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🍙 2026年のインフレとみんなの生活 — 手取りは減っていない。買えるものが減った

セブンのおにぎりは100円から200円になった、と言われる。実際に調べると、値上げ前の時点で既に165〜198円だった。では何が起きているのか。ドル円は8年で43.8%の円安、物価は14.2%上昇、実質賃金は2.3%減。年収300万から2000万まで9階層の手取りを、2018年と2026年の公式な料率で自分で計算した。結論から言うと、税と社会保険の設計はこの8年でほとんど変わっていない。手取りの額面もほぼ同じである。それなのに全ての年収階層で、買えるものが12〜13%減っていた。

📊 結論 — 上がったもの、下がったもの、消えた12%

このセクションの3点

① ドル円は2018年平均110.39円→2026年(1〜7月)平均158.76円で+43.8%の円安、CPI総合は2018年平均99.55→2026年(1〜6月)平均112.98で+14.2%の物価上昇(日本銀行・総務省統計局の原本データ)

② 「増税で減った」「中国製品でデフレ」「小麦粉は下がった」という3つの通説は、いずれも一次情報では確認できなかった

③ 手取りの額面はほぼ同じでも、物価上昇分を差し引いた実質手取りは、年収300万円から2,000万円まで全ての階層で12〜13%目減りしている(本記事の試算)

+43.8%

円安(ドル円 2018→2026年1〜7月平均)

+14.2%

物価上昇(CPI総合 2018→2026年1〜6月平均)

−2.3%

実質賃金(2018→2025年)

−12〜13%

実質手取り(全年収階層・本記事の試算)

この8年で何が起きたか — 品目・指標別 2018 vs 2026

「増税で苦しくなった」「中国製品のおかげでモノは安くなっている」「小麦粉は値下がりしている」——これらはよく聞く見立てである。しかし一次情報を1つずつ確認すると、どれも成り立たない。以下は、依頼の出発点になった品目と、家計を左右する主要な指標を並べた表である。

指標・品目2018年2026年倍率(変化率)判定
おにぎり(CPI指数)97.47(2018年平均)145.28(2026年1〜6月平均)2018=100換算で149.1(+49.1%)インフレ(急騰)
小麦粉(CPI指数)94.89(2018年平均)135.38(2026年1〜6月平均)2018=100換算で142.7(+42.7%)インフレ
ルームエアコン(CPI指数、2018=100を基準)100.0171.0+71.0%インフレ(急騰)
移動電話通信料(CPI指数、2018=100を基準)100.057.9−42.1%デフレ(政策要因)
ドル円110.39円/ドル(2018年平均)158.76円/ドル(2026年1〜7月平均)+43.8%円安
CPI総合(消費者物価)99.55(2018年平均)112.98(2026年1〜6月平均)2018=100換算で113.5(+13.5%)インフレ
平均給与(国税庁・名目)439.1万円(2018年分)477.5万円(2024年分・最新公表)+8.7%名目は上昇
実質賃金指数(毎月勤労統計調査)102.1(2018年)99.8(2025年)−2.3%デフレ(実質目減り)
1,000万円の購買力(本記事の試算)1,000万円(2018年時点)約881万円相当(2026年の物価で)−11.9%目減り

CPI指数は総務省統計局、ドル円は日本銀行、平均給与は国税庁、実質賃金は厚生労働省「毎月勤労統計調査」の原本データを使っている。2026年の値はいずれも年央までの平均であり、年平均が確定するのは年明け以降である。平均給与は2026年分がまだ存在しないため、最新公表の2024年分を用いた。1,000万円の購買力は本記事の試算で、CPI総合を使って「2018年のX円は2026年の物価でいくら分の価値か」を計算したものである(計算式は第4章で示す)。

単位をそろえて見ると、どこが動いたかが分かる

主要指標・品目の変化率(2018年→2026年)
ルームエアコン
+71%

CPI指数

おにぎり(CPI)
+49.1%

CPI指数・1〜6月平均

ドル円(円安)
+43.8%

2018→2026年1〜7月平均

小麦粉(CPI)
+42.7%

CPI指数

CPI総合
+13.5%

物価全体

平均給与(名目)
+8.7%

国税庁 2018→2024年分

実質賃金
-2.3%

2018→2025年

1,000万円の購買力
-11.9%

本記事の試算

移動電話通信料
-42.1%

政策要因

数値は上表と同じ。円・万円・指数など単位が異なる指標を「変化率」でそろえて比較した。詳細な出典・注記は各章を参照。

3つの通説を検証する

この記事を読む前に、よく聞く3つの「通説」を確認してほしい。

① 「増税で手取りが減った」 → 税・社会保険の設計はこの8年でほとんど変わっていない。年収500万〜700万円の中間層は、むしろ手取りがわずかに増えている(本記事の試算・第3章で詳述)。

② 「中国製品が安いから、家電などの耐久財はデフレになっている」 → ルームエアコンは+71%、カメラは+55%上昇した。下がったのは移動電話通信料など一部の品目に限られ、しかもその主因は政策(携帯料金引き下げ)であって中国製品とは切り分けて考える必要がある(第5章で詳述)。

③ 「小麦粉は値下がりしている」 → CPIの小麦粉指数は+42.7%、農林水産省の輸入小麦の政府売渡価格も+15.0%。どちらも2018年より高い(第7章で詳述)。

犯人は増税でも中国製品でもなかった。円が43.8%安くなり、物価が14.2%上がった。手取りの額面はほとんど変わらないのに、買えるものは全ての年収階層で12〜13%減った。この記事は、その中身を1つずつ確認していく。

→ 次の第2章では、この記事の出発点になった「おにぎりが100円から200円になった」という体感を、セブン-イレブンの公式発表と総務省の統計で検証する。

🍙 おにぎりは本当に100円から200円になったのか

このセクションの3点

① セブン-イレブンの公式発表(2026年2月12日)では、値上げ"前"の価格が既に165〜198円(税抜)で、100円ではなかった

② 総務省の統計を集計した二次サイト経由の数値では、鮭おにぎり全国平均は2015年頃109〜111円→2026年前半171〜173円で+50〜60%(この数値は原本未確認)

③ セブンが公式に挙げた値上げ理由は原材料・容器包材・物流コスト・コメ価格の高止まりで、インバウンドへの言及は一次資料に見当たらない

この記事は「セブンのおにぎりが100円から200円になった」という体感から出発している。その体感自体を否定するのではなく、事実で検証する。結論を先に言うと、「100円」の記憶は間違っていない。ただし、それがいつの話だったかを確認する必要がある。

セブン-イレブンの公式発表(2026年2月12日)

