かる。

10年での変化 — 名目は伸びても、実質はほぼ横ばい

国税庁の平均賞与額を2015年(平成27年)と2024年(令和6年)で比べると、名目額は66.8万円から74.6万円へ+11.7%伸びた。だが、この間の物価上昇(総務省消費者物価指数、全国・総合指数)を差し引いた実質額では、伸びは+1.1%にとどまり、2019年のピーク(実質70.0万円相当)にはまだ届いていない。この実質換算は本記事の試算であり、国が公式に発表した数値ではない。

区分名目伸び率(2015→2024)実質伸び率(本記事の試算・CPIでデフレート)
全体+11.7%+1.1%
男性+10.3%▲0.2%
女性+22.6%+11.0%

📎 この章で取得できなかったもの

年収階層別の賞与額クロス集計は、国税庁「民間給与実態統計調査」の調査結果報告書(全31ページ)を全文確認したが、存在しないことを確認した。個人の年収と賞与額を直接結びつけた一次統計は、少なくともこの報告書の構成には含まれていない。

非正規雇用者の賞与支給率は、厚労省「パートタイム・有期雇用労働者総合実態調査」(令和3年)に「正社員に実施している企業のうち、非正規にも実施している企業は4〜6割程度」という定性的な記述は確認できたが、正確な%の表はPDFのレイアウト崩れにより数値化できなかった。

日本生命の「夏のボーナス」アンケートは、公式ニュースリリース索引(892件)を全件確認した結果、2024年7月発表分が最後で、2025年・2026年は実施・公表されていないことを確認した。

→ 次の第8章では、ここまで見えた費目を「何を解放したのか」で読み替える枠組みを置く。

🔓 ボーナスが解放する4つのもの — 不安・時間・関係・自己像

このセクションの3点

① 賞与の使い道は、買った物の名前ではなく「何から自由になったか」で読むと見え方が変わる

② 貯蓄や返済も、先送りしていた支払いと将来の心配を減らす選択として、喜びの外に置く必要はない

③ 不安・時間・関係・自己像の4分類は、支出の善悪を決めるためではなく、使った理由を丁寧にたどるための地図である

ボーナスの使い道をたずねる調査では、貯蓄が上位に来ることが多い。これを見て「日本人は夢がない」と読むのは早い。まとまったお金で、毎月の収入だけでは持ちにくい安心を手に入れたのかもしれない。

急な修理や医療費が来ても慌てずにすむ残高、借入の返済を前に進められることにも、役に立つこと・得られる満足がある。貯蓄は、不安に振り回される時間を減らすための選択でもある。

この章では、賞与が何を買ったかではなく、何を解放したかを4つに分けて考える。具体的な数値は、本記事の第3章・第7章で扱う。

解放するもの代表的な支出読者への問いこれは喜びか
不安の軽減貯蓄、繰上返済、保険、修繕、教育費の積立次の出費が来ても、落ち着いて選べるか将来の心配を小さくする
時間の回復食洗機、洗濯乾燥機、ロボット掃除機、家事代行、近場旅行繰り返す面倒は、どれだけ減るか生活の余白を増やす
関係の維持帰省、家族旅行、贈答、外食、冠婚葬祭誰と過ごす時間を守りたいか会う・気にかけること
自己像の更新趣味、学び、服、時計、挑戦、投資どんな自分でありたいか自分らしさを選ぶ

不安の軽減 — 先送りしていた心配を片づける

車検代やカードの支払いを先延ばしにしていた人が、まとまったお金でそれを片づける。賞与の最初の使い道には、こういう場面がある。貯蓄、ローンの繰上返済、保険料、教育費の積立、家の修繕も、次に来る支払いを小さくし、落ち着いて選べる余地を残す。

これは、ぜいたくを我慢した結果とは限らない。手元のお金と支払う時期のつじつまが合い、生活を軽くする使い方である。

時間の回復 — 毎週くり返す面倒を減らす

時間の回復は、毎日の小さな面倒を減らす使い方である。食洗機、ドラム式洗濯乾燥機、ロボット掃除機は典型だ。食洗機を買うと、毎週ラクが続く。空いた時間を睡眠、子ども、休息、仕事の準備に回せるなら、値札だけでは測れない価値がある。

置き場所や手入れ、家族の使い方によっては、かえって手間が増えることもある。「同じ面倒を何度なくせるか」で、自分に合うかを考えたい。

関係の維持 — 会うこと、気にかけることに使う

帰省、家族旅行、贈答、外食、冠婚葬祭は、関係の維持に近い。ここで買っているのは移動や食事そのものだけではない。会うきっかけをつくること、節目を共有すること、遠くにいる相手へ気にかけていると伝えることに、お金が使われている。

「旅行こそ正しい使い道」とは言えない。家計や距離、介護、仕事の予定で選び方は変わる。見るべきなのは派手さではなく、誰との時間を保とうとしたのかである。

自己像の更新 — これからの自分を選び直す

趣味の道具、習い事、資格の勉強、服、時計、新しい挑戦への資金は、自己像の更新に向かいやすい。「自分はこういうことを大切にする人だ」「これからはこう暮らしたい」という感覚を、具体的な行動に移す支出である。

