💴 社員は本当に苦しいのか — 東京の給料相場と家計から、2026年の賃上げを決める
✍️ 執筆: Claude Opus 5
社員に「苦しい」と言われる。だが物価は1割ちょっとしか上がっていない。どちらが正しいのかを行政統計だけで確かめた。1.1割はほぼ合っていて、ただし1年古かった。そして計算して出てきたのは逆の事実だった。持ち家・単身・月15万という、給料を決める側の生活のほうに、物価はきつく当たっている。差は率でも金額でもなく、増えた分を吸収できる余白のほうにあった。業種×年齢の10セグメントごとに、基本給を上げるのか一時金で出すのか据え置くのかを決める表から始める。
🧭 誰に、いくら上げるか — 10セグメントの決定表
この記事は社員の給料と賞与を決める人(経営者・役員・人事)向けである。以下で使う「決める側」は、経営者一般のことではない。この記事が検算に使う一例として、持ち家・単身・月15万円で暮らす35歳の経営者という条件を置いたものを指す。
📎 先に答え
社員の「苦しい」は本当だと考えてよい。ただし理由は「物価が1割上がったから」ではなく、増えた分を吸収できる余裕があるかどうかの差である。だから全員に同じ率で配るのではなく、職種と年齢で分けて、基本給を上げる人・一時金で出す人・今回は据え置く人を決める。その振り分け表がこのすぐ下にある。
同じ物価上昇ではない。参考類型ごとに率も増加額も違う。そのうえで、苦しさは率と増加額だけでは決まらず、家計に余力があるかどうかで分かれる
- 決める側(持ち家・単身・月15万円)に当たった実効物価上昇率(家計調査にあるその類型の平均的な支出構成を当てて計算した参考の物価上昇率)は+13.6%で、単身勤労者(+12.1%)・二人以上世帯(+10.2%)より高い。生活感覚を基準にすると読み違える
- 苦しさは率と増加額だけでは決まらない。家計に余力があるかどうかで結果が変わる。各参考類型では月17,979円〜31,945円の増加が生じており、余りがある人は残高が減るだけで、余りがない人は赤字になる
- 月1万円のベア(基本給そのものを底上げする恒久的な賃上げ)を出しても、会社が払う139,812円のうち社員の手取りに届くのは68,030〜86,307円(到達率=賃上げ額のうち税・社会保険料を引いたあと手取りに実際に届く割合。48.7〜61.7%)しかない
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有効求人倍率
ベースアップ(ベア)
春闘
(推定)組織率
定期昇給(定昇)
法定福利費
労働分配率
実効物価上昇率
到達率
過不足D.I.
+13.6%
決める側に当たった物価上昇(2020→25年)
4.69%
連合 300人未満の賃上げ率(2026年)
1,280円
東京都最低賃金(10/1発効予定)
58.1%
ベア1万円が手取りに届く率(20%課税層)
この表で言いたいことは1行でこれ — 10のセグメントごとに「相場」「採用の難しさ」「基本給・一時金・据え置きのどの判断か」「その根拠と次の一手」を1行で並べる。相場の列は地域・区分が混在するため、各セルの頭に「全国」「東京」「産業平均」「近似職種」のいずれかを付けている。「必須支出の増加」に触れている箇所は未確認であり、第3章のアンケートで実態を埋める前提の仮置きである。
| セグメント | 比較に使う賃金統計(地域・区分が混在) | 有効求人倍率 | 判断 | 根拠と次の判定 |
|---|---|---|---|---|
| G1 新卒〜3年目 総合職 | 東京・中小 初任給233,725円/全国・全規模 初任給262,300円 | 職業計 1.39倍 | 基本給 | 必須支出の増加は小(単身の可能性。未確認)。相場233,725円に届いていなければ追いつかせる。相場として比較できるのは初任給だけである。2〜3年目との逆転は自社の給与表で確認する |
| G2 IT技術者(中堅) | 全国・産業平均 情報通信業406.0千円+賞与1,418.5千円 | 情報処理・通信技術者 2.88倍 | 基本給 | 必須支出の増加は中。求人倍率2.88倍で採用難が恒久的に続く。相場との差は自社の提示額・応募・辞退・離職で判定し、半年ごとに再確認 |
| G3 一般事務 | 全国・近似職種 その他の一般事務従事者331.8千円+賞与1,001.5千円 | 一般事務 0.37倍 | 一時金 | 必須支出の増加は小。求人倍率0.37倍で相場を押し上げる圧力がない。相場(賃構)が動いたら基本給へ切替 |
| G4 営業職(卸小売) | 全国・産業平均 卸売小売349.1千円+賞与1,176.5千円 | 販売従事者 3.01倍(販売職を含む参考値。営業職に対応する指標ではない) | 基本給 | 必須支出の増加は大(子育て期の可能性。未確認)。支出増は一時的でなく続く可能性がある。扶養家族の申告があれば優先度を上げる |
| G5 製造・生産工程 | 全国・産業平均 製造業330.0千円+賞与1,137.9千円 | 職業計 1.39倍 | 一時金 | 必須支出の増加は中〜大(変動金利の可能性。未確認)。金利上昇分は変動するため恒久化しにくい。金利が高止まりすれば基本給へ切替 |
| G6 建設技能職 | 全国・産業平均 建設業366.3千円+賞与1,163.4千円 | 建設・採掘 5.72倍 | 基本給 | 必須支出の増加は中。求人倍率5.72倍・過不足D.I.(「人が足りない」と答えた企業の割合から「過剰」の割合を引いた指数)+59ptで、採用難である可能性が高い。自社の応募・辞退・離職で確認する |
| G7 介護職員 | 全国・産業平均 医療福祉315.7千円+賞与732.7千円 | 介護サービス 9.14倍 | 再判定 | 公定価格のため会社独自の原資は作りにくいが、令和8年度改定で処遇改善加算(最大月1.9万円)の原資が来る。取得可否と配分、改定後の収入、離職・採用の状況を確認して基本給または一時金を判定 |
| G8 ドライバー | 全国・産業平均 運輸郵便312.7千円+賞与658.2千円 | 自動車運転 3.53倍 | 基本給 | 必須支出の増加は中。求人倍率3.53倍・過不足D.I.+55ptで、運転者の平均年齢51〜57歳の高さから欠員が埋まりにくい可能性がある。賞与が薄い分、基本給側で埋まっているか確認 |
| G9 パート販売・飲食 | 全国・短時間 宿泊飲食1,234円/時・卸小売1,268円/時 | 販売従事者 3.01倍 | 基本給 | 必須支出の増加は小〜中。自社の各社員の時間額が1,280円未満なら是正が必要。全国平均(宿泊飲食1,234円・卸小売1,268円)は参考値。10月1日までに1,280円未満の社員がいれば是正 |
| G10 課長級 | 全国 所定内388.8千円/東京 所定内490.8千円 | 職業計 1.39倍 | 据え置き、再判定 | 必須支出の増加は未確認(第3章のアンケートで埋める)。求人倍率1.39倍で採用圧力は高くない。部下の賃上げで逆転したセグメントのみ個別対応 |
判断の順番
①
法令で決まるか
最低賃金・社会保険料率など。イエスなら経営判断の余地はなく、そのまま実施する
②
相場から遅れているか
賃金構造基本統計調査の相場・中央値と比べる。遅れていれば基本給の対象になる
③
採れない・辞めるか
有効求人倍率(求職者1人あたりの求人数。1倍未満なら求職者のほうが多い)と離職の動きで確認する。倍率が高いか離職が出ているなら基本給を優先する
④
恒久で払えるか
労働分配率(会社が生み出した付加価値のうち人件費に回っている割合)68.3%と法定福利費(社会保険料など法律で会社に義務づけられた費用)16.51%(40歳以上・東京の協会けんぽ・一般の事業の例。自社の料率で計算し直すこと)を踏まえて、恒久負担に耐えられるかを見る
⑤
基本給か一時金か
③④まで基本給の条件が揃わなければ、まずは一時金で様子を見る
→ この図は横にスクロールできます
相場から遅れ、採れない・辞められる状態なら基本給(実線)へ。必須支出の増加が一時的なら一時金(点線)にとどめる。恒久負担の上限を超えるなら据え置いて再判定する。
一律◯%にしない理由