株式会社セブン‐イレブン・ジャパンは2026年2月12日、「コメ価格高騰への対応に関するお知らせ」を公式に発表した。オリジナルフレッシュフードの米飯商品について、2月10日より順次価格を見直すという内容である。値上げ"前"の価格をそのまま見ると、この時点で既に100円ではなかったことが分かる。

商品名変更前価格(税抜/税込)変更後価格(税抜/税込)変化率(税抜ベース)
手巻おにぎり ツナマヨネーズ165円/178.20円182円/196.56円+10.3%
手巻おにぎり 北海道産昆布165円/178.20円182円/196.56円+10.3%
手巻おにぎり 炭火焼紅しゃけ198円/213.84円215円/232.20円+8.6%
手巻おにぎり 具たっぷり辛子明太子198円/213.84円215円/232.20円+8.6%

値上げ"前"の水準が、すでに165〜198円だった

この2026年2月の改定に関する限り、依頼者の「100円」起点説は成立しない。値上げ前の時点で、既に税抜165〜198円だった。報道(日本経済新聞、2026年2月12日)は「セブンイレブン、おにぎりなど平均9%値上げ ツナマヨは1年で3割高」と伝えている。同リリースには「150円以下(税抜)のお求めやすい価格帯商品も品揃えし、幅広くお客様のニーズにお応えしてまいります」との記載もあり、値上げ品と並行して低価格帯の商品も維持されている。

総務省 小売物価統計調査で見る鮭おにぎりの長期推移

出典の限界(必ず先に断っておく)

・この価格推移は総務省「小売物価統計調査」を集計した二次サイト(jpmarket-conditions.com)経由の数値であり、総務省の原本統計表(e-Stat)そのものは今回確認できていない

・取得日は2026年8月8日。同サイトが公開している最新の集計値を用いている

・別の二次集計サイト(gdfreak.com)によれば、2025年の79都市平均は166円、最安値は長岡市92円、最高値は函館市203円で、地域差がかなり大きい

鮭おにぎり 全国平均価格(円、二次集計サイト経由)2015年比(本記事の試算)
2015年109〜111円基準(±0%)
2016年111〜112円約+1%
2017年112〜113円約+2%
2018年114〜115円約+4%
2019年116〜118円約+6%
2020年118〜119円約+8%
2021年117〜118円約+7%
2022年117〜123円約+9%
2023年123〜138円約+19%
2024年139〜151円約+32%
2025年153〜172円約+48%
2026年(1〜6月)171〜173円約+56%

結論 — 「100円の記憶は正しい。ただしそれは2015年前後の話だった」

2015年の鮭おにぎり全国平均は109〜111円だった。そこから2026年前半の171〜173円まで、+50〜60%の値上がりが起きている。「昔はおにぎりが100円だった」という記憶自体は間違っていない。ただしその「昔」は2026年から見て10年以上前の話であり、直近1〜2年で急に倍になったわけではない。価格は2015年から一貫して、しかし2022年以降は特に速いペースで上がり続けてきた。

セブンが公式に挙げた値上げ理由

セブン-イレブン・ジャパンの公式発表原文(2026年2月12日): 「オリジナルフレッシュフードの米飯商品について、2月10日より順次価格の見直しを行っております。原材料や容器・包材の価格高騰や物流コストの上昇等の影響が続いておりますが、コメの価格についても依然として高止まりの状況です。

値上げの理由として公式に挙げられているのは、原材料・容器包材・物流コスト・コメ価格の高止まりの4点である。インバウンド(訪日外国人需要)への言及は、このリリースには一切ない。

インバウンド仮説の検証 — 「値上げは訪日客向け」は言えるか

「コンビニの値上げは、訪日外国人の購買力を当て込んだものではないか」という見方がある。これも仮説として、一次資料で確認する。

順位買物場所選択率(複数回答)
1位コンビニエンスストア85.3%
2位百貨店・デパート59.4%
3位ドラッグストア59.2%
4位空港の免税店約50〜55%
5位スーパーマーケット50.4%
訪日外国人の買物場所(複数回答)
コンビニエンスストア
85.3%
百貨店・デパート
59.4%
ドラッグストア
59.2%
空港の免税店
53%

約50〜55%(表記ゆれあり)

スーパーマーケット
50.4%

出典: 観光庁「インバウンド消費動向調査」2025年年次報告書(原本PDF直接取得)。コンビニは全項目中トップの選択率だが、これは「コンビニで買い物をする訪日客が多い」という事実であり、「値上げの理由がインバウンドである」ことの証明ではない。

一次資料での結論 — 因果関係は確認できなかった

観光庁の調査で、コンビニが訪日外国人の買物先として全項目中トップ(85.3%)であることは一次情報で確認できる。しかし、セブン&アイ・ホールディングスの決算説明資料やセブン-イレブンの公式リリースに、値上げの理由としてインバウンド需要を挙げた記述は見当たらなかった。公式に挙げられている理由は一貫して「原材料・物流コスト高騰、コメ価格の高止まり」である。
参考情報として、日本フランチャイズチェーン協会の統計では、コンビニ既存店の来店客数は12カ月連続で前年割れが続く一方、客単価は上昇している。これは値上げが起きている事実の裏付けにはなるが、その主因が国内客かインバウンドかを区別できる数値ではない。「値上げの理由がインバウンドである」という仮説は、一次資料では裏付けられなかった。

おにぎりのドル換算 — 外国人にはどう見えるか(本記事の試算)

円建ての価格は上がっているが、この間ドル円も43.8%円安に動いている(第1章)。訪日客にとっての「体感価格」を見るため、ドル換算を試算した。

商品・時点円建て価格ドル換算(本記事の試算)
手巻おにぎり ツナマヨネーズ(2026年2月改定後・税込)196.56円約1.25ドル(約157円/ドルで換算)
手巻おにぎり 炭火焼紅しゃけ(2026年2月改定後・税込)232.20円約1.48ドル(約157円/ドルで換算)
鮭おにぎり全国平均(2026年前半)約171〜173円約1.09〜1.10ドル(約157円/ドルで換算)
鮭おにぎり全国平均(2018年頃)約114〜115円約0.73ドル(当時の約112円/ドルで換算)

円建てでは鮭おにぎり平均は2018年頃114円→2026年前半171円で約+50%。同じ期間にドル円は約112円→約157円へ約+40%の円安が進んだ。ドル建てに換算すると0.73ドル(2018年頃)→約1.09〜1.10ドル(2026年前半)となり、ドル建てで見てもほぼ同水準の上昇率になる。円安が進んだ期間とおにぎりの値上げペースがたまたま近かったためで、「円建てでは倍でもドル建てでは変わらない」というような劇的な相殺効果は、この試算では確認できなかった。この試算はレートを単純に当てはめた本記事独自の計算であり、セブン&アイの決算資料等が公表した数値ではない。

