プロの思考模写
初めてのフリーランス 月50〜80万円まで
素人は会社を辞めてから営業する。プロは在職中にパイプライン・税務・保険・契約書・単価・ポートフォリオ・屋号・口座・会計まで頭の中で全て組み立ててから動く。その思考過程を完全模写する。
思考模写シリーズ|更新: 2026-04-24
目次
01 今日のゴール
最終アウトプット
1年以内に月50〜80万円の安定収入 + 3クライアント分散
単発バイトではなく、リピート・月額契約・複数社分散による持続可能な収益構造を設計する。
フェーズ1(Month -6〜-1)
在職中の仕込み
スキル棚卸し・副業小案件・ポートフォリオ・税務準備・貯金6ヶ月分
フェーズ2(Month 0〜3)
独立と初期検証
開業届・健保切替・LP公開・初期案件獲得・単価検証
フェーズ3(Month 4〜12)
安定化と拡張
単価交渉・リピート化・月額契約・プロダクト化の種まき
この記事の読み方
あなたが読み終わった後、プロのフリーランサーと同じ「思考の順序」で行動できるようになることがゴールです。「何をするか」ではなく「なぜその順序でするか」が全ステップに紐づいています。月50〜80万円という数字は届かない夢ではなく、設計の問題です。
02 素人 vs プロの思考差
素人とプロの差は「スキルの量」ではありません。「思考の構造」の違いです。プロは退職前にほぼ全ての設計を終わらせます。
| 場面 | 素人の考え方 | プロの考え方 |
|---|---|---|
| スタート | 会社を辞めてから何をするか考える | 退職6ヶ月前からパイプラインを作り始める |
| 単価設定 | 「安くしないと仕事が来ない」と思い込む | 市場相場とBATNA(代替案の強さ)で単価を決める |
| 税務・会計 | 3月になって確定申告でパニックする | 開業前に青色申告・会計ソフト・口座分離を設定する |
| 保険・年金 | 退職後に請求書が届いて金額に驚く | 在職中に国民健康保険の試算と小規模共済の枠を計算する |
| 契約 | 口頭合意で始めてトラブル後に後悔する | 初回案件前に業務委託・NDA・損害賠償上限を準備する |
| 集客 | 退職後にクラウドソーシングに登録し始める | 在職中にLP・GitHub・紹介網を仕込み退職日に公開する |
| 収益構造 | 案件を1件ずつ取りに行き続ける | 時間売り→プロジェクト→月額→プロダクトへ段階移行を設計する |
思考の差の本質
素人は「独立してから準備する」。プロは「準備が完了してから独立する」。プロにとって退職日はゴールではなく、仕込みが完了した後の「公開日」にすぎない。準備と実行の順序を逆にしないことが全ての起点となる。
🛠️ Section 3: 在職中の準備 — スキル棚卸しとポートフォリオ(材料①)
- 1
スキル棚卸し5軸
「自分が何を売れるか」を5軸で棚卸しする
技術スキル・業界知識・実績数字・人脈紹介網・速度量産力の5軸で評価する。会社で当たり前にやっていたことが外部市場では高値がつく。感情を抜いた冷静な棚卸しで「売れるもの」を3つ以内に絞る。
- 2
LP / 個人サイト
「何ができる人か」を5秒で伝えるセールスページを作る
「こんな課題を持つ人に向けて、こんな成果を出せる」という構造で書く。自己紹介ページではなくセールスページとして設計する。退職日に公開できる状態まで仕上げておく。
- 3
GitHub / 実績サンプル
「証拠」を用意して単価交渉力を担保する
コードが見せられる場合はGitHubに整理済みリポジトリを公開。コード非公開の案件はbefore/after・数字・スクリーンショットでまとめる。「証拠」があるとない場合では単価交渉力が大きく変わる。
- 4
推薦・実績コメント
在職中から「退職後にコメントをもらえますか」と打診しておく
元上司・同僚・クライアントからの一言推薦。「第三者の評価」は自己申告の何倍もの説得力を持つ。ポートフォリオに掲載できる推薦文を在職中に集めておく。
- 5
在職中に副業で証拠を作る
副業規定を確認した上で1〜2案件を小さく実施する