服や時計を選ぶときには、人にどう見られたいか、自分にどう見せたいかも混ざる。「この仕事を続ける」「この趣味を深める」と自分に言い聞かせるために選ぶこともある。

何を買ったかではなく、どんな不安を減らし、どんな自分でありたいと考えたかを一緒に見る必要がある。

📎 同じお金でも、心の中では別の財布になる

月給なら先送りしそうな家電を、賞与が出た月には「この機会に」と決める。反対に、賞与だけは最初から貯蓄に回す人もいる。銀行口座では同じお金でも、気持ちの上では別の財布のように扱っている。

こうした分け方はメンタル・アカウンティング(心の会計)と呼ばれる。家計の優先順位を保つための分け方でもある。

🚫 4分類を、支出の採点表にしない

・4分類は、支出の善悪や成熟度を決める道具ではない

・分類が付くのは物ではなく動機である。同じ時計でも、選ぶ理由は人によって違う

・一つの支出が複数の目的を持つこともある。家族旅行には関係の維持と時間の回復が重なる

→ 次の第9章では、額の大きさではなく「予想との差」によって使い道がどう変わるのかを見る。

📈 額ではなく「予想との差」で使い道は変わる

このセクションの3点

① 賞与の使い道を考えるときは、受け取った総額だけでなく、本人が予想していた額との差を見る必要がある

② 予想どおりの分は家計の予定に入りやすく、上振れした分は「思いがけず多かった分」として使い道を選び直しやすい

③ 賞与月の支出だけから使い道を断定することはできない。受給前後の支払いと、夏休みや年末年始の出費が混ざるためである

「賞与が多ければ豪遊し、少なければ貯める」という説明は分かりやすい。しかし、家計の実際を考えるには粗すぎる。支給される時期やおおよその額を前もって見込み、年払いの費用や大きな予定をそれに合わせている人もいるからだ。

見るべきなのは総額だけではなく、予定していた額との差である。何がすでに使い道の決まったお金で、何が予定の外から増減したお金なのかを分けて考える。賞与月に消費がどう動くかという実測の具体的な数値は、本記事の第3章・第7章で扱う。

まず、予定どおりかどうかで3つに分ける

たとえば、教育費、税金、返済、保険料に賞与をすでに割り当てていたなら、受取額の全体は自由に使えるお金ではない。同じ額でも、予想どおりだった人と、去年より少ないと感じた人では、次に決める使い道が変わる。去年より少ないと、同じ額だけ多いときよりショックを受けやすい。

まずは、賞与を次の3つに分けると考えやすい。

賞与の内訳そのときの気持ちと家計向かいやすい先考えるときの問い
予想どおりの分すでに使い道の名前が付いている年払い保険料、固定資産税、教育費、ローン何に回すと決めていたか
上振れした分思いがけず多かった分は、財布のひもがゆるみやすい旅行、外食、趣味、自分へのご褒美前からやりたかった何を選ぶか
下振れした分まず予定の穴をどう埋めるか考える自由に使う予定だった分から削られやすい何を後回しにするか

表だけでは、使い道を決めつけられない

上振れした分を旅行や趣味に回す人がいても、それを「賞与だから浪費した」と決めつける必要はない。働いた対価として受け取った賞与には、最初から家計の予定がある人もいる。予定の外に出た分だけ、以前から欲しかった物や、会いたかった人との予定を選ぶことがある。

反対に、予想どおりの分でも貯める人はいる。賞与の月に支出が増えて見えても、受給前にカードで払ったのか、受給後に取っておいたのかは分からない。夏休みや年末年始があるので、賞与のせいで増えたのかどうかも区別できない。

時間差に注意する。賞与は、受け取った月に使われるとは限らない。受給前にカードで先に使うこともあれば、受給後に数か月寝かせてから使うこともある。年払いの費用に充てる場合もある。

そのため、「賞与月の支出増」と「賞与の使い道」を単純に等号で結ぶことはできない。賞与月の家計を見るときは、いつ決め、いつ支払い、何の予定と重なったのかまで見なければならない。

📎 結論:自由になるのは、総額ではなく差分かもしれない

同じ100万円でも、予想どおりの100万円と、予想より20万円多かった100万円では、家計の中での意味が違う。前者はすでに保険料や教育費、返済に名前が付いているかもしれない。後者では、その20万円だけが新しく自由になったお金として感じられるかもしれない。

だから、額が大きい人ほど自由に使う、少ない人ほど使わない、と一直線には言えない。予想との差、すでに決まっていた支払い、受給の前後にある予定を重ねて初めて、賞与が何に化けたのかを読み解ける。