→ 次の第3章では、年収300万円から2,000万円まで9階層の手取りを、2018年と2026年の公式な料率から自分で計算する。

💴 年収300万〜2000万 手取りはどうなったか(自前計算)

このセクションの3点

① 名目の手取りは、年収500万〜700万円の中間層でわずかに増加し、800万円以上の層では減少している

② 物価上昇分を差し引いた実質の手取りは、300万円から2,000万円まで全ての階層で12〜13%目減りしている

③ 2026年4月に始まった「子ども・子育て支援金」(本人負担0.115%)は高所得ほど額が大きいが、標準報酬月額の上限で頭打ちになる

この章の手取り額は、公式の料率・控除額をもとに本記事が独自に計算した試算である。民間の手取り計算サイトの結果をそのまま転載したものではなく、国税庁・協会けんぽの公式資料から料率と控除額を取得し、独自に計算した。

計算の前提: 独身・扶養なし・40歳以上(介護保険料あり)・東京都在住・協会けんぽ加入・給与収入のみ。賞与は考慮せず、年収を12等分した月額をそのまま「標準報酬月額」とみなして社会保険料を計算する簡略化を行っている(実際の等級表による1円単位の丸めは考慮しない)。住民税は所得割10%+均等割で計算し、調整控除は考慮しない。ふるさと納税・iDeCo・生命保険料控除・住宅ローン控除などの任意の控除も一切考慮していない。

したがって、実際の手取り額は家族構成や各種控除の有無によって、ここに示す試算値とは異なる。

額面の手取りはどう変わったか(名目)

年収2018年 手取り(手取り率)2026年 手取り(手取り率)差額
300万円2,370,712円(79.02%)2,367,726円(78.92%)−2,986円
400万円3,130,044円(78.25%)3,124,362円(78.11%)−5,682円
500万円3,861,426円(77.23%)3,869,127円(77.38%)+7,702円
600万円4,578,615円(76.31%)4,583,772円(76.40%)+5,158円
700万円5,251,068円(75.02%)5,266,340円(75.23%)+15,272円
800万円5,907,402円(73.84%)5,897,536円(73.72%)−9,866円
900万円6,591,524円(73.24%)6,554,305円(72.83%)−37,220円
1,000万円7,275,950円(72.76%)7,205,769円(72.06%)−70,181円
2,000万円12,991,485円(64.96%)12,907,714円(64.54%)−83,771円

発見: 中間層は微増、800万円以上は減少している

額面(名目)の手取りだけを見ると、年収500万〜700万円の中間層はむしろ数千円〜1.5万円ほど増えている。一方で800万円以上の層は軒並み減少し、900万円で−3.7万円、1,000万円で−7.0万円、2,000万円で−8.4万円である。

理由は3つある。①給与所得控除の上限額が220万円から195万円に引き下げられた(高所得層ほど控除が減る)。②厚生年金の標準報酬月額の上限が62万円から65万円に引き上げられ、高所得層の保険料負担が増えた。③2026年4月に始まった「子ども・子育て支援金」の負担額が、標準報酬月額の上限まで所得に比例して増える。

逆に300万・400万円台がわずかに減っているのは、所得税の減税分(基礎控除・給与所得控除の拡大)を、社会保険料の増分(子ども・子育て支援金と雇用保険料率の上昇)がわずかに上回るためである。

名目の手取り 増減額(2018年→2026年)
300万円
-2986円

2026年手取り 2,367,726円(78.92%)

400万円
-5682円

2026年手取り 3,124,362円(78.11%)

500万円
+7702円

2026年手取り 3,869,127円(77.38%)

600万円
+5158円

2026年手取り 4,583,772円(76.40%)

700万円
+15272円

2026年手取り 5,266,340円(75.23%)

800万円
-9866円

2026年手取り 5,897,536円(73.72%)

900万円
-37220円

2026年手取り 6,554,305円(72.83%)

1,000万円
-70181円

2026年手取り 7,205,769円(72.06%)

2,000万円
-83771円

2026年手取り 12,907,714円(64.54%)

出典: 本記事の試算(国税庁・協会けんぽの公式料率をもとに算出)。年収を12等分した月額を標準報酬月額とみなす簡略計算のため、実際の給与計算とは数百円程度のずれが生じ得る。

物価を差し引くと(実質)

名目の手取りが微増・微減にとどまっているのに対し、物価上昇分(2018年比+14.2%)を差し引いた「実質」の手取りで見ると、様相はまったく変わる。計算式は2026年の実質手取り = 2026年の名目手取り × CPI(2018) ÷ CPI(2026)(99.5 ÷ 113.6)。これも本記事の試算である。

年収2018年 手取り2026年 名目手取り2026年 実質手取り(2018年価格換算)実質の増減額実質の増減率
300万円2,370,712円2,367,726円2,073,845円−296,867円−12.52%
400万円3,130,044円3,124,362円2,736,567円−393,477円−12.57%
500万円3,861,426円3,869,127円3,388,892円−472,533円−12.24%
600万円4,578,615円4,583,772円4,014,836円−563,779円−12.31%
700万円5,251,068円5,266,340円4,612,684円−638,384円−12.16%
800万円5,907,402円5,897,536円5,165,535円−741,867円−12.56%
900万円6,591,524円6,554,305円5,740,786円−850,738円−12.91%
1,000万円7,275,950円7,205,769円6,311,391円−964,559円−13.26%
2,000万円12,991,485円12,907,714円11,305,612円−1,685,873円−12.98%
2026年の手取りは、2018年の物価で見ると何万円分か
300万円
207.4万円

名目236.8万円 → 実質207.4万円

400万円
273.7万円

名目312.4万円 → 実質273.7万円

500万円
338.9万円

名目386.9万円 → 実質338.9万円

600万円
401.5万円

名目458.4万円 → 実質401.5万円

700万円
461.3万円

名目526.6万円 → 実質461.3万円

800万円
516.6万円

名目589.8万円 → 実質516.6万円

900万円
574.1万円

名目655.4万円 → 実質574.1万円

1,000万円
631.1万円

名目720.6万円 → 実質631.1万円

2,000万円
1130.6万円

名目1,290.8万円 → 実質1,130.6万円

計算式: 2026年の名目手取り × 99.5 ÷ 113.6(総務省消費者物価指数、2020年=100、2026年は6月分の直近公表値)。本記事の試算。

核心: 税・社会保険の設計はほぼ変わっていない。減ったのは物価分である

名目の手取りは(中間層で)微増か横ばいなのに、物価上昇分を差し引いた実質の手取りは全ての年収階層で12〜13%目減りしている。年収500万円の人の2026年の手取り約387万円は、2018年の物価水準で言えば約339万円分の購買力しかない。