「自分の長所が最大化される市場はどこか?」を問う。技術力が武器なら同業界より異業界のDX案件の方が高単価になりやすい。弱点を埋めるより長所が希少価値になる土俵を選ぶことが最速の戦略。退職後に作ろうとすると収入ゼロの期間が伸びる。
📋 Section 4: 税・保険・会計の設計(材料②)
- 1
開業届(税務署)
退職後1ヶ月以内に税務署へ提出する
e-Taxでも可。提出しなくても罰則はないが、青色申告の前提条件となるため必須。屋号を決めておくと事業用口座の開設がスムーズになる。根拠: 所得税法第229条。
- 2
青色申告承認申請書
電子申告で最大65万円の特別控除を取る
開業から2ヶ月以内(または確定申告期限の3月15日まで)に提出。年収600万円換算で所得税+住民税の節税効果は約13〜20万円。電子申告で65万円、書面申告で55万円(2022年以降)。
- 3
国民健康保険(国保)
在職中に試算ツールで計算し、任意継続と比較する
退職翌日から14日以内に手続き。年収500万円の場合、国保は年間60〜80万円になる場合がある(前年所得×自治体の料率)。「任意継続」(退職後2年間、旧会社の保険料の2倍上限)との比較が必須。国保料は自治体によって異なる。
- 4
小規模企業共済
月7万円・年84万円の全額所得控除で退職金を積む
個人事業主・小規模法人役員が加入できる「退職金の代替」制度。廃業・退職時に元本+運用益(1〜3%)が返ってくる。青色65万円と並ぶ最大の節税手段。加入は最寄りの商工会議所または中小機構の窓口。根拠: 所得税法第75条。
- 5
iDeCo(個人型確定拠出年金)
月6.8万円・年81.6万円の掛金全額が所得控除になる
小規模企業共済と合算すると年間165万円超の所得控除が可能。60歳まで引き出せない点に注意。生活費6ヶ月分の手元現金を確保した上で活用する。2024年改正で企業型DCとの併用制限が緩和。
- 6
インボイス制度 + 会計ソフト + 事業用口座
3点セットを開業前に揃えて確定申告地獄を回避する
インボイス未登録だとB to B取引で消費税10%を値引き要求されるリスクがある(消費税法第57条の2)。freee/マネーフォワード(月1,300円)で確定申告が数十時間→数時間になる。事業用口座・クレカを分離し、会計ソフトと連携することで仕訳が自動化される。節税3点フル活用で年収600万円の場合、控除合計230.6万円(青色65万+小規模共済84万+iDeCo81.6万)、節税効果は約92万円。
📝 Section 5: 契約書と見積書(材料③)
- 1
業務委託契約書の必須記載事項
成果物・納期・報酬・損害賠償上限を書面で合意する
業務範囲・成果物の定義・修正回数上限・納期・検収基準・報酬と支払日・源泉徴収の有無・著作権の帰属を明記する。「乙の損害賠償責任は当該業務委託料の範囲内に限る」という損害賠償上限条項が命綱になる。
- 2
NDA(秘密保持契約)
機密情報を扱う案件では必ず締結する
クライアント側が用意することが多いが、こちらから雛形を提示することで「プロらしさ」を演出できる。法務省・弁護士会が公開しているテンプレを加工して使う。初回案件前にテンプレを整備しておくことが重要。
- 3
見積書の設計
有効期限30日を設けて材料費・外注費の変動リスクを遮断する
無期限の見積書は材料費・外注費の変動リスクを自分が引き受けることになる。freee/マネーフォワードの見積書機能を使うとPDF自動生成・送付・入金確認まで一元管理できる。
- 4
請求書の設計
振込期限・源泉徴収額・インボイス番号を明記する
支払いサイト(月末締め翌月払い等)を事前合意しておく。源泉徴収対象(デザイン・ライティング・翻訳等)は源泉税額を差し引いた金額を記載する。インボイス登録済みなら適格請求書として登録番号の記載が義務。
- 5
契約書の本質的な意味
問題が起きた時に解決できる設計書として持つ
「契約書があれば問題を防げる」のではなく「問題が起きた時に解決できる」が正確な認識。プロが契約書を重視するのは、「言った言わない」になった時のコストを知っているから。1件の無契約トラブルで数ヶ月分の収益と時間が消える。
📅 Section 6: プロの6ヶ月タイムライン
- 1
Month -6〜-3(在職中 前半)
スキル棚卸しと副業テスト
