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📡 Wi-Fiが遅い本当の理由と、2026年のルーターの選び方

✍️ 執筆: Claude Opus 5

「何日も繋がらない」の原因はルーターの性能ではなく、自動選択されたチャンネルだった。自宅で採った実測データで原因を特定し¥0で直した記録と、2026年に選定基準が「性能」から「素性(生産国・JC-STAR)」へ移った話(2026年8月8日時点)

🔍 Section 1: その遅さ、買い替えでは直らない

このセクションの3点

① 「何日も繋がらない」の原因は、ルーターの世代でも接続台数でもなく、ルーターが自動で選んだ5GHzのチャンネルだった。実測で5GHzの信号強度は0%だった

② 2.4GHzは、アクセスポイント2台とゲストSSIDの合計3つが全部同じチャンネルに乗り、自分同士で潰し合っていた

③ 結果としてWi-Fi 7ルーターに買い替えて直ったが、直した本体は「Wi-Fi 7だから」ではなく「チャンネルがまともになったから」である可能性が高い。同じことは設定変更だけで¥0でもできた

自宅のWi-Fiが数日にわたって繋がらなくなった。スマートフォンは電波のアイコンが立っているのに、何も読み込まない。よくある結論は「機器が古いから」「接続台数が多いから」で、実際そのつもりで新しいルーターを買った。

だが買い替えの直前に、当時の環境をコマンドで実測して記録していた。その記録を後から読み直したところ、買い替えとは無関係に説明のつく原因が2つ残っていた。この記事はその記録である。

先に結論の表を出す。以降のセクションは、この表の各行がなぜそうなるのかを埋めていく構成になっている。

実測でわかった3つの原因と、その直し方

症状実際の原因実測値直し方費用
5GHzが何日も繋がらない自動選択で5GHzがDFS帯(ch100番台)に乗っていたch108 / 信号強度 0%5GHzをch36・40・44・48のいずれかに手動固定する¥0
全体的にもっさりするAP2台とゲストSSIDが全部同じチャンネルに乗り、自己干渉していた3つのBSSIDが全部ch102.4GHzを1台目ch1・2台目ch11に分離。使っていないゲストSSIDは切る¥0
遠い部屋で切れる・読み込まないAP1台構成かつ、設置場所が家の端(回線の引き込み口の横)RSSI -76dBm / 受信レート 288Mbps設置場所を家の中心・高い位置へ。届かなければ2台目を有線APで足す¥0〜1,100

RSSI(受信信号強度)の目安:-65dBmより上なら快適、-70dBm台は弱い部類、-80dBmを下回ると実用に耐えない。実測の-76dBmは「繋がってはいるが快適ではない」領域にあたる。

この記事の前半(Section 2〜3)は、この表の1行目と2行目——お金をかけずに直せた部分——を実測データで説明する。

後半(Section 4〜7)は別の話をする。2026年、日本の家庭用ルーター選びにはこれまで存在しなかった判断軸が入った。性能でもメーカーの知名度でもなく、「その製品がどこで作られ、どんなセキュリティ基準に適合しているか」である。買い替えが本当に必要になったとき、何を見て選ぶのかを扱う。

📎 この記事の実測データについて

本文中の数値は、すべて2026年7月29日に自宅で実際にコマンド(Windowsのnetsh wlan show networks mode=bssid)を実行して採取したものである。推測値・カタログ値は使っていない。

ただしSSID名とMACアドレスは匿名化しているelecom-XXXXXX04:ab:18:XX:XX:XX のように伏せ字にしてあるが、チャンネル・信号強度・規格などの技術的な数値は一切加工していない。

→ Section 2 では、この2つの原因が具体的に何だったのかを、生の実測データで見ていく

📡 Section 2: 実測が示した2つの原因

このセクションの3点

① 原因その1はDFS。5GHzのch100番台は気象・航空レーダーと周波数を共用しており、法律で「レーダーを検知したら即座に停波して逃げる」動作が義務づけられている。実測では自宅の5GHzがch108に乗り、信号強度0%だった