「額面の税・社会保険料の設計はほぼ変わらない、あるいはやや改善している」のに「生活実感としては確実に苦しくなっている」のは、税制ではなくインフレそのものが主因であることが、この試算から読み取れる。

2026年の新負担 — 子ども・子育て支援金

2026年4月分(5月納付分)から、公的医療保険に上乗せする形で全国一律0.23%(労使折半、本人負担0.115%)の「子ども・子育て支援金」の徴収が始まった。上のすべての手取り試算には、この負担がすでに織り込んである。

本人負担額(年間)は、年収300万円で約4,791円、500万円で約9,583円、1,000万円で約17,940円。健康保険の標準報酬月額の上限(139万円)に達する年収900万円以上では負担が頭打ちになり、年間の上限は約19,205円である。

金額自体は他の負担増と比べて小さいが、「増税」ではなく社会保険料への上乗せという形で導入されたため、所得税・住民税の表面上の負担率の変化には現れない。

年収別の人数 — 2,000万円はどれだけ少数か

この9階層に、実際にはどれだけの人がいるのか。国税庁「民間給与実態統計調査」の給与階級別人数(令和6年分=2024年分。2026年分の調査はまだ実施・公表されておらず、現時点で入手できる最新の実測値)で見る。

年収階層対応する給与階級(国税庁統計)人数給与所得者全体に占める割合
300万円300万円超400万円以下8,258千人16.1%
400万円400万円超500万円以下7,870千人15.3%
500万円500万円超600万円以下6,059千人11.8%
600万円600万円超700万円以下3,907千人7.6%
700万円700万円超800万円以下2,710千人5.3%
800万円800万円超900万円以下1,741千人3.4%
900万円900万円超1,000万円以下1,208千人2.4%
1,000万円1,000万円超1,500万円以下(900万円超の層との合算で見るのが妥当)2,306千人4.5%
2,000万円2,000万円超2,500万円以下+2,500万円超321千人0.6%

年収2,000万円を超える層は、給与所得者全体(5,137万人)のうちわずか0.6%である。この章で「2,000万円で−8.4万円」と書いた減少は、ごく少数の層に起きている変化であり、大半の給与所得者(300万〜700万円で約4割を占める)にとっての実態は、名目ではほぼ横ばい、実質では一律12〜13%の目減りである。

→ 次の第4章では、2018年の1,000万円が2026年にいくらの購買力に相当するかを検証する。

📉 2018年の1000万円は、いま881万円である

このセクションの3点

① 2018年に持っていた1,000万円は、2026年の物価で買い物をすると約881万円分の価値しかない(本記事の試算)

② 計算式は「金額 × CPI(2018) ÷ CPI(2026)」。同じ目減り率で、500万円なら約440万円、100万円なら約88万円になる

③ 名目賃金は2018→2025年で+10.0%増えたのに、実質賃金は同じ期間で▲2.3%減っている。この差が「物価の分を差し引く」計算の効果である

手元の1,000万円は、いまの物価で言えば何万円分の価値があるだろうか。額面は変わっていない。しかし同じ1,000万円で買えるものの量は、2018年のときより減っている。ここでは総務省統計局のCPI(消費者物価指数、物価の動きを1つの数字にまとめた公式の指標)を使って、その目減りを計算する。

約881万円

2018年の1,000万円 → 2026年の購買力

約440万円

2018年の500万円 → 2026年の購買力

約88万円

2018年の100万円 → 2026年の購買力

計算式 — 金額 × CPI(2018) ÷ CPI(2026)

これは本記事の試算であり、総務省の公式試算ではない。使ったCPIは総務省統計局「品目別価格指数」の「総合」(2020年=100)で、2018年平均99.55、2026年(1〜6月)平均112.98。計算式は次の通り。

2018年の金額 × (CPI2018 ÷ CPI2026) = 2026年の購買力に換算した価値

1,000万円で計算すると、1,000万円 × 99.55 ÷ 112.98 ≒ 881.1万円。500万円・100万円も同じ比率(約0.881倍)で目減りする。

金額(2018年時点)2026年の購買力に換算した価値目減り率
1,000万円約881.1万円(▲118.9万円)▲11.9%
500万円約440.6万円(▲59.4万円)▲11.9%
100万円約88.1万円(▲11.9万円)▲11.9%

年収500万円は、実質440万円

年収500万円という額面は変わらなくても、その500万円で買えるものの量は、2018年の物価に換算すると約440万円分まで目減りしている。これを短く言えば「年収500万円は実質440万円」となる。ただしこれはCPI総合を使った本記事の試算であり、税・社会保険を差し引いた手取りベースの計算(第3章)とは別の数字である点に注意してほしい。

名目+10.0%と実質▲2.3%、なぜズレるのか

厚生労働省「毎月勤労統計調査」の指数(2020年平均=100)で見ると、名目賃金(現金給与総額)は2018年の101.6から2025年の111.7へ、+10.0%増えている。額面だけを見れば給料は増えている。

ところが同じ期間の実質賃金指数は102.1から99.8へ、▲2.3%減っている。実質賃金とは、名目の給料から物価の分を差し引いて、実際に何がどれだけ買えるかで測り直した数字である。名目が10.0%増えた一方で、物価はそれ以上(総合CPIでおおむね12〜14%)上がったため、差し引くとむしろ目減りする。これが「額面は増えているのに生活が楽にならない」の正体である。

指標2018年2025年
名目賃金指数(現金給与総額、2020年=100)101.6111.7(+10.0%)
実質賃金指数(物価の分を差し引いた後)102.199.8(▲2.3%)

→ 次の第5章では、CPIの品目別データで「実際に何が上がり、何が下がったのか」を1つずつ検証する。

⚖️ 上がった品目と下がった品目 — 二極化はしていなかった

このセクションの3点

① 「中国製品が安いから家電などの耐久財はデフレ」という見方は、CPIの品目別データでは成り立たない

② 上がったのはルームエアコン+71.0%・カメラ+54.9%・電子レンジ+34.4%・プリンタ+33.2%で、総合の+13.5%より速く上がっている

③ 下がったのは携帯電話通信料▲42.1%など4品目だけで、最大の下落は政策要因であり、中国製品とは無関係

「中国製品が安く入ってくるおかげで、家電のような耐久財はむしろ実質的に安くなっているのではないか」——そう感じるのは自然である。テレビやパソコンが値下がりした記憶がある人は多いし、円安下でも「中国製の家電は安い」というイメージは根強い。ただし、総務省のCPI(消費者物価指数)で品目ごとに2018年と2026年を比べると、数字はその見立てを支持しなかった。