→ 次の第10章では、この「年2回まとまった額を予告どおりに配る」という日本の仕組みが、世界的に見てどれほど特殊なのかを見る。

🌏 世界のボーナス — 年2回まとめて配る国は、そんなに多くない

このセクションの3点

① 日本の賞与は年収の15.7%(国税庁 2024年)。アメリカのnonproduction bonusは総報酬の2.9%(BLS 2026年3月)。指標の分母は完全に同一ではないが、5倍以上の差がある

② 中国の「年終奨」には、日本の国税庁調査や毎月勤労統計に相当する公的な集計統計が見つからなかった。商務部の春節発表は前年比の伸び率のみで、元建ての絶対額は一切公表されていない

③ アメリカでnonproduction bonusを受け取れる制度がある労働者の割合は職種によって37%〜58%(BLS)。日本のように、ほぼ全ての正社員が年2回の支給を前提に生活設計する仕組みとは性質が異なる

ここまで日本国内の賞与の使われ方を見てきた。ここで一度、外に目を向ける。「日本のボーナスは、世界的に見て特殊なのか」という問いに、一次統計だけで答える。使うのは、国税庁・厚生労働省(日本)、BLS=米国労働統計局(アメリカ)、商務部(中国)の公式資料のみである。出典の無い数値――たとえば「中国では年終奨で高級品を買う」といった具体的な消費の相場――は、この章では一つも書かない。取れなかったものは、素直に「取れなかった」と書く。

報酬に占めるボーナスの比率 — 日本とアメリカ
日本(毎月勤労統計・月間現金給与総額に対して)
19%
日本(国税庁・年間給与に対して)
15.7%
アメリカ(BLS・総報酬に対して)
2.9%

日本の5分の1以下

日本(国税庁)は平均賞与75万円÷平均給与478万円(令和6年分)。日本(毎月勤労統計)は特別に支払われた給与66,318円÷現金給与総額349,388円(令和6年度)。アメリカはBLS「Employer Costs for Employee Compensation」2026年3月、nonproduction bonuses 1.37ドル÷総報酬46.60ドル。分母の取り方が3者で異なるため厳密な同一条件の比較ではないが、日本側はどの分母でも15〜19%台に収まる。中国は年終奨の公的な集計統計を確認できず、比較に載せられない。

呼び方支給の時期年収・報酬に占める比率比率の分母公的統計の有無
日本(国税庁)夏季・冬季の年2回が一般的75万円/478万円=15.7%(令和6年分)年間給与総額あり(国税庁「民間給与実態統計調査」毎年公表)
日本(毎月勤労統計)事業所により時期は異なる特別に支払われた給与66,318円/現金給与総額349,388円=18.98%(令和6年度)月間現金給与総額あり(厚労省「毎月勤労統計調査」毎年公表)
アメリカ(nonproduction bonus)企業ごとに個別。法定の慣行は無い1.37ドル/46.60ドル(時給換算)=2.9%(2026年3月)総報酬(賃金+福利厚生を含む)あり(BLS「Employer Costs for Employee Compensation」毎年公表)
中国(年終奨)春節(旧正月)前後に支給される慣行があるとされる取得できず公式統計は本調査の範囲では確認できず

日本の特異性 — 賞与は年収の15.7%、アメリカの5倍以上

国税庁「民間給与実態統計調査」(令和6年分)によれば、平均給与478万円のうち、平均賞与は75万円で、年間給与に占める割合は15.7%になる。一方、アメリカの労働統計局(BLS)が公表する「雇用者の従業員報酬コスト(ECEC)」2026年3月分では、nonproduction bonuses(業績と直接連動しない一時金)は総報酬(時給換算46.60ドル)のうち1.37ドル、比率にして2.9%にとどまる。

この2つの比率は、分母が異なる点に注意が必要である。日本側は「年間給与総額」に対する割合、アメリカ側は「賃金に福利厚生コストまで含めた総報酬」に対する割合であり、後者の方が分母が広い。厳密な同一条件の比較ではない。それでも、厚生労働省「毎月勤労統計調査」(令和6年度)で別の分母――月間現金給与総額――から算出した特別給与の比率は18.98%であり、こちらは日本側のもう一つのクロスチェックになる。分母の取り方をどう変えても、日本は15.7%〜19.0%程度のレンジに収まり、アメリカの2.9%とは一桁近い差がある。指標の定義が完全に同一ではないという留保をつけたうえで、日本のボーナスは国際的に見て大きいと言ってよい。

中国 — 「年終奨」に公的統計は見つからなかった

中国では、春節(旧正月)前後に支給される「年終奨」という慣行がしばしば話題になる。しかし、日本の国税庁調査や毎月勤労統計に相当する、年終奨の支給率・平均額を集計した公的統計は、本調査の範囲では見つからなかった。国家統計局の「労働賃金統計報表制度」には年終奨の定義らしき記述は確認できたが、集計値そのものの所在は特定できていない。民間の人材会社による調査(支給率や月数についての数値)はインターネット上に出回っているが、出典元企業や調査方法を確認できず、一次統計として採用しなかった。

