家庭菜園サバイバル
ワンルーム編
2m幅の棚、週30分の管理、4品種だけ。
それでも毎朝フレッシュなサラダが食卓に並ぶ。
1. ワンルームの哲学
サバイバル計画との根本的な違い
サバイバル1年計画は35㎡・毎日2〜3時間の農作業を前提とした「食料自給」の設計だった。 ワンルーム編の目的はまったく違う。食料自給ではなく、毎日の食卓に生きた野菜を加えること。 コンビニのサラダを買い続けるより賢く、スーパーで時間をかけて野菜を選ぶより新鮮に。 この計画の本質は「生活の豊かさを高めるための最小投資」だ。
コンビニサラダ
添加物・鮮度低下・選択肢少ない。毎日¥300なら年間¥109,500
ワンルーム菜園
収穫直後の鮮度・完全無農薬・好きな品種。年間ランニング¥15,000程度
サバイバル計画
毎日2〜3時間。一人暮らし・働いている人には現実的でない
この計画で目指すもの
- ✓ 毎朝、収穫したてのサラダを食べる
- ✓ 週1回30分の管理で維持できる
- ✓ ワンルームの一角(2m幅)に収まる
- ✓ ミニトマトも365日食べられる
- ✓ 半年でコストが元を取れる
- ✓ 自家採種で3年後は種代0
- ✓ 植物を育てる日常的な充足感
- ✓ 来客に「自分で育てた」と言える
2. リアル制約の整理
「10種類植えれば毎日違う野菜が楽しめる」という考え方は正しい。 しかし働きながら一人暮らしをしている現実の前では、多品種管理は確実に破綻する。 まず制約を正直に並べることから始める。
💡 「多品種=良い」という誤解
サバイバル1年計画の15品種リストは、専業農家に近い時間投資を前提にしている。 ワンルーム一人暮らしで15品種を同時管理すると、 収穫タイミングがズレ、養液が合わず、害虫の特定が難しくなり、最終的に全部枯らして挫折する。 「毎日確実に収穫できる4品種」の方が「管理できずに枯れた15品種」より1000倍価値がある。
3. 2m棚の設計図(3段スチールシェルフ)
ベース設備: スチールラック 幅200cm × 奥行45cm × 高さ180cm(3段) ——これがこの計画の全てを収める箱になる。ホームセンターで¥8,000〜15,000で入手可。 各段にLEDストリップを取り付け、タイマーで自動制御することで「ほぼ自動で動くシステム」が完成する。
段1(下段): NFT水耕サラダゾーン — このシステムの心臓部
塩ビ管φ75mm × 100cm を2本並べる。各6穴。合計12ポット。 片方はサニーレタス専用(週3株収穫)、もう片方は水菜+小松菜(カット収穫)。 2本で毎日160〜200gのサラダベースを供給できる。
¥1,500〜2,500
タイマー制御
週1回補充
養液濃度EC1.2〜1.8
フルスペクトル
16h/日
段2(中段): ミニトマト+ハーブゾーン — 彩りと香り
DWCバケツ(5L)×2個でミニトマト2株。1株を1本仕立て(主枝のみ)にして縦誘引することで、 2m幅に2株が収まる。大葉(シソ)と細ねぎは小さい素焼き鉢で育て、サラダのトッピングに毎日使う。
段3(上段): 育苗+スプラウトゾーン — 未来の在庫
常時16粒が育苗トレーで発芽中。これが10〜14日後に段1のNFTレールに定植される。 スプラウト(かいわれ・ブロッコリースプラウト)は瓶3本ローテーション。 種まき → 7日で収穫。1本収穫したら1本新たに種まき。LED不要・水洗いだけで育つ最も簡単な食材。
4. 選ぶ作物4+2の理由
水耕サラダは4種まで。ミニトマト2株。ハーブ2鉢。計8種が一人暮らしで管理できる上限。 この4種を選んだ理由は「同一条件で育つ・同一養液で育つ・管理タイミングが揃う」という3条件を満たすからだ。 異なる条件の植物を同じシステムで育てると、どちらかが必ずダメになる。