品目別の増減率(2018年→2026年、CPI)
ルームエアコン
+71%

+71.0%

カメラ
+54.9%

+54.9%

電子レンジ
+34.4%

+34.4%

プリンタ
+33.2%

+33.2%

総合(全品目平均)
+13.5%

+13.5%

テレビ
-1.8%

▲1.8%

デスクトップPC
-2.8%

▲2.8%

固定電話通信料
-8.1%

▲8.1%

携帯電話通信料
-42.1%

▲42.1%

出典: 総務省統計局「品目別価格指数」e-Stat統計表ID 000032103844(原本直接取得)。2018年平均を100として2026年(1〜6月平均)の水準を増減率に換算(本記事の計算)。

品目2018=100とした2026年の水準増減率判定
ルームエアコン171.0+71.0%急騰
カメラ154.9+54.9%急騰
電子レンジ134.4+34.4%上昇
プリンタ133.2+33.2%上昇
総合(全品目平均)113.5+13.5%上昇(基準)
テレビ98.2▲1.8%微下落
デスクトップPC97.2▲2.8%微下落
固定電話通信料91.9▲8.1%下落
携帯電話通信料57.9▲42.1%大幅下落

検証の結論 — 「中国製品で耐久財はデフレ」は成り立たない

2018年から2026年にかけて明確に下がった、あるいはほぼ横ばいだった品目は、携帯電話通信料・固定電話通信料・テレビ・デスクトップPCの4つにとどまる。このうち最大の下落幅(携帯電話通信料▲42.1%)は、2021年に行われた携帯電話料金の引き下げに向けた行政指導と、大手キャリアの新料金プラン導入という政策要因によるもので、中国製品の値下がりとは関係がない。

一方で、同じ「家電・電子機器」というくくりでも、ルームエアコン・カメラ・電子レンジ・プリンタは総合の物価上昇(+13.5%)よりも速いペースで値上がりしている。円安による輸入部材コストの増加が主因と推定される。「安い中国製品のおかげで耐久財は総じて値下がりしている」という直感は、一部の品目(通信サービスとパソコン・テレビの一部)には当てはまるが、家電全体には当てはまらなかった。

対中輸入は+39.1%、しかし品目別の単価は分からない

財務省貿易統計によると、中国からの輸入総額(円建て)は2018年の19兆1,937億円から2025年の26兆6,999億円へ、+39.1%増加している。ただし、この増加分がどこまで「単価の上昇」で、どこまで「量の増加」なのかは、貿易統計からは分からない。衣類や家電のような工業製品・繊維製品の多くは、貿易統計上「数量」の欄が集計されておらず、金額÷数量で単価を出すことができないためである。

測れなかったこと

・品目別の輸入単価(金額÷数量)は、財務省貿易統計からは算出できなかった。工業製品・繊維製品の多くで「数量」が集計されていないため

・ドル・人民元ベースで見た中国からの実質的な輸入量の増減は当方の推定であり、財務省の公式試算ではない

→ 次の第6章では、この円安がどこまで、何を押し上げたのかをドル円の推移から見ていく。

💱 ドル円 2018→2026 — 43.8%の円安が効いた場所

このセクションの3点

① ドル円は2018年平均110.39円 → 2026年(1〜7月)平均158.76円。8年で+43.8%の円安。

② 円安は輸入に頼る品目に直接効いた。エネルギー・小麦・家電部材の値上がりの背景にある。

③ 実質実効為替レートは参考情報として紹介するが、原本未確認のため確度は控えめに扱う。

ドル円 年平均の推移(2018〜2026)
2018年
110.39円

最高114.55円・最安104.64円

2019年
109.01円

最高112.24円・最安104.46円

2020年
106.78円

最高112.18円・最安101.60円

2021年
109.8円

最高115.45円・最安102.60円

2022年
131.38円

最高150.48円・最安113.63円

2023年
140.47円

最高151.80円・最安127.22円

2024年
151.48円

最高161.94円・最安140.34円

2025年
149.66円

最高158.45円・最安139.89円

2026年(1〜7月)
158.76円

最高163.95円・最安152.25円

出典: 日本銀行 時系列統計データ検索サイト「東京市場 ドル・円 スポット」月中平均の年平均(原本直接取得)。2026年は1〜7月の平均(8月分は未公表)。sub は各年の月中平均ベースの年内最高値・最安値。

2018年平均110.39円だった1ドルは、2026年(1〜7月)平均で158.76円になった。+43.8%の円安である。同じ1ドルの商品を輸入するのに、2018年より43.8%多くの円を払う必要がある、ということだ。円安が始まったのは2022年で、その年だけで前年比+19.7%動いている(原油高とアメリカの利上げが重なった年)。以降、2024年に151.48円まで進み、2025年にいったん149.66円へ戻したあと、2026年は再び158円台へ進んでいる。

円安がどこに効いたか — 輸入に依存する品目

円安は、原材料や部材を輸入に頼る品目ほど強く効く。総合の物価上昇は8年で+13.5%だが、以下の3グループはそれを上回るか、密接に関わっている。

🔌

エネルギー

電気代+13.8% / ガス代+15.3〜21.2%

電気代は2018=100で113.8、都市ガス代は115.3、プロパンガスは121.2(いずれも2018年比)。原油・LNGの多くを輸入に頼るため、円安がそのままコストに乗る。

🌾

小麦

CPI小麦粉+42.7% / 政府売渡価格+15.0%

小麦はほぼ全量を輸入に頼る。円安と国際相場の両方が効いた。詳しい検証は次の第7章で行う。

🔧

家電の部材

ルームエアコン+71.0% / カメラ+54.9%

電子レンジ+34.4%、プリンタ+33.2%。いずれも総合の伸び(+13.5%)より速い。部材や完成品の輸入コスト増が推定されるが、CPI統計から直接の因果を検証することはできない。

実質実効為替レート — 「外国人にとって日本が安い」ことの裏付けになるか

実質実効為替レート(参考情報・要確認)

日本銀行「実質実効為替レート」(2020年=100)は、検索エンジンの要約経由で以下の数値が確認できた。2026年5月: 65.9、2026年1月: 67.73、2025年(年平均とみられる): 72.6、過去のピーク(1995年): 174.2。この数値が正しければ、日本円の実力は統計開始以来の最低水準にあり、「外国人にとって日本の物価が割安に見える」ことを裏付ける方向のデータになる。

ただし本記事の研究ファイルでは、この数値は日銀の原本統計表(stat-search.boj.or.jp)ではなく二次集計サイト経由で取得したものであり、原本での確認ができていない。そのため「参考情報」の扱いにとどめ、確定した一次情報としては書かない。