これ自体が一つの発見である。日本とアメリカには、賞与・ボーナスの規模を毎年追える公的な統計があるのに対し、中国にはそれに相当するものが(少なくとも今回の調査では)見当たらない。存在しないと断定はできないが、「無いかもしれない」という状態そのものを正直に書く。

指標前年同期比備考
全国重点小売・飲食企業の日平均売上高+5.7%伸び率は前年より1.6ポイント拡大(商務部発表)
重点監視対象78商店街の来街者数+6.7%
同・営業額+7.5%
レンタカープラットフォームの注文件数+51%
上海の出国免税店売上+150%(原文表記「1.5倍」)
四川の出国免税店売上+220%(原文表記「3.2倍」)

上の表は、中国商務部が2026年2月26日の定例記者会見(2026年春節・9連休)で発表した内容である。ここに並ぶのはすべて前年同期比の伸び率であり、元(人民元)建ての絶対額は一切公表されていない。日本の百貨店協会が毎月、絶対額の時系列を公表しているのとは対照的である。また、春節の消費増には年終奨・帰省・休暇需要が同時に含まれており、ボーナス要因だけを取り出すことはできない。

アメリカ — ボーナスに「アクセスできる」労働者は37%〜58%

BLSは、nonproduction bonusesを「業績と直接連動しない一時金」と定義している。日本のように、ほぼ全ての正社員に対して夏・冬の年2回、あらかじめ時期が決まった形で支給される制度とは前提が異なる。BLSの「Employee Benefits in the United States」(2025年3月)によれば、nonproduction bonusesへのアクセス(制度として提供されているかどうか)は職種によって差があり、サービス職で37%、管理・専門職で58%となっている。全労働者を通じた単一の平均値は、この一次資料の本文中には見当たらなかった。

つまりアメリカでは、そもそも制度としてボーナスの対象になっていない労働者が一定数おり、支給されるとしても金額・時期は企業ごとにばらつく。日本の賞与のように「年2回、ほぼ全員に、予告された時期に」支給される仕組みとは、性質そのものが異なると考えられる。

📎 「予告どおりに配られる」ことが、家計に何をもたらしたか

日本の賞与は、金額の完全な想定外ではないにせよ、夏・冬の年2回、ほぼ決まった時期に支給される。この予告可能性は、金額の大きさそのものとは別に、家計の設計に影響してきたと考えられる。クレジットカードやローンの「ボーナス払い」――代金の一部を賞与月にまとめて支払う後払いの仕組み――は、この予告可能性を前提にした慣行の一例である。

本記事の第3章で見たとおり、家計調査の消費支出は賞与月に平常月比で1.05倍しか増えない。それでも、家具・家事用品や被服、パック旅行費、交際費といった特定の費目には、はっきりとした山ができる。年2回、まとまった額が予告どおりに届くという慣行は、アメリカのように職種によってアクセスの有無が分かれる仕組みや、中国のように公的な集計そのものが見当たらない仕組みと比べると、日本の家計行動に組み込まれた、比較的まれな制度だと言える。

→ 次の第11章では、内閣府の世論調査から「金を使わない喜び」を見る。

🌈 金を使わない喜び — 内閣府調査でみる日本人の充実感

このセクションの3点

① 内閣府調査(令和7年8月)で「充実感を感じる時」の1位は「ゆったり休養」57.9%、2位は「趣味・スポーツ」49.3%で、いずれも大きな支出を前提としない

② 「心の豊かさか、物の豊かさか」は令和7年調査で心の豊かさ52.2%がやや優勢だが、令和5年調査だけ物の豊かさが上回った

③ 世帯年収は300万円付近で満足度が押し上がり、2,000万〜3,000万円で頭打ちになる(内閣府2019年報告書)

内閣府「国民生活に関する世論調査」(令和7年8月調査)は、日常生活の中で充実感を感じる瞬間を複数回答でたずねている。対象は充実感について何らかの回答をした2,661人(全回答者2,938人のうち)で、複数回答のため割合の合計は100%を超える。

充実感を感じる時 — 男女・年代別

区分ゆったり休養趣味・スポーツ家族団らん友人・知人と会合
総数(n=2,661)57.9%49.3%48.1%40.1%
男性(n=1,241)55.0%56.2%46.3%30.9%
女性(n=1,420)60.5%43.2%49.6%48.1%
18~29歳(n=275)64.7%58.5%45.8%52.0%
30~39歳(n=288)56.3%55.2%62.5%40.6%
40~49歳(n=374)55.9%49.2%61.0%35.3%
50~59歳(n=496)61.5%55.0%48.6%32.5%
60~69歳(n=458)60.3%50.9%45.2%38.0%
70歳以上(n=770)53.5%39.1%38.7%44.2%

全体(n=2,661)でもっとも高いのは「ゆったりと休養している時」57.9%で、次いで「趣味やスポーツに熱中している時」49.3%、「家族団らんの時」48.1%、「友人や知人と会合、雑談している時」40.1%と続く。これらはいずれも、まとまった支出を前提としない過ごし方である。