スキル棚卸し表を完成させ「売れるもの」を3つ以内に絞る。副業規定を確認し許可の範囲内で小案件(5〜10万円)を1〜2件受注。ポートフォリオの骨格を作る(LP草稿・実績整理)。生活費6ヶ月分(月30万円なら180万円)の貯金目標を設定し、退職後の収入・支出シミュレーションを試算する。
- 2
Month -2〜-1(在職中 後半)
法務・会計・人脈の仕込み
業務委託契約書・NDA・見積書・請求書テンプレを整備。会計ソフト(freee/マネーフォワード)を設定。事業用銀行口座・クレカを申込(在職中の方が審査通過しやすい)。元同僚・取引先に「独立予定」を打ち明け紹介を依頼。インボイス登録を申請(登録まで約2ヶ月)。退職交渉を開始。
- 3
Month 0(退職・独立)
公開日 — この日以前に全ての「設計」は完了している
開業届・青色申告承認申請書を提出。国民健康保険・国民年金の切替手続き(退職から14日以内)。LP・ポートフォリオを公開しSNSで告知。名刺(物理 or デジタル)を作成・配布開始。小規模企業共済の加入申請。Month 0は「実行開始日」であり「準備開始日」ではない。
- 4
Month 1〜3(初期集客・案件検証)
パイプラインの検証フェーズ
紹介ルート・クラウドソーシング・SNSの3チャネルで集客実験。初期単価は市場相場の0.8〜1.0倍でスタート(安売りしない)。初回案件から契約書を必ず使用。毎月の売上・経費・手取りを会計ソフトで確認。「どのチャネルからどのくらいの確率で受注できるか」を記録し始める。
- 5
Month 4〜6(単価交渉・分散化)
安定化フェーズ — 実績3件で単価1.2〜1.5倍に引き上げ交渉
1社への依存が70%超なら意識的に2〜3社目を開拓。「継続してほしい」という依頼が来たらリテイナー(月額固定)への転換を提案。低単価・高ストレス案件の自然な整理を始める。
- 6
Month 7〜12(月額化・プロダクト化)
スケール設計フェーズ — ゴール到達: 月50〜80万円安定 + 3クライアント分散
3社以上のリテイナー契約で月収の土台を固める。繰り返し作業が多い部分をテンプレ・ツール・SaaSの種として切り出す。マイクロ法人化の損益分岐点を税理士に相談(年収1,000万円超が目安)。第2・第3の収入源(プロダクト販売・コンサル・講座)の設計を始める。
07 エッジ集 — 市場単価・BATNA・80/20・控除の仕組み
プロが使いこなす「再現可能な原理」です。これらの概念を名前付きで理解することが、素人とプロの思考速度の差を生みます。
- 1
市場単価
需給による市場単価(なぜスキルが値段を持つか)
スキルの値段は「難しさ」ではなく「需要÷供給」で決まる。希少性の高いスキル(例: 特定業界×AIエンジニア)は、単純な難しさより希少な掛け合わせが単価を決める。市場相場を調べる手段: クラウドワークス・ランサーズの案件一覧、求人サイト(Indeed・Wantedly)のフリーランス案件、Midworksなどのエージェントへの聞き込み。
- 2
BATNA
BATNA(Best Alternative to a Negotiated Agreement)
交渉決裂時の最良の代替案の質が現在の交渉力を決めるという概念。「断れない人」は安い単価を飲み込む。他に案件がある状態で交渉すると単価が上がる。生活費6ヶ月分の貯金は、単価交渉の「断れる権利」を買うための投資でもある。複数案件のパイプラインを常に持つことがBATNAを強化する唯一の方法。
- 3
80/20
80/20の法則(パレートの法則)
売上の80%は20%のクライアントから生まれる。つまり上位2〜3社が全収益のほとんどを担う。残り80%の小口クライアントに使う時間は、上位顧客との関係深化に使うべき時間を食っている。定期的に「このクライアントは上位20%か?」を問い直し、低収益・高コストの案件を断る勇気がプロの管理術。
- 4
時間天井
時間天井(在庫のない商売の物理的限界)
時間を売る商売(時給型・プロジェクト型)には物理的な上限がある。月200時間稼働×時給5,000円=100万円。これが天井。この天井を破るには「時間を売る」から「価値を売る」への転換が必要。プロジェクト単価制→月額リテイナー→プロダクト化の順に「稼働時間から切り離された収益」を積み上げていく設計がマネタイズ5段階(sec9)の本質。