② 原因その2はチャンネルの重複。AP2台とゲストSSIDの3つが全部2.4GHzのch10に乗り、互いに順番待ちをして実効速度を落としていた

③ 5GHzがDFSで停まっている間、逃げ場であるはずの2.4GHzもこの状態だった。両方が同時に成立していたため「繋がっているのに何も読み込まない」になる

ch108

旧環境の5GHzチャンネル(DFS帯)

0%

5GHz信号強度(PC設置位置)

3

2.4GHzのch10に重なっていたBSSID数

802.11ac

旧環境の規格(Wi-Fi 5)

原因その1 — 5GHzが「DFS帯」に乗っていた

実測で記録されていたのは次の値である。SSID名は伏せてあるが、数値はそのままだ。

SSID: elecom-XXXXXX / BSSID: 04:ab:18:XX:XX:XX / Signal: 0% / Radio type: 802.11ac / Band: 5 GHz / Channel: 108

問題は最後のChannel 108である。5GHz帯は日本国内で3つのグループに分かれており、ch100番台はW56と呼ばれる区分に属する。ここは気象レーダーや航空レーダーと周波数を共用している

そのため、この帯域を使う無線機器にはDFS(Dynamic Frequency Selection=動的周波数選択)という動作が法律で義務づけられている。レーダーの邪魔をしないための仕組みで、具体的には次のように振る舞う。

起きることルーターの動作利用者から見た症状
電源を入れた直後60秒間レーダーの有無を監視する(CAC)。この間は電波を一切出さない起動しても1分以上Wi-Fiが見えない
使用中にレーダーらしき電波を検知即座に停波し、別のチャンネルへ強制退避する通信中に突然切れる
退避先もDFS帯だったそこでも再び60秒の監視に入る。その間また無電波切れたまま戻らない。これが繰り返される
W52(ch36/40/44/48)を使うDFS対象外。レーダーによる停波は原理的に起きない安定する。ただし屋内利用限定

レーダーは空港や気象台のものだけではない。自動ドアのセンサー、他家のDFS機器など、レーダーに似た信号源でも誤検知は起きる。近くにそうした信号源があると、停波と再監視が延々と繰り返される。症状はまさに「何日もずっと繋がらない」になる。

原因その2 — 2.4GHzが3つとも同じチャンネルだった

同じスキャンで、2.4GHz側にも問題が記録されていた。

04:ab:18:XX:XX:0c → 2.4GHz ch10(AP 1台目)
04:ab:18:XX:XX:c1 → 2.4GHz ch10(AP 2台目)
06:ab:18:XX:XX:c1 → 2.4GHz ch10(ゲストSSID)

3つのBSSIDが全部ch10に乗っていた。Wi-Fiは同じチャンネル上では「誰かが喋っている間は黙って待つ」という方式(CSMA/CA)で衝突を避けている。裏を返すと、同じチャンネルに複数のAPがいると、それぞれが互いの順番待ちをする

電波が強いか弱いかの問題ではない。強くても、待たされる。2台のAPが自分同士で待ち合っていたので、実効速度は半分以下に落ちる。しかもゲストSSIDは使っていなかったのに、ビーコンだけは同じチャンネル上に出続けていた。

🚫 なぜ「自動」に任せると、こうなるのか

・ルーターのチャンネル設定は、ほとんどの機種で初期値が「自動」になっている

・自動選択は「今この瞬間に空いているチャンネル」を選ぶ。DFS帯は他社が避けるため空いて見えることが多く、結果としてDFS帯が選ばれやすい

・一度DFS帯を掴むと、レーダー検知のたびに停波するが、利用者にはその理由が一切表示されない。「原因不明で繋がらない」として体験される

・2台目のAPも同じアルゴリズムで「空いているチャンネル」を探すため、1台目と同じ判断に至って重なることがある

→ Section 3 では、この2つを実際に¥0で直す手順を、確認コマンドつきで示す

🔧 Section 3: ¥0で直す手順

このセクションの3点

① まず現状を測る。Windowsなら netsh wlan show networks mode=bssid の1コマンドで、自宅の全SSIDのチャンネル・信号強度・規格が出る。測らずに機器を買うのが一番もったいない