→ 次の第7章では、依頼者が立てた「小麦粉は下がっているのではないか」という仮説を、農林水産省の政府売渡価格で検証する。

🌾 小麦粉は下がったのか — 政府売渡価格で検証する

このセクションの3点

① 本記事は「小麦粉は下がっているのではないか」という見立てから出発した。結論を先に書く。上がっている。

② CPI小麦粉は2018年比+42.7%。農水省の輸入小麦 政府売渡価格も2018年4月期比+15.0%。

③ ただし2023年の過去最高値からは下落が続いており、そこだけを見れば「下がっている」と感じるのは自然である。

この記事の出発点には、「小麦粉は下がっているのではないか」という見立てがあった。データで検証する。

+42.7%

CPI小麦粉(2018→2026)

+15.0%

政府売渡価格(2018年4月期→2026年4月期)

62,520円/t

2026年4月期の政府売渡価格

76,750円/t

2023年4月期・過去最高値

農林水産省は年2回(4月期・10月期)、外国産小麦をまとめて買い付けて製粉会社へ売り渡す価格(政府売渡価格)を公表している。5銘柄の加重平均・税込の価格で、2018年4月期は54,370円/トンだった。2026年4月期(最新)は62,520円/トンで、+15.0%である。一方、消費者が店頭で買う小麦粉そのものの物価(CPI小麦粉)は2018年比で+42.7%。政府売渡価格は製粉会社が仕入れる原料コストであり、消費者が払う小麦粉の価格そのものではない。両者の差は、製粉・包装・流通・小売のコスト(人件費や物流費など)が別途上乗せされているためと考えられる。いずれにせよ、両方の指標が「2018年より上昇」で一致している。

輸入小麦の政府売渡価格の推移(2018年4月期〜2026年4月期)
2018年4月期
54370円/t

対前期+3.5%

2018年10月期
55560円/t

対前期+2.2%

2019年4月期
54630円/t

対前期▲1.7%

2019年10月期
49890円/t

対前期▲8.7%

2020年4月期
51420円/t

対前期+3.1%

2020年10月期
49210円/t

対前期▲4.3%

2021年4月期
51930円/t

対前期+5.5%

2021年10月期
61820円/t

対前期+19.0%

2022年4月期
72530円/t

対前期+17.3%

2022年10月期
72530円/t

実質据置き

2023年4月期
76750円/t

対前期+5.8%・過去最高値

2023年10月期
68240円/t

対前期▲11.1%

2024年4月期
67810円/t

対前期▲0.6%

2024年10月期
66610円/t

対前期▲1.8%

2025年4月期
63570円/t

対前期▲4.6%

2025年10月期
61010円/t

対前期▲4.0%

2026年4月期
62520円/t

対前期+2.5%

出典: 農林水産省「輸入小麦の政府売渡価格の改定について」令和8年3月11日 添付PDF(原本直接取得)。5銘柄加重平均・税込。sub は対前期比(農水省公表値)。ピークは2023年4月期の76,750円/トン。

指標2018年2026年変化率
CPI 小麦粉(2018年=100換算)100142.7+42.7%
政府売渡価格(円/トン)54,370(2018年4月期)62,520(2026年4月期)+15.0%

なぜ「下がっている」と感じたのか

政府売渡価格は2022年のロシアのウクライナ侵攻を受けて急騰し、2023年4月期に過去最高値の76,750円/トン(2018年比+41.2%)をつけた。そこから2023年10月期以降は6期連続で値下がりし、2025年10月期には61,010円/トンまで下がっている。直近3年だけを見れば、確かに小麦は値下がりを続けている。「小麦粉は下がっているのではないか」という見立ては、この2023年ピーク以降の下落局面を指しているのであれば、事実として間違っていない。

ただし、その下落は2018年の水準に届く前で止まっている。2026年4月期の62,520円/トンは、依然として2018年4月期より15.0%高い。ピークからの反落と、8年前との比較は、別の話である。ウクライナ侵攻直後の急騰を基準に記憶していれば「下がった」と感じ、2018年を基準にすれば「上がった」となる。どちらの体感も、それぞれの基準点では正しい。

結論

小麦粉は上がっている。CPI小麦粉+42.7%、政府売渡価格+15.0%のどちらの指標で見ても、2018年より高い。「小麦粉は下がっているのではないか」という仮説は、8年という期間で見る限り否定された。ただし2023年の急騰ピークからは下落が続いており、直近だけを見て「下がっている」と感じるのは自然な観測である。

→ 次の第8章では、日銀の調査で分かった体感インフレ率+16.5%と、公式のCPI+14.2%のズレを見る。

😰 体感16.5% vs 公式14.2% — なぜズレるのか

このセクションの3点

① 日銀の2026年6月調査では、物価が上がったと感じた人の回答平均は+16.5%。

② CPIは全品目を支出額で平均する。暮らしの実感は、買う頻度の高い品目に強く左右される。

③ 「生活にゆとりがなくなった」は55%、「生活が苦しい」は55.4%。苦しさは統計上も確認できる。

+16.5%

物価上昇の体感平均(日銀・2026年6月)

+14.2%

CPI総合(2018年比)

55%

「生活にゆとりがなくなってきた」

「公式の数字より、毎日の買い物ではもっと上がったように感じる」。この感覚を、気のせいとして片づけることはできない。

日本銀行の「生活意識に関するアンケート調査」では、2026年6月に物価が上がったと感じた人が答えた上昇率の平均は+16.5%だった。CPI総合の2018年比+14.2%より高い。

ただし、この二つは同じ期間・同じ測り方の数字ではない。体感の+16.5%は「1年前と比べてどれだけ上がったと感じるか」の回答平均で、CPIは品目ごとの価格を統計的に集計した指数である。数字をそのまま差し引いて、体感だけが高すぎるとは言えない。

CPIは支出額、体感は購入頻度で重みが変わる

CPIは、家計が何にいくら使うかという支出額をもとに、全品目を加重平均する。支出額の大きい家賃や耐久財も入るため、毎日買う食料だけで決まる数字ではない。

一方、人の記憶には、レジで繰り返し見る価格が残る。食料やおにぎりのように購入頻度が高いものは、値札を見る回数そのものが多い。反対に、家電のように購入頻度が低いものは、値段が動いても日々の実感に入りにくい。言い換えると、CPIは支出額で重みづけされ、生活の体感は購入頻度で重みづけされやすい