- 5
パイプライン思考
パイプライン思考(受注確度×金額×時期)
プロは「今月の売上」だけでなく「3ヶ月先の受注見込み」を常に持っている。営業中の案件を「受注確度20%×100万円」「確度80%×30万円」のように管理し、期待値で月次収益を予測する。パイプラインが薄い時期に焦って安売りするのではなく、パイプラインが厚い時期に単価を上げる。
- 6
3社分散
3クライアント分散リスク(1社依存=準社畜)
売上の70%超が1社から来ている状態は「フリーランス」ではなく「社会保険のない会社員」と実質的に同じ。そのクライアントが突然仕事を打ち切った時に収入がゼロになる。労働法の保護もない。プロは意識的に最大クライアントへの依存度を40%以下に抑え、3社以上に分散させる。
- 7
青色控除65万
青色申告特別控除65万円(最強の節税の基本)
開業届+青色申告承認申請書を提出し、複式簿記で記帳すると、所得から65万円を丸ごと控除できる。所得税率20%なら13万円の節税。白色申告との差は年10万円以上になることも。freee・マネーフォワードを使えば複式簿記の知識なく記帳可能。開業直後から始めないと1年間の節税機会が丸ごと消える。
- 8
インボイス制度
インボイス制度(適格請求書と消費税の仕組み)
2023年10月から開始。課税事業者(売上1,000万円超 or 任意登録)だけが適格請求書(インボイス)を発行できる。BtoB取引では発注先がインボイス未登録のフリーランスへ消費税相当分(10%)を値引き交渉するケースがある。登録すると消費税の納税義務が発生するが、2割特例(消費税の80%控除)が2026年9月まで適用可能。売上先の属性(法人か個人か)によって登録判断が変わる。
- 9
国保計算
国民健康保険の所得連動(会社員時代との違い)
会社員の健保は「標準報酬月額×保険料率/2」で会社が半分負担する。国保は「前年の総所得×自治体の料率+均等割+世帯割」という全く異なる計算式で、全額自己負担になる。年収500万円の場合、都内で年間60〜80万円になるケースがある。独立初年度は前職の収入が基準になるため特に高額になりやすい。退職翌日から2年間は「任意継続(旧会社の健保を2倍上限で継続)」と比較計算することが重要。
- 10
小規模共済+iDeCo
小規模企業共済+iDeCo(フリーランスの老後設計と節税の二刀流)
小規模企業共済は月7万円まで掛け金が全額所得控除になる「フリーランス版退職金制度」。年84万円の控除で税率20%なら年16.8万円の節税。iDeCoも掛け金全額控除で月6.8万円(国民年金基金と合算)まで積立可能。2つを組み合わせると節税しながら老後資産を積む仕組みが完成する。廃業・退職時に一括受取(退職所得扱い)または年金受取を選べる。
08 素人が陥る罠10選
失敗の原因は才能でも運でもなく、ほぼ全て「設計の失敗」です。プロはこれらを事前に知っているから回避できます。
- 1
無料見積多すぎ
罠1: 無料見積もりが多すぎる
「相見積もりに使うだけ」という顧客に何時間も見積書を作り続ける。見積もり自体に工数が発生している。解決策: 詳細見積もりは「ヒアリング料」として課金するか、小さな有料ディスカバリーセッション(1〜3万円)を先に受注する。
- 2
契約書なし口頭
罠2: 契約書なしで口頭合意
「信頼できる人だから大丈夫」という思い込み。「言った言わない」は必ず起きる。修正無制限・スコープクリープ(仕様の際限ない追加)・未払いの3つが頻発する。書面なしの口頭合意は法的証明が困難。
- 3
親族友人割引泥沼
罠3: 親族・友人割引の泥沼
「知り合いだからタダで」「安くして」に応えると正規クライアントより手間がかかる案件が増える。感情的な断りにくさと低単価が組み合わさって、最も消耗する案件になりがち。プロは親族・友人には「正規料金で引き受けるか断るか」の二択を取る。
- 4
確定申告3月パニック
罠4: 確定申告3月にパニック
1年間レシートを貯め込んで2月末〜3月に徹夜で仕訳。会計ソフトを使わず手作業で計算すると数十時間かかる。正しい経費計上ができず、払いすぎた税金が返ってこない。毎月会計ソフトで記帳する習慣が唯一の解決策。