② 直すのは3点。5GHzをW52(ch36/40/44/48)に手動固定する、2.4GHzを1台目ch1・2台目ch11に分離する、使っていないゲストSSIDを切る。いずれも管理画面から数分で終わる

③ チャンネルを「自動」に戻すと再発する。自動選択は数か月後に再びDFS帯へ移動しうるため、手動固定こそが再発防止そのものである

ステップ1 — 測る(機器を買う前に必ず)

Windowsのコマンドプロンプトかターミナルで、次の1行を実行する。Wi-Fiアダプタが有効であれば、接続していなくても周囲のSSIDをすべて拾える。

netsh wlan show networks mode=bssid

出力にはSSIDごとにBSSID・Signal(信号強度%)・Radio type(規格)・Band(周波数帯)・Channelが並ぶ。見るべきは次の3点だけである。

見る項目危険な値意味
5GHzのChannelch52〜64、ch100〜144DFS帯。レーダー検知で停波する。これが「原因不明で切れる」の正体になりうる
同じChannelの重複自宅の複数BSSIDが同じ番号AP同士が順番待ちをして実効速度が落ちる。ゲストSSIDも1台分として数える
Signal(信号強度)30%未満設置場所の問題。機器を替えても同じ場所なら改善しない

macOSやスマートフォンでも同等の確認はできるが、チャンネル番号まで一覧で出せる点でこのコマンドが最も早い。実行してもネットワークの設定は一切変わらない(読み取りのみ)。

ステップ2 — 直す(管理画面で3点)

📶

5GHzをW52に手動固定

ch36 / 40 / 44 / 48 のいずれか

「自動」をやめ、W52帯の番号を直接指定する。W52はDFS対象外なので、レーダーによる停波が原理的に起きない。屋内利用限定という制約があるが、家庭内なら問題にならない。ここが最も効く。
🔀

2.4GHzを分離

1台目ch1 / 2台目ch11

2.4GHzで電波が重ならない組み合わせは ch1・ch6・ch11 の3つしかない。AP2台なら ch1 と ch11 のように、間を最大に空けて手動指定する。ここも「自動」のままにしない。
🚪

使わないゲストSSIDを切る

同じ電波を消費している

ゲストSSIDは独立した電波ではなく、同じ無線機から同じチャンネルで追加のビーコンを出している。使っていないなら、切るだけで同一チャンネル上の混雑が1つ減る。

ステップ3 — 届かない部屋がある場合(ここも¥0から)

  1. 1

    ① ¥0

    ルーターの設置場所を変える

    光回線の引き込み口は家の端や壁際にあることが多く、その真横はWi-Fiの置き場所として最も不利になる。高い位置・家の中心・床から1m以上・金属や水槽から離す。実測のRSSI -76dBmは、この配置で説明がつく数値だった。
  2. 2

    ② ¥0

    手持ちの2台目を「有線」APとして足す

    余っているルーターがあるなら、LANケーブルで繋いでAPモード(ブリッジ)にする。電波の出所が2箇所になる。無線中継と違い速度が半分にならないのが決定的な差である。
  3. 3

    ③ ¥450〜1,100

    LANケーブルを買って移設する

    ルーターだけを良い場所へ引っ張り出す。高性能な機器を買うより、この数百円のほうが効くことが多い。カテゴリはCAT6Aで十分で、CAT7・CAT8の表記は家庭用回線では意味を持たない。

🚫 無線の中継器を安易に足さない

・無線中継器は「受けて送り直す」ため、その先の実効速度が半分になる

・Wi-Fi 6の中継器を挟むと、そこから先だけ規格が古い方に引きずられる

・そして中継器を足すと、同じチャンネル上のBSSIDが1つ増える。Section 2で見た「自己干渉」を、お金を払って増やすことになりかねない

・2台目が必要なら、まず有線APを試す。ケーブルが引けるなら中継器より速く、確実で、安い

📎 一番の再発防止は「自動に戻さない」こと

チャンネルを直しても、設定を「自動」に戻せば意味がない。自動選択は数か月後に再びDFS帯へ移動しうる。実際、新しいルーターに替えた後も2.4GHzのチャンネルは自動選択によって勝手に移動していた(ch5からch3へ)。