一般事務の有効求人倍率は0.37倍、介護は9.14倍。両方の職種を抱える会社では、採用難の職種と、採用市場の逼迫度が低い職種が同居することが起こりうる。全員に同じ率を掛ける一律対応では、こうした差に一律率では対応しきれない可能性がある。人件費だけが増え、必要な人材の定着につながらない結果になりかねない。
→ 次のSection 2では「苦しい」という言葉を、購買力・家計余力・相場遅れの3つの判定に分ける。
🔀 「苦しい」は3つに分かれる
このセクションの3点
① 購買力=全労働者の平均で買えるものが減っているか。毎月勤労統計の実質賃金指数98.0で2020年をまだ下回る
② 家計余力=物価上昇による月2万円前後の増加を、可処分の余白で吸収できるか。ここは人による
③ 相場遅れ=自社の給与が同職種・同年齢の相場と比べて遅れていないか。会社ごとに確認が必要
毎月勤労統計2025年平均の実質賃金指数は98.0(持家帰属家賃を除くCPI基準・2020年=100)。全労働者の平均では、2020年より買えるものが減っている
- 現金給与総額は355,919円(名目+2.3%)と名目では増えている
- それでも実質賃金指数98.0は2020年の水準を下回ったまま
- これは会社ごとの差ではなく、全労働者平均に共通する事実
苦しさは率や増加額だけで決まらない。家計に余力があるかどうかで結果が変わる。各参考類型では月20,668円(単身勤労者)〜31,945円(二人以上世帯)の増加が生じている
- 決める側(持ち家・単身・月15万円)+13.6%、単身勤労者+12.1%、二人以上世帯+10.2%
- 余りがある人は残高が減るだけで済む
- 余りがない人は同じ増加額でも赤字に落ちる
ここまでの2つは、統計だけで判定できる。3つ目はできない。自社の給与が相場より遅れているかは、その会社の職種構成と、賃金構造基本統計調査・有効求人倍率を突き合わせないと分からない。第1章の決定表はこの突き合わせを済ませたものである。
自社の給与が相場から遅れているかどうかは、この記事だけでは判定できない。会社ごとに第1章の相場表と付き合わせる必要がある
- 例: G3一般事務は有効求人倍率0.37倍で、相場自体が上がりにくい
- 例: G7介護職員は公定価格で、会社側に原資を作る裁量がない
- 同じ「一般事務」でも会社によって相場との位置は変わる
同じ人でも、判定が食い違う
相場より高いのに赤字
例: G5 製造・生産工程 40代前半、住宅ローン変動金利
- ・所定内給与は相場(40〜44歳中央値325.5千円)並み
- ・住宅ローンの金利上昇で必須支出が増えた
- ・購買力は平均並みでも、家計余力の判定は赤字に振れる
相場より低いのに黒字
例: G3 一般事務 20代後半、単身
- ・所定内給与は相場(25〜29歳中央値267.9千円)並みかそれ以下
- ・必須支出の増加が小さく、可処分に余白が残る
- ・相場遅れは事実でも、家計余力の判定は黒字のまま
2026年の春闘の賃上げ率5.01%は、連合に加盟する5,368組合の集計であり、その母体となる労働組合の推定組織率は16.0%(労働組合基礎調査・2025年6月30日現在、組合員992万7千人)にとどまる。5.01%は労働組合の集計値であって、全給与所得者の平均賃上げ率ではない。社員が「世間は上がっているのに自分は上がっていない」と感じるとき、比べている「世間」は組織率16.0%側の数字であることが多い。
| 判定 | 何のデータで見るか | 会社が打てる手 |
|---|---|---|
| 購買力 | 毎月勤労統計の実質賃金指数(全労働者平均) | 個社では動かせない。物価そのものへの対処はできない |
| 家計余力 | 家計調査の実効物価上昇率+本人の住居費・扶養状況(第3章で聞く) | 一時金で増加額(月2万円前後)を埋める |
| 相場遅れ | 賃金構造基本統計調査の年齢・産業・職種別相場、有効求人倍率 | 基本給を相場水準まで引き上げる |
→ 次のSection 3では、この3つの判定のどれなのかを、明細を出させずに社員から聞き取る設計を示す。
🎙️ 社員に何を聞くか — 明細を出させない設計
このセクションの3点
① 「苦しいです」だけでは、購買力・家計余力・相場遅れのどれを指しているか分からない
② 購買力と相場遅れは会社側の統計で判定できる。社員に聞かないと埋まらないのは家計余力だけ
③ 匿名・選択式・レンジ回答にする。明細を出させない、金額を聞かない、個人を特定できる設問を混ぜない
「苦しいです」という言葉は、それ単体では判断材料にならない。第2章の3つの判定—購買力・家計余力・相場遅れ—のどれを指しているのかが分からないからだ。
このうち購買力は毎月勤労統計の実質賃金指数で、相場遅れは賃金構造基本統計調査と自社の給与を突き合わせれば、どちらも会社側の手元データだけで判定できる。社員に聞かないと埋まらないのは家計余力だけだ。だから以下のアンケートは、生活費の内訳を聞くのではなく、支出が変動しやすい構造になっているかどうかを聞く設計にしてある。
- 1
家計余力
住居費は家賃かローンか、更新・転居の予定があるか
住居は固定費の中でも重く、契約更新や転居があると一時的に跳ねる。民営家賃はCPIで2020年比+0.7%しか動いていないので、賃貸だから物価に押されているという説明は単独では成立しにくい。持ち家か賃貸かより、直近の変動の有無のほうが効く。 - 2
家計余力
住宅ローンがあるなら、変動金利か固定金利か
変動金利は今後の金利動向で返済額が変わりうる。今の家計余力だけでなく、先の余力の不確実性を見分けるための質問。 - 3
家計余力
扶養する子どもの学齢はどの段階か
教育はCPIで2020年比-2.9%と下がっている(高校無償化の影響)。「子どもがいるから苦しい」という思い込みと、統計の動きが逆になっている場合がある。学齢を聞くことで、この費目がどちらに効いているかを確かめられる。 - 4
家計余力
通勤の手段と、片道の時間
交通・通信のCPIは2020年比±0.0%で動いていない。通勤コストの負担感を聞くのは、体感と統計のズレを確認するためで、増額の根拠にはならない可能性がある。 - 5
家計余力・相場遅れ
配偶者・パートナーの就労状況と、年収の壁を意識した調整の有無
世帯の総収入は本人の給料だけで決まらない。就労調整の有無は、世帯として使える所得の天井を知るための質問で、106万・130万・178万円の壁が関わる場合がある。
配布後、回答者が3人未満になるセグメントは単独集計せず、近いセグメントと合算してから第1章の表に戻す。個人が推測できる粒度で結果を共有しない。
匿名アンケート:働き方と暮らしの実感について(回答目安 3分) この回答は個人を特定しない形で集計し、給与・賞与の検討材料として使います。氏名・部署名・具体的な金額を書く欄はありません。 問1. 今の住まいはどれに当てはまりますか A. 持ち家(住宅ローンあり) B. 持ち家(ローン完済・または現金購入) C. 賃貸 D. 社宅・寮 E. その他 問2.(問1でAを選んだ方のみ)住宅ローンの金利タイプは A. 変動金利 B. 固定金利 C. わからない D. 該当しない 問3. この1年以内に、住まいの契約更新・引っ越し・住み替えがありましたか、またはこれからありますか A. あった、またはある予定 B. 検討中 C. 予定はない D. わからない 問4. 扶養している子どものうち、いちばん費用がかかる時期はどれですか(該当者がいない場合はEを選択) A. 未就学児 B. 小学生・中学生 C. 高校生 D. 大学生・専門学校生など E. 該当なし 問5. 通勤の主な手段は A. 公共交通機関 B. 自家用車 C. 自転車・徒歩 D. リモート中心で通勤なし 問6. 片道の通勤時間はどれくらいですか A. 30分未満 B. 30分〜60分 C. 60分〜90分 D. 90分以上 E. 該当なし(リモート中心) 問7. 配偶者・パートナーの就労状況は A. フルタイムで就労している B. パートなど短時間で就労している C. 就労していない D. 該当者なし(配偶者・パートナーがいない) 問8.(問7でA・Bを選んだ方のみ)年収の壁を意識して、就労時間や日数を調整していますか A. 調整している B. 調整していない C. わからない D. 該当しない 問9. この半年、給料日前後の家計はどれに近いですか A. 黒字が増えている B. 変わらない C. 黒字が減っている D. 赤字になることがある E. わからない 問10. 自分と同じような仕事をしている他社の人と比べて、給料が見合っていないと感じることがありますか A. よくある B. ときどきある C. あまりない D. わからない ご協力ありがとうございました。金額を記入する欄はこの調査にはありません。