- 5
国保請求ショック
罠5: 国民健康保険の請求ショック
退職後2〜3ヶ月後に突然、年間60〜80万円の国保料通知が届く。前年(会社員時代)の収入で計算されるため独立初年度が最も高額になる。試算せずに独立すると手持ち資金が急速に減る。在職中に自治体のWebシミュレーターで試算しておくこと。
- 6
消費税還付未申請
罠6: 消費税還付・源泉徴収還付の未申請
源泉徴収された案件(デザイン・ライティング・翻訳等)は確定申告で還付される場合がある。申告しないと払い過ぎたまま。インボイス未登録で消費税相当分を値引き要求された場合も、消費税の選択課税事業者になることで対応できるケースがある。税理士 or 無料の国税庁相談で確認する。
- 7
源泉徴収税還付忘れ
罠7: 優先順位管理なしで徹夜
「全ての案件が最重要」という状態でスケジュール管理を放棄する。納期直前の徹夜は品質を下げ、体調不良でさらに遅延するサイクルになる。プロは週次で稼働時間・案件・締め切りを管理し、新規受注は既存の稼働率を確認してから決める。
- 8
安い仕事継続で機会損失
罠8: 単価が安い仕事を続けて機会損失
1時間2,000円の案件で稼働時間を埋めると、1時間10,000円の案件に対応できなくなる。低単価案件は「継続しているうちに断れなくなる」という心理的罠もある。定期的に全案件の時間単価を計算し、下位20%を整理していく習慣が必要。
- 9
事業用生活用口座混在
罠9: 事業用・生活用口座の混在
同じ口座で生活費と事業費を使うと確定申告時に全取引を手作業で仕分けする羽目になる。経費の証明が困難になり、正当な控除を受けられないリスクもある。開業直後に口座とクレカを分離するだけで、年間数十時間の作業が消える。
- 10
退職後に初めて調べる
罠10: 退職後に初めて税理士・保険を調べる
「退職してからゆっくり調べよう」は最も損をするタイミング。収入ゼロ期間中に複雑な税務・保険知識を吸収しながら営業・案件対応もこなすのは認知的負荷が高すぎる。在職中の「余裕がある時間」に情報収集・試算・申請をする。
09 マネタイズ5段階設計(時間売り→事業化)
フリーランスの収益構造には「進化の段階」があります。素人は時間売りにとどまるが、プロは最初から「どこまで進化させるか」を設計した上で時間売りから始めます。
- L1
時間売り(時給3千〜1万)
時間売り(時給3,000〜10,000円)
最も参入しやすい形態。「1時間いくら」でスキルを提供する。クラウドソーシング・派遣的な業務委託が典型。単価の上限は稼働時間×時給に縛られる。典型例: エンジニア時給5,000〜8,000円、ライター時給2,000〜4,000円、デザイナー時給3,000〜6,000円。
- L2
プロジェクト単価(30〜200万)
プロジェクト単価(1案件30〜200万円)
成果物に値段をつける形態。時間ではなく「アウトプット」で契約する。同じ品質を速く作れるほど時給換算が上がる。単価交渉では「この成果に対して相手が得る価値」を起点に提案する。典型例: LP制作50〜80万円、システム開発100〜500万円、マーケティング支援30〜100万円。
- L3
月額リテイナー(月20〜80万×複数社)
月額リテイナー契約(月20〜80万円 × 複数社)
毎月固定額を受け取る「サブスクリプション型」の関係。クライアントにとっては予算の予測可能性、フリーランスにとっては収益の安定性という双方のメリットがある。L2の単発案件を「継続してほしい」という依頼が来た時にリテイナーへの転換を提案する。典型例: 技術顧問月30〜60万円、CMO業務委託月30〜80万円、マーケ支援月20〜50万円。
- L4
プロダクト化
プロダクト化(テンプレ・テーマ・SaaS切り出し)
繰り返し作っているものを「1回作って何度でも売る」形に変換する。エンジニアなら使いまわしているコードをSaaSに、デザイナーならテンプレをnotionやCanvaで販売。稼働時間から切り離された収益が発生し始め、時間天井を超える第一歩。典型例: WordPressテーマ販売、契約書テンプレ販売、業務自動化ツール月額SaaS。