直したあとに一度だけ、同じコマンドで設定が意図どおり反映されているかを確認する。ここまでやって初めて「直した」と言える。

→ Section 4 からは、それでも買い替えが必要になったときの話に移る。2026年、選定基準そのものが変わった

🏭 Section 4: 2026年の選び方 — 基準が「性能」から「素性」へ

このセクションの3点

① 「日本メーカー」と「日本製」は別物である。バッファローは公式に、生産を台湾・中国の工場に委託していると明記している。企画・設計・品質管理が日本でも、製造は海外というのが家庭用ルーターの標準的な形

② 生産国を公式に確認できるWi-Fi 7ルーターは、調べた範囲では NEC Aterm 19000T12BE のみだった。パッケージにMade in JAPANのロゴがあり、静岡県の掛川事業所で生産されている

③ ただしその機種は実売約9.8万円で、10Gbps対応。回線側が1Gbpsで頭打ちなら性能を使い切れない。「生産国」を買うのか「性能」を買うのかを分けて考える必要がある

ここまでは設定の話だった。ここからは、買い替えが本当に必要になったときの話をする。

2026年、家庭用ルーターの選び方には従来なかった判断軸が加わった。速度や規格ではなく、「その製品はどこで作られ、どのセキュリティ基準に適合しているか」という軸である。背景には、ネットワーク機器が乗っ取られて攻撃の踏み台にされる事例が続いたことと、行政の調達基準が動き出したことがある。

この軸で選ぼうとすると、最初にほとんどの人が引っかかる落とし穴がある。

「日本メーカー」と「日本製」は、まったく別のことを指している。前者は企業の国籍、後者は工場の場所である。家庭用ルーターでは、この2つが一致しないほうが普通である。

主要Wi-Fi 7ルーターの生産国とセキュリティ認証

機種実売価格メーカーの国生産国JC-STAR
NEC Aterm 19000T12BE¥97,878日本日本(掛川事業所/パッケージにMade in JAPANロゴ)★1
NEC Aterm 7200D8BE¥33,700〜48,928日本公式の明記なし(未確認)★1
BUFFALO WSR6500BE6P¥21,980〜28,980日本海外委託(公式に台湾・中国の工場と明記)★1
BUFFALO WSR3600BE4P¥13,100〜13,480日本海外委託(同上)★1

📎 出典と、あえて空欄にした部分について

生産国の欄はメーカーの公式情報のみを根拠にしている。バッファローは自社サイトの生産体制のページで、国内協力工場と台湾・中国の工場を併用していることを説明している。NEC Aterm 19000T12BE の掛川生産とMade in JAPANロゴは、取材記事で実機のパッケージが確認されている。

Aterm 7200D8BE については、掲示板に「本体ラベルがMade in Chinaと読める」という個人の目撃報告があるが、これは一次情報ではないため、この表では「未確認」とした。生産国が判断基準になる場合は、店頭で実機の箱の原産国表示を見るのが唯一確実な方法である。

実売価格は2026年8月8日時点の通販調べ。価格は変動する。

高い機種を買っても速くならない場合がある

生産国を優先すると価格が跳ね上がる。ここで冷静に見ておくべきなのが「その性能は自宅の回線で使えるのか」である。

光回線の終端装置(ONU一体型のホームゲートウェイなど)が1Gbps対応である場合、その先に何を繋いでも実効速度は900Mbps前後で頭打ちになる。10GbpsのWANポートを持つ機種を買っても、その差は宅内の機器同士の通信でしか現れない。

カタログの売り文句本当に効く条件効かない場合
10Gbps WAN対応契約回線そのものが10Gbps回線が1Gbpsなら、その差は一切出ない
6GHz帯・320MHz幅対応子機(スマホ・PC)も6GHz対応6GHzは届く距離が短い。壁を越える用途では不利にもなる
MLO(複数帯域の同時接続)子機側もWi-Fi 7対応子機がWi-Fi 6・6Eなら使われない
Wi-Fi 7だから遠くまで届く——送信出力は電波法で上限が決まっており、規格では距離は伸びない