サラダの骨格を作るベース葉。柔らかくて甘みがあり、食べ飽きない。1株=収穫量最大で投資効率が最も高い。
ゴマ香り・ピリ辛でバターヘッドの単調さを消す。カット収穫で1株から4〜6回採れる最強コスパ品種。
鉄分・葉酸・ビタミンK。栄養面の最強手駒。小さい葉のまま収穫するベビーリーフ方式で柔らかく美味しい。
繊細な見た目でサラダが「料理」に見える。日本の気候に完全適応しており、夏でも冬でも安定して育つ最強の保険品種。
+① ミニトマト(アイコ 赤 + イエローアイコ 黄)
サラダに5〜8個のミニトマトがあるだけで、見た目と味が格段に上がる。 赤と黄の2色を1株ずつ育てることで、毎日の彩りが確保できる。 DWCバケツ1株あたり月200〜300g(通年LED環境)の収穫が見込める。 夏場(屋外移動可)は月400〜500gまで上がる。
+② バジル+細ねぎ(ハーブ2鉢)
この2種はサラダを「料理」に変える香り担当。バジルはミニトマトとの組み合わせで本格的なカプレーゼ風に。 細ねぎ(万能ねぎ)はスーパーの根付き¥100品を鉢に移植するだけで無限に再生できる最強コスパのハーブ。
5. 週次ルーティン — 月曜30分で完結
このシステムの核心は「月曜日だけ30分作業、あとは眺めるだけ」という設計にある。 平日は仕事で疲れて帰ってきても、水位を確認して2〜3分で終わる。 週末に溜め込む作業もない。月曜日だけ少し頑張ればいい。
毎週月曜日の30分作業チェックリスト
🌙 平日(帰宅後 2〜3分)
- ▸ NFTタンクの水量をちらっと確認
- ▸ スプラウト瓶を水洗い(30秒 × 2回)
- ▸ 収穫できそうなものがあれば収穫
- ▸ 異常(黄葉・害虫・カビ)があれば写真を撮る
🌞 土日(気が向いたら)
- ▸ 収穫祭り(余分に採って料理に使う)
- ▸ 養液の全量交換(月1回・20分)
- ▸ システムの掃除(パイプ・タンクの洗浄)
- ▸ 次の品種を試したい場合の試験植え
6. スポンジ・資材の年間計算
🧽 スポンジ(育苗ポット)年間必要数
🌱 種の年間必要量
年間消耗品・交換品リスト
| 品目 | 交換頻度 | 年間コスト目安 |
|---|---|---|
| ウレタンスポンジ(100個×4袋) | 年1回まとめ買い | ¥1,200〜2,000 |
| 水耕養液(ハイポネックス等) | 月1回補充 | ¥2,000〜3,000/年 |
| 種(4品種) | 年1〜2回 | ¥500〜1,000/年 |
| ネットポット(定植カップ) | 破損時のみ | ¥500〜1,000(予備購入) |
| ミニトマト苗 | 年2回(夏株・冬株) | ¥300〜600(苗2株×2回) |
| LEDライト | 3〜5年に1回 | ¥3,000〜6,000/個 |
| ポンプ | 2〜3年に1回 | ¥2,000〜3,000 |
7. コスト分析・ROI
初期投資(一度だけ)
月次ランニングコスト
月次生産価値(スーパー購入価格換算)
📈 ROI(投資回収)シミュレーション
(生産価値 − コスト)
コンビニで毎日サラダを¥250で買っていた場合、月¥7,500の削減効果。 この場合は初期投資を6ヶ月で回収できる計算になる。 「買うのをやめる節約」効果で見れば、ROIは非常に優秀。 さらに3年後に自家採種が始まれば、種代が実質¥0になりランニングコストがさらに下がる。
8. NG作物リスト — ワンルームでやってはいけないこと
以下の作物はサバイバル計画では有効だが、ワンルームの2m棚では完全にNGまたは非効率。 「育てたいという気持ち」と「現実の制約」を混同しないこと。
9. 1年後・3年後のアップグレードパス
最初の1年は「4品種マスター」だけでいい。慣れてきたら少しずつ発展させる。 アップグレードは1ステップずつ。一気に拡張すると管理が破綻する。