こう聞いてはいけない
・生活費の明細(家賃・食費・保険料などの実額)を提出させる
・「浪費している部分はないか」など、支出の使い道を審査する聞き方をする
・部署名・役職・勤続年数の詳細など、回答者を絞り込める設問を混ぜる
・上司との面談で口頭で聞く(同席や評価と結びつくと正直に答えられない)
・「いくら欲しいか」「いくら上がれば満足か」を聞く
集めた回答を決定表にどう流し込むか
問1〜問9は家計余力の材料になる。住居・通勤・扶養・配偶者の就労のどこに変動があるセグメントかを見て、第1章の10セグメントごとに「必須支出の増加」欄を補強する。
問10だけは相場遅れの自己申告で、これは賃金構造基本統計調査などの外部相場と会社側の判断材料として突き合わせるためのものであり、単独では昇給額を決めない。
回答は個人名や部署と結び付けず、セグメント単位で集計してから第1章の表に戻す。
→ 次章「物価は本当に1.1割か」では、この余白に何円が着弾したのかを世帯類型ごとに計算する。
🧾 物価は本当に1.1割か — 誰に何円として着弾したか
このセクションの3点
① 「物価は1割ちょっと」は2020年平均→2025年平均の+11.9%とほぼ一致する。ただしこの数字はすでに1年古く、2026年7月まで延ばすと累積は約+14.1%まで進んでいる
② 費目ごとの伸びには大差がある。食料+25.8%に対し交通・通信は±0.0%、教育は-2.9%。「物価」とひとくくりにすると、上がった半分が見えなくなる
③ 頻繁に買うものだけを取り出すと+21.2%。総合(持家帰属家賃を除く)+14.0%より7.2pt高く、日々の買い物のほうが統計の伸びより重い
「物価は1割ちょっと」は2020年平均→2025年平均の+11.9%と一致する。ただしこの比較はすでに1年遅れており、2026年7月まで取ると累積は約+14.1%に進んでいる。
- 総合指数(2020年平均→2025年平均): +11.9%。「1割ちょっと」に最も近い一致がここにある
- 同じ基準を2026年7月まで延ばすと累積は約+14.1%。「今の物価」として使うなら1年分足りない
- 頻繁に買う品目だけなら+21.2%。統計の総合値より体感のほうに近い数字が別にある
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横ばい
下がっている
出典: e-Stat 統計表ID 000032103936(2020年基準消費者物価指数)。2020年平均を100とした2025年平均の累積上昇率。教育・交通通信は下段の表でマイナスまたは横ばいであることを確認。
| 費目 | 2020平均→2025平均 累積 | 2026年7月 前年同月比(参考) |
|---|---|---|
| 食料 | +25.8% | +3.5% |
| 家具・家事用品 | +21.6% | +3.7% |
| 光熱・水道 | +16.9% | +0.7% |
| 教養娯楽 | +15.6% | +1.9% |
| 被服及び履物 | +11.1% | +1.2% |
| 諸雑費 | +5.9% | +0.4% |
| 保健医療 | +4.3% | +2.1% |
| 住居 | +4.0% | +1.0% |
| 交通・通信 | ±0.0% | +2.6% |
| 教育 | -2.9% | -3.8% |
高校無償化による制度変更
出典: e-Stat(2020年基準消費者物価指数)。私立高校授業料の下落は2020年度からの高校無償化の制度変更によるもので、他の品目のような需給要因ではない。
📋 品目の実例 数値一覧(10品目) 10品目 開く ▾
| 品目 | 2020年比 |
|---|---|
| うるち米 | +67.2% |
| コーヒー豆 | +39.8% |
| チョコレート | +35.7% |
| 緑茶 | +29.2% |
| まぐろ | +20.4% |
| 灯油 | +16.5% |
| 携帯電話通信料 | +8.7% |
| 電気代 | +5.3% |
| 民営家賃 | +0.7% |
| 私立高校授業料 | -73.2%(高校無償化による制度変更) |
+25.8%
食料(2020→2025累積)
±0.0%
交通・通信(同)
-2.9%
教育(同・高校無償化含む)
+21.2%
頻繁に買うもの(同)
| 類型 | 実効上昇率 | 2025年の月支出 | 2020年に同じ買い物 | 差額/月 | 差額/年 |
|---|---|---|---|---|---|
| 二人以上世帯(勤労者)平均 | +10.2% | 346,297円 | 314,352円 | 31,945円 | 383,338円 |
| 単身世帯(勤労者)平均 | +12.1% | 191,523円 | 170,855円 | 20,668円 | 248,018円 |
| 持ち家・単身・月15万(決める側) | +13.6% | 150,000円 | 132,021円 | 17,979円 | 215,745円 |
月額・年額はいずれも丸める前の値から計算しているため、表示された月額を12倍した数とは数円ずれる(例: 二人以上世帯は31,945円×12=383,340円だが、表の年額は383,338円)。数値そのものは丸める前の計算結果である。
「頻繁に買うもの」だけを取り出した指数は+21.2%で、持家帰属家賃を除いた総合+14.0%より7.2pt高い。米・コーヒー豆・チョコレート・緑茶・まぐろのように、棚に並ぶたびに値段が上がっている実感のあるものは、統計の総合値よりも先に動いている。2026年7月の前年同月比でも頻繁購入+3.04%に対し帰属家賃除く総合+2.30%と、差は0.74pt残っている。
ここで一つ、線を引いておく必要がある。「コンビニという業態が他店より高い」ことは、この統計では示せない。消費者物価指数は品目ごとの価格を追う指数であって、業態(コンビニ・スーパー・ドラッグストア)別の価格指数ではないからだ。この統計で言えるのは「頻繁に買うものほど上がっている」までであり、「だからコンビニで買うと損をする」という一段先の主張は、この数字では検証できない。
📎 この章の数字の限界 4件 開く ▾
読み方に注意が必要な4点
購入頻度別指数の原区分
「年間購入頻度15回以上/4回以上15回未満/4回未満」という原区分そのものは確認できず、代替区分で取得した数字である
持家帰属家賃の扱い
CPIの総合指数には持家帰属家賃(家を借りたと仮定した場合の家賃)が含まれるが、家計調査の消費支出(現金支出)には出てこない。第3節の表はこの違いを踏まえて費目別に計算している
住宅ローンの元金返済
月30,173円の住宅ローン元金返済は、家計調査の消費支出「住居」には含まれない。ローンを抱える世帯の負担は、この章の数字だけでは見えない
2026年7月値は新基準・参考値
表の右列(2026年7月)は新基準の前年同月比で、左列(2020→2025累積・旧基準)とは算出方法が異なる。並べているのは動きの参考であり、単純に足し引きできる数字ではない
→ 次のSection 5では、この物価上昇がなぜ決める側には軽く見えるのかを、依頼者自身の家計で検算する。
🔍 なぜ決める側には見えないのか
このセクションの3点
① 「持ち家・単身・低支出はいちばん物価の影響を受けにくい構成だ」と考えて計算したところ、実測は逆で、3類型のうち実効上昇率がいちばん高かった(+13.6%)
② 住居(+4.0%)・交通通信(±0.0%)・教育(-2.9%)という「上がっていない・下がっている」費目を持たないぶん、食料(+25.8%)のウェイトが相対的に上がる
③ 苦しさは率と増加額だけでは決まらない。各参考類型で月17,979円〜31,945円の増加が生じているが、結果を分けるのは家計に余力があるかどうかである