🚫 規格の世代交代で「距離」は伸びない

・電波の届く距離を決めるのは、周波数・送信出力・アンテナ性能の3つである

・このうち送信出力は電波法で上限が決まっており、どのメーカーの新製品でも超えられない

・周波数は世代が新しいほど高い帯域を使うため、むしろ届きにくくなる方向に働く

・広い帯域幅(160MHz・320MHz)を使うと電力が薄く分散するので、遠距離ではかえって不利になることがある

・距離の問題は、規格ではなく設置場所とAPの台数で解決する。Section 3のステップ3が答えになる

→ Section 5 では、表のいちばん右の列にあった「JC-STAR」が何なのかを説明する

Section 5: JC-STAR とは何か

このセクションの3点

① JC-STARは、IoT機器のセキュリティを星の数で示す国の制度。正式名称は「セキュリティ要件適合評価及びラベリング制度」で、IPA(情報処理推進機構)が運営し、2025年3月に運用が始まった

② ★1と★2はメーカーの自己適合宣言、★3と★4は第三者評価機関の報告に基づきIPAが認証する。この「誰が確認したか」の差が、星の数の本質である

③ 家庭用ルーターに付いているのは、現状ほぼすべて★1。★1は「初期パスワードの無効化」「セキュリティ更新の提供」など全製品共通の最低限16項目を、メーカー自身が満たしていると宣言したものである

ルーターやネットワークカメラには、他の家電にはない特徴がある。買ったあと誰も管理しないことだ。初期パスワードのまま、ファームウェアも更新されないまま、何年も動き続ける。そこを乗っ取られて攻撃の踏み台にされる事例が続いた。

そこで、「この製品は最低限のセキュリティ要件を満たしている」を箱の外から見える形にしたのがJC-STARである。経済産業省が2024年8月に示した方針に基づいて構築され、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が運営している。

ラベルには二次元バーコードが付いており、読み取ると製品の詳細・適合評価の内容・セキュリティ情報・問い合わせ先が確認できる。調達する側や消費者が、買う前に素性を照会できるようにする設計である。

★の数がすべて — 「誰が確認したか」の違い

レベル誰が確認したか評価方法想定される対象
★1メーカー自身ベンダーによる自己適合宣言全製品共通の最低限の要件。初期パスワードの無効化、容易な手段でのセキュリティ更新の提供など16項目
★2メーカー自身ベンダーによる自己適合宣言製品類型ごとの基本的な要件
★3独立した第三者評価機関第三者の評価報告書に基づきIPAが認証政府機関・重要インフラ事業者・地方公共団体・大企業の重要システムで使うIoT製品
★4独立した第三者評価機関第三者評価政府機関・重要インフラ向けの高度な要件

たとえるなら、★1・★2は食品パッケージの「自社基準クリア」表示で、メーカーが自分で書いたもの。★3・★4は「第三者機関 検査済み」の認証マークで、外部が実際に検査したものにあたる。同じラベル制度の中に、性質の違う2種類が同居している。

なぜこの制度が「買い物の基準」になりつつあるのか

この制度が家庭用ルーターの選び方にまで影響し始めたのは、行政の調達が動いたからである。

報道によれば、自治体が業務で使うパソコン・通信機器・サーバー・クラウドサービスについて、JC-STARなどの認定を受けた製品のみを調達可能とする方向で省令改正が進んでおり、2027年夏の運用開始が目標とされている。情報漏えいや、国外からのサイバー攻撃の踏み台として利用される懸念が理由として挙げられている。

行政の調達基準は、そのまま民間の社内規程に流用されることが多い。「うちもこれに合わせておこう」という形で広がるため、家庭用の製品でもラベル取得を発表するメーカーが増えている。

2025年3月

JC-STAR 運用開始

★1〜★4

4段階(★1・★2は自己宣言)