- L5
事業化
事業化(チーム・代理店・子会社)
自分の代わりに動く「仕組み」を作る段階。外注パートナーに案件を割り振ったり、チームを組んで受注規模を拡大する。マイクロ法人化(個人事業主+法人の二刀流)が税務上の分岐点になることが多い。年収1,000万円超が一般的な目安。典型例: 制作会社化、フリーランスチームのプロダクション、特定業務の代理店契約。
プロの設計思想
L1から始めるのはリスクを最小化するためであり、L1に留まり続けるためではない。L2→L3への転換タイミング(実績3件・紹介が来始めた時)とL3→L4への転換タイミング(月次収益が安定し「また同じものを作っている」と気づいた時)を最初から意識しておく。
10 用語集
BATNA
Best Alternative to a Negotiated Agreement。交渉が決裂した場合の最良の代替案。この質が高いほど交渉力が強くなる。
リテイナー契約
月額固定の業務委託契約。顧問契約とも呼ばれる。毎月一定の稼働を保証する代わりに安定した報酬を得る形態。
スコープクリープ
契約後に仕様が際限なく追加・拡大する現象。契約書で成果物の定義と変更管理フローを明記することで防ぐ。
青色申告特別控除
青色申告をする個人事業主が受けられる所得控除。電子申告の場合65万円、書面申告55万円(2022年以降)。
インボイス(適格請求書)
2023年10月開始の消費税仕入税額控除の新制度。登録番号を記載した請求書のみが取引先の消費税控除対象になる。
小規模企業共済
中小機構が運営する個人事業主向け退職金制度。月最大7万円(年84万円)が全額所得控除になる。
パイプライン
商談中・見込み中の案件の一覧。受注確度・金額・想定時期を管理し、将来の収益を可視化する営業管理手法。
源泉徴収
特定の業務(デザイン・ライティング等)の報酬から、支払者が所得税を差し引いて納税する制度。確定申告で還付される場合がある。
任意継続
退職後2年間、在職時の健康保険を継続できる制度。保険料は自己負担2倍(上限あり)。国保と比較して安い場合がある。
マイクロ法人
個人事業主が節税・信頼性向上のために設立する小規模な法人。個人と法人の「二刀流」で社会保険料や法人税の最適化を図る。
電子帳簿保存法
2024年完全施行。電子取引の電子データ保存が義務化。会計ソフト上での保管が最も実務的な対応策。
iDeCo
個人型確定拠出年金。個人事業主の掛金上限は月6.8万円(年81.6万円)で全額所得控除。60歳まで引き出し不可。
11 再現チェックリスト
この記事の内容を1人で実行できるかの確認用チェックリストです。全項目が実行済みになって初めて「月50〜80万円の設計が完了した状態」と言えます。
【在職中に完了すること】
【退職・Month 0に完了すること】
【Month 1〜6に達成すること】
12 まとめ
プロの思考模写 — 要点整理
順序が全て。 プロは「退職してから準備する」ではなく「準備が完了してから退職する」。退職日はゴールではなく公開日。
BATNAが単価を決める。 断れる状態(貯金・パイプライン・複数案件)を作ることが、交渉力の根拠。生活費6ヶ月の貯金は安心のためではなくBATNAへの投資。
税務・保険は最初に設計する。 青色申告65万円控除+小規模共済84万円+iDeCo81.6万円の組み合わせで年間230万円超の所得控除が可能。手取りは設計で変わる。
時間売りで始め、リテイナーで安定させ、プロダクトで天井を超える。 マネタイズ5段階はスキップできないが、最初から「どの段階まで進むか」を設計しておく。
1社依存=準社畜。 3クライアント分散・最大依存度40%以下が持続可能なフリーランスの最低条件。80/20の法則で上位20%のクライアントに集中投資する。
この記事だけで再現できるか?
在職中の準備(sec3〜sec5)、6ヶ月タイムライン(sec6)、エッジ原理の理解(sec7)、罠の回避(sec8)、マネタイズ設計(sec9)、用語の理解(sec10)、チェックリストの実行(sec11)を全て行えば、「月50〜80万円 + 3クライアント分散」という設計は1人で実行できます。残るのは実行するかどうかの意思決定だけです。