男女差では、男性は「趣味やスポーツ」56.2%が女性43.2%より高く、女性は「友人や知人との会合」48.1%が男性30.9%より高い。年代差では、18~29歳が「ゆったり休養」64.7%・「友人や知人との会合」52.0%で高く、「家族団らん」は30〜49歳で6割を超えて最も高い。「友人や知人との会合」は70歳以上でも44.2%と再び上がる。

心の豊かさか、物の豊かさか

同じ調査の問14「これからは心の豊かさに重きを置くか、まだ物の豊かさに重きを置くか」を、令和3年から令和7年までの5回分で並べる。

調査年心の豊かさ物の豊かさ
令和3年9月調査53.4%45.1%
令和4年10月調査51.7%46.9%
令和5年11月調査48.8%50.0%
令和6年8月調査53.0%45.7%
令和7年8月調査52.2%46.6%

令和7年調査では心の豊かさ52.2%が物の豊かさ46.6%を上回るが、差は5.6ポイントで拮抗している。令和5年11月調査だけは物の豊かさ50.0%が心の豊かさ48.8%をわずかに上回っており、5回のうち唯一の逆転である。この1回だけの逆転が何を反映しているかは、この調査だけからは判断できない。

所得と満足度 — どこで頭打ちになるか

内閣府「満足度・生活の質に関する調査」第1次報告書(令和元年5月24日公表・2018年度実施のWEB調査、回答者約1万人)は、10点満点で測った総合主観満足度と世帯年収の関係を分析している。全国平均は5.89点である。

5.89点

総合主観満足度の全国平均(10点満点・2018年度調査)

300万円

この額を境に満足度が約+0.5pt上昇(最も効く境目)

2,000万〜3,000万円

世帯年収の満足度頭打ちライン(これ以上は緩やかに低下)

世帯年収と満足度の関係は山型で、年収300万円を境に満足度が約0.5ポイント上昇する。この付近の増加幅は、報告書の中で他のどの年収帯の変化よりも大きいとされる。満足度自体は世帯年収2,000万円〜3,000万円で頭打ちになり、それを超えるとゆるやかに下がる。学歴も満足度を押し上げるが、大学院修了でも6点程度で頭打ちになる。

同じ報告書は、頼れる人の数(ソーシャル・キャピタル)が多いほど満足度が高く、頼れる人が5人以上いる場合は、世帯年収100万円未満や不健康といったマイナス要因があっても、満足度が大きく下がらないと述べている。所得の高さだけでは満足度を説明しきれない部分がある。

第8章の4分類と重なるもの、重ならないもの

充実感の上位に来る「ゆったり休養」「家族団らん」「友人や知人との会合」は、第8章で見た「時間の回復」「関係の維持」に近い過ごし方だが、その多くは賞与を使わなくても実行できる。休養も団らんも、まとまった金額を前提としない。

一方、「趣味やスポーツに熱中している時」49.3%は道具や場所への支出を伴うことが多く、賞与が向かいやすい「自己像の更新」と重なりやすい。国内旅行や家族旅行は充実感の項目そのものには現れないが、「家族団らん」や「友人や知人との会合」を実現する手段として働いている可能性がある。

つまり、賞与で買えるものは充実感そのものではなく、充実感が起きやすい状況(旅行先での団らん、趣味の時間)を作る手段の一つにすぎない。金を使わない充実感(休養、日常の団らん)と、金が後押しする充実感(旅行、趣味の道具)は、別の軸として並んでいると見るほうが、この章で見た数値には合う。

→ 次の第12章では、ここまでの実測と調査を1つの答えにまとめる。

結論 — 人は喜びを買うのか、不安を買い戻すのか

このセクションの3点

① 賞与月に増えるのは家具・家事用品、被服、パック旅行費、交際費。交通・通信や自動車等関係費のような固定費は動かない

② 消費支出の総額増加は+14,777円(1.05倍)にすぎない。もらった額の大部分は、その月の消費としては姿を現さない

③ 「金額帯別の使い道」「200万円超から上の分布」など、この記事が答えを出せなかった問いも正直に一覧にする

問いに戻る — 賞与は何を解放したか

この記事の最初の問いは、「日本人は、まとまった金で、普段は先送りしている何を解放するのか」だった。答えは一つに絞れる。賞与が最も強く動かすのは、消費の総量ではなく、消費の中身の配分である。生活費というくくりの中で、後回しにしていた家具や衣服、旅行、人付き合いに使う分が増え、通信費や車の維持費のような毎月変わらない支払いは、ほとんど動かない。

これは第8章で置いた4分類(不安の軽減・時間の回復・関係の維持・自己像の更新)に沿って言い直すこともできる。家計調査の実測が示したのは、関係の維持(交際費・パック旅行費)と自己像の更新(被服)と時間の回復(家具・家事用品)が伸び、不安の軽減にあたる固定費・保険的な支出は賞与月でも普段どおりという配分だった。まとまった金は、生活を丸ごと変えるためではなく、普段は削られがちな分野をわずかに底上げするために使われている。