16項目

★1の最低限セキュリティ要件

2027年夏

自治体調達での運用開始目標

📎 家庭用ルーターのラベル取得状況

Wi-Fi 7対応の家庭用ルーターでは、NEC Aterm 19000T12BE、バッファロー WSR3600BE4Pシリーズ、同 WSR6500BE6Pシリーズ などが★1の適合ラベルを取得したと各社から発表されている。バッファローは法人向け製品を中心に、2025年6月時点で計79型番が★1に対応しているとしている。

つまり★1は「取れている製品のほうが多い」段階に入りつつある。差がつく指標ではなくなってきており、これが次のSectionの論点になる。

→ Section 6 では、★1のラベルが「何を保証していないか」を見る。ここを誤解すると判断を間違える

⚠️ Section 6: ★1で分からないこと

このセクションの3点

① ★1が評価しているのは製品の機能要件である。初期パスワードを無効化しているか、更新を提供しているかといった項目で、メーカー自身が宣言する形をとる

② 対して、製造工程で何が仕込まれうるかというサプライチェーンの問題は、★1の評価対象に含まれていない。ラベルの有無は生産国を語らない

③ 生産国が判断基準になる場合、★1のラベルは代わりにならない。確実なのは実機のパッケージにある原産国表示を見ることだけである

ここは誤解しやすく、そして判断を左右する。

Section 4の表で、4機種すべてに★1が付いていた。これを「どれも同じ安全性」と読むと間違える。★1が答えている問いと、答えていない問いを分けて見る必要がある。

★1が答えている問い / 答えていない問い

懸念★1で確認できるか理由
初期パスワードのまま放置される確認できる初期パスワードの無効化は★1の要件に含まれる
脆弱性が見つかっても更新されない確認できる容易な手段でのセキュリティ更新提供が★1の要件に含まれる
問題が起きたとき連絡先が分からない確認できるラベルの二次元バーコードから問い合わせ先を照会できる
製造工程で不正な機能が組み込まれる確認できないサプライチェーンや生産国は★1の評価対象外。そもそも評価している軸が違う
第三者による実機の検査を経ているか確認できない★1と★2はメーカーの自己適合宣言。第三者評価は★3以上

🚫 ★1を「免罪符」として使わない

・★1は「メーカーが自分で満たしていると宣言した」ものであり、外部機関が実機を検査した結果ではない

・したがって「★1だから生産国は気にしなくていい」という推論は成立しない。評価している対象がそもそも違う

・逆に、★1が無いことは減点材料になる。最低限の要件を宣言すらしていない製品ということになる

・正しい扱いは「あれば加点、無ければ減点」。判断の決め手にはならない

では、生産国が基準のとき何を見るのか

家庭用ルーターで★3(第三者認証)を取得している製品は、現状ほぼ存在しない。★3は政府機関・重要インフラ・自治体・大企業の重要システム向けの水準として設計されており、家庭向け価格帯の製品がそこに乗ってくる段階にはまだない。

そのため、生産国そのものを基準にするなら、確認方法は実機のパッケージを見ることに尽きる。原産国表示は法令上どの製品にも記載されている。

📦

箱の原産国表示

MADE IN ○○

最も確実。通販では確認できないことが多いため、生産国が判断基準になるなら店頭で実物を見るのが早い。メーカーの公式サイトに機種ごとの生産国が載っていることは少ない。
🏷️

本体底面・背面のラベル

箱を開けたあとでも確認可能

技術基準適合マークと並んで原産国が記載されている。すでに持っている機器の生産国を確かめたい場合はここを見る。
🇯🇵

パッケージのMade in JAPANロゴ

国内生産を明示している場合

国内生産を訴求している機種は、パッケージに明示していることがある。ただし同じメーカーでも機種によって生産地は異なるため、ブランドではなく機種単位で確認する必要がある。

📎 制度は「機能」を見て、生産国は「素性」を見ている

JC-STARは、放置されるIoT機器を減らすための制度として非常に理にかなっている。初期パスワードと更新提供という、実際に事故が起きている2点を最低ラインに据えているからだ。

ただしそれは「製品がどう動くか」を見る制度であって、「製品がどこで誰に作られたか」を見る制度ではない。2つは別の軸であり、片方でもう片方を代替できない。買う側は、自分がどちらを気にしているのかを先に決めておく必要がある。