- ▸ 4品種 × NFT12ポットを毎週回すループを完成させる
- ▸ 月曜30分の作業を「当たり前の習慣」にする
- ▸ トラブル(根腐れ・害虫・pH崩れ)の対処法を体得する
- ▸ ルッコラ・水菜の自家採種に挑戦(秋に花を咲かせて種取り)
- ▸ NFTポットを12 → 18に増設(レール1本追加)
- ▸ マーシュ(コーンサラダ)を追加 → 冬場のフレンチ感が一気に上がる
- ▸ フリゼ(チコリ)を試験栽培 → サラダに「大人の苦み」が加わる
- ▸ 養液の自作(カリウム・カルシウム・微量元素の個別管理)に挑戦
- ▸ 主要4品種の自家採種が安定し、種代が実質¥0に
- ▸ ミニトマトの冬越し株管理が上手くなり、年間収量が安定
- ▸ 余剰分を友人・家族に配る「野菜を贈れる人」になる
- ▸ 次のステップ: ベランダ活用 or 引越し先で庭付き物件への関心が生まれるかも
🏢 ワンルーム編 最終評価
複雑さを徹底的に排除したこのシステムは、働きながら一人暮らしする人が「挫折せずに続けられる」 ことを最優先に設計している。毎朝5秒で収穫したレタスとミニトマトが食卓に並ぶ日常は、 スーパーやコンビニでは絶対に手に入らない体験だ。 まずは2m棚1本から。それが将来の35㎡のサバイバル計画への入口になる。
10. 小説:29歳、棚ひとつから始めた話
— 一人称フィクション。12ヶ月の記録と、そこで学んだ知識 —
◆ プロローグ:299円のサラダ
コンビニのレジ前で、わたしはまた同じことを考えていた。
プラスチックのパックに入ったカット野菜。299円。農薬を落とすために洗浄液に漬けられ、 袋詰めされ、トラックで運ばれてきた何かを、わたしは毎朝買い続けていた。 別に不満があったわけじゃない。ただその日は、なぜかレジの前で立ち止まった。
「これ、自分で作れないのか」
29歳、営業職、ワンルーム8畳。ベランダもない。仕事は忙しい。 でもその瞬間、スマートフォンで「水耕栽培 ワンルーム」と検索していた。 それが1月の、底冷えのする朝のことだった。
棚を立てた日
2週間、検索だけしていた。NFTパイプ、DWCバケツ、液肥のA液B液、pH計、ECメーター。 覚えることが多すぎる。初心者向けと書いてある記事でも、読み終わると何も分からなかった。 結局、思い切って棚とLEDと水耕栽培トレーとウレタンスポンジだけ買った。
品種で一番悩んだ。調べると「水耕栽培に向く野菜」の候補はいくらでも出てくる。 でも1年間栽培し続けることを考えると、条件は3つに絞られる。 ①スーパーで種が買えること、②収穫が速いこと、③できれば年中育てられること。
まず「葉もの」の主役を決めた。調べると、水耕栽培でいちばん育てやすいのは サニーレタスだと出てきた。 種まきからわずか25〜35日で収穫できて、外側の葉から切り取る 「カット&カム」という方法をとれば、1株から3〜4ヶ月連続して収穫できるらしい。 しかもスーパーで必ず売っている馴染みのある野菜だ。これをメインにする。
次に「シャキシャキ感」を担当させる野菜として水菜(みずな)を選んだ。 京都の伝統野菜で、スーパーの袋サラダに必ず入っているあれだ。 種まきから20〜30日で収穫できて、病気にも強い。 サニーレタスと同じ液肥濃度・同じ温度で育つので、同じトレーで管理できる。
3品目は「栄養価」担当として小松菜。 調べると、カルシウムの含有量はほうれん草の約2倍。 しかも暑さにも寒さにも強く、一年中途切れずに育てられる数少ない野菜だった。 夏にサニーレタスがへたったとき、小松菜だけは生き残る。 これが年間計画上、とても重要な役割を持つことになると後で気づいた。