頻繁に買うものと、購入頻度が低いものの価格変化
食料
+31.2%

頻繁に買うものの代表

おにぎり
+49.1%

頻繁に買うものの代表

ルームエアコン
+71%

購入頻度が低い耐久財

携帯電話通信料
-42.1%

購入頻度は高いが政策要因で下落

出典:総務省「消費者物価指数」品目別価格指数。2018年平均と2026年1〜6月平均を比較。品目ごとの上昇率は、各人の購入頻度や支出額を示すものではない。

品目2018年比の変化体感との関係
食料+31.2%日常的に買うため、値上がりを繰り返し目にする
おにぎり+49.1%少額でも購入のたびに価格差を感じやすい
ルームエアコン+71.0%購入頻度は低いが、今回のデータでは大きく上昇
携帯電話通信料−42.1%政策要因による下落。毎月払っていても値動きの見え方は異なる

「体感が高すぎる」とも言い切れない

体感の仕組みを説明しても、苦しさが消えるわけではない。今回の品目別データでは、たまに買う家電の代表であるルームエアコンも+71.0%、カメラも+54.9%、電子レンジも+34.4%となっている。購入頻度が低い品目まで上がっているため、「毎日の食料だけが印象を押し上げた」と単純に説明することもできない。

日銀の同じ調査では、「生活にゆとりがなくなってきた」と答えた人は55%だった。厚生労働省の国民生活基礎調査でも、「生活が苦しい」と答えた世帯は55.4%である。後者は検索エンジン要約経由で確認した行政統計であり、原本PDFは今回直接取得できていない。

公式のCPIは、国全体の物価を比べるために必要な物差しである。同時に、日々の買い物で感じる負担も、別の現実として存在する。この二つを競わせるのではなく、何を測っているかを分けて読む必要がある。

→ 次の第9章では、関税と中東情勢が物価にどこまで効いたのかを、確認できる資料で検証する。

🌍 関税と中東情勢は、どこまで効いたのか

このセクションの3点

① 対米輸出は2024年までは増加し、減少したのは2025年から。

② 日銀は2026年7月、中東情勢を受けた春先以降の原油価格上昇を明記した。

③ 両方の影響は確認できるが、2022年から続く円安と物価上昇の全体を説明するものではない。

21.3兆円

対米輸出(2024年、2018年から増加)

−4.3%

対米輸出の前年比(2025年)

170.1円

ガソリン全国平均(2026年8月3日)

関税と中東情勢は、どちらも生活に無関係な話ではない。輸出、原油、ガソリンを通じて日本経済に影響する経路があり、公式資料にもその影響は記されている。

ただし、二つの出来事だけで物価上昇全体を説明することはできない。円安と物価上昇は2022年から続いており、ここで扱う出来事より前から始まっている。確認できる影響と、確認できない寄与度を分けて見る。

関税:対米輸出は2024年まで増えていた

対米輸出総額の推移
2018年
15.5兆円

15兆4,702億円

2024年
21.3兆円

21兆2,948億円

2025年
20.4兆円

20兆3,744億円、前年比−4.3%

出典:財務省「貿易統計」。2018年、2024年、2025年の年次輸出総額。2025年の前年比は−4.3%。このグラフだけでは関税による影響額を分解できない。

対米輸出総額読み取れること
2018年15兆4,702億円比較の起点
2024年21兆2,948億円2018年から増加し、ピーク
2025年20兆3,744億円前年比−4.3%。減少はこの年から

対米輸出は、2018年の15.5兆円から2024年には21.3兆円へ増えていた。2025年は20.4兆円となり、前年比−4.3%だった。したがって、関税の影響を考える際も、「2024年まで一貫して減っていた」という見方はデータと合わない。

自動車については、2025年6月に輸出台数が前年同月比+3.4%である一方、金額は−26.7%だったと業界団体記事が報じている。これは報道ベースの数値であり、元となる統計の生データは今回直接取得できていない。関税分を輸出側がどの程度負担したかを、この数値だけから決めることはできない。

中東情勢:原油を通じた影響は日銀も明記した

  1. 1

    2025年6月

    米国によるイラン核施設への攻撃

    報道・百科事典による事実確認。原資料は今回直接確認していない。
  2. 2

    2026年2月

    大規模な攻撃

    報道・百科事典による事実確認。
  3. 3

    2026年6月

    停戦成立

    イスラマバード了解覚書による停戦成立とされる。
  4. 4

    2026年7月

    ホルムズ海峡封鎖の威嚇

    停戦後も緊張が継続したとされる。

日銀「経済・物価情勢の展望」2026年7月は、「中東情勢の影響を受けた春先以降の原油価格上昇」を明記している。さらに、原油価格上昇がエネルギーや財を中心に価格を押し上げるとの見通しも示した。中東情勢から原油、そして国内価格へという経路は、日銀の公式資料で確認できる。

政府のガソリン価格対策の制度名も「中東情勢を踏まえた緊急的激変緩和措置」である。資源エネルギー庁の資料では、2026年8月3日のガソリン全国平均価格は170.1円、8月6日から適用する補助額は19.0円とされている。

今回、寄与度を厳密に分解できなかったこと

・個別の関税措置が物価に与えた寄与度を厳密に分解した公的な試算は、今回の調査では取得できていない。

・個別の中東情勢の出来事が物価に与えた寄与度を厳密に分解した公的な試算も、今回の調査では取得できていない。

・関税と中東情勢はいずれも実在し、影響を示す資料はある。ただし、物価上昇全体の原因を一つに決めることはできない。

結論:外部要因は確認できるが、全体像ではない

2025年の対米輸出の減少と、中東情勢を受けた原油価格上昇は、いずれも資料で確認できる。一方で、円安と物価上昇は2022年から続く流れである。外部要因を無視する必要はないが、それだけを物価上昇の説明にすることもできない。

→ 次の第10章では、この先を断定せず、何を見れば物価と暮らしの変化を追えるのかを整理する。

🔮 この流れは今後どうなるのか

このセクションの3点

① 本章は「今後どうなるか」を予言しない。「何を見れば分かるか」という指標だけを、出典つきで示す

② 見るべき指標は、ドル円・日銀の政策金利・輸入小麦の政府売渡価格・実質賃金・春闘の賃上げ率・中東情勢と原油の6つ

③ 唯一の分岐点は、賃金の伸びが物価の伸びに追いつくかどうかである

ここまでの9つの章は、すべて2018年から2026年までに実際に起きたことを、公表されている統計から検証してきた。この章だけは性質が違う。これから先どうなるかはまだ起きていないことなので、同じやり方では検証しようがない。