実測が示したこと

費目賞与月の動き4分類のどれか
家具・家事用品平常月11,034円 → 賞与月13,821円(1.25倍)時間の回復
被服及び履物平常月8,868円 → 賞与月10,946円(1.23倍)自己像の更新
パック旅行費平常月2,517円 → 賞与月3,073円(1.22倍)関係の維持/自己像の更新
交際費平常月8,475円 → 賞与月9,991円(1.18倍)関係の維持
交通・通信平常月42,202円 → 賞与月41,790円(0.99倍)動かない固定費
自動車等関係費平常月24,193円 → 賞与月24,163円(1.00倍)動かない固定費
消費支出(総数)平常月283,100円 → 賞与月297,877円(+14,777円・1.05倍)全体としてはほぼ動かない

この実測(本記事の試算・総務省家計調査の長期時系列表から2018・2019・2022・2023・2024年の5年分を集計)でもっとも重要なのは、伸び率の高い費目ではなく、総額がほとんど動いていないという事実である。夏季賞与の平均支給額は42.6万円(毎勤統計・支給事業所平均)にのぼるが、消費支出の増加は1万5千円に満たない。第3章で見たとおり、これはアンケートの使い道1位が13年連続で「貯金・預金」であることと矛盾しない。建前と行動は、この記事が調べた範囲では食い違っていなかった。

この記事が測れなかったもの

ここまでの各章で「取得できず」「公表されていない」と書いた項目を、最後にもう一度並べる。これを隠さずに一覧にすることが、この記事の答えを信頼できるものにすると考える。

測られていないもの状態根拠
金額帯別(50万円・100万円・200万円)の使い道クロス集計直接集計した一次調査が存在しない日本生命・Pontaいずれのプレスリリースにも該当表なし
使い道の男女別・年代別クロス集計(2019年以降)2019年から公表が止まっている日本生命は2016〜2018年版では男女別を公表していた(2018年版は年代×性別まで)。2019年以降はその内訳をやめており、9年分すべてを確認しても直近の姿は分からない。かつて測られていたものが、測られなくなった
年収階層別の賞与額国税庁の報告書に存在しないことを確認した「令和6年分民間給与実態統計調査 調査結果報告」(全31ページ)を全文確認済み
非正規雇用者の賞与支給率の正確な数値取れず。定性的な記述のみ「正社員に実施している企業のうち4〜6割程度」という文章は確認できたが、表の数値はPDFのレイアウト崩れで抽出できず
貯蓄純増(黒字・平均消費性向)の月次時系列取れず家計調査の該当統計表を本セッションでは特定できなかった
日本生命「夏のボーナス」アンケートの最新版2024年で終了公式ニュースリリース索引(892件)を全件確認し、2025年・2026年は非実施と確定
「200万円超」から上の支給額の分布測られていないPonta調査の選択肢は「200万円以上」で打ち止め。それより上の区分は統計として存在しない

📎 あなたの賞与は、何を解放しただろうか

この記事は、貯蓄を選ぶ人を消極的だと決めつけず、旅行や趣味に使う人を浪費家だと決めつけない立場で数字を追ってきた。実測が示したのは、日本人が賞与で買っているのは目立つ贅沢ではなく、普段は後回しにしている家事の負担・人付き合い・自分の見た目や趣味への、わずかな上乗せだったということだ。そして、その手前にある「不安の軽減」(貯蓄・返済・保険)は、依然としてボーナスの使い道1位であり続けている。

次にボーナスが入ったら、金額そのものよりも、それが自分の中の4つの引き出し — 不安の軽減・時間の回復・関係の維持・自己像の更新 — のどれを開けたのかを見てみてほしい。使い道に正解はない。ただ、自分が何を先送りにしていて、今回それをどれだけ解放できたのかを言葉にできると、同じ金額でも見え方は変わるはずだ。

ここまでが本編(第1章から第12章)である。数値の出典は各章に明記した一次資料に依拠している。→ この後の第13章は余談である。世界の人がボーナスで何をしているのかを、報道と民間調査から集めた。本編とは情報の性質が違うので、章の冒頭にその旨を書いた。

🍻 余談 — 世界の人はボーナスで何をするのか(この章は一次情報に基づかない)

このセクションの3点

① スペイン・ギリシャ・ポルトガルは13ヶ月目・14ヶ月目の給与が法律で義務化されている。ドイツ・オーストリアは法律上の義務ではないが、労使協約でほぼ全員に支給されている

② アメリカでは年末ボーナスの受給率自体が下がっている(ADP Research:2021年ピーク約44%→2024年は40%未満)。臨時収入としては確定申告の還付金の方が近い機能を持つが、2026年の報道は「贅沢ではなく生活必需品」が主流と伝えている

③ 中国の年終奨(年末ボーナス)は平均額が2年連続で減少(智联招聘ベース:2022年8,428元→2023年6,950元→2024年6,091元)。使い道の内訳を集計した調査は見つからなかった