4品目は「達成感」担当として二十日大根(はつかだいこん)。 名前の通り20日前後で収穫できる最速野菜だ。 水耕栽培では根が球状に太りにくいこともあるらしいが、葉も食べられる。 何より「20日で何か収穫できる」という事実が、始めたばかりの時期に精神的な支えになると思った。
棚を買う前の週末、わたしはスプレッドシートを開いて1年間の栽培計画を立てた。 何月に何を植えて、何月に収穫できるのか。夏は何が耐えられて、冬は何が苦手なのか。 調べながら埋めていくと、こんな表になった。
| 作物 | 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 🥬 サニーレタス | 種 | 育 | 収 | 収 | 収 | ★ | 休 | 休 | 種 | 育 | 収 | 収 |
| 🌿 水菜 | 種 | 育 | 収 | 収 | ★ | 収 | 休 | 休 | 種 | 育 | 収 | 収 |
| 🍃 小松菜 | 種 | 育 | 収 | 収 | 収 | 収 | 収 | 収 | 収 | 収 | 収 | 収 |
| 🔴 二十日大根 | 種 | 収 | 収 | 種 | 収 | 休 | 休 | 休 | 種 | 収 | 収 | 種 |
| 🌱 ニラ | 種 | 育 | 育 | 育 | 収 | 収 | 収 | ★ | 収 | 収 | 育 | 育 |
| 🍅 ミニトマト | — | — | 種 | 育 | 育 | 育 | 収 | ★ | 収 | 収 | 休 | — |
| 🌿 大葉(シソ) | — | — | 種 | 育 | 収 | ★ | 収 | 収 | 乾 | 休 | — | — |
表を眺めて気づいた。「夏はほぼ全滅するが、ニラと小松菜だけは生き残る」。 秋が一番豊かになる。1年を通じて完全に途切れることはない。 計画を立てると、不安が少し小さくなった。
日曜の午後4時間かけて棚を組んだ。8畳の部屋に2mの棚が出現した。 LEDを初めて点けたとき、青白い光が部屋を満たした。 空っぽのトレーが3段並んでいる。 なんとなく、「これはいける」と思った。
スポンジに種をまいた。1月の室温は17度。発芽適温(20〜25度)より低く、 発芽に10日かかった。サニーレタスと水菜は出た。二十日大根は半分。 小松菜は2週間かかった。冬は発芽が遅れる、と後で知った。 事前に調べた「20日で収穫」という話はあくまで適温時の話で、 冬は全部1.5〜2倍の時間がかかると覚えておく必要があった。
- • 冬(1〜2月):発芽に10〜14日。室温20度を確保(スポンジをタッパーでラップ保温)
- • 春(3〜5月):3週間で収穫。週1交代のローリングで連続収穫が可能
- • 夏(6〜8月):28度超でとう立ち。早め収穫→リセット→9月まで休眠
- • 秋(9〜11月):最良シーズン。発芽6日、3週間で収穫可能
- • 年間継続のカギ:夏に無理せず一時撤退し、9月に全リセットすること
最初の収穫と、液肥の謎
種まきから26日後、サニーレタスが収穫できる大きさになった。 予定より少し遅い。冬の低温のせいだ、と計画表を見て納得した。
外側の葉を根元2cmほど残してハサミで切る。皿に盛って、オリーブオイルと塩だけ。 食べた。みずみずしかった。切ってから3分で食べた、という事実が口の中にあった。 スーパーのカット野菜とは何かが根本的に違った。 「そうか、あっちは収穫から店頭まで数日かかっている。こっちは3分だ。」
注文を忘れていたECメーターが届いた。 液肥の濃度を測ると、EC値が1.8まで上がっていた。 適正値を調べると、サニーレタスはEC 0.8〜1.5 が目安だとある。超えている。