だから本章では「こうなる」という予測はしない。代わりに、この先を自分で判断したいときに、どこを見ればよいかを一次情報の出典つきで示す。

指標どこで見られるか(出典)何が起きたらどう解釈するか
ドル円日本銀行 時系列統計データ検索サイト(stat-search.boj.or.jp、月次更新)円安がさらに進めば輸入物価は上がりやすい。円高に振れれば輸入コストの伸びは鈍る(本記事の期間は2018年平均110.39円→2026年1〜7月平均158.76円)
日銀の政策金利日本銀行 金融政策決定会合の公表資料(boj.or.jp)利上げが進めば、金利差を通じて円安圧力が和らぐ可能性がある。据え置きが続けば現在の水準が続きやすい
輸入小麦の政府売渡価格農林水産省の価格改定プレスリリース(毎年4月・10月に半期ごと公表)直近は2026年4月期62,520円/トンで、前期(2025年10月期)比+2.5%。上昇が続けば小麦粉・パン・麺類にも波及する(第7章参照)
実質賃金厚生労働省「毎月勤労統計調査」(e-Stat、毎月公表)2025年時点で2018年比▲2.3%。この数字がプラスに転じれば、物価に賃金が追いついてきたサインになる
春闘の賃上げ率連合・厚生労働省が毎年春に公表する集計結果高い賃上げ率が発表されても、それだけでは分からない。翌年の実質賃金統計(上記)でプラスに転じるかどうかまで確認する必要がある
中東情勢と原油価格日本銀行「経済・物価情勢の展望」(展望レポート、年4回公表)、資源エネルギー庁のガソリン価格公表資料原油価格が上昇すれば、エネルギー・輸送コスト経由で物価にさらに波及する。情勢が沈静化すれば、その分の押し上げ要因は減る(第9章参照)

賃金が物価に追いつくかどうか — 唯一の分岐点

本記事で検証した8年間の実質手取りの目減り(全ての年収階層で▲12〜13%)は、物価の伸び(+14.2%)に、名目の賃金・手取りの伸びが追いつかなかったという一点に集約される。逆に言えば、この先の生活実感を左右するのはただ一つ、物価が上がるスピードよりも賃金が上がるスピードの方が速くなるかどうかである。

上の6つの指標のうち、ドル円・輸入小麦・原油は物価側(コストを押し上げる方向)を動かす指標であり、実質賃金・春闘の賃上げ率は賃金側の指標である。両者を並べて見たとき、実質賃金がプラスに転じて初めて「追いついた」と言える。

本記事は予測をしない

・上の6つの指標は、今後も同じ出典(日本銀行・農林水産省・厚生労働省・資源エネルギー庁)から公表され続ける。読者自身がその時点の最新値を確認できる

・「こうなるだろう」という見通しは、本記事が基軸としている一次情報だけでは検証しようがないため、あえて書かない

・各指標のこれまでの推移(ドル円・輸入小麦の政府売渡価格など)は第4章・第6章・第7章の表を参照

→ 次の第11章では、ここまでの検証結果をまとめ、3つの通説の答え合わせをする。

結論 — 犯人は税ではなかった

このセクションの3点

① 犯人は税でも中国製品でもなかった。円安+43.8%と物価上昇+14.2%が、税・社会保険の設計変化よりはるかに大きく効いた

② 手取りの額面はほぼ変わらない。年収500万〜700万円の中間層はむしろ名目でわずかに増えている

③ 変わったのは、その金で買えるものの量。全ての年収階層で、実質の手取りは12〜13%減った

通説データの答え根拠(本記事の章)
増税で手取りが減った❌ 税・社会保険の設計はこの8年でほぼ不変。中間層(年収500万〜700万円)はむしろ名目で微増した第3章 年収300万〜2000万 手取りはどうなったか
中国製品が安いから、耐久財はデフレしている❌ ルームエアコン+71%、カメラ+55%など、多くの耐久財は総合物価の伸び(+13.5%)より速く値上がりしていた第5章 上がった品目と下がった品目
小麦粉は下がっている❌ 消費者物価の小麦粉指数は+42.7%、農林水産省の輸入小麦の政府売渡価格も+15.0%。どちらも上昇していた第7章 小麦粉は下がったのか

3つの通説をデータで検証すると、どれも成り立たなかった。共通しているのは、「誰かが取った」「誰かが安く売っている」という犯人探しの形をしていることだ。しかし数字が示す構図は、もっと単純だった。

税と社会保険の設計は、この8年でほとんど変わっていない。所得税の基礎控除や給与所得控除の金額は変わったが、その影響は年収階層によってプラスにもマイナスにも数千円〜数万円程度で、手取りの額面はほぼ同じ水準のままだった。

変わったのは、その金で買えるものの量である。ドル円は8年で43.8%円安になり、物価(消費者物価指数の総合)は14.2%上がった。名目の手取りが増えても、物価がそれ以上に上がっていれば、実際に買えるものは減る。第3章・第4章で計算した通り、この目減りは年収300万円から2000万円まで、ほぼ全ての階層で共通して12〜13%だった。

48万円が、税ではなく物価によって消えた

年収500万円の人の2026年の手取りは約387万円(本記事の試算)。これを2018年の物価水準に換算すると約339万円分の購買力しかない(第3章・第4章の実質換算)。

差額は約48万円。この48万円は、増税でも社会保険料の値上げでもなく、物価上昇によって消えた分である。手取りの明細書には、この目減りはどこにも記載されない。

測れなかったもの状況本記事内の該当箇所
品目別の対中輸入単価貿易統計には数量データがない工業製品が多く、単価(金額÷数量)を計算できなかった第5章・第9章
おにぎり価格(総務省 小売物価統計調査)の原本二次集計サイト経由の数値のみで、e-Statの原本テーブルでの再確認はできていない第2章
個別の出来事が物価に与えた寄与度中東情勢・米国の関税措置それぞれが物価上昇に何%寄与したかを分解した公的な試算は見つからなかった第9章
2026年分の平均給与(国税庁)国税庁の民間給与実態統計調査は毎年9月に前年分を公表するため、2026年分は2027年9月頃まで存在しない第3章

ここまで読んで、自分の年収では実際どうだったのか気になった人は、次の式で自分の階層を確認できる。

2018年価格での価値 = 2026年の金額 × (2018年のCPI ÷ 2026年のCPI)

本記事で使った2018年のCPI総合は99.5、2026年6月のCPI総合は113.6(総務省統計局、2020年=100)。この比率99.5÷113.6≈0.876を、自分の2026年の年収や手取りに掛ければ、2018年の物価水準でどれだけの価値かが分かる。

税率表・控除額・社会保険料率はすべて第3章に出典つきで記載してある。家族構成や加入している保険の種類が本記事の前提と違う場合は、同じ計算式を使って、自分の条件で計算し直すこともできる。

→ 本記事で使った一次情報は各章の出典欄を参照。年収別の手取り計算の前提や購買力の換算は第3章・第4章、上がった/下がった品目の一覧は第5章を参照。