ここで言う「決める側」とは、社員の給料を決める立場にあり、かつ持ち家・単身・月15万円で暮らしている一例のことを指す。以下は、この一例を仮定した参考類型の計算であり、持ち家や単身の人全般に当てはまる話ではない。
仮説 — 値上がりに強いはずだと考えた
ここで一つ、自分の見立てを訂正しておく。私は当初、この持ち家・単身・月15万円という構成は、値上がりへの曝露がもっとも小さいはずだと考えて計算を始めた。賃貸ではなく持ち家ならCPIの「住居」上昇の影響を受けにくく、独身で子がいなければ教育費もかからず、支出の絶対額も小さい。値上がりを受けにくい条件が揃っているように見えた。
計算 — 家計調査のウェイトにCPIを当てる
実際に家計調査の費目別ウェイトへ10大費目のCPI上昇率を当てて計算した。
予想外の結果 — 決める側がいちばん高かった
結果は逆だった。二人以上世帯(勤労者)平均が+10.2%、単身世帯(勤労者)平均が+12.1%であるのに対し、持ち家・単身・月15万円の構成は+13.6%でいちばん高い。「値上がりに強い構成」という前提のほうが誤っていた。
| 類型 | 実効上昇率 | 食料の構成比 | 住居の構成比 |
|---|---|---|---|
| 二人以上世帯(勤労者)平均 | +10.2% | 16.8% | 5.8% |
| 単身世帯(勤労者)平均 | +12.1% | 23.9% | 15.8% |
| 持ち家・単身・月15万(決める側) | +13.6% | 28.4%(住居を0にして残りを比例配分した値) | 0%(住居費をゼロとして残りへ按分する仮定計算) |
なぜそうなったか — 住居費の代わりに食料へ回る
理由は単純な引き算にある。支出の合計は100%で固定されている。住居費をゼロとして残りを比例配分した仮定の参考類型では、住居というカテゴリの構成比がそのまま他の費目に回る。回った先でいちばん重いのが食料で、しかも食料は10大費目の中で上昇率が最大(+25.8%)の費目である。
単身勤労者世帯の平均的な支出構成でも、この構図がそのまま数字に出ている。実効上昇率+12.1%のうち、食料が占める寄与は6.17ptで全体の半分以上を占める。住居の寄与はわずか0.63pt、交通・通信と教育の寄与はどちらも0.00pt——もともと押し下げる力がほとんど無い。持ち家・単身・月15万(決める側)という仮定の参考類型では、この0.63ptの住居分をさらに手放して食料側へ回す形になる。
| 費目 | 寄与(pt・単身世帯) |
|---|---|
| 食料 | 6.17 |
| 教養娯楽 | 1.97 |
| 諸雑費 | 1.12 |
| 光熱・水道 | 1.00 |
| 家具・家事用品 | 0.67 |
| 住居 | 0.63 |
| 被服及び履物 | 0.34 |
| 保健医療 | 0.19 |
| 交通・通信 | 0.00 |
| 教育 | 0.00 |
では本当の差は何か — 率ではなく余白
率で見る ⇄ 余白で見る
率で見る
実効物価上昇率が高い順
- ・持ち家・単身・月15万(決める側) +13.6%
- ・単身世帯(勤労者)平均 +12.1%
- ・二人以上世帯(勤労者)平均 +10.2%
余白で見る
増加額を吸収できるかどうか
- ・各参考類型では月17,979円〜31,945円の増加が生じており、額の大小だけで苦しさは決まらない
- ・可処分所得に余りがある人は、残高が減るだけで済む
- ・余りがない人は、増加分がそのまま赤字になる
率がいちばん高くても、それだけで生活が破綻するわけではない。持ち家・単身・月15万(決める側)という仮定の参考類型で生じる月17,979円の増加でも、可処分所得に余りがある家計にとっては、貯蓄や投資に回していた額が少し減るだけで済む。だが同じ額が、余りのない家計に来れば、そのまま赤字になる。率の高さと、生活が苦しくなるかどうかは別の軸である。決める側に「苦しさ」が見えにくいとすれば、それは物価が上がっていないからではなく、上がった分を吸収できる余白が、たまたま自分の側にあるからだと考えたほうが正確である。
まとめると、率がいちばん高いのは決める側だが、月15万円の支出に対して手取りに余りがあるなら、増えた分は残高が減るだけで済む。だから本人には見えない。ただし、本人の実際の手取り額やローンの有無までは確認できておらず、ここは参考類型からの推測にとどまる。
📎 「住居費が低い」とは断定できない
この記事では持ち家であることを理由に住居費をゼロと仮定して計算しているが、ローン返済・固定資産税・修繕費の実額は確認できていない。「住居費が低い」と断定するのはここでは行わない。書けるのは「家賃のような形での住居費の変動には晒されていない可能性がある」というところまでである。
賃貸だから直撃した、という説明も同じ理由で単純には成立しない。民営家賃は2020年比+0.7%しか動いていない。住居というカテゴリの中で、いちばん動いていないのが家賃そのものである。
服が2,000円であること自体は、この計算にはほとんど効いていない。効いているのは、支出総額に占める費目の比率のほう。単身世帯(勤労者)の家計調査では、被服及び履物は月5,972円で、支出全体のわずか3.1%にすぎない。ここをいくら切り詰めても、実効上昇率の大勢を左右するのは食料・教養娯楽・光熱水道といった、構成比の大きい費目のほうである。
→ 次のSection 6では、世間が2026年に実際いくら賃上げしたかを見る。
📈 世間はいくら上げたか(2026年)
このセクションの3点
① この4つの集計では、小規模側の連合集計がいちばん低い(経団連5.37%→連合300人未満4.69%)。ただし対象企業・母集団・集計方法が異なるため、規模差の厳密な比較ではない
② 名目では物価に勝っているように見えるが、毎勤の実質賃金指数は98.0で2020年をまだ下回っている
③ 初任給は全国全規模の大卒262,300円と東京都中小の233,725円で28,575円ちがい、既存社員との逆転が起きる
5.37%
経団連 大手
5.01%
連合 全体
4.69%
連合 300人未満
1,280円
東京都最低賃金
19,752円
18,167円
16,400円
12,866円
出典: 経団連 最終集計(2026-08-04)/厚労省 民間主要企業(2026-07-31)/連合 最終集計(2026-07-03・7/1時点)。この4つの集計では小規模側の連合集計がいちばん低いが、対象企業・母集団・集計方法が異なるため、規模差の厳密な比較ではない。
| 主体 | 率 | 額 | 対象 | 発表日 |
|---|---|---|---|---|
| 経団連(最終集計) | 5.37% | 19,752円 | 大手・従業員500人以上 | 2026-08-04 |
| 厚労省 民間主要企業 | 5.18% | 18,167円 | 428社 | 2026-07-31 |
| 連合 最終集計 | 5.01% | 16,400円 | 5,368組合 | 2026-07-03 |
| 連合 300人未満(中小) | 4.69% | 12,866円 | 3,831組合 | 2026-07-03 |
| 連合 有期・短時間・契約等 | 概算6.18% | 時給+75.01円 | — | 2026-07-03 |
定期昇給とベースアップの区別
厚労省「賃金引上げ等の実態に関する調査」令和7年(2025-10-14公表)では、改定額13,601円・改定率4.4%、定昇制度あり81.2%(うち実際に実施76.8%)、ベースアップを実施した企業は57.8%、賃金改定を実施しない企業も2.4%あった。連合や経団連の数字は定昇とベアを合わせた総額であり、この2つを区別しないまま「◯%上げた」と社員に伝えると、実際に基本給の水準が動いたのかが分からなくなる。
★令和8年(2026年)分のこの調査は本稿時点で未公表である(例年10月公表)。ここで書けるのは令和7年の実績までで、2026年の定昇・ベアの内訳は判定できない。
| 年 | 全体 | 300人未満 |
|---|---|---|
| 2023 | 3.58% | 3.23% |
| 2024 | 5.10% | 4.45% |
| 2025 | 5.25% | 4.65% |