「なぜ濃くなったのか」、最初は植物が液肥を吸い取ったせいだと思っていた。 でも違った。答えは単純だ。水だけが蒸発して、溶けている肥料の量は変わらない。 コップの塩水が干上がっても、塩は消えないのと同じ原理だ。 だから水位が下がったとき、液肥を足すのは間違いで、 水道水だけを補充するのが正解だった。 液肥を足し続けると、EC値がどんどん上がって根が「塩漬け」になる。 以来、水位が下がったら「水だけ補充」、2週間経ったら「全量交換」がルールになった。
pH計も届いた。測ると6.8。適正は5.5〜6.5で、少し高い。 なぜpHが高いと悪いのか調べると、pHが7に近づくと鉄やマンガンが水に溶けなくなり、 植物が吸収できなくなると書いてあった。 葉が黄色くなるのはそのせいらしい。 クエン酸を少量溶かしてpH 6.2に調整した。 翌週、葉の緑が少し濃くなった気がした。気のせいかもしれないが、悪くはなかった。
ニラと、コンビニのネギ
スーパーでニラの種を見つけた。1袋98円。 「一度植えると何年でも収穫できる多年草」と書いてある。
「多年草とはどういう意味か」と調べた。 一年草は毎年根が死んで、翌春また種からやり直す。 多年草は根が死なず、地上部だけが枯れても根は生き続ける。 つまり、ニラは一度育ててしまえば、理論上ずっと収穫できるということだ。 しかも刈り取るほど根が強くなって、回復が速くなる。 1回目の再生には3週間かかるが、3回目以降は10〜14日で戻ってくるらしい。 「ランニングコストがほぼゼロの植物」という言い方をしている記事があって、 その表現がしっくりきた。 種まきから初収穫まで3〜4ヶ月かかるのが唯一の難点だが、 仕込んでおくだけで勝手に育つなら安いものだ、と思い、小さな容器に液肥を入れて種をまいた。
同じ週、スーパーで買ったネギを使い終わった後、 白い根の部分(3〜4cm)を残してコップに水を入れて置いてみた。 「これ、もしかして育つんじゃないか」と思ったのは、 以前YouTubeで「スーパーの野菜を再生させる」という動画を見たからだ。 1週間で葉が5〜8cm伸びた。また切って、また浸ける。 調べると「小ねぎ再生栽培」と呼ばれていて、同じ根で4〜5回繰り返せるらしい。 費用はゼロ。追加作業も1分。液肥も要らない。 「これが一番コスパのいい水耕栽培じゃないか」と思った。
気づけば棚の周りに小瓶が3本並ぶようになった。 水耕トレーのレタス、コップのネギ、ニラの苗床。 8畳の部屋が少しずつ農場になっていった。
- • 1月種まき→5月初収穫:発芽2週間、収穫まで3〜4ヶ月。焦らず育てる
- • 刈り取り方:地上部を5cm残してハサミで刈る。根を傷めないこと
- • 再生サイクル:1回目は3週間、2回目以降は10〜14日で再生(根が充実するほど速くなる)
- • 夏も冬も枯れない:32度でも、15度でも生き続ける。水耕最強の多年草
- • 引越し時:根株を鉢土に移植すれば新居でも継続可能
- • 用意するもの:スーパーで買ったネギの根元3〜4cm + コップに水
- • 管理:水を2〜3日に1回交換するだけ。液肥不要
- • 収穫:1週間で5〜8cm伸びる。根元3cmを残して切ると4〜5回繰り返せる
- • 注意:水が汚れたら即交換。同じ根は5回ほどで勢いが落ちてきたら新しい根に交換
春爆発と、ローリングハーベスト
4月に入ると、植物の育ちが明らかに変わった。 室温が20度を超えると代謝が上がる。 先週まで小さかった水菜が、1週間でLEDパネルに触れるほど伸びた。 サニーレタスは1トレーで週3〜4回収穫できるほどになった。
そこで気づいたことがある。 「サニーレタスは種まきから3週間で収穫できる。 ならばトレーが3段あれば、1週間ずつずらして種をまけば、毎週どこかのトレーが収穫期になる。」 当たり前のことかもしれないが、実際に3段の棚を前にして計算したとき、 ちょっとした発見をした気分だった。