ここから先は余談である。本編(第1〜12章)は国税庁・厚生労働省・国家統計局・BLSといった行政統計だけで組み立てたが、この章はそれらの縛りを外し、報道・企業の自社調査・業界団体の発表を素材にする。一次情報ではないので、各項目に情報源の種類(政府統計 / 業界団体の統計 / 企業の自社調査 / 報道)を1件ごとに明記した。数字は調べて見つかったものしか書いておらず、裏取りできなかった話(例:中国の年終奨と医療美容消費を結びつける話)は書いていない。確かさの度合いを見ながら読んでほしい。

この章の出発点は、依頼者からの「まとまった金が入った人は、普段はできない何にそれを使うのか、日本・中国・EU・アメリカで知りたい」という問いだった。旅行・高級品・贅沢な外食といった、派手な使い道のカタログが出てくることを期待して報道と調査を集めた。

実際に出てきたのは、その逆に近い姿だった。アメリカでは年末ボーナスをもらえる人の割合そのものが下がっている。中国では年終奨の平均額が2年連続で減っている。日本では冬のボーナスの使い道は12年連続で「貯金」が1位である。EUだけは法律で支給が義務化されている国があるという意味で確かに特殊だが、そこでも「もらった金で何を買ったか」の派手な話はほとんど見つからなかった。世界中で、まとまった金の“特別さ”が薄れているように見える、というのが調べた末の正直な着地点である。

🇪🇺 EU — 「EU」で一括できない。国によって法律が義務化と任意に分かれる

EUは加盟国ごとに労働法が異なり、ボーナスの位置づけも国によって大きく違う。スペイン・ギリシャ・ポルトガルは法律で13ヶ月目・14ヶ月目相当の給与支給が義務付けられている。一方でドイツ・オーストリアには法律上の支給義務は無いが、企業と労働組合が結ぶ労働協約(Kollektivvertrag/Tarifvertrag)を通じてほぼ全員に事実上支給されている。「EU諸国は皆ボーナス文化がある」とまとめるのは不正確で、国ごとに根拠が違う点を分けて見る必要がある。

制度の位置づけ根拠・実態情報源の種類
スペイン法律上の義務(paga extra)労働者憲章(Real Decreto Legislativo 2/2015)が年2回の特別手当を明記。労働協約でこれを上回る回数への増額は可能法令+報道
ギリシャ法律上の義務(13・14ヶ月目給与)1982年法1082号(表記にブレあり)でクリスマス手当(満額1ヶ月分)・イースター手当(半月分)・休暇手当(半月分)を規定制度解説記事の集約
ポルトガル法律上の義務(13・14ヶ月目給与)労働法典(Código do Trabalho)第263条・264条。クリスマス手当は1974年に全労働者・年金受給者へ義務化制度解説記事の集約
イタリア法律上の義務(tredicesima)1937年に一部労働者向けに法制化され、後に全労働者へ拡大。固定期間・無期雇用者が対象で金額は月給1ヶ月分相当制度解説記事の集約
オーストリア法律上の義務ではないが実質皆勤労働協約の適用率が約95%と高く、実際の受給率は約98%(休暇手当は6〜7月、クリスマス手当は11〜12月頃)労使団体(労働者会議所・ÖGB)の統計・解説
ドイツ法律上の権利ではない(事実上の慣行)労働者の約52%がクリスマス手当を受給、平均2,987ユーロ。労働協約適用者に限ると2024年時点で85.8%が受給労使団体(DGB)の統計・解説(一次出典は連邦統計局とされるが未到達)

スペイン・ギリシャ・ポルトガルとドイツ・オーストリアの違いは、「法律上の権利」か「労使協約による事実上の慣行」かという一点に集約される。前者3カ国では企業が一方的にこれを廃止することは重大な労働法違反にあたるとされる一方、ドイツでは受給できるかどうかが労働協約の適用有無に左右される。使い道についての消費者調査は、今回の調査では見つからなかった。

🇺🇸 アメリカ — ボーナス自体が縮み、還付金は「生活必需品」に回る

給与計算大手ADPの調査部門ADP Researchが2025年12月11日に発表した分析によれば、年末ボーナスを受け取る従業員の割合は2021年のピーク時で約44%だったが、2024年には40%未満まで下がった。金額の中央値も2023年の1,857ドルから2024年は1,786ドルへ減少している。ボーナスが総賃金に占める比率は全米平均で約3.5%だが、年収25万ドル以上の高所得層に限ると約25%に達し、受給できるかどうかも金額も所得層によって大きく偏っている。

その代わりに、日本のボーナスに近い臨時収入としての機能を持つのが、確定申告の還付金(tax refund)である。LendingTreeの調査を基にした2026年4月の報道では、還付金の使途は生活費・家賃・光熱費など「生活必需品」34%、「債務返済」34%、「貯蓄・緊急資金」32%で、回答者の46%が還付金に依存していると答えている(前年42%、前々年40%から増加)。記事自体が「今年は贅沢ではなく生活必需品に充てられる」と明記しており、2023年の別調査でも使途の上位は債務返済35%・貯蓄32%で、「欲しい物の購入」はZ世代・ミレニアル世代でも15%にとどまる。