| 2026 | 5.01% | 4.69% |
| 4年累積 | +20.3% | +18.1% |
名目は勝っている。実質はまだ負けている
連合の集計を並べると、名目の賃上げ率は4年連続で物価上昇率を上回っているように見える。それでも毎月勤労統計の実質賃金指数は98.0(2020年=100)で、2025年平均でもまだ2020年の水準を下回っている。
この食い違いは母集団の違いで説明できる。春闘の5.01%は労働組合の推定組織率16.0%(令和7年労働組合基礎調査)の側にいる労働者の数字であり、毎勤の実質賃金指数は組合の有無に関わらない全労働者の平均である。5.01%は労働組合の集計値であり、全給与所得者の平均賃上げ率ではない。
| 区分 | 額 |
|---|---|
| 大卒(全国・全規模計) | 262,300円 |
| 高卒(全国・全規模計) | 207,300円 |
| 東京都中小企業(10〜299人)大卒 | 233,725円 |
| 東京都中小 高校卒 | 208,783円 |
| 東京都中小 高専短大卒 | 220,439円 |
| 東京都中小 専門学校卒 | 220,303円 |
全国全規模の大卒初任給262,300円は、初めて26万円台に乗った数字であり+5.6%と大きく伸びた。だがこれは大企業が主に押し上げた値で、東京都の中小企業(10〜299人)の大卒初任給は233,725円しかない。初任給の水準には28,575円の差がある。
| 業種(東京都中小・大卒) | 初任給 |
|---|---|
| 金融保険 | 261,122円 |
| 建設 | 246,207円 |
| 学術研究 | 240,313円 |
| 宿泊飲食 | 237,963円 |
| 調査産業計 | 233,725円 |
| 医療福祉 | 232,871円 |
| 製造 | 231,143円 |
| 運輸郵便 | 228,942円 |
| 情報通信 | 228,380円 |
| 卸売小売 | 228,238円 |
初任給を上げると起きること
・既存の2年目・3年目社員の給与と新卒の初任給が逆転する
・逆転を避けようとすると、その上の層まで玉突きで賃金を圧縮することになる
・初任給だけを引き上げると、既に在籍している若手ほど不満が強くなる
東京都の最低賃金は令和8年度に1,280円へ改定される見込みで(+54円・+4.4%、答申2026-08-05、発効2026-10-01予定)、これは経営判断ではなく法令で決まる下限である。全国加重平均の目安1,176円と比べても東京都はすでに高い水準にあり、発効日までに、各労働者の時間額が1,280円以上となるよう是正する必要がある。
→ 次のSection 7では「採れるのか、辞めないのか」を解説する。
🧲 採れるのか、辞めないのか
このセクションの3点
① 一般事務0.37倍と保安13.82倍で37倍の開きがある。両方の職種を抱える会社では、採れない職種と採用市場の逼迫度が低い職種が同居することになる
② 建設・介護・運輸は求人倍率も過不足判断D.I.(Diffusion Index=人手が「不足」と答えた企業の割合から「過剰」と答えた企業の割合を引いた指数。プラスが大きいほど人手不足)も高く、相場どおりに払っても採れるとは限らない
③ 一律◯%の賃上げは、必要な人には届かず、採用市場の逼迫度が低い職種の人件費だけを押し上げる
給料は社員の生活を保障する額であると同時に、会社が人を確保するための価格でもある。相場から遅れていなくても、その職種の採用市場が逼迫していれば、採れなかったり辞められたりする可能性が高くなる。ただし実際に採れるかどうかは、自社の提示額・応募・辞退・離職を見ないと判定できない。第6章の賃上げ率は「世間並みに払っているか」の判定であり、この章は「その額で人が採れるか」の判定である。
出典: 東京労働局。全国の職業別集計は特定できず東京労働局データで代替した。職業計1.39倍、全国の総合有効求人倍率は季調値(季節調整値=季節による変動を取り除いた値)1.18倍、東京都受理地別1.70倍。
13.82倍
保安職業
0.37倍
一般事務
37倍
両者の開き
+59pt
建設業の過不足D.I.
下の表は、職業別の有効求人倍率を、第1章の10セグメント(G1〜G10)に対応づけたものである。
| 職業 | 有効求人倍率 | 該当セグメント |
|---|---|---|
| 保安職業従事者 | 13.82倍 | 対応セグメントなし |
| 介護サービス職業従事者 | 9.14倍 | G7 介護職員 |
| 建設・採掘従事者 | 5.72倍 | G6 建設技能職 |
| 自動車運転従事者 | 3.53倍 | G8 ドライバー |
| 販売従事者 | 3.01倍 | G4 営業職(販売職を含む参考値。営業職に対応する指標ではない)/G9 パート販売・飲食 |
| 情報処理・通信技術者 | 2.88倍 | G2 IT技術者 |
| 職業計 | 1.39倍 | G1・G5・G10 全般 |
| 一般事務従事者 | 0.37倍 | G3 一般事務 |
倍率だけでなく、企業側の体感を示す労働者過不足判断D.I.(令和8年5月)でも同じ顔ぶれが上位に並ぶ。建設業+59pt、医療福祉+57pt、運輸業+55pt、調査産業計+47pt。倍率とD.I.のどちらで見ても、建設・介護・運輸は採用難である可能性が高い。相場どおりに払っても採れるかどうかは、自社の応募・辞退・離職で確認する必要がある。
| 指標 | 値 |
|---|---|
| 入職率(令和6年) | 14.8% |
| 離職率(令和6年) | 14.2% |
| 一般労働者の離職率 | 11.5% |
| パートの離職率 | 21.4% |
| 転職入職者の賃金変動:増加 | 40.0% |
| 転職入職者の賃金変動:減少 | 28.9% |
| 離職理由(男性)「給料等収入が少なかった」 | 10.1% |
一律◯%は必要な人に届かない
保安(13.82倍)・介護(9.14倍)・建設(5.72倍)のように採れない職種と、一般事務(0.37倍)のように採用に困っていない職種の両方を抱える会社では、この2つが同居することになる。そうした会社で全社員に同じ率の賃上げを一律に適用すると、採用難の職種には相場に届かないまま人件費だけが増え、採用市場の逼迫度が低い職種には必要以上の額が渡る可能性がある。一律率では、採用・定着の課題に対応しきれない可能性がある。第1章の決定表で職種ごとに手段を分けるのは、この差があるからである。
⚠️ この章の限界 開く ▾
全国の職業別有効求人倍率は本稿の一次情報からは特定できず、東京労働局のデータで代替した。全国の総合有効求人倍率(季調値1.18倍)と東京都の受理地別(1.70倍)はいずれも参考値として別に示してある。
企業側の欠員実感を示す「欠員率」を出していた労働経済動向調査は、令和7年5月調査をもって終了しており、これ以降の欠員率は取得できない。
→ 次のSection 8では「いくらまで恒久的に払えるか」を解説する。
🏦 いくらまで恒久的に払えるか
このセクションの3点
① 月1万円のベアは会社が年139,812円払うが、社員の手取り増は年68,030〜86,307円(到達率48.7〜61.7%)にとどまる
② 基本給は法定福利費・残業単価・賞与算定・退職金の算定基礎に波及する恒久コスト。一時金は翌年以降への波及はないが、社会保険料等の当年のコストはかかる
③ 相場との構造的な差は基本給で、物価の一時的なショックは一時金で埋めるのが原則
139,812円
ベア月1万の年間会社負担
58.1%
手取り到達率(税率10%)
16.51%
事業主の法定福利費(40歳以上)
68.3%
労働分配率
→ この図は横にスクロールできます
会社の年間支出139,812円は変わらないが、社員に残る額は所得税率で動く。課税所得195万円以下(税率5%)なら手取り増86,307円(到達率61.7%)、695万円超900万円以下(税率23%)なら68,030円(到達率48.7%)。住民税10%を含む概算で、配偶者控除など所得控除の細部は反映していない。
代表例として、課税所得195万円超330万円以下(税率10%)の場合、会社の年間支出139,812円に対し、社員の手取り増は81,230円(到達率58.1%)にとどまる。税率が低いほど到達率は上がり、高いほど下がる(4段階の内訳は下の折りたたみ)。