このころ、「ローリングハーベスト」という言葉を知った。 まさにわたしが考えていたことに名前がついていた。 上段:収穫期(3週目)、中段:成長中(2週目)、下段:発芽〜育苗(1週目)。 毎週月曜に上段を収穫→洗ってリセット→新しい種をまく→中段と下段を1段ずつ上へスライド。 これで毎週収穫が絶えなくなった。 考えてみれば、3週間で1サイクルを3段で回すだけの話だ。シンプルだった。
ある朝、水菜の中心から細長い茎が伸びているのに気づいた。 とう立ち(ボルティング)だ。昼間の室温が24度を超えた日に起きた。 調べると、とう立ちとは植物が「子孫を残そう」と花を咲かせようとする現象で、 一度始まると葉が硬く苦くなり、食用には向かなくなる。 気温が高くなると植物が「今季は終わりだ」と判断してしまうらしい。 その日は仕事があった。帰宅後に収穫したが、確かに少し苦かった。 植物は待ってくれない、と学んだ朝だった。
食べきれない問題と、スプラウト
5月は、生まれて初めて「野菜が余った」経験をした。
バターヘッドレタス・ルッコラ・スイスチャードが3段フル稼働して、 毎週収穫できる量がひとりでは食べきれなくなった。 隣室の先輩に「よかったら使ってください」と袋に入れて渡したら、 「自分で育てたの!?」と驚かれた。それが妙に嬉しかった。
同じころ、スプラウトを試した。 カイワレ大根の種をビンに入れ、1日2回水で洗って、5日で収穫できた。 土も電気も液肥も不要。棚も要らない。 スープのトッピングにもサラダにも使える。 ブロッコリースプラウト・マスタードスプラウトも試した。 今はキッチン台に常時2〜3瓶のスプラウトが育っている。
ニラが5月末に初収穫の大きさになった。 刈り取ると部屋にニラの匂いが広がった。 炒め物に使った。レタスとは違う「もっと料理らしい」収穫だった。
- • 用意するもの:広口ビン・メッシュ蓋(またはガーゼ)・スプラウト用種(カイワレ・ブロッコリー・マスタード等)
- • 手順:①種をビン底1cmほど入れて一晩水浸け ②翌朝水を捨て逆さに斜めに立てかける ③1日2回水でゆすいで流す ④5〜7日で収穫
- • 保管:収穫後は密封して冷蔵庫へ。3〜4日で食べ切る
- • おすすめ品種:ブロッコリースプラウト(スルフォラファン豊富)、マスタード(辛みがアクセントに)
- • コスト:種1袋(¥200〜400)で10〜20回分。1回あたり¥20〜40
夏の予兆と、バジルの挿し木
6月に入ると、液肥の水位が下がるのが目に見えて速くなった。 以前は3〜4日で1cmほど下がっていたのが、2日で1cm下がるようになった。 補水(水道水のみ)を怠ると液肥が濃縮しすぎて根が傷む。 毎日の「水位確認」がルーティンに加わった。
ミニトマトのDWCバケツを設置した。2Lバケツにエアストーンと液肥。 ミニトマトは発芽10日、定植まで3週間。初収穫は8月の見込みだ。
スーパーでバジルの苗を買い、茎を10cmほど水差しにした。 2週間後に根が出た。NFTトレーの空きスペースに定植した。 バジルは挿し木で無限に増やせる。 今のトレーのバジルも、葉を使いながら茎を水に差し、また根付かせる。 この循環をやっと理解した。
- • 挿し木の始め方:スーパーのバジル苗(¥150〜200)を購入→茎を10cmほど切って下葉を取り除く→水差しに挿す
- • 発根:2週間ほどで白い根が出てくる→液肥入りトレーに定植
- • 収穫しながら増殖:葉を摘みながら、同時に茎を水に差して次の株を準備する
- • 夏の管理:日照が必要。LEDだけでも育つが、窓際に置くとさらに旺盛になる
- • 冬の撤収前:10月末に多めに収穫して乾燥保存(電子レンジで2分→密封容器)
- • 翌年3月:新しいスーパー苗を買って挿し木から再スタート
根腐れ寸前の朝
7月中旬の月曜朝、液肥の匂いがいつもと違った。