→ Section 7 で、ここまでを店頭で使えるチェックリストにまとめる

Section 7: 買う前チェックリスト

このセクションの3点

① 買う前に測る。5GHzがDFS帯に乗っていないか、同じチャンネルが重複していないかを1コマンドで確認する。ここで直れば買い物は不要になる

② 買うと決めたら、店頭で見るのは3点だけ。原産国表示、動作モード(AP/ブリッジ)への切替手段、そしてブラウザで設定できるか

③ 回線が1Gbpsで頭打ちなら、10Gbps対応や6GHz対応に払う金額は体感に変わらない。同じ予算なら、2台目のAPを足すほうが確実に効く

ステップA — 買う前に必ずやること

#やること判断
1netsh wlan show networks mode=bssid で現状を測る5GHzがch52〜64・ch100〜144なら、それが不調の原因かもしれない
25GHzをch36・40・44・48のいずれかに手動固定するこれで直るなら買い物は不要。¥0で終わる
3自宅のBSSIDが同じチャンネルに重なっていないか確認する重なっていればch1とch11に分離。ゲストSSIDは使っていなければ切る
4それでも遠い部屋が届かないか確認する設置場所の変更を先に試す。機器の性能ではなく配置の問題であることが多い

ステップB — 店頭で見る3点

📦

① 箱の原産国表示

MADE IN ○○

生産国が判断基準になるなら、ここが唯一確実な確認方法になる。メーカーの国籍と生産国は一致しないことのほうが多い。ブランドではなく機種単位で見る。
🔀

② AP/ブリッジへの切替手段

物理スイッチか設定画面か

光回線のホームゲートウェイがすでにルーターとして動いている環境では、新しい機器はAPモードで使う。物理スイッチがある機種は切替が確実で、トラブル時の切り分けも楽になる。
🖥️

③ ブラウザで設定できるか

スマホアプリ必須でないか

アプリ必須の機種は、チャンネルの手動固定など細かい設定に手が届かないことがある。ブラウザの管理画面があれば、この記事の手順をすべて自分で実行できる。

ステップC — 払わなくていいものを見分ける

売り文句払う価値がある条件該当しないなら
10Gbps WAN対応契約回線そのものが10Gbps実効速度は1Gbpsで頭打ち。差は出ない
6GHz帯対応子機も6GHz対応で、同じ部屋で使う6GHzは壁に弱い。遠い部屋には届きにくい
MLO対応スマホ・PC側もWi-Fi 7子機がWi-Fi 6・6Eなら機能しない
メッシュ2台セット2台目にLANケーブルを引けないケーブルが引けるなら有線APのほうが速く、安い
高出力アンテナで広範囲——送信出力は電波法で上限が決まっている。設置場所のほうが効く

📎 この記事の結論

自宅のWi-Fiが遅かった原因は、機器の世代でも接続台数でもなく、ルーターが自動で選んだチャンネルだった。5GHzはDFS帯で停波を繰り返し、2.4GHzは3つのBSSIDが同じチャンネルで潰し合っていた。買い替えで直りはしたが、設定変更だけでも同じ結果になっていた可能性が高い

そして2026年、買い替えが必要になったときの判断軸は増えた。性能だけでなく、生産国とセキュリティ認証という「素性」を見る時代に入っている。ただしJC-STARの★1は機能要件の自己宣言であり、生産国を保証するものではない。2つは別の軸として扱うのが正しい読み方になる。

順番としては、こうなる。まず測る。次に設定で直す。それでも足りないときに初めて買う。買うときは、性能ではなく素性と設置場所で選ぶ。

出典:JC-STARの制度概要はIPA公式(セキュリティ要件適合評価及びラベリング制度)、生産体制は各メーカーの公式情報、自治体調達の動きは日本経済新聞の報道、各機種のJC-STAR取得は各社のプレスリリースによる。実測値はすべて自宅環境で採取したもので、SSID名とMACアドレスのみ匿名化している。

→ まずは1コマンド。netsh wlan show networks mode=bssid を実行して、自宅の5GHzが何番のチャンネルに乗っているかを見るところから始まる