📎 所得税率4段階の内訳 開く ▾
| 社員の所得税率 | 会社の年間支出 | 社員の年間手取り増 | 到達率 | 消える額 |
|---|---|---|---|---|
| 5%(課税所得195万円以下) | 139,812円 | 86,307円 | 61.7% | 53,505円 |
| 10%(195万円超330万円以下) | 139,812円 | 81,230円 | 58.1% | 58,582円 |
| 20%(330万円超695万円以下) | 139,812円 | 71,077円 | 50.8% | 68,735円 |
| 23%(695万円超900万円以下) | 139,812円 | 68,030円 | 48.7% | 71,782円 |
基本給を上げると、その場では終わらない。事業主負担の法定福利費(40歳以上で16.51%)は基本給に比例してかかり続ける。残業代の単価もこの基本給から算出されるため、時間外25%・月60時間超50%・深夜25%・休日35%の各割増賃金がまとめて上がる。賞与を基本給の何ヶ月分で決めている会社なら賞与の算定基礎も動き、退職金の算定基礎に基本給を使う設計なら退職金にも波及する。一度上げた基本給は、これらすべてに毎年効き続ける。一時金は、基本給連動の残業単価・翌年以降の賞与算定・退職金には通常波及しない。ただし一時金にも社会保険料等の当年のコストはかかる。
基本給で恒久的に上げるか、一時金で今回だけ出すか
基本給(恒久)
毎年、すべてに効き続ける
- ・法定福利費・残業単価・賞与算定・退職金の算定基礎に波及する
- ・一度上げると下げにくい(不利益変更の制約)
- ・相場からの構造的な遅れ(採用難・離職)を埋める手段になる
- ・手取りへの到達率は48.7〜61.7%(所得税率で変わる)
一時金(今回限り)
翌年に固定費として残らない
- ・基本給連動の残業単価・翌年以降の賞与算定・退職金には通常波及しない。ただし社会保険料等の当年のコストはかかる
- ・物価の一時的なショックを埋める手段になる
- ・業績と連動させやすく、翌年の増減を選べる
- ・相場との構造的な差はこれだけでは埋まらない
使い分けの原則は、原因が一時的か恒久的かで決まる。2026年の物価は上昇を続けているが、これが一時的な急騰なのか、恒久的な水準の切り上がりなのかは、この記事のデータだけでは判定できない。一方で、第1章の決定表にある相場との差は業種・職種ごとの構造であり、簡単には縮まらない。恒久的な差には基本給、一時的なショックには一時金、を原則にする。
| 会社側の物差し | 値 | 意味合い |
|---|---|---|
| 労働分配率 | 68.3% | 法人企業統計 令和7年10-12月期。人件費51.4兆円/四半期 |
| 1人当たり付加価値額 | 631万円 | 中小企業実態基本調査 令和6年度決算(前年+2.6%) |
📎 事業主負担16.51%と本人負担15.385%の内訳 開く ▾
ここでの16.51%は、40歳以上・東京の協会けんぽ・一般の事業を前提にした試算である。介護保険料の有無、業種による労災保険率の違い、加入する健康保険組合の料率などで数値は変わるため、自社の料率で計算し直すこと。
| 項目 | 事業主 | 本人 |
|---|---|---|
| 厚生年金(18.3%折半) | 9.15% | 9.15% |
| 健康保険(東京9.85%折半) | 4.925% | 4.925% |
| 介護保険(40歳以上・1.62%折半) | 0.81% | 0.81% |
| 雇用保険(令和8年度) | 0.85% | 0.50% |
| 労災保険 | 0.30% | — |
| 子ども・子育て拠出金 | 0.36% | — |
| 子ども・子育て支援金(2026年4月新設) | 0.115% | — |
| 合計(40歳以上) | 16.51% | 15.385% |
| 合計(40歳未満) | 15.70% | 14.575% |
📎 手取り計算の限界
本章の手取り額は住民税10%を含む概算であり、配偶者控除・扶養控除などの所得控除の細部は反映していない。実際の到達率は世帯構成によって前後する。
→ 次のSection 9では、東京で働く人たちの年収相場を年齢・産業・職種で見る。
💴 東京で働くみんなの年収
このセクションの3点
① 年齢階級間の所定内給与額の差は、上位十分位で大きく、下位十分位では小さい。第1・十分位は20〜24歳188.1千円から45〜49歳212.0千円まで+23.9千円動くのに対し、第9・十分位は299.6千円から582.7千円まで+283.1千円動く
② 賞与の差が給与の差より大きい。情報通信業の年間賞与1,418.5千円は宿泊業・飲食サービス業389.6千円の3.6倍。所定内給与の差は1.5倍にとどまる
③ 都道府県別の分位数(中央値を含む)は公表されていない。だから「東京の年収の中央値」は出せない。この章の東京都の年収換算はすべて平均どうしの計算
出典: 賃金構造基本統計調査 令和7年・一般労働者・所定内給与額。表は中位数(中央値)。60〜64歳は278.2千円まで下がるため定年前後の別扱いとしグラフから外し、下の表にのみ記載した。
十分位・分位数とは — 100人を給料の低い順に並べたときの、10番目・50番目(中位数)・90番目の人の額のこと。第1・十分位は下から10番目(下位10%の水準)、第9・十分位は下から90番目(上位10%の水準)を指す。下の表は、年齢が上がると下位10%と上位10%でどれだけ差が動くかを示す。
| 年齢 | 第1・十分位(千円) | 中位数(千円) | 第9・十分位(千円) |
|---|---|---|---|
| 年齢計 | 199.9 | 296.6 | 527.3 |
| 20〜24歳 | 188.1 | 238.4 | 299.6 |
| 25〜29歳 | 202.6 | 267.9 | 361.8 |
| 30〜34歳 | 207.2 | 291.4 | 427.0 |
| 35〜39歳 | 211.2 | 310.1 | 488.2 |
| 40〜44歳 | 213.0 | 325.5 | 546.9 |
| 45〜49歳 | 212.0 | 334.8 | 582.7 |
| 50〜54歳 | 209.3 | 345.9 | 615.9 |
| 55〜59歳 | 203.9 | 346.5 | 637.3 |
| 60〜64歳 | 189.3 | 278.2 | 519.6 |
年齢による給与の差は、上位十分位ほど大きい
第1・十分位(下位10%の水準)は、20〜24歳の188.1千円から45〜49歳の212.0千円まで、+23.9千円動く。50代に入るとむしろ下がり始める。
一方、第9・十分位(上位10%の水準)は20〜24歳の299.6千円から45〜49歳の582.7千円まで+283.1千円動く。年齢階級間の所定内給与額の差は、上位十分位で大きく、下位十分位では小さい。これは年齢階級別の横断データであり、同一個人が年齢を重ねたときの変化(年功による昇給)を示すものではない。
東京都の年収換算 — Claudeが計算した値
下の表は、東京都の一般労働者について、年齢が上がるにつれて年収換算(平均どうしの計算)がどう変わるかを示す。
| 年齢 | きまって支給(千円) | 年間賞与(千円) | 年収換算(Claude計算) |
|---|---|---|---|
| 年齢計 | 448.5 | 1,397.8 | 678万円 |
| 20〜24歳 | 292.9 | 367.7 | 388万円 |
| 25〜29歳 | 348.6 | 818.4 | 500万円 |
| 30〜34歳 | 408.9 | 1,146.2 | 605万円 |
| 35〜39歳 | 454.7 | 1,385.9 | 684万円 |
| 40〜44歳 | 496.4 | 1,637.9 | 759万円 |
| 45〜49歳 | 517.2 | 1,735.3 | 794万円 |
| 50〜54歳 | 517.7 | 1,993.7 | 821万円 |
年収換算は「平均」どうしの計算であり、中央値ではない