酸っぱいような、生ゴミのような匂い。 トレーをのぞくと、根の先が茶色くぬるっとしていた。 根腐れの初期症状だった。 液肥の温度を測ったら29度あった。
「なぜ水温が高いと根が腐るのか」が気になって調べた。 仕組みはこうだ。 水温が上がると、水に溶ける酸素の量が減る(溶存酸素量の低下)。 酸素が少ない環境では「嫌気性細菌」が増殖する。 この細菌が根を分解し始めるのが根腐れの正体だ。 金魚鉢の水が夏に臭くなるのと、まったく同じメカニズムだった。 だから対策は「水に酸素を溶かし続けること」になる。 それがエアストーンを使う理由だ。 「原理が分かると、対策も当然の答えに見える」と思った。
応急処置として液肥を全量交換し、 ドラッグストアの消毒用オキシドール(3%過酸化水素水)を30倍に薄めて加えた。 オキシドールが分解されると酸素が発生する。根を軽く洗い、新しい液肥に移した。 翌週には根の色が回復した。以来、エアストーンを常時稼働させるようにした。
ニラと小松菜は暑さに強く、この夏も元気だった。 ニラは室温32度でもまったく動じない。 「ニラは裏切らない」と思い始めた。
- • 3月種まき:発芽7〜10日。室温20度以上を確保
- • 4〜5月定植:本葉4〜5枚で2Lバケツ(DWC)に定植。EC 1.5〜2.0、pH 5.8〜6.3
- • 6〜7月管理:夏の水温上昇に注意。エアストーン常時稼働。水温25度以下を維持
- • 7〜10月収穫:8月に最盛期。初収穫から週10〜20個ペース
- • 11月撤収:花が咲かなくなったら終了。バケツを洗って冬はほうれん草等に転用
- • 支柱と誘引:1.2m以上の支柱を用意。週1回誘引しないと倒れる
夏に強い作物だけ残す
8月は、正直しんどかった。
レタスとルッコラはとう立ちが続いた。収穫してもすぐ花芽が出る。 維持コストの割に収穫量が減った。 一旦レタス2トレーをニラとバジルに切り替えた。 夏はサラダ重視をやめて「料理に使うハーブ中心」に切り替える方がいい、 と身をもって学んだ。
ミニトマトが初めて赤くなった。8月7日。 DWCバケツの脇に立てた支柱に、赤い実がひとつ。 そのまま食べた。甘かった。種まきから110日目だった。 同僚に写真を送った。「すごいじゃないですか」と返ってきたが、 この「すごさ」の感覚は育てた人にしか分からないと思う。
棚の構成:上段=ニラ(放置でも育つ)、中段=バジル+スイスチャード、 下段=DWCバケツ隣接。レタスとルッコラは9月まで休眠。 サラダはスプラウトで補った。
秋のリセット、黄金シーズン
9月の連休に、棚を全部リセットした。
夏の間にトレーに溜まった液肥の汚れ(白い結晶状のカルシウム・マグネシウム)を クエン酸水で洗い落とした。 10倍希釈の次亜塩素酸水でトレー内部を消毒してよく乾燥させた。 この「全体リセット」を、春と秋の年2回やることにした。
新しいスポンジにバターヘッドレタス・ルッコラ・ほうれん草の種をまいた。 室温23度。発芽は6日で揃った。1月の倍速い。 秋は水耕栽培の黄金シーズンだと実感した。 昼夜の温度差が少なく、室温が安定している。根腐れのリスクも低い。
ニラは刈り取って2回目の収穫。 1回目より根が太くなっていて、葉の勢いが増した。 多年草は育てるほど強くなる。
完成形と、3週間ローテーション
10月は、このシステムが完全に機能した最初の月だった。
3段トレーで3週間のローリングハーベストが安定して回っていた。 上段(収穫)→中段(成長)→下段(発芽)という流れが自然になった。 毎週月曜15分で全部完了する。
ニラは10月に3回目の収穫。根が完全に充実していて、刈り取りから10日で再生した。 根は1月に植えてからずっとトレーの中にある。 水を補充して液肥を交換するだけで、毎年勝手に育ち続ける植物がいる、 という事実がなんとなく心強かった。