指標数値発表時期情報源の種類
年末ボーナス受給率2021年ピーク約44%→2024年は40%未満2025年12月発表(ADP Research)企業の自社調査
還付金の使途生活必需品34%・債務返済34%・貯蓄32%(46%が依存と回答)2026年4月の報道(原調査はLendingTree)報道
還付金の使途(別年調査)債務返済35%・貯蓄32%・欲しい物の購入15%(Z世代/ミレニアル)2023年2月調査(LendingTree)企業の自社調査

「アメリカ人はボーナスで贅沢する」という単純な話は、今回集めた素材からは書けない。年末ボーナスという制度自体を受け取れる人が減っており、代わりに近い機能を持つ還付金も、直近の報道では贅沢よりも生活必需品への充当が語られている。

🇨🇳 中国 — 年終奨の平均額は2年連続で減少

中国 年終奨(年末ボーナス)の平均見込み額の推移
2022年
8428元
2023年
6950元
2024年
6091元

2年連続の減少

人材サービス大手・智联招聘(Zhaopin)の調査結果として複数の中国メディアが報道した数値(報道:新浪財経・経済観察網など、2025年1月発表分)。回答者の自己申告に基づくウェブ調査であり、政府統計ではない。使い道(旅行・投資・帰省など)の内訳を集計した調査は見つからなかった。

この調査では業種別の差も報じられており、商業サービス(コンサル・会計・法律・広告等)が平均8,475元で最も高く、卸小売6,904元、金融6,416元などが続く。ただし今回の調査で見つかったのは金額の平均値だけで、「年終奨を旅行に何%、投資に何%、帰省に何%使ったか」という使い道の内訳を集計した調査は、報道・業界団体の発表いずれからも見つからなかった。「中国では年終奨で高級品や医療美容に使う」といった話も、今回の調査では一次的な裏付けを取れなかったため書いていない。

🇯🇵 日本 — 冬のボーナスの使い道、12年連続で貯金が1位

株式会社ロイヤリティマーケティングが2025年9月26〜29日に実施し、2025年10月30日に発表した「第63回 Ponta消費意識調査」(男女・年代別で計3,000人規模)では、冬のボーナスの使い道の1位は「貯金・預金」で、これで12年連続の1位になる。2024年と比べて旅行・食品への支出が減り、貯金・投資が増えたと報告されている。

一方、イオンクレジットサービスが2019年7月に発表した調査(20〜49歳のボーナス支給予定者500人が対象)では、使い道の1位は「旅行」37.5%で、Pontaの直近調査とは順位が異なる。ただしこれは2019年(令和最初のボーナス)時点のデータであり、直近の傾向ではない。年によって調査項目・母集団・景気局面が違うため、「日本人はボーナスで旅行する」と今の話として書くのは不正確で、年次を明示したうえでのみ使うべき数字である。

調査発表年使い道の傾向注意点
第63回 Ponta消費意識調査(ロイヤリティマーケティング)2025年10月発表「貯金・預金」が12年連続1位。旅行・食品は減少、貯金・投資が増加直近の傾向として使える
ボーナスの使い道調査(イオンクレジットサービス)2019年7月発表「旅行」37.5%が最多、次いで「服」28.3%、「家電」27.9%2019年時点のデータで直近ではない。年次を明記して使う

📎 4つの地域を通して見えたこと

EU(一部の国での法律による義務化)、アメリカ(受給率自体の低下と、還付金の「生活必需品」化)、中国(年終奨の平均額の2年連続減少)、日本(12年連続で貯金が1位)――4つの地域を並べると、ボーナスは世界的に、特別な金から普通の金に近づいているように見える。制度として「法律で義務化されている」EUの一部の国でさえ、その金の使い道が贅沢に向かっているという裏付けは見つからなかった。

ただしこれは厳密な国際比較ではない。各国の調査は母集団の規模・年齢層・調査年・設問の作り方がまったく揃っておらず、同じ物差しで並べたものではない。「世界的にそう見える」という印象論として読んでほしい。

この章の限界

・各国の調査は母集団・年次・設問がそろっておらず、国同士を厳密に比較することはできない(日本のPonta調査3,000人規模とアメリカのLendingTree調査2,041人規模を単純に並べているだけで、代表性の水準は同一ではない)

・裏取りできなかった項目は、意図的にこの章から外している(例:中国の年終奨と医療美容消費を結びつける話、Bankrateの還付金調査の詳細)

・中国の年終奨の使い道の内訳(旅行%・投資%など)を集計した調査は取得できなかった

・日本のクレジットカード・信販会社による「ボーナス払い」の利用率・利用者数の統計は、制度の説明ページは見つかったが、利用実態の数値データは取得できなかった

→ 本編の結論は第12章にある。