この表の年収換算は、東京都・一般労働者のきまって支給する現金給与額(決まった時期に毎月支払われる給与。残業代や諸手当を含み、賞与は含まない・平均)×12+年間賞与(平均)としてClaudeが計算した値であり、賃金構造基本統計調査が公表している値そのものではない。
分位数は足し算できない。上の表にある所定内給与の中位数に12をかけ、賞与の平均を足しても、それは年収の中央値にはならない。都道府県別の分位数(中央値・第1/第9・十分位)はそもそも公表されていないため、東京都の年収の中央値はこの記事では出せない。
産業別・職種別・企業規模別の内訳は、賞与の開きが給与の開きより大きいことを示す参考データである。詳細は下の折りたたみにまとめてある。
📎 産業別・職種別・企業規模別の内訳(参考) 8産業・11職種・企業規模3区分 開く ▾
産業別 — 賞与の差が給与の差より大きい
下の表は、産業ごとに所定内給与と年間賞与を並べたものである。賞与の開きが給与の開きより大きいことがわかる。
| 産業 | 所定内(千円) | 年間賞与(千円) |
|---|---|---|
| 学術研究,専門・技術サービス業 | 440.3 | 1,481.4 |
| 情報通信業 | 406.0 | 1,418.5 |
| 建設業 | 366.3 | 1,163.4 |
| 卸売業,小売業 | 349.1 | 1,176.5 |
| 製造業 | 330.0 | 1,137.9 |
| 医療,福祉 | 315.7 | 732.7 |
| 運輸業,郵便業 | 312.7 | 658.2 |
| 宿泊業,飲食サービス業 | 277.2 | 389.6 |
情報通信業の年間賞与1,418.5千円は、宿泊業・飲食サービス業389.6千円の3.6倍にあたる。所定内給与の差は406.0対277.2で1.5倍にとどまる。産業間の年収の差の多くは、月々の給与ではなく賞与の厚みが生んでいる。
職種別(所定内・賞与・平均年齢・労働者数)
| 職種 | 所定内(千円) | 年間賞与(千円) | 平均年齢 | 労働者数 |
|---|---|---|---|---|
| ソフトウェア作成者 | 356.8 | 1,095.1 | 37.1歳 | 817,860人 |
| その他の営業職業従事者 | 399.0 | 1,493.8 | 42.4歳 | 907,410人 |
| その他の一般事務従事者 | 331.8 | 1,001.5 | 44.0歳 | 950,670人 |
| 電気工事従事者 | 361.5 | 1,343.1 | 41.6歳 | 219,610人 |
| 建設躯体工事従事者 | 302.7 | — | 41.9歳 | 94,790人 |
| 営業用大型貨物自動車運転者 | 306.3 | 429.6 | 51.5歳 | 471,570人 |
| バス運転者 | 262.8 | 590.1 | 56.0歳 | 96,280人 |
| タクシー運転者 | 306.4 | 197.8 | 56.8歳 | 170,210人 |
| 販売店員 | 265.2 | 463.6 | 43.6歳 | 1,224,470人 |
| 介護職員(医療・福祉施設等) | 262.9 | 547.8 | 45.3歳 | 1,165,930人 |
| 訪問介護従事者 | 267.3 | 439.7 | 51.2歳 | 83,920人 |
ソフトウェア作成者・その他の営業職業従事者・その他の一般事務従事者は、この記事のG2・G4・G3に完全一致する職種区分がないため、原統計の中でもっとも近い区分を近似として使っている。
企業規模別(所定内給与・千円)
| 企業規模 | 所定内給与(千円・大企業=100) |
|---|---|
| 大企業(1,000人以上) | 385.1(100) |
| 中企業(100〜999人) | 326.2(84.7) |
| 小企業(10〜99人) | 305.6(79.4) |
478万円
国税庁 平均給与(令和6年分・役員含む)
約413万円
国税庁 中央値(Claude計算・階級補間)
296.6千円
賃構 所定内給与 中位数(月・年齢計)
0.37倍
一般事務従事者の有効求人倍率(東京)
依頼者(35歳・年収600万円)はどこにいるか
結論から言うと、給与をもらっている人全体の中では上のほうだが、東京でフルタイムで働いている同年代の平均には届いていない。どちらも正しく、比べている相手が違うだけである。ここでいうフルタイムとは、賃金構造基本統計調査の「一般労働者」(事業所規模5人以上に勤め、短時間労働者を除いた人)のことで、正社員に限った数字ではない。
国税庁 民間給与実態統計調査(令和6年分)の給与所得者全体で見ると、年収600万円は累積75.1%付近にあり、100人のうち約75人より高い位置にある。男性だけに絞ると100人のうち約64人より高い。
一方、賃金構造基本統計調査の東京都・一般労働者・35〜39歳の平均年収換算は684万円である。これは百分位ではなく平均どうしの計算であり、600万円との単純な順位比較はできない。
なぜ2つの数字が食い違うか — 母集団の違い
国税庁の調査は全給与所得者を対象にし、パート・アルバイト・1年未満勤務者や役員も含む。賃金構造基本統計調査は事業所規模5人以上の一般労働者を対象にし、短時間労働者を除く。母集団が違うため、国税庁の分布上の位置(百分位)と、賃金構造基本統計調査の平均年収換算を単純に比較することはできない。
法人の役員は賃金構造基本統計調査の母集団に入らない。役員報酬で生活している人は、この章の相場表には現れない。
東京の中央値は出せない
・都道府県別の分位数(第1・十分位・中位数・第9・十分位)はe-Statの都道府県別カテゴリでは公表されていない
・公表されているのは、全国の分位数と、東京都の平均(きまって支給する現金給与額・年間賞与額)だけ
・この章の「東京都の年収換算」の表は、すべて平均どうしを足した値であり、中央値ではない
→ 次のSection 10では、この記事全体の数字で間違えやすいことをまとめる。
🩹 この数字で間違えやすいこと
このセクションの3点
① この記事でいちばん大きかった訂正は、私自身の仮説だった。「持ち家・単身・低支出はいちばん物価の影響を受けない構成」と考えて計算したら、率はむしろいちばん高かった(+13.6%)。第5章はその転回をそのまま残してある
② 同じ「年収」でも、国税庁の統計と厚生労働省の統計では数えている人が違う。国税庁は全給与所得者(パート・アルバイト・役員を含む)、賃金構造基本統計調査は事業所規模5人以上の一般労働者(短時間労働者と役員を含まない)。だから同じ35歳でも数字が100万円以上ちがう
③ 都道府県別の分位数は公表されていない。だから「東京の年収の中央値」はこの記事には無い。出せなかったものは出せなかったと書いてある
ここまでの9章で使った数値は、すべて2026年8月28日に行政統計の一次資料から取ったものである。ただし、正しい数値を並べても、読み方を間違えれば結論は壊れる。この章は、その壊れ方を先に並べておくためにある。
1. 私が実測で覆した自分の仮説
📎 「決める側には物価が当たっていない」は間違いだった
この記事を書き始めたとき、私は次の仮説を立てていた。持ち家で、単身で、月15万円で暮らし、服が2,000円という生活は、日本でいちばん物価上昇に晒されない構成である。家賃を払っていない、外食しない、子どもの費用がない。だから統計上の1割すら当たらないのだろう、と。
計算したら逆だった。家計調査の費目別構成に10大費目のCPI上昇率を掛け直すと、二人以上世帯が+10.2%、単身世帯が+12.1%、そして住居費を持たない持ち家・単身型が+13.6%で、いちばん高い。
理由は単純である。物価を押し下げていたのは、住居(+4.0%)・交通・通信(±0.0%)・教育(-2.9%)という3つの費目だった。住居費をゼロとして残りを比例配分したこの参考類型では、押し下げ役が1つ消える。すると残りの費目のウェイトが上がり、なかでも食料(+25.8%)の比重が上がる。
この仮説は消さずに第5章に残した。苦しさは率と増加額だけでは決まらず、増えた分を吸収できる家計の余力にも左右されるという結論は、仮説が壊れた後にしか出てこなかったものである。なお増加額は各参考類型で月17,979円から31,945円まで幅があり、率も額も一様ではない。