10月中旬、スーパーでバジルを買った。 自分で育てたバジルではなく。 夏に乾燥保存したのを使いきってしまったから。 レジの前で少し悔しかった。次の夏は乾燥保存のタイミングを逃さない、と思った。
成長が静かになる季節
11月に入ると、植物の育ちがゆっくりになった。 室温が18度を下回る日が出てきた。 バターヘッドレタスのローテーションが3週間から4週間になった。 LEDを16時間に戻したが、それでも成長は1月に似ていた。
ミニトマトのDWCバケツは11月で終了した。 葉が黄色くなり、花も咲かなくなった。 最後の収穫は11月3日。初収穫から88日、合計収穫量は小粒換算で約180個だった。 バケツを洗って、空いたスペースにほうれん草のトレーを置いた。
夜中に暖房を切ると15度を下回る日が出てきた。 念のため小型のセラミックヒーターをタイマーで夜間稼働させた。 18度以上を維持すれば、冬でも水耕栽培は動き続ける。 遅くなるだけで、止まらない。
1年が経った
12月31日の夜、棚を眺めながら計算した。
この1年でスポンジに種をまいた回数:52回。 液肥を交換した回数:26回。トレーを全洗いした回数:6回。 ニラの収穫:3回。ミニトマトの収穫:延べ約180個。 スプラウトのビン:常時稼働。小ねぎ再生:随時。 節約したコンビニサラダ代(概算):月1,800円×12ヶ月=21,600円。 初期投資42,000円の回収率:51%。来年中には回収できる計算だ。
でも数字より、毎朝の収穫が楽しみになっている事実の方が大きかった。 仕事がどんなに重くても、月曜の朝だけは起きるのが楽しかった。 棚の前に立つと、世界が少し丁寧な速度で回り始める気がした。
LEDが部屋の奥で青白く光っている。 冬の夜の8畳に、それがある。それだけで、十分な気がした。
転居の日:全部、刈り取った
1月末、転職に伴って引っ越すことになった。
引越し前日の夜、棚と向き合った。 どうするか、少し迷った。 レタスはそのまま廃棄するしかない。 でもニラは根が太くなっていて、鉢に移せば土でも育つ。 隣室の先輩に声をかけたら、「もらう」と言ってくれた。
ニラの根株を小さな植木鉢に移して、「育て方のメモ」を添えて渡した。 「5cmほど残して刈り取ると2〜3週間で再生する」 「液肥じゃなくてもハイポネックスで十分」 「多年草だから枯れない限り何年でも使える」
レタスはすべて収穫して、サラダにして食べた。 スポンジは燃えるゴミに出した。 液肥の残液は十分に薄めて流した。 トレーとバケツは洗って段ボールに詰めた。 棚は解体して、その場所が「ただの壁の前の床」になった。
部屋がすっきりした。すっきりしすぎて、少し寂しかった。 最後にLEDを消すとき、少し躊躇した。
◆ エピローグ:新しい部屋で、まず棚を立てた
新しいアパートは9畳だった。
引越し荷物を運び込んで、最初に組み立てたのは棚だった。 ベッドでも、テレビでも、冷蔵庫でもなく、2mのスチールシェルフ。 それを先に組んで、LEDを取り付けて、液肥を混ぜて、スポンジに種をまいた。 引越しの段ボールが半分残っている部屋の奥で、LEDが青白く光り始めた。 また1月。また発芽を待つところから。
去年の自分に何かひとつ伝えるとしたら、こうだ。
「棚を立てろ。品種は4つ。ニラを1株植えておけ。スプラウトのビンをキッチンに置け。あとは月曜だけ30分、それだけでいい。」
1年で学んだことは多かった。根腐れも、とう立ちも、スプラウトも、小ねぎの再生も、液肥の交換サイクルも、ニラは裏切らないことも。 でもいちばん学んだのは、「続けていれば、植物は育つ」ということだ。 失敗しても、夏に弱っても、引越しで全部片付けることになっても、 また種をまけば始まる。それだけのことだった。