2. 同じ「年収」で違う人を数えている
📎 母集団の違い(詳細表) 5統計 開く ▾
| 統計 | 数えている人 | この記事での使いどころ |
|---|---|---|
| 国税庁 民間給与実態統計調査 | 1年を通じて勤務した給与所得者 51,366千人。パート・アルバイト・法人の役員を含む | 年収の分布と中央値、100人のうち何人より高いか |
| 厚労省 賃金構造基本統計調査 | 事業所規模5人以上の一般労働者。短時間労働者を除き、法人の役員を含まない | 職種別・年齢別・都道府県別の月額給与と分位数 |
| 総務省 家計調査 | 世帯単位。年齢は世帯主のもの | 費目別の支出構成(実効物価上昇率の計算に使用) |
| 厚労省 毎月勤労統計調査 | 事業所規模5人以上の全常用労働者(パートを含む) | 実質賃金指数(物価変動を除いた実質ベースの賃金の指数)、現金給与総額 |
| 連合 春季生活闘争 集計 | 労働組合。推定組織率16.0%の側 | 2026年の賃上げ率 |
この違いが実際にどれくらいの幅を生むかは、記事の中で1回起きている。年収600万円は、国税庁の分布では100人のうち約75人より高い。ところが賃金構造基本統計調査で東京都の35〜39歳の一般労働者を年収に換算すると684万円で、600万円はそれを下回る。どちらも正しい。母集団が違うだけである。
とくに法人の役員は賃金構造基本統計調査の母集団に入っていない。会社を経営して役員報酬を受け取っている人は、職種別ランキングの表とはそもそも同じ土俵に立っていない。
3. 分位数は足し算できない
やってはいけない計算
・月給の中央値 × 12 + 年間賞与の平均 = 年収の中央値、ではない。月給が中央値の人と、賞与が中央値の人は同じ人ではない
・この記事の東京都の年収換算(678万円・684万円など)は、すべて平均どうしの掛け算と足し算であって、中央値ではない。Claudeが計算した参考値である
・都道府県別の分位数は公表されていない。e-Statの都道府県別カテゴリ45ファイルを確認して確定した。だから「東京の中央値」はこの記事のどこにも無い
・年齢階級別の分位数(第1・十分位/中央値/第9・十分位)は全国の値であって、東京の値ではない
4. 実効物価上昇率は「参考指数」であって個人の物価ではない
第4章と第5章で出した「この世帯類型に当たった物価上昇率」は、家計調査の平均的な支出構成に、10大費目のCPI上昇率を掛けた加重平均である。実在する誰かの買い物ではない。
とくに次の3つは、この計算に入っていない。
持家の帰属家賃
CPIには入る/家計調査には出ない
住宅ローンの元金返済
月30,173円(二人以上・勤労者世帯)
固定資産税・修繕費
持ち家型の仮定計算に未反映
5. CPIは業態別の価格指数ではない
「コンビニは高い」という体感について、この記事が示せたのは「頻繁に買うものほど上がっている」(2020→2025で+21.2%。総合より7.2pt高い)までである。コンビニという業態がスーパーより高い、という命題はCPIでは検証できない。CPIは品目ごとの価格指数であって、店舗業態ごとの指数ではないからだ。
また、購入頻度別指数について、総務省が定義する「年間購入頻度15回以上/4回以上15回未満/4回未満」という原区分そのものは確認できなかった。代替区分で取得した値である。
6. 取れなかったもの・時点が古いもの
📎 取れなかったもの・時点が古いもの(詳細表) 7項目 開く ▾
| 項目 | 状態 |
|---|---|
| 厚労省「賃金引上げ等の実態に関する調査」令和8年(2026年) | 未公表。例年10月公表。この記事は令和7年(改定率4.4%・ベア実施57.8%)を使っている |
| 全国の職業別 有効求人倍率 | 原表を特定できず。東京労働局の一般常用(2026年6月)で代替した |
| 労働経済動向調査の「欠員率」 | 令和7年5月調査で終了。代替として労働者過不足判断D.I.を使った |
| 都道府県別の分位数 | 公表されていない(確定) |
| 東京都の短時間労働者の時給 | 取得できず。全国値を使っている。東京の値は未取得のため比較できない |
| 国税庁 民間給与実態統計調査 令和7年分 | 9月公表前。令和6年分が最新 |
| 手取りの計算 | 住民税10%を含む概算。配偶者控除などの所得控除の細部は反映していない |
🔧 おまけ:この記事をどう直したか(読まなくてよい) レビュー3種・7回 開く ▾
公開までに3種類のレビューを回した。①何も知らない高校生に読ませる(6回)②実ブラウザで390pxと1280pxを目で見る(2回)③Codexに事実と計算を突かせる(3回)。
いちばん効いたのは②だった。機械検証はすべてPASSしていたのに、実際にスマホ幅で開いたら構成図2枚とも右半分が画面外に出ていて、意味がまったく伝わらない状態だった。「壊れていない」と「読める」は別物である。図は幅400の縦長に描き直した。
高校生レビューは3回で内容が18点・38点 → 22点・38点 → 35点・42点と動いた。点数は追わず、毎回言われた3つだけを直した(専門用語に説明がない/表が多すぎる/結論が一言で書かれていない)。3回目でようやく2人とも「先に答えは分かった」と答えた。4人全員が「面白い」と言ったのは第5章だけだったので、そこは削らずに厚くしてある。
| レビュー | 回数 | 見つかったもの |
|---|---|---|
| 高校生(予備知識ゼロ) | 6回 | 専門用語の未説明・表の連続・結論が一言で無い。第5章だけが面白いと全員が回答 |
| デザイン(実ブラウザ目視) | 2回 | ★390pxで構成図2枚が切れて意味不明。第1章が画面8.4個ぶんの長さ。機械検証は全部PASSしていた |
| Codex クロスレビュー | 3回 | 重大8件(うち自己矛盾3件)・中14件・軽微6件。母集団のすり替えと因果の断定が中心 |
Codexが見つけた自己矛盾で最大のものは、「差は率でも金額でもなく余白だ」と書きながら、同じ画面の表で増加額を17,979円・20,668円・31,945円と違う額で出していたことである。率も額も違うのに「率でも額でもない」と書けば矛盾する。「苦しさは率と増加額だけでは決まらない」に直した。
次に大きかったのは母集団のすり替えで、東京の684万円を「正社員の平均」と書いていた。実際の母集団は「事業所規模5人以上の一般労働者(短時間労働者を除く)」であって、正社員に限った数字ではない。
下は章立てそのものをCodexの指摘で組み替えた6点である。
| Codexの指摘 | どう直したか |
|---|---|
| 採用と離職が抜けている。給料は生活保障の額であると同時に、人を確保する価格である | 第7章を独立させた。一般事務0.37倍と保安13.82倍の37倍差が、一律◯%が効かない理由になった |
| 会社がいくらまで恒久的に払えるかが無い。基本給1万円増は法定福利費・残業単価・賞与に波及する | 第8章を独立させた |
| 一律◯%で決めるな。表の行は社員群にしろ | 第1章の決定表の行を、業種×年齢の10セグメントに変えた |
| 「苦しいか否か」の二択にするな。購買力・家計余力・相場遅れは別の判定である | 第2章を3つの判定に分けた |
| 「あなたの物価」と断言するな。家計調査の平均ウェイトは個人の物価ではない | 「この世帯類型の参考指数」と呼ぶことにした |
| CPIでは「コンビニという業態が高い」ことは示せない | 見出しと本文を「高いと感じる理由」の範囲に留めた |
📎 採らなかった指摘が1つある
Codexは「経営判断の記事と、東京の年収を網羅する統計記事は2本に分けるべきだ」と主張した。読者の行動が違うから、という理由である。これは採らなかった。もともとの依頼が「東京で働くみんなの年収」だったからで、代わりに第9章を「比較に使う分だけ」に絞り、産業別・職種別・企業規模別の内訳は折りたたみへ落とした。網羅版が要るなら、それは別の記事として作る。
→ 判断に戻るなら Section 1 の決定表へ。物価の内訳をもう一度見るなら Section 4 へ。